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陰の花たち

「ここだ。」


キューテストの拠点に連れられたサラはその建物を眺める。


都心で大規模な爆発があったらしく、電車を使うことができなかったので徒歩で移動したためか。疲労に疲労が重なって足も鉛のように重たくなっていた。


外観は古臭い雑居ビル。隣のさらに大きなマンションの隣にあるというわけで、どこも日陰で生気をまるで感じられない。


剥き出しの階段の下には植木鉢があり、見たことのないマゼンタの花と黄土色の花が丁寧に植えられている。その葉には雫が残っていて、今朝水やりでもしたのだろうと思える。


キューテストは国際テロ組織とまでいうのだから、拠点はもっと悪の組織(・・・・)なんてものを想像していたけどそういうわけではないらしい。


「普通のビルに見えるけど。ほんとにここに魔王がいるの?」


ビルの階段に差し掛かるところで歩きながらクローガは答える。


「しょぼいだろ。いくつも拠点があるからだ、そしてすぐに移転する。」


「なるほど、拠点を転々とすることで居場所を眩ませるってことか...。」


「ん、まあそれもあるな。」


何かその言葉に含みを感じたサラは首を傾げる。


埃臭い、時々踏み外しそうになるような歩幅の狭い階段を登って3階に到着する。軽いスチール製のドアノブに手をかけて、金属の擦れる音と共に扉が開く。


「誰だろ。おかえりー。」


中からは男性の声。


「クローガだ。」


「クローガか!新人ちゃんも連れてきた?」


「連れてきた。サラ、入りな。」


雑居ビルの一室にしてはなかなか広く、そこは共用スペースのよう。晴れた空の日差しが部屋に入り込み、やわらかな落ち着いた雰囲気であった。


部屋中央のソファには濃い緑色の髪の男性が脚を伸ばしてくつろいでおり、隣のキッチンではどうやら大柄の男が。


ソファの男は腕を伸ばしてからサラの顔を見る。驚いたような表情を見せてから話しかける。


「おれはカイ...って、めちゃくちゃ美人じゃねえか!」


「げっ!」


サラはわかりやすく拒絶した。初手から容姿はなかなか受け入れに難く、こういった男が苦手でサラは女学校を選んでいたのだ。


カイはノンデリカシーをフルパワーで発揮したまま続ける。


「髪も桃色!染めてんのか?天然か?」


「天然だけど...。」


「すげー!じゃあ“原初の魔王”と同じだな!」


「魔王!?原初の、ほんと!?」


落ち着きのない会話に聞き飽きしたクローガは気だるげそうに呟く。


「仲良さそうだな。」


すると、入り口からも見えるキッチンで、大柄の男がエプロンを首にかけて料理をしながら低い声で訊く。


「帰ってきたか。嬢ちゃん目当ての品は奪取できたんだな?」


サラは彼の背中を見てから、ポケットを弄って妖しく光る小瓶を手に取って見せた。


「あ、堅物(カタブツ)の人!うん。ここに。」


「ご苦労...オムレツを作っている、腹減ったか?」


サラはなにか認められたような感じがして笑みを浮かべた後、強く返事をする。


「はい、朝から何も食べてなくてペコペコです!」


クローガはサラが馴染めることを何となく理解して少し安堵する。


「俺は自分の部屋で寝てくるよ。」


大柄の男、ベルトランはサラに呼応するように笑みを浮かべた後、すぐに口角を下げて口を開く。


「さっきグレンが死んだ。隣の部屋も自由に使え、クローガ。」


クローガはとくに表情を変えず、ただ淡々と呟く。


「あぁ。死んだのか、わかった。」

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