めぐる予感
「...兄さん...」
先ほどまでの往々としたサラは見当たらず。まるで大型犬に萎縮した子犬のような雰囲気であった。
クローガは彼に飛びかかる雷獣を一旦止めて口を開く。
「サラ...間違いないのか...。」
スイは彼らに背を向けて、ゆっくりと歩み出し立ち去ろうとする。
「うん、間違いないよ。兄さんは数年間失踪してて...。」
「また会おうサラ、そしてクローガ。キミたちは面白い。」
立ち去るスイの後ろ姿をみてクローガは若干の怒りを露わにして問う。
「スイ、お前はサラを殺そうとしていた。実の妹にそれなのか?」
スイは微笑んで答える。
「言っただろう。俺は仕事とプライベートは分けて考えるんだ。じゃあね。」
再び静寂を取り戻した地下水道。
「兄さんは、”黒“を纏うことをひどく嫌ってた。
世界が1人に感じるからって...でも久しぶりに会って様子が違った。」
サラは以前の兄の姿と重ならないスイを見た。彼女はどこかその背中にどことない寂しさを感じていた。
「動くな!!」
影から姿を現したのはいくつもの兵隊。15人はいるだろうか、サラとクローガを囲む彼らはそれぞれライフル銃を構えている。
いつでも撃てると言わんばかりの佇まいであった。
「手を挙げてゆっくりと膝をつけ!」
これに背中合わせのサラとクローガは手を挙げるのであった。
「どうするの...5人はサラマンダーが倒せる。」
「こっちは8人ほどなら倒せる。でもそれ以上は使い切ったからムリだ。」
彼らは静かに囁き合い、動き出す。
まずは雷獣とサラマンダーが大量の閃光と炎を撒き散らす。
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銃声が鳴り響く地下水道からすぐ上がったスイにとって日は眩しかった。思わず目を細める。
「これでよかったのですか...。」
隣から話しかける女性の姿。その声には不安が内包されていた。
「ニーナ...ありがとう。大丈夫だ、彼らは簡単には死なない。」
「レイナ様はお喜びにはならないでしょう。」
「母上は厳しいからな...それと俺の居場所は伝えないでくれよ。」
「なぜでしょうか?」
「政府...皇帝が太陽を巡って、まもなく動き出す。そこに俺の名前が上がってたら面倒だからね。」
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ーー次のニュースです。20日午前10時ごろ、首都エーデンの商業区一帯で大規模な爆発と構造物の崩落が発生しました。
国際テロ組織“キューテスト“の動きがあったと見られています。
政府は直ちに一般住民の避難呼びかけおよび、緊急発表を行い、被害情報の調査を進めております。
また爆発の特異性や空が一時的に虹色に変色したことが確認されていて、専門家は”魔王災害“の可能性もあると指摘しております。ーー




