弾かれ弾丸
異形は吸血兎となって、クローガに襲いかかる。
対してクローガは雷獣を腕に纏っていた。次は傀儡ではなく、拳同士での衝突。
クローガは吸血兎ではない。そしてキューテストという組織は兎を戦闘員として多く組み込んだものである。
吸血兎は持久力を捨て去り、代わりに身体能力を飛躍的に上げることができる。まさに短期決戦型の生物兵器とも言えるだろう。
誰かが手を加えたのか、兎がどういうわけでヒトと成ったかはわからない。ただグランと適応した個体が自然淘汰の末にこの形となったと考えられる。
そして知らずのうちに彼らはヒトと交わり、形を残してきたのだろう。純血は確認されていない。
外見的特徴で言えば吸血兎化しているときは耳が兎のようになり、爪と牙が鋭くなる。案外それだけで、普段はヒトとなんら変わらないのだ。
深夜を纏って戦うだけでも魔王に匹敵するスイ、さらに一時的であっても身体能力が向上すれば誰が止められるか。
またしてもスイが飛びかかり、その跳躍でめり込んだ床は裏返るのだった。鋭利なツメでクローガの喉を掻き切ってやろうとする。
しかし同時に対する男、クローガも強者であった。
自分に達しそうな爪を確認すると、虫を払うかのように左手でスイの腕を退ける。そして飛びかかるスイの、その弾丸のような軌道に雷獣を纏った拳を置く。
破裂音。
スイの体に直撃するはずだった拳の前から彼は弾かれたかのように背後に移動する。
まるで発射された弾丸が獲物に間も無く当たるというところで、突然銃身に引き戻されるかのような。
地を引きずり、スイは一度止まる。
ーー力を流されタか。
ーー桁外れな身軽さ。
直線的にクローガを打ち倒すことを狙えば、力を受け流されて不利となる。ゆえに攻めるには、多角的に。
暴風を引き起こすようにスイは動き出す。クローガの周りを風のように移動しつつ、いくつもの残像を残す。
すると左肩後ろに偶然にも隙を見つける。これはクローガが誘導のために作り出した弱点ではなく、100%の不意だと確信した。
スイは爪を出して、ここぞと目掛けている最中、
クローガはひと息吐いて呟く。
「...やっと来たか。」
スイの顔元をかすったのは、太陽よりも燃ゆる熱線。3歩ほど先のドレスの少女は、構えて手のひらをこちらに向けていた。
「ごめんクローガ、やっと見つけた。」




