悲痛よ沈め
流星が如く降り注ぐビル群。その景色は圧巻のもの。
対してルフトは怒り狂って幾千もの乱雑な光子を周囲に放った。それは怒りに任せた命の咆哮とも言えるだろう。
光の破片はビル群を刻み、キューテストたちにも迫る。彼女たちは視界にとらえることができなかった。
勇者の怒りは強く、望みに塗れて彼女らを貫いた。
アウはその瞬きほどの時間になんとか迫る光子を捉えて、妹のロラを遠くに転移。
そのためロラは無傷。レインは手足のみに直撃、致命傷とはならなかったものの、立ち上がることはできない。
しかし、アウは妹を庇ったことによって避難ができずに顔面を抉られ、そのまま地に堕ちた。
ルフトは爆発する怒りの表情で再び虹色の剣を握りしめて、何かを放とうとしていた。
「いい加減に沈め!!!!」
レインの叫びと同時、最後にルフトの上空より放つのは、巨大な女神像。
地が轟き、怒りの表情のまま、彼の下半身を押しつぶす。
してもなお、彼は唸りながらもがいている。特に致命傷を負ったわけでもない様子であった。
完全に理性を失った獰猛な獣。
「お姉ちゃん!!!!」
悲痛な叫びが絶望と呼応した。ロラは遠くにいる姉に走り寄ろうとする。
しかしこれが逃げることのできる最初で最後のチャンス。レインは出血を抑え、歯を食いしばりながら呼ぶ。
「...ロラ!!!アウは助けられない!十分時間は稼げた...今のうちに行くよ...。」
双子のアウとロラは一心同体。レインの隊に加入してからも、キューテストに入る前も同じ時を過ごしていた。それゆえの強さでもあったし片方を失うことは苦悶である。
長年見ていたレインはそれを理解していた。けれども、アウが妹を庇った理由。それは彼女たちが安全に場を去るため。
心を無にする他なく、ロラに訴えた。
ロラは一度姉の元に走る足を止める。そして拳を強く握りしめるが、すぐにその絶望の震えは止まるのだった。
「はい。行きましょうレインさん...。」
悲痛はレインの杞憂であった。自分の想像以上に、ましてや自分以上に、ロラはドライなのだ。
ロラは身近な者の死を理解する。兄弟を失ったからと言って、それはこの世界の掟である。
自らも殺す側である以上殺されて喚くのは不平等で、一キューテストとして恥ずべき行為だと睨んだ。
レインの目に映ったのは、荒んだ現実。世界はそんなものなのかと実感せざるを得なかった。




