光の王の御前に
「痛イ。」
片腕を失った異形は特に苦しむ様子はなく、ただ呟くのであった。
ーーヤハリ、、速くなっているナ...キューテストの獣もダテじゃない。
自らの速度を追い越したことに気づいた異形は、実に最低限の動きで<雷獣>の繰り出す攻撃を軽減する。
齧られ、掻かれて。自身の肉体が刻まれているのが分かった。
「それホドにするカ?」
異形の次の行動は切り札ではない。あえて言うならばリセットだ。
「甘イ時間。」
そう言い終えると異形の前にはちゃぶ台が現れる。上にはプリンといちごオレ、そして小粒シュークリームが置かれている。
何をしているのだと言わんばかりの表情をクローガは見せた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
同刻。首都・永田。
ラウルスの使い、ルフトは人通りの多い駅で何者かに阻まれていた。
ルフトの目は虚空を見つめる。
彼の前に現れるのは4人の男女。レインをはじめとした、キューテストたちであった。
双子の妹は口を開く。
「ねえ、レインさん。この人...。」
「ロラ...流石に私もこれにはビビる。魔王を敵として目前に迎えるははじめてだわ。しかも“光の王”とはね。」
双子の姉は呟く。
「伝説は実在した...。」
仲間の男は双子を手で庇って背後に寄せる。
「ロラ、アウ。ちょっと下がってな...。」
目の前の人物、光の王・ルフト。彼はかつて勇者と呼ばれていた。
その気配は同じく魔王であるレイ・リンのものとは違う。包み込むようなレイ・リンの気配とは違っていて、ルフトのものはあまりにも真っ直ぐ。
その鋭い気配に、場にいたキューテストの全員が身体を切断されているかのような感覚を覚えた。
「“金色の太陽”は誰が持っている。」
彼はその場を率いているであろうレインに問いかける。
「ここにはないと言ったら?」
「確かめるだけだ。」
そう言い終わると、ルフトの手にはどこからともなく金色に輝く剣が出現する。その剣の色は目覚ましく眩しい。
途端、キューテストたちはとんでもない突風に包まれる。目も当然開けられず、吹き飛ばされそうになる体を保つのみ。
すぐに風は止む。一瞬の隙を見せた彼らは漠然とした死を悟る。
踏ん張ったレインはすぐに目を開くが、目前にはルフトの姿がない。
代わりに彼は隣にいて、
仲間の男は首から上を失っていた。
その男の襟元をルフトが掴んでおり、その眼差しはこの世とは思えない邪悪さを孕んでいた。
「この人は持っていないな...それなら...。」
後方の高層ビルは全て瓦解して、砂埃をあげながら崩れている最中。
次にルフトが見つめるはレインであった。




