彼らはキューテスト
学園の建物はバロック様式と呼ばれて、その昔は国の政に使われていたらしい。
中庭にはラベンダーが植えられていて、それを管理してるユーベさんは聖女のような人だ。
荒れた世界にもオアシスがあるなら、きっとこの学園がそうだろう。
サラとアズキは体術の授業を終えて、長い廊下を渡って次の授業へと向かう。
「サラ?気難しそうな顔してどうしたの。」
「ん?いやさ...もし“キューテスト”が学校を襲ってきたとして、彼らは能力全開で襲いかかってくるよね?
体術だけじゃあ、自己防衛にならないんじゃないかって...。」
「キューテストがわざわざ学園を襲うことなんてあるのかな。心配しすぎだと思うよ、サラ。」
サラはまだ考え込む様子であったが、黙って頷く。こびりつくような、何とも不思議な予感を彼女は感じ取っていた。
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教室に戻って、歴史の授業が始まる。
サラとアズキのいるクラスはいたって平凡で、居眠りをする者や隠れてゲームをする者もいた。
「ーー200年ほど前に起きた宇宙生物による厄災の結果、彼らはヒトに寄生し新たな器官として定着するようになりました。
とはいってもヒトに新たな力を与えたという面では、共生関係であると考えられています。我々はそれを「グラン」と名付けました。
しかし未だ解明されていない点も多いです、ヒトの....。」
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「本当に上物が眠ってるのか?」
ヘリは地上に影を映して、夏の静かな昼を威嚇するようにけたたましく風を切っていた。
ある兵士は、ヘリから下に広がる街を見下ろしながら上官であるロイに問う。
「あぁ。だが俺は期待していないな。利益が大きいのは、むしろ有象無象にいる生徒の方だ。グランを取り出さなくても高く売れるだろうな.....うっ!...」
女性の兵士が鬼の形相で彼を睨みつけた。普段の幼気な少女とは思えないような表情である。
「な...レイン、勘弁、その表情は......おっかねえ。」
「ロイ、私は何度も言っているだろう。殺してグランを切り取るだけだ。私たち”キューテスト“は市民に地獄を見せるつもりはないんだ。」
レインはネズミを狙う蛇のようにロイを睨み続け、彼は怯えながら目を逸らし続けた。
「警戒網、突入します。降下の準備もしてください。」
ヘリはまもなく目標地点へと到着するところだった。彼らにとってはそこは明日を生きるための狩場であった。
「レイン、今日下に降りるのは俺たちだけでも構わないか?こいつの見極めもしたいんだ。」
「わかった。でも政府が来たら置いていく。そして私の傀儡も何人かつけておく。それで運び出しな。」
ロイは彼女の汎用性の高い能力に感服した。
「ああ便利なチカラだな。いつか喰らってやるよ。」
彼ら“キューテスト”は能力の源であるグランの取引を生業とした団体だ。それゆえ非常に悪名が高い。