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忘却の領域

「で、でーと!?」


ニーナは分かりやすく顔を赤らめた。


このクローガという人は状況を把握して、誤魔化してくれたのだろう。


ーー何よりその言葉はニーナに刺さる。この暴力おばけは恋愛どころかデートすらしたことがないはず...非常にナイス。


心の中でサラはガッツポーズとクローガへの賞賛を向けた。が、しかし同時にこの状況がやや恥ずかしくも思えた。


「ま、まさか昨日も遅く帰ってきたのは...それにあの服...。」


ニーナは乙女チックにあり得ない領域まで妄想を押し広げていった。彼女の脳内には完全に別の時空が描かれていたことだろう。


うまく誤魔化せるなら、サラにとっては都合が良かったが。


「では行ってきます。サラ、忘れ物はないか?」


「う、うん。」


ニーナは頭の中には多大な情報が広がっていて、何も言い返さず。


サラはクローガと出発する。目指す場所も目的も未だ知らず。


サラとクローガは狩場へと足を運ぶ。サラは少しだけ距離を離して、クローガについていくような形であった。


静かな路地である。


心地よく差していた日もやがて雲に隠れていった。


「早朝も曇っていたが、晴れてまた曇りか。」


「もう夏だもんね。日が出てない方が涼しくて私は好き...ところで徒歩なの?」


「俺たちは徒歩だよ。まあそんなに離れてないし。」


「”俺たち“?他の隊員も今日のに参加するの?」


「うん。他の人たちは本部を押さえてるらしい。」


「へえ。」


サラはすたすたと車道の真ん中を歩いていた。


「車道には出過ぎない方がいい。普通デートで車道側を歩くのは彼氏の方だ。」


「結構調子に乗るんだね。」


「ああ。そういえば作戦を伝えてなかった。俺たちはいまからあるモノの回収を行う...。」


とある路地に差し掛かるところであった。


クローガはゆったりとした口調で作戦を話す。


「金色の太陽、俺にもそれが何に使われるかは知らない。それで“らうろろ?”ごめん忘れたけどそんな感じの名前の組織にかちこむ。


アイテムの写真は見たからなんとなく覚えてる。どこにあるかは知らない。」


サラは唖然とする。それは作戦というよりも概要であった。すると一気に不安が押し寄せる。


「え...!?ほとんど知らないじゃん、それでいいの!?」


「長文の作戦書を渡されても、すぐ忘れちゃうからいいんだ。」


ーーせめて私には伝えてくれ...あまりにも適当。今頃ボスのレイ・リンが悪魔のように思えてくる。あの笑みは嘲笑なのかな。


「でも大丈夫。ある程度信用されてキミも僕もここにいるんだから。」


サラは静かに心の中でレインに助けを求める。

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