表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/73

魔性は止まることなく

この世界は三つの災厄によって、荒れました。


1度目は核戦争。

今となってはどちらが先に撃ったかなどわからない。

とりあえずその時代にいなかったことが幸福だ...蒸発したくないし。



2度目は宇宙からの侵略。

ナンタラ星から地球はオレたちのものだ〜と攻めてきたくらいしかわからない。

ほんと、「いかにも」って感じのタコ星人だったそうだよ?



3度目は....まあいいや。



…どうにも人はしぶとく生き残った。



国家だってあるし生活は多少細々としてるけど、別に明日を生きるのに精一杯な人は少なくなった。


とくに戦前のサブカルチャーをかじって生きるのはそんなに悪くないと、ほとんどの人が思ってる。


...ところで、幾度の自然淘汰でヒトは“ちょっぴり”進化した


背骨の横に蛇の頭部のような器官がある。

<グラン>、災厄がもたらしたヒトの進化。


これがあることでヒトは“超常能力”を扱える。


捕食器官なので他人のグランを喰らえば、その力ごと奪える。


でもそもそも喰らうときにしか出てこないので、わたしはまだ見たことがない。というか見たくないキモチワルイ...。


<魔王>、喰らい続けて、災厄の種になり得る者のことを言う。


…。


---


「ムツキの勝利!」


「ちぇ、またサラの勝利か」


体育教師が右手を挙げてサラ・ムツキの勝利を高らかに叫ぶ。


荒れたこの世界。身を守るのは自分自身。中等、高等教育に体術の授業が必須科目となっていた。


サラ・ムツキ、53連勝。彼女は細身ながらも相手を軽々しく投げ飛ばすことから、“無重力人間”と呼ばれている。


光に煌めく汗は爽やかに、この度も勝利を照らしていた。


体術の授業が終わると、大きな体育館からは明かりが消えた。ざわめくロッカー室の扇風機で涼むサラを親友のアズキが冷やかしに来る。


「また勝ったじゃんサラ、将来は()()()()の秘密部隊にでも入るの?」


サラは気だるげに答える。


「アズキ...入るわけないじゃん。私は <魔王> になるって。」


周りの生徒達も含めて一瞬で空気が凍りつくのだった。気まずくなったアズキは苦笑いを浮かべる。


「へへ、サラ。まだそんなこと言ってるの?冗談だよね...。そんなの自分が核兵器になるって言ってるようなものじゃん。」


魔王とは正しく破壊の権化、災厄の種。


「わたしは本気だ!お嬢様はもう終わり、逆にアズキはなりたくないの?そっちの方がわかんないんだよ〜...」


アズキはこの意味の分からない熱意を並べるサラに引いてしまう。最初から言い返さなければよかった...とも後悔もしたが、同時に思うところが有ったのでサラに問う。


「私たちはこの荒れた世界で、ほぼ唯一高等教育まで受けれるんだよ!?なのに世界の脅威の魔王なんて....。


....というか!魔王になるとしてもそのちっちゃいトカゲの能力で?」


アズキはサラの方に乗った小さなトカゲを見て意地悪く嘲笑した。


「なんだ、アズキもこの子を侮辱するのか!私の天性、<サラマンダー>は火も吹ける!」


サラは15cmにも満たないような、小さなトカゲを手に掲げる。トカゲもトカゲで気合いを入れた表情でシャーっと鳴く。


アズキはニヤニヤとしながら、またしてもサラを煽り立てる。


「火を吹けるってどのくらいよぉ。。」


「マッチよりも強い!」

――でもライターには敵いません……。

ーーシャー....。


サラとトカゲは青菜に塩をかけたかのようにしょぼくれた。しかしすぐに自信を取り戻したように続けた、


「いまは弱いけど!いつかは街を1秒で焼き払える龍になるんだ!.....だ?」


「自分でも想像できてないじゃん。」


思わぬ反撃にサラは目が点になった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


煙が舞う。炎は絶えず人の形跡をあぶる。かつてのオアシスも今は高温に溶けた。


人の気はもう微塵と化した。弾けるように燃える街はいたって静かであり、夜空にも勝るような暗く分厚い雲が空を覆っている。


消し炭のようなビルの上で老人は口を開く、


「またこの景色となった...。懐かしささえ覚える。広がる荒野は簡単に人を包みよったわ。」


「感服した。もはや見守ることしかできん。そなたの目的は何だったのだ?」


そのよそで、少女はただ火の龍を撫でていた。その顔はこちらを向くことはなく、灰に汚れた桃色の髪は風に揺れている。


「桃色の魔王に、なりたかった...。」


一滴の涙が頬からこぼれ落ちた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ