魔性は止まることなく
初投稿ですよろしくお願いします!序盤はテンポ早いです。
この世界は三つの災厄によって、荒れました。
1度目は核戦争。
今となってはどちらが先に撃ったかなどわからない。
とりあえずその時代にいなかったことが幸福だ...蒸発したくないし。
2度目は宇宙からの侵略。
ナンタラ星から地球はオレたちのものだ〜と攻めてきたくらいしかわからない。
ほんと、「いかにも」って感じのタコ星人だったそうだよ?
3度目は....まあいいや。
…どうにも人はしぶとく生きてるようです。
国家だってあるし生活は多少細々としてるけど、どこをみてもTWDシーズン1よりははるかにマシ。
戦前のサブカルチャーをかじって生きるのもそんなに悪くないとほとんどの人が思ってる。
...ところで、幾度の自然淘汰でヒトは“ちょっぴり”進化した。
背骨の横に蛇の頭部のような器官がある。
<グラン>、災厄がもたらしたヒトの進化。
これがあることでヒトは“超常能力”を扱える。
捕食器官なので他人のグランを喰らえば、その力ごと奪える。
でもそもそも喰らうときにしか出てこないので、わたしはまだ見たことがない。というか見たくないキモチワルイ...。
<魔王>、喰らい続けて、災厄の種になり得る者のことを言う。
わたしはそんな魔王になりたいのです
なぜって、まあ。そりゃあ....
ーーーー「かっこいいじゃん!!」
学校の帰り道。アズキはコンソメ味のポテチを片手に、サラのいつもの妄想に呆れた。
「サラ...やっぱり変だよ、あんた何に憧れちゃったわけ?パパが言ってたよ、へんな夢に走るとその先は破滅だって....。」
サラはムッと表情を向けてアズキに反論を放った、
「わたしは本気だ!お嬢様はもう終わり、逆にアズキはなりたくないの?そっちの方がわかんないんだよ〜...」
アズキはこの意味の分からない熱意を並べるサラに引いてしまう。最初から言い返さなければよかった...とも後悔もしたが、同時に思うところが有ったのでサラに問う。
「私たちはこの荒れた世界でほぼ唯一高等教育まで受けれるんだよ!?なのに世界の脅威の魔王なんて....。
....というか!魔王になるとしてもそのちっちゃいトカゲの能力で?」
アズキはサラの肩に乗った小さなトカゲを見て意地悪く嘲笑う。
「なんだ、アズキもこの子を侮辱するのか!私の天性、<サラマンダー>は火も吹ける!」
サラは15cmにも満たないような、小さなトカゲを掲げる。トカゲもトカゲで気合いを入れた表情でシャーっと鳴く。
アズキはニヤニヤとしながら、またしてもサラを煽り立てる。
「火を吹けるってどのくらいよぉ。。」
「マッチよりも強い!」
――でもライターには敵いません……。
ーーシャー....。
サラとトカゲは青菜に塩をかけたかのようにしょぼくれた。しかしすぐに自信を取り戻したように続けた、
「いまは弱いけど!いつかは街を1秒で焼き払える龍になるんだ!.....だ?」
「自分でも想像できてないじゃん。」
思わぬ反撃にサラは目が点になった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
煙が舞う。炎は絶えず人の形跡をあぶる。かつてのオアシスも今は高温に溶けた。
人の気はもう微塵と化した。弾けるように燃える街はいたって静かであり、夜空にも勝るような暗く分厚い雲が空を覆っている。
消し炭のようなビルの上で老人は口を開く、
「またこの景色となった...。懐かしささえ覚える。広がる荒野は簡単に人を包みよったわ。」
「感服した。もはや見守ることしかできん。ところで、そなたと世界はどちらが強大だ...?」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
次の日もまた普通に学校があった、バロック様式のこの建物はその昔は国の政に使われていたらしい。
中庭にはラベンダーが植えられていて、それを管理してるユーベさんは聖女のような人だ。
荒れた世界にもオアシスがあるなら、きっとこの学校がそうだろう。
サラとアズキがいるクラスはいたって平凡で、居眠りをする者や隠れてゲームをする者もいた。
「ーー200年ほど前に起きた宇宙生物による厄災の結果、彼らはヒトに寄生し新たな器官として生きるようになりました。
とはいってもヒトに新たな力を与えたという面では、共生関係であると考えられています。我々はそれを「グラン」と名付けました。
しかし未だ解明されていない点も多いです、ヒトの....。」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「本当に上物が眠ってるのか?」
ある兵士は、ヘリから下に広がる街を見下ろしながら上官であるロイに問う。
「あぁ。だが俺は期待していないな。利益が大きいのは、むしろ有象無象にいる生徒の方だ。グランを取り出さなくても高く売れるだろうな.....うっ!...」
女性の兵士が鬼の形相で彼を睨みつけた。普段の幼気な少女とは思えないような表情である。
「な...レイン、勘弁、その表情は......おっかねえ。」
「ロイ、私は何度も言っているだろう。殺してグランを切り取るだけだ。私たち”キューテスト“は市民に地獄を見せるつもりはないんだ。」
レインはネズミを狙う蛇のようにロイを睨み続け、彼は怯えながら目を逸らし続けた。
「警戒網、突入します。」
ヘリはまもなく目標地点へと到着するところだった。彼らにとってはそこは明日を生きるための狩場であった。
「レイン、今日下に降りるのは俺たちだけでも構わないか?こいつの見極めもしたいんだ。」
「わかった。でも政府が来たら置いていく。そして私の傀儡も何人かつけておく。それで運び出しな。」
ロイは彼女の汎用性の高い能力に感服した。
「ああ便利なチカラだな。いつか喰らってやるよ。」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
学校は昼休みが終わりを迎えるころであった。サラはカレーパンを頬張りながら、空を眺めぼーっとしていた。
気まぐれに空の青さやらに思考を向けていると、異変に気づく。
目線の先より一機のヘリが上空より近づいてくる。
サラにとってそれは生まれて初めて見るものであり、それが軍用機であることは知らない。
彼女はヘリが放つ兵器特有の威圧感と禍々しさに自然と意識を向けていた。
「ピピロロロロ!.....空襲、空襲、空襲。」
刺激するような鋭い割れたような機械音声が空襲警報を響かせていた。それとともに微かに規則性を感じる風を切る音も聞こえてくる。
ここでは、空襲警報はたまに鳴るものだが大抵誤報であった。そして何かが実際に起きたとしても、自分は大丈夫だろうと正常性バイアスが働くものだ。
耳障りな警報をよそにクラスで騒ぎはない。甲高いアラートのうるささにしかめっつらの生徒がほとんどである。
けれども、サラだけはあの機体の目的に気づいていた。
「奇襲だ...。」
クラスの落ち着きを取り払ったのは、一つの爆発であった。
爆発は風船が割れる音に威力を加えたような音だ。クラス中の窓が圧で押され、割れはしないもののクラスの生徒は窓が波打つ感覚を覚えた。
生徒たちは硬直した。雷が落ちるかのような爆風に対する生物としては最も普遍的な反応。
しかし、サラだけはまるでライブコンサートのバズーカ音を聞いたかのように圧倒はされても飲まれることはなかった。むしろ彼女の心が沸き立てられた。
それから4秒、5秒と静寂が続き...
「キューテストだ!!」
そう叫ぶのは隣の男性担任だ。怯えきった心を搾り尽くして出した声だろう。
サラの隣にいたアズキは爆発音により思考がやや停止しつつも、続けて心臓が凍てつくほどの不気味な気配を感じた。例えるなら鎖に繋がれた獣が放たれたかのような。
そちらの気配に目を向けると、いたのはサラ。彼女はすでに走り出していた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「あの時の気配は、私も感じたよ」
老人は火の海を見つめながら切なさげに呟く。
「ああ、もうすでにいるじゃないかと」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「15.....16.....17、18体あるぜ。グランはせっせとレインの兵士が運んでくれてる。クズ血縁の未来ある女子生徒諸君に申し訳ないが、まあ...今までが幸運だったんだぜ?
...ロイ、もう十分か!」
兵士は殺害した者たちからグランを切り取って、それをレインの傀儡が運んでいた。
グランに内蔵された能力は非常に高値で取引される。そしてグランは切り取られた者もその時点で息絶える。
彼ら“キューテスト”は能力の源であるグランの取引を生業とした団体だ。それゆえ非常に悪名が高い。彼らは今回の狩場としてこの学園を選んだ。
「数としては十分だな。だがグランは丁寧に切り落とせよ。買い手の連中は状態にうるさいんだ...あと俺はせっかくだし上物を探してくるぜ。」
ロイは兵士と目を合わせると、振り向き歩き出す。
彼はどことない気配から“上物”の存在を予感していた。
息を殺して潜む生徒たちを横切り、その気配の方向へと向かう。
ラベンダーは血に塗れていた。オアシスのような中庭はもう見る影も失った。
廊下は歩く足音が何重にもなって響くほど、場は静寂に包めれている。
「お?」
ロイが気配を辿っていると、桃色の髪の生徒がこちらへと歩いてくる。その様子に怯えはない。サラであった。
ロイは鯛を釣りあげたかのような喜びに包まれた。しかし同時にどことない違和感を感じ取っていた。
その生徒は俯き、何かを深く考えているような様子であった。思わず彼は話しかける。
「なあキミ、名前は?」
サラは一瞬ロイへ渋い表情を見せた。そして少し煙たがるように口を開いた。
「おじさん..ちょっと待ってて。」
ーー「は?」
ロイは、自己を否定されたような屈辱感を味わった。困惑と共に湧いてきたのは怒り。
ーー狩る。
サラの本意ではなかったものの、ロイはそれを挑発と受け取り、瞬時にこの娘を狩りの対象とした。
力量差は明らかである。ロイには長年狩るものとして、それが見えていた。だが怒りが判断を若干曇らせ、違和感を無視した。
ロイは自身の爪を能力で出刃包丁のようなの鉤爪へと変化させ、サラへと飛びかかる。風を切るような速さはまるで空間を裂いているかのようであった。
しかし飛びかかるまでのその刹那に、サラはロイと目を合わせた。そして鉤爪を自身に到達する寸前で右へ躱わす。
ロイはこの娘に自身の技を見切られたことは気にせず、代わりに自身が感じていた違和感に気を取られる。
間髪入れず、サラは爬虫類の鱗で覆われたような拳を現す。自身のトカゲの能力、<サラマンダー>を右手に纏わせたのである。
サラは横腹を目掛けて拳を叩き込む。鈍い一撃であった。
拳を受けた後にロイは後方へと跳んで、間合いを広げる。痛みは気をやらず、自身がつかんだ違和感の正体に安堵して言う。
「お前もそっち側かよ。重い一撃。だけど...これは違うな、純粋な力じゃない。」
サラは鋭くロイを見つめていた。
続けてロイは言う。
「“減転”か。デメリットだったり条件をつけることによって、能力にバフをかけているな。」
ーーさきほどこの娘は何かを深く考えているようだったがコレか...。そしてあの一撃は、いくつもデメリットを重ねがけした賜物か。
サラはロイの言葉に耳を傾けず、依然として拳を構えたまま突き刺すように相手を見つめている。
実際、ロイの述べたように、サラは“減点”、すなわちいくつものデメリットを能力に設けていた。
減点によって繰り出される底上げされた攻撃は、受ける側にとって何層もの攻撃を喰らったかのように感じる。
この攻撃をするにあたって、
ー息を止めなければならない
ー自身に2割の反動を加える
ー片耳のピアスがどのような形でも破壊されれば即死
ー片目の視力を皆無とする
ー攻撃するたびに血液を失う
サラにとって、純粋な力量の差を片っ端から受け止めた姿勢。
これらの条件を果たしてやっと、先ほどの威力を出せたのである。勝つにはこうするしかなかった。
ーー勝率は2割ってところかな...でもリターンが大きい。あのナイフのような爪の能力を喰らって自分のものにしたい....。
さらにこの人が本物の“キューテスト”だとすると、魔王への道がずっと近くなる。
サラは、初めて相対する強敵を千載一遇のチャンスと見做した。
緊張によるブレはすでに殺されていて、ただ虎視眈々と相手の動きを観察する。