【第四話】安置なし、走るのみ
物事はいつも突然始まる。もちろん、銃撃戦もだ。
タァァンタァァンタァァン!!!
「唐突すぎるだろ!心の準備が ヒャ!」
僕らがDウイング【武器庫】を離れ、Eウイング【一号研究棟】に向かう道中のことだった。ちょっとした小部屋を見つけた僕らはそこで水分補給やルートチェック、ハスの愛銃のメンテナンスを行っていた。外をクリアリングしてくると言って外に行ったのだが、運悪く敵と遭遇。。そのまま大急ぎでハスのもとに帰ってきて、そして今に至るわけさ。
「ひえっ!」
刺さっているマガジンの残弾数はおおよそ20発。使ってないのを含めたら残りは140発。まだまだ弾はあるが、これからより多くの敵が出てくるかもしれないと考えると、ちょっと心細い。弾薬の節約のためにハスの機銃支援を要請しようとするが、敵襲の驚きでガンパーツのスプリングがどこかに吹っ飛んで紛失。ハスはそれを探しており、戦闘に加入できないと来たのだ。
タァァン!
「ハス!パーツは見つかったか!」
「見つか……った!!スプリングあったぞぉぉ!!」
ここに来て紛失したスプリングが発見。ハスは歓喜のあまり雄たけびを上げた。
「雄たけびは勝ってからにして!敵は5名!」
ダブルタップで、顔を出していた二人を葬る。残りは3人だ。
「Tango down!訂正、あと3人!」
ガッシャン!
MINIMIのコッキングレバーの重たい音が部屋の中に鳴り響く。そしてハスが組み立てが完了MINIMIを持ってきて、バイポットを展開した。
「今来たよ!!」
「了解。フラッシュ!」
ハスが廊下に展開できるように、フラッシュバンを敵に向かって投げる。敵は慌てて壁に身を隠して、目をやられないように行動した。
「弾幕オンライン!」
そして敵が隠れた瞬間に、ハスの弾幕がオンライン。圧倒的な弾幕が敵を粉々にしようと襲い掛かっていった。
「Move!」
ハスに声をかけて前線を押す。それに合わせてハスも立ち上がりついてきた。敵はまだハスの弾幕を警戒していて出てこない。この間に押し上げて殲滅だ。
「まさかMINIMIでお願い腰撃ちぶっぱか?」
「ここはしっかりハンドガンで対処だよ。銃弾は有限だしね」
彼はマイクロドットサイトを乗っけて、フラッシュライトをつけたカスタムG17を見せてくる。ダンマニストだが、状況に応じて銃を使い分ける。さすがにそれぐらいできないと兵士失格だからな。
「Are you ready?」
「Yeah」
「Ok!321Go!」
掛け声に合わせて、敵の隠れているT字路に飛び出す。敵も反応してきたが、時遅し。F46Tの銃口はきれいに敵の脳天を捕らえていた。
タァァンタァァン!! ダァァァンダァァァン
T字路から二種類の銃声が鳴り響き、断末魔と倒れる音が余韻として残った。見渡すと、あたりはハスの機銃掃射の跡がいっぱいだった。コンクリートすらもぼろっぼろにするレベルだから、人体に当たったらどうなるか言わなくてもわかるよね。
「仁~追加の休憩を入れる?」
ハスがG17のマグチェンジをしながら問いかけてくる。僕は同じく愛銃のマグチェンジをして答えた。銃口からはうっすらと煙が上がる。
「本音はしたい。でも現実はさせてくれない」
「何で?」
「敵が来ている。おそらく銃声を聞きつけてきたんだな」
戦闘が終わる直前。目の前の敵とは別に、敵がいることを耳が反応していた。僕は耳を動かして音を探る。僕らのずっと後ろ側。約10人、そのうち重武装兵は3~5人はいそうだ。
『俺らが来た場所から敵が複数接近』
「言われなくても分かっている。おおよそ十人だろ?」
『さすがは狼。耳がいいな。で、どうする気だ?戦うのか?』
今僕らがいるのは一本道。そして敵は10人ほど。地理的有利もないし、銃声は敵も聞こえているはずだからお互い存在をつかめている。敵には重武装兵がいるがおそらくハスのような機銃を持っていそうだ。こうなったら‘‘一方的な弾幕‘‘というパワーのごり押しもできない。それができたのは機銃持ちがいないさっきのような敵だ
「愚問だな。んなもん決まっている!ハス!」
「どした?」
マグチェンジが終わった銃を構えて、ハスに声をかける。ハスはちょうどハンドガンをしまって、MINIMIを構えたところだった。
「逃げるぞ!!」
ダダダダダァァ!!
「ちょっ!そんなにヤバいのが来ているのか?案外どうにかどうなるはずじゃないのか?」
「知りたければ自分で確かめて!僕は死にたくないから走る!」
当たり前だ。重武装兵は一人だったら対処がしやすいが、何人もいると弾幕で圧倒してくるから、対応は無理。そしてフラッシュを入れたとしても全員の目がつぶれる保証もない。
『これが精鋭ってやつか。たいしたことないな』
「これが戦略的撤退ってやつだよ!覚えといて!」
今更だけど、この施設はすでに敵に占拠されている。だからどこに向かっても敵はいる。そうなるとゆっくり休める安置など存在しない。これが戦場ってやつか、ここんとこ平和ボケしていたから忘れかけていたよ。
「はぁ……はぁ……」
シベリアの冷たい空気が肺に入ってくる。施設全体は一部区域を除いてブラックダウンし、暖房も何もついていないから気温はほぼマイナス。疲れ切った体がさらに疲労感に襲われる。本部に戻ったら絶対に任務の追加請求してやるからな。
「こんな……場所に安置なんかなかったね」
『分かり切ったことだ、馬鹿野郎』
ここには安置はない。走るのみ、だ。
△△△
~Eウイング【一号研究棟】~
敵の追跡網から逃れるためにどれだけ走ったのだろうか。時計を見るともうすぐ夜の11時を回るところだった。入ったころはすでに日が沈み切った直前だったから、おおよそ5時間はここにいる計算になる。
「きゅ……休憩……」
「うぃ……」
僕らが今いる場所はEウイング【一号研究棟】の入り口周辺。そこでは天井の一部が崩落しており、そこから外を見るとオーロラが見えてきた。
「み……水」
水筒を取り出して水を喉に流し込む。魔法瓶によってまだほんのり温かい状態の水が喉を通り、僕に生きた心地を与えた。横を見ると、ハスも水分補給していた。
「爆心地の場所まであとどれくらいだ?」
「ちょっとまってね」
ハスがユーティリティーポーチの中から施設のマップを取り出す。そして一か所を指でトントンとたたいた。
「僕らはEウイングにいる。正規ルートをたどるのであれば、ここから二つの研究棟を抜ける必要がある」
「さっき正規ルートと言ったね……裏ルートは?」
「言うと思った」
ハスがニヤッと笑ってこっちを見る。
「Eウイングから外につながる迂回路に出る。そうすればそのまま爆心地のFウイング【システム中枢区域】につながるんだよ。時短でしょ?」
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迂回路。どちらかといえばベランダに近い場所。シベリア研究所は半地下・半地上といったが、一か所だけ崖に突き出ている部分がある。そしてその崖の上を通る道が、今言った迂回路であるのだ。大幅な時間短縮ができる代わりに、下手すると崖に落下していく。そんな道となっている。
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「今思いついたのか?」
「そうだよ」
「頭の回転早いな」
「それはどうも」
にしてもこんなに便利な道が残っていたとはね。でも普通なら解体されている道だ。絶対残っているのには深いわけがあるはずだ。
「でもなんでそんな道が残っているんだ?」
「解体したくても、場所が崖のせいで安全上で解体できなかった、てよ」
「まぁいい。僕らがしっかりと有効活用させていただこうか」
想像と違った回答が返ってきてしょぼんとなる。そんなことより、ひとまずこのEウイングを抜けていかないとな。僕らは水筒やマップをしまって歩き出した。
△△△
あたりは暗かったが、月明かりやオーロラの光によって今まで通ってきた場所よりかは明るかった。天井に穴が開いていると、無意識に上を見てしまう。オーロラはここが戦場であることを忘れさせそうなほど鮮やかだった。
「オーロラきれいだね」
「うん。おかげさまで今回の任務もうまくいきそうだね」
静かな研究室に二つの足音が鳴り響く。恐ろしいほど静かだ。ところどころ壁がひび割れており、屋根も崩落していた。崩落した屋根からは先ほどの言ったオーロラが見えてきたり
「さぶぅぅ……」
シベリアの極寒の風が吹き込んでくる。尻尾や獣耳の毛が一斉にブワァァァ!と逆立つ。銃を下ろして尻尾を腕に抱え込んで暖を取っていたそのとき、耳がピクッと反応した。そしてライトの光が曲がり角の先から見えてくる。
「Contact」
声を抑えてハスに伝える。
「何人?」
そう聞かれて耳を澄ます。多分3人で重武装兵はいない。僕はナイフを握りしめた。そしてハスに‘‘3‘‘とハンドサインを送る。ハスはうなずいて状況を理解した反応をしてくれた。
「Let's go」
敵のライトが反対側に回ったのを確認し、曲がり角を飛び出す。そして敵の懐に飛び込み、首を横に切り裂く。赤い鮮血が月光とオーロラに照らされて宙を舞う。
「Engage!」
敵が状況に気付き銃をこちらに構えるが、すでにハスが懐に入り込んでいた。
「Dembye」
二発の銃声が鳴り響き、そのあとに人が倒れる音が響いた。オールクリアだ。
「オールクリア。ところでさっきのはなんだ?‘‘Dembye‘‘って」
「造語だよ。Goodbyは‘‘God be with you‘‘の略。それをいじってDembyeを作ったよ。原文は‘‘Demon be with you‘‘。発音はきもいけどね」
「ふ~ん……今思いついたの?」
「今」
「頭の回転早いな」
「さっきも聞いたよ」
僕はナイフについた血を振り払ってしまう。そしてF46Tを構えなおして、迂回路に向かっていった……っと、ここで訂正。‘‘向かっていきたかった‘‘が正解だな。
「左だ!」
敵からの発砲を合図に、何度目か忘れた銃撃戦の始まりである。ちなみに何があったかというと、敵部隊を暗殺し終えた後に僕らは迂回路に向けて進んでいたが、敵が無線に応答しなくなった味方を心配して様子見に来た。そしてばったり出会ってしまったというわけ。
「サンキュー仁!」
ハスの機銃展開の援護をすべく、側面に回ってくる敵を迎え撃つ。先ほどまで暗かった研究室内にまぶしいマズルフラッシュと、壁に反響してよりうるさく感じる銃声が発生した。
「痛っ!」
敵の弾丸が耳を貫いていく。見えないから詳しくはわからないが、ゆっくりと出血しているのは見なくても分かった。
「リロ――――ド!」
残弾が少なくなったマガジンを外して、新しいのを差し込む。そして古いほうのをしまおうと思ったが
「うわっ!」
焦ってしまったせいでマガジンを落としてしまった。何とかキャッチはできたものの、敵がすぐ近くに来ている。ライフルを構える時間はないし、ハンドガンを取り出す暇もない。こうなったら
「回収面倒だけど、くらえ!」
ガン!
「!」
手に持っていたマガジンを近くの敵の顔面に向かってぶん投げる。マガジンは見事に敵の顔面にクリーンヒットし、敵は悶絶していた。そして痛みで悶絶している敵をすかさずキル。
「わぉ。いいピッチングだね」
「どちらかといえばマガジンよりナイフを投げたかったな。あっちの方が楽しい」
「落ち込むなって。残りは弾幕でパパパ~って倒すからさ」
そう言ってハスはトリガーに力を籠める。廊下の先でバリスティックシールドを展開したり、がれきを遮蔽にしていた敵に向かって容赦ない弾幕が襲い掛かり始めた。
Broooooooooooooooo!!!
「これが最高にハイィってやつか!」
「絶対違うと僕は思います」
僕のつっ込みにハスは耳も貸さず、ひたすら弾幕を貼り続ける。その後ろで僕は何をしていたかというと……
「よっと!」
敵にグレネードをひたすら投げるだけだった。でもそれが効果的。ハスの弾幕では倒しきれない敵を確殺。戦闘開始から十数分後、十何人いた敵は僕らによって制圧されてしまった。
「ふぅ……まったく愉快愉快☆」
「お前が久々に恐ろしく見えてきたよ。ダストよりね」
『人間ごときが悪魔に勝つとでも?』
僕の言葉にダストが反応して文句を言う。おそらく人間より下にされて不愉快なんだろう。
「もし生身のお前に弾幕を浴びせたら、助かると思うか?」
『……確かに』
現実を見させて黙らせる。今は奴の戯言に付き合う時間はないんだよ。こうして僕らは無事に(無事といえるほど無事か?)崖を通る迂回路の扉にたどり着いた。
現在時刻 22:23