【第三話】さらに最深部、危険区域へと……
どのくらい時間がたったのだろうか。目が覚めたころはまだ頭が痛かった。床が崩れて落ちるといっても少なからず7mの高さはあった。小説やアニメ、漫画では落下したが無傷なのが定番の内容だろ?そんなことを思いながら力の入らない体を何とか起こそうとし、今自分がいる場所を確認しようとした。
地面や壁の感じから見るには地下駐車場だと思うが、あたりには机や椅子。他にも研究所の職員らがいた。あたりはトタン板で囲まれており、うっすらと消毒液のにおいが空気の中に漂う。
「あ!ようやく目が覚めた!」
うん?誰だ?頭を強打したせいでのせいで一瞬頭がフリーズする。ここに来てヘルメットをかぶっていない弊害が来たか。
「あ、あんまり動かないで。結構な量が出血してしたし」
言われてみれば確かになんかが少ない気がした、まさか血液だったとはな。まだぼんやりしている視界で見つめる先には茶色の髪の30代男性がいた。
「ハ、ハスなのか?」
「そう。僕だよ、財団屈指の弾幕狂信者であるクリス・ハス!」
「自分でも認めているのかよ」
「事実だからね」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
クリス・ハス、年齢30歳の僕とは同期の財団職員。メディックではあるがメインウェポンがLMGというおかしな人。彼とはかれこれ6年の付き合いがあり財団に勧誘してくれたのも彼だ。ちなみに結婚しており8歳の娘がいる。医者免許もあり、頭もいいが、欠点があるとすれば…救いようがないほどの弾幕狂信者であるということぐらいだ
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ていうかなんでお前はここにいるんだ?本部で新入社員の育成担当していたのじゃないのか?」
「実はね、ちょうどシベリア支部のほうから医療設備の点検をしてほしいとの知らせがきてね。なにせ財団一の医療担当だもん」
そう言うと彼はどや顔をしてきた。シンプルにうざいがそれだけの実力もあるから憎めない。
「自慢話はいいから。それよりここはどこだ?」
「地下駐車場。ただ2番ゲートがあるところとは反対側の駐車場だよ」
この研究所では二種類の駐車場があり、それぞれは2番ゲートがある「Aフロア」と、連絡通路でつながっている「Bフロア」。ハスによると、連絡通路は崩落しており通れないとのことだ。
「取り敢えず助けてくれてありがとう。何とか出血死しなくて済んだよ」
「そりゃどうも。ただ、上の階から落ちてくるとは思わなかったね」
「それは僕が一番言いたいよ。それよりさ、ここでなにがあったんだ?世界真理教のマークを付けた敵がいたり、機動部隊が音信不通になったりしてさ……」
チラッと横を見ると消えた機動部隊の隊員と思われる人が数名いた。みんなケガしていて戦えそうではなかったが、とりあえず生きてはいたみたいだ。良かった……
「話せるんだけど……結構長くなるけどそれでもいいか?それと曖昧でもあるけど……」
そう前置きをしてから彼は爆発から今に至るまでの出来事を話していった。内容は前置きの言った通り、結構長かった。ここでは幾分か要約させてもらうとしよう。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
一番最初の出来事。つまりこの一連の悲劇は一つの爆発から始まったという。これは僕でも知っていた。
爆心地ではもともと銃火器の性能テストをしていたのだが、天井が爆発音とともに崩落。そこからの出来事は停電したと思ったら、崩落した天井から敵部隊が侵入。ハスはかろうじて安全なところまで逃げてこれたのだが施設各所でも爆発による崩落があったとのことだ。他にもまぁまぁな大部隊で乗り込んできたや、施設の中心では彼らが何かを行っているとのこと。彼が話したことはこれですべてだった。急いで逃げてきたからあまり覚えていないとのこと。今のところ襲撃者の目的も不明。何をしたいのか全く分からなかった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「そもそもでどこから来たって話だけどね」
「こりゃ面倒だな。ハス、ここに無線機はあるか?本部につながるやつ」
「あるはあるけど使えない。つい先日までは使えたけど、どうやら電波妨害のせいで昨日から使えなくなっているんだ。こっちの通信担当も妨害をかいくぐるように挑戦しているけど…」
そういってハスはチラッと横を見て
「今のところ希望はないね」
「Aウイングらへんでは問題なかったけどな……もしかして妨害の範囲外にいたのかな?それならそこまでもっていけば……」
「無理だよ。無線機はもともと移動されることができたんだけど、バッテリーボックスが破損して、常に電力を送り続けないといけなくなったんだ」
「ふ~ん。だから今は発電機につなげていると……」
「無線機はともかく、小型のものといえど発電機抱えて移動は無理があるでしょ?」
「それもそうか」
こうなったら一旦本部とかに戻って伝えるしかないと思ったが……
「戻るにしても戻れそうにもないな」
研究所からシベリア支部の施設までは車を使って丸一日かかる。戻って援軍求めても、こっちに帰ってきたころには全滅している可能性もあるし、すでにもぬけの殻となってる可能性もある。
「はぁ…こうなったらやるしかないな」
しばらくどうするか悩んだ末に、僕が導き出した結論は
「こうなったら僕が制圧するしかないな。そもそもで任務も終わってないしね」
施設の敵を制圧するというばかげた行動に出ることとなった。しょうがない。戻るにも戻れない。こうなったら前進あるのみだ。そしてそれとは別に‘‘事故の調査‘‘も終わってないから、戻りようがないけどね。
「僕も行くよ」
痛む体に鎮痛剤を投与して、装備に手を取った僕にハスが声をかける。
「いいのか?この場所にお前しか医者はいない気がするが?」
「何言ってんの。もちろん僕以外のもいるよ。ほら」
左側を指さす。そこには3人ほど、赤十字の腕章を身に着けた人がいた。
「よし、前言撤回だ」
こうして僕と弾幕狂信者のハスとの対カルトの戦い(第二ラウンド)の幕が上がった。
△△△
カチャカチャ…カチャ…ガチャガチャガチャガチャ ドンッ!(怒)
開かない。ドアが開かない。Dウイング【武器庫】に向かうドアが開かなくなっている。どうにかしてドアを開けないと……そう考えた僕はスレッジハンマーをバックから取り出した。
「鉄の扉だからハンマーじゃ、きついんじゃない?」
「やってみないとわからないでしょ!」
勢いよくハンマーを振り、ドアにあてる。
ガンッ!
が、意味はなかった。扉はびくともせず、代わりに僕の肩外れかけた。痛みに耐えながらどうにかドアを開ける方法を見出そうとした。
「弾幕で扉を破壊する?この厚さなら貫けそうだよ」
ハスは愛銃のM249 MINIMIを構えて言う。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
M249 MINIMI。アメリカ軍で使用されていた軽機関銃だ。給弾方式はベルト給弾を採用しており、M4A1のマガジンを使うことも可能となってる。
装弾数は200発であり、長時間の制圧射撃に長けているのだ。その代わり重いしかさばるんだけどね。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「予備マグはどこに?」
「バックの中」
ハスのバックの中を開けて見ると、そこには2~3個の予備マガジンボックスがあった。さすがダンマニスト。弾幕のためなら機動力も犠牲にするっていうのか。
「5.56mmだと貫通力が心もとない気がするが?せめても7.62mmは欲しいよ」
ウィーン……
「……え?」
そのときドアの向こう側からモーターの音が聞こえてきた。だんだんスピードが速くなっていく。嫌な予感がする
「ハス伏せろ!」
「えぇ⁉」
ハスをつかんで地面に伏せさせる。瞬く間に銃弾が扉を貫通してきて、間に合わなかった体に一発被弾した。隠れそうなものはない。とりあえず曲がり角に身を隠さないと。
「っく!もしやあの武装集団か⁉絶対そうだろ!」
「多分!機銃展開!」
『音的にミニガンか?』
「お願いだからそれだけはやめてくれ!」
届いてほしくなかったがダストの声は届いていた。先頭に出てきた敵はM134を持った重装備兵。奴らはドアを蹴飛ばして入ってきて、銃身がまた回転しだした。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
M134。通称‘‘ミニガン‘‘。ミニと呼ばれているが、全然ミニじゃないサイズをしている。使用弾薬は7.62x51mmであり、毎分2,000-6,000発を発射することが可能となっている。六本の銃身が束になっており、回転しながら弾を発射する‘‘ガトリング砲‘‘という種類の装備だ。
一般的には携帯型はなく、今回のは魔改造された銃器だと思われ、カルトが着ている装備品は重たいミニガンを持つために作られたパワードスーツの一種だと思う。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「そこは否定してくれよ!なんで嫌なものばかり出てくるんだよ!てか携帯型は存在しないだろ!」
文句を言っている場合はない。どうにかバイザーを抜けないかと思い重装備兵に向かって発砲を……
Broooooooooooooooo!!!
しようと思ったものの、ハスがとんでもない発射レートで弾幕を展開し、重武装兵とその後ろにいた敵をぐっちゃぐちゃにぶちのめした。
『わぉ、グロ』
ダストがあまりのグロさに歓喜の声を漏らす。
「これ……僕の意味なくね?ていうかレート早くね?」
『確かにお前のいる意味はなかったな』
「そこは否定してくれ」
本当のMINIMIはもっとレートが遅かった気がする。でもさっきのは本家の2倍だ。これは本当にMINIMIなのか?
「改造したんだよ。元のレートじゃ圧倒的な弾幕パワーを貼れないからね」
「もとでも十分早いよ」
こうして僕らは突如として現れた敵を倒し、無事に武器庫内に入ることができた。
△△△
武器庫の中には、その名前にそぐわないレベルで武器がなかった。あるのはちょっとした武器と弾薬、それと装備品ぐらいだった。しかも残っていたものはだいたい耐久値が低めなもの。教団は高水準なものだけを持って行ったのである
「全部教団に持ってかれたのか?コソ泥かよ」
「かもね。じゃないと何で敵が中から来たんだっていう話になるから」
いわれてみればそうだ。もしかしたらまだいるかもしれないと考えた僕らは、慎重にクリアリングしていった。中は廊下よりも暗く、フラッシュライトがないと歩くのが大変なほどだった。まぁ、僕は見えるから問題ないけど。
「人影はないっと……逆に不安になるな」
武器庫内にはさきほどの敵以外はおらず、逆に不安になった。これで敵がいたらただ戦えばいいのだが、その場にいなかったら別箇所からの奇襲を警戒しないといけなくなる。まったく面倒なことだよ。
カチャカチャ
「何しているの?」
ハスがこっちをのぞき込んで聞く。僕は入ってきたドアと別の扉にトラップを仕掛けていた。
「グレネードトラップ。一人持ってけるかどうかは別として、敵が入ってきたってことは分かるから。これから探索するでしょ?保険のようなもんさ」
「と言っているもののそれフラッシュバン」
「威嚇できればなんだっていい」
一つを設置して、ワイヤーやマルチツールをしまう。それから僕らは、武器庫内で使えるものを探しまくった。
「そこまでおいしくはないね」
「うん。ほとんど持ってかれたみたいだ」
結局手に入ったのはスモークグレネード×2、フラッシュバン×2、グレネード×3だけだった。残っていたアーマープレートは僕とハスが着ているものでは使えないものだった。僕らが使えるものがなく、しょぼくれていたそのとき
コト……
トラップのフラッシュバンが落ちる音がした。
「敵襲だ。ライトを切って」
「了解だよ」
ハスにライトを切るようにさせて二手に展開する。僕は物陰に隠れて、敵をスナイプ。そして敵の注意が死んだ味方の方に向いた瞬間に、ハスが機銃をブッパする算段だ。
バァァァァン!!
仕掛けたフラッシュが起爆する。武器庫内で足音はないから、異変に気付いて下がっただろう。
「Move!」
ドタドタドタ……
敵は6人。元軍事従事者なのかエントリーが滑らかだった。薄っすらと緑色の光が見えるからナイトビジョンをつけているのが分かる。これじゃまずい。
「すぐに撃たないと……ってこっち来たのかよ」
一人がこちら側に向かって歩いてくる。ラックの裏に隠れているからまだバレていないが、いずれバレるのは時間の問題だろう。
『フラッシュライトをNVGに向かって光を放射させれば?NVGは強烈な光を当てられると見えなくなるだろ?』
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
NVG。ナイトビジョンゴーグル。主に暗闇の中にある僅かな光を増幅させて、ターゲットを見えやすくするもの。光を増幅させるという仕組みのため、強烈な光を当てられると画面が白飛びしたり、一時的に視力を奪われることがある。そのためフラッシュライトはNVG相手には有効な手段と言えるのだ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
タァァン!
静かな破裂音が武器庫内に響き渡り、.300BLK弾が敵の頭を貫く。1000ルーメンもある強烈な光(200m先すらも照らす明るさ)が相手の視界を奪い、そのまま頭を貫かれていった。
「What happened?」
敵の注意がこちらに向いた。今だ!そう念じた瞬間
Broooooooooooooooo!!!
またもや鼓膜が破れそうなほどの銃声が鳴り響き、大量の銃弾が残った敵を吹き飛ばした。
「やっぱり弾幕はパワーだね!」
「オーバーパワーだよ、オーバーパワー。つかなぜバレなかった」
「ケースを積み上げて遮蔽作った」
「……頭の回転早いな」
ダァァァンダァァァン!
かろうじて生き残っている敵を、ハンドガンで処理する。武器庫内に残ったのは僕とハス、そして火薬のにおいと血のにおいだけになった。
「さてと、そろそろ進むか?ここにはもう用がないはずだ」
ハスの方を向いて言う。ハスは倒した敵の死体の近くにかがんでいた。
「いや、まだあるよ」
「何が?」
「このNVGの回収。ありがたく使わさせてもらうよ」
そう言って彼は敵のナイトビジョンを外して、自分のヘルメットに取り付けた。
「これで暗闇も大丈夫だね。仁はどうする?」
「僕は暗闇の中でも見えるからいらないよ。そもそも帽子だしね、取り付けようがないよ」
そう言ってハスに微笑む。
『それじゃあそのフラッシュライトの意味は?飾りか?』
「目潰し」
「なんかダストと言い合ってそうだけど止め止め。爆心地へと行くよ」
「うん」
僕らは銃を構えなおして、また進み始めた。さらに深部、危険区域へとね……
現在時刻 21:14
『ところで敵がどこにいるかもわからないのに、制圧もくそもないと思うが?』
「んなもん|索敵して撃破だ《Search and Destroy》」
『雑だな。俺が今まで見てきたどんな作戦よりも』
「勝てりゃそれでいいんだ。それが戦争さ。勝った者が絶対なんだ」