【第六話】限界域フラクチャー、僕がまさにそうだ
「ミサイルを止めれる可能性は!」
「敵のコード内部に侵入する場所があれば十分あります!」
カルトらのAIが今も演算を繰り返して着弾場所を選んでいると分かった瞬間、部屋の中はピリついた雰囲気になった。 各々が120%のポテンシャルを発揮して全力でミサイル発射を止めようとする。
「……ん」
そして僕はただ同じ場所に座って音を聞き続ける。さっきから一箇所引っかかっていた場所があるんだ。
「ねぇビオード」
「なんだ」
他の職員に指示出しをしていたビオードの袖をとっ捕まえて連れてくる。
「ここ。電波に空白域がある」
さっきから引っかかっていたところ。一箇所だけ短時間音が消えていた場所があった。
ビオードが即座に反応する。
「……それ、周波数ホッピングの切り替えタイミングだ。跳躍直前の“空白”を突けば、侵入できる」
「周波数ホッピングって?」
「めっちゃ簡単に言えば電波の周波数が変わる瞬間の部分だ。この時に極小の電波の途切れる瞬間が出てくることがあるんだが、普通は感知できない」
彼はタブレットを取り出し、操作を始める。
「でも財団の演算ノードはその極小の瞬間も捉えることができるんだ」
オーバーロードの電子戦班が動き出す。使用するのは、SIGINT用の広帯域受信機とDFアレイと呼ばれる二種類の装置。片方は電子情報を捉えることができて、DFアレイはその電波の方向を探知することができるらしい。僕はよく知らないけど。
「通信プロトコル逆探知開始」
電波の空白域に合わせ、敵の通信プロトコルを逆解析する。
「プロトコルは軍用AES256ベース……だが、カルトらの中継ノードが未更新のまま残ってる」
カインが叫ぶ。
「そこが“バックドア”だ!そのノードを使ってコードを挿入させろ!」
ビオードがノートPCを叩く。
侵入コードは、敵AIの照準演算に“無限ループ”を挿入する構造。照準都市の選定アルゴリズムに“全都市同等リスク”という論理的矛盾を与えることで、AIの判断を停止させる。そしてそのコードをバックドアから電波の中に投げ込むってことらしい。
「仁。お前のログから抽出した揺らぎのタイミングを活用する。そうすることで挿入のタイミングが正確になるんだ」
「そして矛盾を与えると」
「そうだ。無機物野郎の照準に、普通なら現れない矛盾というやつをねじ込んでやる」
「最終確認。送信タイミングは、次のホッピング直前――1ミリ秒以下の“沈黙”」
一歩間違えればカルトのAIに検知されかねないレベルの繊細な作業。もはや誰もこの場で喋ろうとはしなかった。背中には滝のような汗が流れ、喉は緊張で渇ききっていた。
「送信――今だ!」
コードが走る。
敵AIの照準波が一瞬だけ乱れ、一瞬にして何百万何千万もの演算が実施され、最終的に都市選定アルゴリズムが“全都市対象外”と判定。
照準が、消えた。
△ △ △
その後というとみんな狂喜乱舞していたが、しかしまだ安堵はできない状態ではあった。
「電波逆探知。TDOA逆探知支援を起動させろ」
現状ミサイルのAIによる発射コードの破壊はできたものの、手動発射の可能性がまだある。今のところ電波妨害を行い、ミサイルの照準設定を邪魔しているもののどこまで続くか分からないそうだ。
「ミサイルが残っている以上、俺らが直接行って制圧するしか発射の完全封印はできない」
この場にいる零号狼部隊隊員を全て集め、次に向けての作戦会議を開始させる。
「そして今まで情報をまとめるとカルトらが使用しているミサイルはアメリカ製のトマホーク系統だと思われる」
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トマホーク巡航ミサイル。アメリカ海軍が運用する長距離・高精度の巡航ミサイル。主に水上艦艇および潜水艦から発射され、地形追従飛行と複数の誘導方式を組み合わせて目標に到達する。初期型は1980年代に実戦配備され、現在はブロックV型を中心に運用されている。
射程は最大約1,600〜2,500km。また地表30〜50mの超低空飛行によって敵レーダーの探知を回避することができるという化け物じみた性能をしている。
最新型では衛星通信による飛行中の目標変更やリアルタイム映像送信も可能となっており、複雑な現代戦にも柔軟に対応できるものとなっている。通常弾頭型のほか、かつては核弾頭型やクラスター弾頭型も存在した。
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カインがタブレットを持ちながら淡々と語る。
「待て待て待て待て!何でトマホークだってわかるんや!」
突如カルイが叫び出す。
「トマホークはアメリカの先進装備だ!そんな当たり前のように「カルトはトマホークを持っている」って言うなや!」
「事実だ」
「お前が正しい根拠を言え!」
「三つあるが?」
そう言われたカルイはようやく落ち着いたのか、椅子に座り直した。
「言ってみろよ」
「まずは通信プロトコルの仕様が米軍モデルと一致した。まずプロトコルのベースがAES256と言ったな?これはトマホークのプロトコルと一緒なんだ。そしてホッピングと空白域の出現パターンが一致している」
みんなが真剣に聞き入る。もしこれでカルトのミサイルが本当にトマホークなら大変なことになってしまう。
「二つ目にAIが行っていた照準演算ロジックというやつが「飛行中に目標の切り替えを行える」という構造を持っていた。これはトマホーク以外の巡航ミサイルではあまり見慣れないシステムだ」
この時点でほぼ確定してきた。横をふと見るとカルイが頭を抱えていた。
「三つ目がさっきの中継ノードへのアクセスを行った時に手に入れたものだが、その中にアメリカ製の軍用制御システムのコード断片があった。これによって奴らは米軍の制御端末を使っていると思われる。以上でトマホークだと思われる三つの可能性だ」
「あぁ......終わった」
カルイが小さくため息をついて呟く。
「トマホークは一度発射されたら撃墜できる確率はとてつもなく低いんだ......それが欧米の大都市圏に落ちると考えたら......」
「ベルリン、ロンドン、パリ、マドリード......ざっと数えても10以上はあるぞ」
僕が知っている限り、ベルリンやロンドン、マドリードなどの大都市は高精度の迎撃システムを所持しているが相手が相手だ。もしもトマホークが超低空飛行で飛来してきたら、反応するまもなく吹き飛ばされるだろう。
「だからこそ俺らが直接乗り込んでミサイル発射を完璧に阻止しないといけない」
プロジェクターに北海の海上空白域の地図が示され、そのとある一箇所で赤い光が光っていた。どうやらここがミサイル発射が行われようとしていた場所みたいだ。
「これが示しているのがカルト側のミサイル発射のプラットフォーム。また、存在しないコンテナを積んだ船も、ここを通る航路が設定されていたとのことだ」
「それとそこに関して俺から一つ言いたいことがある」
ふと後ろから見守っていたイヴァンさんが手を挙げる。
「旧石油プラットフォーム。かつての名を《NPF-09 Freyja Tower》。今となっては完全に廃棄された無人区域だ。こいつは元々石油採掘用に建設されたんだがな、2011年に発生した崩落事故で封鎖。公式記録上では完全撤去好きとなっていた」
今思い返すとニュースにも取り上げられていた気がした。大きな爆発が起こっており、3.11と同じように、僕の記憶の奥深くに刻み込まれた。
「旧式化したといえど、こいつの耐久性はピカイチだ。無人になってから10年以上は経ったが、いまだに崩壊していない。それもあってこの施設そのものの破壊は困難だ」
「なら内部に入って制圧ってこと?」
「お前のいうとおりだ。先ほど俺の知り合いからコンテナに関する情報が入ってきた。どうやらコンテナの大多数は最上階に設置されてるようで、発射準備をしているとのことだ」
「何基あった」
「ざっと数えても5以上だそうだ」
「全く笑えねぇジョークみたいな出来事だぜ」
みんなが一斉に静まり返る。それに対して恐怖を感じたカルイ慌て出した。
「もしや俺の説明の方が笑えないジョークだったのか?」
「おそらくそうだ。どんまい」
「憐れむような目で慰めるな」
会議のピリついた雰囲気が少し和らげられる。それもあってたまっていた眠気が今になって襲いかかってきた。腕組みをして机に乗せ、頭を下ろしてうとうとし始める。
「ん......」
うっすらとしか聞こえないが、現状動ける財団部隊でミサイル発射の撹乱を起こすらしい。そして僕ら零号狼部隊に与えられた準備時間は半日。明日に夜明け前に実行するみたいだ。
「ちょっと休憩......」
『いいのか?ここで寝ても』
「誰も気にしないから......大丈夫......」
周りがだんだんぼやけていく。僕の体はあまりにも休息を必要としていた。そこらじゅうが痛み、体を動かすのが正直言って辛い。気づけば僕は瞼を完全に閉じ、深い睡眠へと落ちていった。
△ △ △
ホテルのドアの方からノックの音が聞こえてくる。
「誰だ?」
みんなとのブリーフィング終了後、それぞれ自分のいた場所に戻り、明日の夜明け前の作戦に向けての準備を始めていった。そして自分は滞在していたホテルに戻っていった。
「敵ではないよね」
『カルトだったらドアをぶち破ってくると思うが?』
「それもそうだね」
覗き窓から外の様子を見る。どうやらメカニクスさんが僕を訪ねてきたようだ。確認を終えた僕は、そのまま扉を開けてメカニクスさんを部屋の中に入れる。
「やぁ、狼くん。君に時間を邪魔したかい?」
「全然そんなことはないですよ。なんでしたらやることなくて暇でしたし」
事前に打ち合わせたわけではないが、二人揃ってベランダに向かって歩き出す。ベランダに出てきた僕らはそのまま一言も発せずに、手すりに寄りかかって外の景色を眺めた。
「たばこいるか?」
「僕は非喫煙者ですので」
「そうか。なら俺もやめておこう」
向こう側に見える街の中心では、朝よりはマシになったものの、いまだにデモを行っている人たちの声が聞こえてきた。
「なぁお前」
「なんでしょうか?」
「......お前ってやつは本当にすごい奴なんだな」
想定外すぎる言葉をかけられて頭がフリーズする。
「トカルストでも思ったんだが、お前は最強の傭兵という言葉で終わらせていい存在ではないと思う」
メカニクスの声は煙草の煙より静かだった。
それがじわりと胸に滲んで、僕は黙って夜風に身を委ねた。
「……俺さ、トカルストであんた見て、思ったんだよな。“命を使って誰かの未来に橋架けてる奴って、いるんだな”って」
「あの時は必死だっただけですよ。自分がどう見られてたかなんて、考える余裕ありませんでした」
「それでいいんだと思うよ、俺は。言わねぇと分からねぇだろうから、いま言っただけだ」
最強――
ずっとそんな風に見られてきた。でも、その裏側を誰かに見抜かれるのは、不思議と悪くなかった。
「そんなこと言われたの……初めてですね」
「光くんには“歩く武勇伝”って言われてたがな」
「冗談はやめてください……」
ちょっとだけ笑った。それだけで今夜は少し、眠れそうだった。
「お前は明日が怖いか?」
ふと話題が変わり、急に哲学的な会話が始まる。
「......どちらとも言えないですね。怖いですし、怖くないですし......自分でもどっちなのかが分かりません」
「お前も悩むもんだな」
「当たり前ですよ。理性がある以上悩むもには悩みます。そういうメカニクスさんはどうなんですか?」
「俺か?」
しばらく沈黙が流れる。遠くで光っている街灯が人工衛星のようだった。
「俺は怖くないな」
「といいますと?」
「お前がいるからだ」
また沈黙が続き、僕の尻尾が当たる軽い音が鳴り響いた。
「急にどうした?」
「......照れ隠しです」
△ △ △
「お前は何回僕をここに連れてくるつもりだ?」
見慣れた故郷の田んぼ道を呆れながら歩く。ここは僕とダストの精神世界(2度目)。メカニクスさんが帰った後、僕は明日に備えて床に着いたが、どうやらこのクソ悪魔は僕に寝させてほしくないようだ。
『知らんな』
ここは僕の実家の裏手にあった田んぼ。今はどうなっているかは知らないが、当時はきれいに整理されており、毎年秋にはたくさんのお米が収穫できていた。
『まぁ少しの間俺に付き合ってくれ。疲れることはしねぇから心配すんな』
「お前の対応をするとすでに疲れるんだよ」
『文句か?』
「それ以外に何がある」
『そうか』
いつものように口喧嘩から入ったが、ダストの声にはどこか、今夜だけの穏やかさが滲んでいた。
『なぁ仁。お前、明日死ぬかもしれねぇって実感あるか?』
「お前の言う“もしも”ってやつは、だいたい本気で起こるから嫌なんだよ」
足元のぬかるみを避けながら歩きながらも、俺はふと空を見上げる。
「……でも、あるよ。実感」
『怖いか?』
「……怖い。でもそれ以上に、何もしないまま終わる方が怖い」
ダストはしばらく黙った。風が稲穂を揺らし、優しい音が流れる。
『やっぱ、お前は俺が選んだだけあるわ』
「お前に選ばれた覚えはないんだけど?」
『違うな。俺には、お前の魂が眩しく見えたんだよ。俺の中にあった“死”しかなかった世界に、お前が来て、“希望”を生みやがった』
普段なら茶化して終わるところだが、今はそういう気分でもなかった。
「……ダスト、お前さ」
『ん?』
「お前自身の未来って、考えたことあるか?」 あまりに唐突すぎる質問だったのか、ダストの足音が止まる。
『神の類に聞くことか?』
「だからこそ意味があるんだろ?」
彼は振り返っていつものような不気味な笑顔を浮かべず、僕がいつも浮かべるような笑顔を浮かべた。
『俺は神の類だ。はっきり言って自分が生まれた理由なんかわからない。そして俺らが死ぬようなこともない。そんなやつによう聞くな』
「それで?答えはどっち?」
『......今はあるな。お前と一緒にいるようになってからだな』
前にも言った通り、僕は決められた運命というやつが嫌いだった。何せ親を殺されたんだ。もしあれを「運命だ」と終わらせられるのならば、僕はその運命を木っ端微塵にしたいと思う。
『心配すんな。理性を持った生物というのはそう思うものだ』
「珍しく綺麗事言うね」
再びダストが歩き出す。いつの間にか周りは暗くなっていた。
『前にもこんなこと言ってなかったか?』
「一度もないよ」
『そうか......』
「何か言いたいことでもあるの?」
ダストの顔を覗き込んで聞く。彼は一周戸惑ったが、すぐにいつも通りの顔に戻った。
『あるけど今じゃないな。お前が仕事を終えたら伝えてやる』
「何そのクッソ気になるやつ」
ダストはいつもの不敵な笑みを浮かべるわけでもなく、どこか遠くを見つめるような目で、静かに息を吐いた。
『ああ――だからお前はちゃんと帰ってこいよ』
その言葉には、冗談でも皮肉でもない、確かな“願い”が宿っていた。そんなの、あいつの口から聞いたのは初めてだった。胸の奥の何かが、確かに震えた。
「お前ってやつは、本当に意味のわからねぇ奴なんだな
風が吹く。稲穂が揺れる。空を見上げると、今までに見たことないほどきれいな星空が広がっていた。
「帰ってくるよ。絶対に」
その言葉に、ダストは肩をすくめながら、背を向けて歩き出す。
『期待してるぜ、仁。俺の選んだ魂は、ちょっとやそっとじゃ折れねぇって信じてるからな』
その背中が田んぼの稜線に溶けていき、精神世界はゆっくりと霧へと戻っていった。
「......どうやら明日は太陽が西から登りそうだ」
△ △ △
夜明け前2時間。作戦行動前の最後のブリーフィング。僕はヘッドセットのマイクを調整しながら、部隊メンバーらと並んでプロジェクターの前に立っていた。
「……では、作戦内容の最終確認に入る。目標はNPF-09《Freyja Tower》、ミサイルの発射プラットフォームの無力化。そして、搭載されているすべての発射システムの制圧だ」
ピンと張り詰めた空気の中で、全員の目がバンパーに向けられていた。言葉にしなくても、共有されている覚悟と緊張。そして、恐れ。だが彼は、前を向いたまま静かに言った。
「俺らが未来を作る。今日、そのためにここにいる」
誰も声を上げない。だが、確かに全員が頷いた。
「今回は新たにメカニクスという野郎が部隊に加わってくれた。これで11人だ。この作戦ではモーターボートを使用し、プラットフォーム最下層から内部に侵入を開始する」
プロジェクターから映し出された内部構造図を見つめながら話を聞く。ここのプラットフォームは地下1階と地上6階の計7階層より構成される超大型石油プラットフォームだ。説明するよりも見てもらおう。
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↑ 海上
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│ 【第7階層】プラットフォーム上部デッキ:ミサイルコンテナ格納区画
│ - 現在地上階段封鎖中/昇降機停止
│ - 無人状態/自動給電ライン有
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│ 【第6階層】旧ヘリポート+管制モジュール制御区
│ - 主要AI中継回線残存/簡易防壁あり
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│ 【第5~4階層】汚水処理区画+燃料サージタンク群
│ - 排気排熱ラインが外部へ通じる最短経路
│ - 高湿度・高熱地帯
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│ 【第3~2階層】旧式オペレーションルーム・管理棟
│ - 再利用箇所あり/ドア認証は“旧型テンキー+音声応答式”
│ - 侵入ポイントはこの階層西側:予備昇降路より接続
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│ 【第1階層(海面~潜水部)】基礎構造・エンジンルーム
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↓ 北海 海中
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僕らは海面から第一階層(海面部)から侵入して、まずは第6階層を目指して進む。ここには全設備の中枢組織があり、第七階層のミサイルの停止のための保険を作っておく。
「お前らの知っての通り、いくら民間団体のカルトだといっても装備品は一流だ。下手に舐めかかると1発で死ねるぞ。そのためにも最大限警戒を行うように」
「おそらくこれは今までのどんな任務よりも責任がのしかかると思う。何せ対応するのがミサイルだ。一歩間違えれば都市が消し飛ぶレベルのだ」
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Operation: COLDEND
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目的
• 北海上に浮かぶ“公式には撤去済み”とされる旧石油プラットフォーム《NPF-09 Freyja Tower》への潜入
• カルト勢力が運用する巡航ミサイル発射コンテナ群の制圧および無力化
• 残存AIの照準アルゴリズム・起爆プロトコルの完全停止
• 必要に応じて、敵オペレーターの排除および発射中枢の破壊を許可
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ブリーフィング:バンパーによる説明
「目標は1つ。**“世界を守るために、塔の心臓を止める”**ことだ。
敵は民間カルトに偽装しているが、構造も装備も民間規模ではない。
――こいつは“戦術宗教”じゃない。“破壊意思そのもの”だ。」
「我々のターゲット、《Freyja Tower》は7階建ての廃棄石油施設だ。こっからは作戦の詳細説明だ。
本作戦ではモーターボートによる接近後、第1階層・排熱ダクトより水中侵入。
最短ルートで第6階層“中央制御ブロック”を確保し、ミサイル起爆用の接続遮断を優先する」
「その後、最上階“第7階層”に設置されたコンテナ格納区画を制圧。
搭載ミサイルは最低5発。
確認された制御装置は米軍型トマホーク制御システムの改造品と思われる代物だ。
最悪の場合、有人による手動発射があり得る。
そのため――“敵AIの破壊”だけでは足りない。“発射を許す手”そのものを止めに行く。それが俺たちの任務だ」
「《誰かが起動させたなら、誰かが止めなきゃいけない》。その中で止めに行くのは俺たちだ。理由は簡単――そういう仕事だから。
今さら顔を伏せても遅い。
どうせ明日には誰かの命が、こっちの判断に乗ってる。ならやるしかないだろ」
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ブリーフィングが終わり、みんなが各々の装備に準備を始める。部屋の中では金属同士や、布同士が擦れ合う音が鳴り響いた。
「一応モスバーグも持って行こう」
使うことはないと思うが、念のためモスバーグも一緒に持って行くことにした。
『どこに入れるつもりだよ』
「バックにぶっさす」
『お前はドアブリーチしねぇだろ』
「別にいいでしょ」
僕の生命線ともいえるBT-8をファーストラインにくくりつけてから、腰に巻きつける。
「それとイブプロフィンも......」
「仁。使用方には気をつけろ」
ふと後ろからバンパーが声をかけてくる。
「大丈夫。今回はまだ一回もオーバードーズにはなっていないから」
バンパーからの返事はなかった。そして彼の動きも止まった。
『なるならないかの問題ではない気がするな』
「それは僕でもわかる」
はっきり言ってオーバードーズにまだなっていないのは使用量を守っているわけではなかった。逆に使いすぎて効果が薄れているんだ。
『いつかは一度に三錠いっちまいそうだな』
「......否定はできないね」
アサルトバックを背負い、MCXの装填数を確認する。30発きっちり入っている。これで大丈夫だ。予備マガジンも4本ある。防弾プレートもしっかり入れた。即死することはないだろう。
「......これで大丈夫だ」
手を首についているチョーカーに当てる。
「絶対に戻ってくるから......」
僕の指が触れていた先には一個の銀の指輪が静かに光を反射していた。




