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【祝2000pv!】ケモミミ傭兵お仕事日記   作者: 広報部のK
【第四章】ケモミミ傭兵、絶望と涙を添えて、行きます
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【第四話】希望の破壊、可能性の再建

「んぐ!ゲホゲホ!」

 二錠の鎮痛剤が喉に詰まり、思わず強く咳き込んでしまう。

「ゼー......ゼー......」

 鎮痛剤を飲み直してベットの倒れ込む。今いる場所は雪と滞在していたホテル。カルトの本拠地の殲滅作戦は明日。そのためその準備としてここに戻ってきているのだ。

『手が震えているな』

「うるさい」

『最近のお前はなんか情緒が不安定になっている気もするな』

「ストレスが増えているだけだ」

『それだけとは思えないな』

 自分を落ち着かせるために水をもう二杯喉に流し込んで頭を抱える。さっきから訳も分からず頭が痛い。体も痺れるし、息をするのも辛い。外では中心街よりかは静かな街並みが広がっているが、外で響いている騒音は僕の体の痛みをより引き立てるものとなった。

『言ってみろ。何がお前をそんなに不安定にしてるんだ』

「分からない」

 僕は自分の体が何によって不安定になっているのかが分からなかった。持病悪化とはまた別の痛み、何かが僕の体からものを引き抜こうとしている痛みがする。ただ僕もあまり表現はできなかった。

「任務への恐れではない、死への恐怖でもない。でも心が不安定になるんだ。まるで何かが欠けようとしている感じがするんだ......」

 はっきり言って僕はメンタルが強い方ではない。なんなら豆腐と言っても差し支えないほどだ。

『……何かが欠けようとしている?』

 ダストは少し間を置いてから問い返す。

『それは比喩か?それとも実際に何かを失いかけている感覚があるのか?』

 僕は答えられなかった。頭を抱えたまま、ぼんやりと天井を見つめる。確かに、何かが引き剥がされるような痛みがある。しかし、それが何なのかが分からない。ただ漠然とした喪失感と不安だけが胸の奥でざわめいている。

「あぁ......くそったれ」

 水のグラスを握りしめ、もう一口飲み込む。しかし、喉の違和感は消えない。手の震えも止まらない。

『……お前は未来への恐怖を抱いているのではないか?』

「未来への恐怖?」

 その言葉に、僕の思考が僅かに引っかかる。未来への恐怖——それは単なる作戦の不安や死の恐怖とは違うものだ。

『そうだ、お前は何かが欠けることを感じていると言った。それは過去の喪失ではなく、これからの喪失だとしたら?』

 ダストの言葉は鋭く、僕の胸の奥深くをえぐる。過去に何かを失ったわけではない。では、これから何かを失うのか?

「そんなこと……分かるわけないだろ」

 苛立ち混じりに答えるが、自分でもその言葉の裏にある動揺を隠せていないことは分かっている。指先が震え、水のグラスをテーブルに戻すと、思わず額を押さえた。

『お前は——』

「やめてくれ」

 無意識に遮るように言っていた。まるで、その先の言葉を聞きたくないかのように。だが、ダストは動じずに続ける。

『お前は、自分自身を信じられなくなっているんじゃないのか?』

 心臓が跳ねる。思考が一瞬止まる。そして、耳鳴りが始まった。 自分自身を信じられない——それは、最も考えたくないことだった。 作戦を前にして、僕は何かを失うかもしれない。何か大事なものが、取り返しのつかない形で変わるかもしれない。それが「自分が大切にしている仲間」なのだとしたら——。

「んぅ......」

 そんな考えを振り払うように、ベッドの上で体を起こし、もう一度深く息を吸った。

「僕はもう何を信じればいいか分からない......」

 だが、胸の奥に残るざらついた感覚は、簡単に消えてはくれなかった。 今まで何度も絶望を見てきた。でも今回は自分がその中で行った行動が正しいと信じることができなかった。

『大丈夫。そう思うのはお前一人だけじゃない』

 僕はその時、彼の言葉を大して気に留めなかった。

         △ △ △

「バンカー周辺に到着。敵影は見えないな」

 移動に何時間かかったかはわからないがとにかく目標のバンカーについた。大学襲撃事件で多くの消耗品を使った僕らは、昔の協力者であるガルーダさんとメカニクスさんに消耗品の支援を受け、僕らは読んで字の如く再起した。しかし昔の協力者の一人であるドラファさんとだけは連絡がつかなかった。

「今は夜だからカルトも寝てるんじゃねぇか?」

「そうであってほしいな。そっちの方が楽だし」

 視界一面草木と雨に覆われ、視界は最悪とも言える日。僕らの部隊はカルトの本拠地であるバンカーへの強襲ミッションを開始しようとした。元から視界が悪いのに雨と夜によるダブルコンボで最悪のコンディションとなった。ただし敵にとってのだけど。

「前方に巡回兵2名」

「可能なら無視してくれ。無理そうならステルスキルで」

 言われる前にガスターが動き、カルト2名は反応もできず首を切り裂かれた。

「可能なら無視してくれと言っただろ」

「直進しないといけないから念のためだ」

 僕らの部隊はいつものように二部隊に分けて進撃中。大粒の雨粒が僕の頭に落ち続け、心の平穏が乱されていく。雨音のせいで音がかき消されているが、辛うじて周りの音を聞くことができる。いざ交戦になったら知らんけど。

《バンカー入り口に到着。第一ゲートは開いてないため搬入口からの侵入を試みる》

 無線からカインの声が聞こえてくる。どうやら安全にバンカー周辺に到着したみたいだ。

「分かった。俺らはちょっと開いている第二ゲートから内部に侵入する。また後で会おう」

         △ △ △

 施設内は静かで暗く、僕の目越しでもカルトの姿は確認できなかった。敵がいなくて安心とかやったーという感情よりもいつ敵に奇襲されるか分からない恐怖が脳内を支配していた。

「Wait。敵の声が聞こえる」

 ふとバンパーが僕らを制止させる。曲がり角の先からは複数の足音とカルトと思われる話し声が聞こえてきた。

「はっきり言ってここではまだ戦闘を起こしたくないな」

 僕らがそうこうしている間にも敵はどんどん近づいてくる。早く次の一手を決めないと侵入早々で戦闘を開始することとなる。

「こっから最深部までは戦闘込みで1時間はかかる。どうせ戦っても戦わなくても時間はかわらねぇし、元からこの任務は強襲任務だ。みんな武器を構えろ」

 僕らが銃撃戦開始してから敵の増援はものの1分でくるはずだろう。何せここは敵のBF(バトルフィールド)だ。

「今!」

 だからこそ最速で制圧を終わらせる。そしたらそのまま次のポイントまで移動。こうすることで敵に反撃させる手間を与えさせずにsearch &destroy ができるんだ。

「enemies down!」

 曲がり角から飛び出した僕らに対し、カルトは何も反応できずに射殺されていく。とりあえず近くにいた部隊の殲滅は完了した。次は僕らがいるAウイング【ゲート】の次の場所に位置するBウイング【武器・物資倉庫】の制圧だ。

「こちらアルファチーム。敵と交戦を開始した。そっちも自由にやっていいぞ」

《こちらブラボーチーム。こっちはとっくに交戦を開始した。Bウイングで落ち合えばいいか?》

「その通りだ。それでは幸運を祈るぞ。10-7」

《こっちこそだ》

 僕らの部隊の強襲に対応しきれなかった敵部隊はことごとく壊滅していき、応援に駆けつけた部隊もジリ貧の戦いを強いられている。

「にしても増援が多いな。これでカイン側にも兵が行っているんだろ?予想はしてたけどここのバンカーはどんだけ敵がいるんだよ」

 カルイがリロードを挟むたびに愚痴をこぼす。

「おい仁。何か無人特攻兵器はないのか?」

「え?爆薬はお前が専門じゃないのか?」

「特攻兵器は日本のオハコみたいなもんだろ?よくプリウスミサイルっていう言葉聞くし。そしたらお前がその専門家じゃねぇか」

「笑えないジョークをかますな」

「いやいや。お前の先祖はそうやって戦ってきたんだろ?」

「日本の黒歴史を掘り返すな」

 カルイに対して睨みつけ、改めて敵に注意を向ける。敵の増援は絶え間なくきており、いくら倒しやすいと言っても下手したら敵の物量に圧倒されてします。

「このまま戦っても意味がねぇな。前線を押し上げていくぞ」

「同意」

 敵へのグレネード投擲で頭を出せないようにして、細長い通路の前線を押し上げる。部隊の先頭ではジェイドがバリスティックシールドを構え、正面からの攻撃に備えていた。

「右サイドから敵2名!」

「対応する」

「左からもだ」

「援護する」

 僕含めた8人のメンバーのパーフェクトな制圧劇の末、Aウイングの制圧は無事成功した。次はBウイング。僕らは休息もあまり取らず、そのまま強襲を続行した。この時の僕らは結構すんなりミッションが終わると思っていた。

《これからBウイングに侵入する。誤射には気をつけろ》

「あぁ。そっちこそ気をつけろよ」

 両チーム無線を交わし、Bウイング内に侵入し始める。しかし、予想とは異なり、Bウイング内には敵影がほとんど見受けなかった。倉庫の中は恐ろしいほど静かで、不安定な心をさらに掻き乱す因子となった。

『敵があまりにもいないな』

「うん......何が始まろうとしているの?」

 アルファ、ベータ関係なく静かに前進していく。いつどこで何が発生するかわからないんだ。下手に騒いだりしてしまうと死ぬ可能性もある。

「ん?」

 右側から何かの風切り音が聞こえてくる。倉庫の棚を挟んで反対側で。

「......矢?」

 また何回か風切り音が聞こえてくる。うっすらではなく、はっきりと。

「......お願いだからやめてくれ」

 また聞こえる。そして一人の叫び声を聞こえてくる。

《Man down!》

 無線からカインに声が聞こえてくる。その声からは正体不明のものに襲われた恐怖と焦りを感じられた。

「何にやられた!」

《分からない!何かの風切り音が聞こえたと思ったらケインがやられた!》

 いくら最強と言えど、人である以上殺されることはある。ただ僕はそれが今とは思わなかった。

「お前ら遮蔽を意識しながら動け。何が飛んでくるのか分からないからな」

 あまりのショックに意識を持ってかれ、数コンマ経ってから頭が回り始める。あまりにもバカだった。ここはなろう系小説じゃねぇんだ。どんなに強かろうと強靭だろうが、一歩間違えれば誰だった死んでしまう。もちろん、人ならざる者の僕だってそうだ。

「うぉっと!」

 突如目の前から一本の光が飛んできて地面に刺さる。見た目はまるで矢のようだった。ふと目の前にもう一本突き刺さる。

「みんな隠れて!」

 遮蔽の裏に移動し、体を伏せた瞬間。数え切れないほどの弓矢が飛来してきた。目視しただけでも百はある。

「くそったれ!」

 全ての矢は光によって構成されており、形を変えずに刺さっているから何かの能力だと思われる。こういうのは人間でもできるものは稀にいるが、その他にも

「敵に亜人がいる可能性がある......」

 亜人の大多数はそのような魔法を使えるんだ。敵の属性は光。全属性の中では一番肉体ダメージが高く(闇属性も同じ)、一番制御が難しいものとなっている。僕はあまり興味ないから知らないけど。

「おいカイン!そっちは何人残っている!」

 バンパーの叫び声が無線から送られてくるが、カインらからの反応はなかった。その時の僕らは無線の不調だと信じたかったが、さっきまで右側から聞こえてきた風切り音は気付けば聞こえなくなっていた。

「バンパー......今は前に進もう......」

Жопа!(クソが!)

 静かになった倉庫内にバンパーの怒りの声が響き渡る。敵の銃声や怒号もなく、さっきまで聞こえた風切り音もなく、ただ沈黙が流れていた。

「敵の攻撃が止んだ今のうちに押し切るんだ。たとえ敵の罠だとしても俺らには後退する道がない。ならばこの身が散るまでにキルレをどこまで増やせるかだ」

         △ △ △

 Cウイング【武器・兵器開発室】はこの世の絶望が全て詰まっていたと言っても過言ではなかった。一通り制圧が終わった頃、僕らは複数の木箱を見つけた。木箱には何回見たか覚えていないバイオハザードマークが描かれており、開けなくても何が入っているのかが大体予想ついた。

『多分、否絶対ガスだな』

「ここにある兵器......全部使ったらどうなるの?」

『世界滅亡は免れないな。このバンカーのサイズから見て世界各地の主要国家の都市機能を破壊するほどのガスは保管されていると思う』

 ガスの他にも亜人に関する研究所が多くあり、亜人の能力を兵器利用しようとしたことも見受けられた。

「まったく......カルトはどっからBLK弾を用意していることやら......」

「主要国家で使われている弾薬はほぼ全て揃っているな」

 この世の絶望を垣間見た後、僕らは武器庫の中で消費した弾薬や壊れたパーツを補充していった。カルトの武器庫は非常に大きく、下手したら財団本部の武器庫と同レベルの大きさがあるかもしれない。これまで何度もカルトとやり合っていたが、正直言ってカルトを甘く見ていた。

『日本にはこんな言葉があるんだっけ?「侮るなかれ」。そして欧米には「The most dangerous enemy is the one you ignore.」つまり無視したやつが一番危険な敵って言葉。どうやらお前はそこら辺の知識が抜けていたようだな』

「言わなくてもわかっている。そしてお前ってやつは本当に冷酷なんだな」

 バンカーに入ってから僕はずっと頭が痛かった。偏頭痛とかじゃなくて、昨晩感じたような痛み。どちらかといえば苦痛だ。何度も何度も鎮痛剤をキメるが全く効果はなかった。

「あぁ......頭がずっと痛む」

 何かが引き離されそうになっている感覚がずっと襲いかかってくる。何かはわからないが一歩進むたびに痛みが増幅していき、意識が朦朧としてくる。

『大丈夫なのか?』

「これで大丈夫と見える方がおかしい気がするが?」

 本来なら感謝するべきの声がけについ強気で返してしまう。僕は全く頭が回っていなかった。かろうじて前進していく味方の足取りに食いついて行ってるが、いつぶっ倒れるか分からない状態だった。

「おい仁。顔の血管が浮かび上がってきてるぞ。大丈夫なのか?」

「え?」

 バンパーに言われ、震える手で自分の顔を触って確かめる。言われてみれば確かに首から右頬にかけて血管が浮かび上がってきている。そういや持病は重症化すると血管んが浮かび上がってくるんだった。

「大丈夫。あまり問題はないよ」

 そしていつものように嘘を貫き通す。もはや自分にも何が真で何が嘘かわからなくなってきた。

「そうか。でも気をつけろよ」

「うん」

 頬を手でさすりながら答える。こっからバンカーの深部まではさほど距離は残っていなかった。鉛のように重い足を引きづりながら先頭を歩いていく味方についていく。

         △ △ △

Dウイング【実験室】

 次のロケーションも同じ研究室だが、こっちは兵器開発に至る一歩手前の実験で使われるような場所だった。詳細情報もない。詳しい実験内容も分からない。しかしいくつかの研究室内部では手術台の上に実験の対象となって死んだと思われる亜人らの死体があった。しかもそのほとんどは獣人である。

『お前の心は大丈夫か』

「殺意を通り越して虚無が襲ってくる」

『つまり相当不安定ってわけか』

 一歩前進する度に死臭が鼻の感覚細胞に襲いかかってくる。ここで鼻を指で摘みたいところだったが、死者への敬意をはらうためにもここは我慢しないといけなかった。

「はむ......」

 最後に飲んだのは何分前かは忘れたが、早いテンポで鎮痛剤を服用していく。ここまでくると、もはやいつオーバードーズしてもおかしくない。少なくとも30分も時間は空いていないだろう。頭でダメだとわかっていても体が無性に鎮痛を欲しがる。

「ふぅ......」

 視界の端が歪んでいき、周りの景色の色が変わっていった。どうやらまだオーバードーズにはなることはないみたいだ。

「......ダスト」

 バンパーが一旦休憩を挟もうとの提案により、地面に座り込む。しばらくの間は心を落ち着かせようとダストに話しかけたが反応はなかった。

「ダスト?」

 もう一度呼ぶ。やっぱり反応がない。無視か?それともあいつになんかあったのか?

「ダスト?いるか?」

『あぁ、いる』

 しばらく呼んだらようやく返事があった。

「呼ばれたらしっかり反応してくれ」

『そういった縛りもなんもないのに?』

「お前が人間界にいる上での最低限の礼儀ってやつだ」

 倉庫での戦闘以降、僕らは特に交戦することはなかった。敵が撤退していったのか、戦力を集めているのかはわからないが、おそらく後者のためにここら辺はいないのだろう。そうなると最終決戦は地獄の非対称戦闘になるはずだ。

「そろそろ前に進むぞ。これは強襲作戦だ。素早く行動しなければカルトに対策さ......」

 1発の銃声が響き、宙にヘルメットが舞う。バンパーらを見ると、どうやらハスのヘルメットが弾き飛ばされたみたいだ。

「スナイパー!3時方向からだ!」

 全員が一斉に遮蔽に隠れ、射撃体制に入ったところで戦闘の火蓋が切って落とされた。

「なんで思ったことがいつも起こるんだよ!」

『喋ってる暇があるなら戦え!』

 分かっている。分かっているけど動けないんだ。すでに僕らは仲間を8人一斉に失った。みんなは表情には出ていないだけで、内心ではとても絶望していた。

「もうメンタル的にやられているんだよ......」

 消え入りそうな声で自分の思いを訴える。トリガーは押しっぱなしにしているが、ほとんどが明後日の方向に飛んでいった。手が震える。体が痛い。

「もう誰も失いたくない......」

 はっきり言って僕は何かをなくすことをとてつもなく恐れている。特に仲間や身内をだ。だって僕はすでに両親を失った。そして仲間の多くも失った。これ以上は何も失いたくなかった。

『なら動け』

「でもバンパーらには迷惑をかけたくないんだ」

『なら行け。お前一人で奴らを殺してこい』

「......え?」

 頭を下げてリロードを行う。見たところ敵はフル装備の3人組だった。そのうち一人はスナイパー。

『一人では無理とは言わせねぇぞ。俺は見てきたからな。お前の今までの行動を』

「あぁ......?」

 頭の回転がまだ追いついていないせいで、変な声が出てくる。

『ほら行けって。ほれほれ〜』

 ダストのなんとも言えないセリフに苛つきを覚えるが、同時に安堵感も流れ込んできた。そういうことか。至ってシンプルなことだ。味方に迷惑をかけるなら、己単身で突っ込んで来い。普通は許されざる行動だが、僕だけはそれが許されるってことを使ったのか。

「ダスト......」

『なんだ』

「ありがとな」

『お礼は勝ってから言え』

         △ △ △

「フラッシュ」

 Dウイングの最奥の通路。そこでは僕一人と敵に3人組での壮絶な戦いが繰り広げられていた。

「あっぶね!」

 相手の一人のグレネード弾が頭上を通り、僕の後方側で大きな爆発を引き起こす。

「これ絶対トカルストの3人組だろ!既視感しかねぇわ!」

 さっきまでの弱々狼から一変し、今の僕は過去に類を見ないレベルで笑顔を放っている強い狼。どちらかというと、殺意通り越して狂乱状態になっている感じがする。要するに戦いを楽しんでいる状態だ。

「一回グレでロックを外さないと」

 いくらここは通路といえど、そこらじゅうに部屋はあるし、それらはほとんどが別の部屋と繋がっている。だから一本道での撃ち合いバトルだと思い続けていると、気づいた頃には近づかれてそのまま死亡している可能性がある。

「今のうちに前の部屋に移動」

 敵のロックが外れた隙に目の前の部屋に滑り込んで回復兼鎮痛注射器であるプロピタルを腕に打ち込む。さっきの撃ち合いですでにいくつかの部位を怪我しているんだ。本来ならIFAKとかの医療器所で回復したいところだったが、敵との距離があまりにも近すぎる。そうなるとこう言った注射器でしか回復はできない。

 説明は.......省くか。ただ回復してくれる注射器だと思ってくれればいいんだ。今ここではそれが重要なことではないからね。

「やっぱり視界は狭くなるんだな。一回リロード挟むか」

 MCXの残弾はあとマガジン3個分。他にもM590A1も持ってきてるし、弾に困ることはないだろう。

『敵の足音が接近中だ』

「この距離ならモスバーグで十分だ!」

 そう意気込んだものの野球ボールぐらいの鉄の塊で、全ての記憶がぶっ飛ぶ。時間が全て遅くなったような気がして、鉄の塊であるグレネードが網膜に綺麗に焼きついた。

「グレネーーーーーード!」

 体を伏せ、頭を全力で守る。すぐ後ろで爆発が起き、太ももに激痛が走る。それに続き、敵が部屋の中に突入してくる。

「怪我してんだろうが!入ってくるんじゃねぇ!」

 伏せ状態から立ち上がりながら、相手のヘッドラインに向けて12ゲージを撃ちまくる。流石の敵でも12ゲージには勝てなかった。

「ワンダウン!」

 火の玉を爆速で作り上げ、遮蔽の反対側に投げ込んで敵の進行を遅らせる。

「リロード急げぇ!」

 クアッドロードでショットシェルを2発同時装填する。ちょうどリロードが終わった瞬間、相手も2度目のアタックを開始した。

「おりゃ!通しの12ゲージだ!」

『通しにしては重いな』 

 時間をかけてリロードしたショットシェルがたちまち消費されていく。だからチューブ式はあまり好きじゃないんだ。

「弾がないから銃本体の攻撃を喰らえ!」

 シベリアでもお見舞いした武器攻撃(鈍器ver.)を敵の顔面に対して炸裂し、メインウェポンを構える。

「これが決定打だ!」

 トリガーを引き、反動に備えるが

「あれ?」

 銃弾が飛び出ない。ふっと銃本体のを見るとマガジンが刺さっていないことに気づいた。リロードした時にマガジンが落下したのかな?

「やっべ!」

 今度はハンドガンを取り出すが、こちらもマガジンが刺さっていない。おそらくリロードした際にこちらもマガジン落下したのだろう。

『こんな時にコントか?』

「至って真面目だよ!」

 敵の銃口がこちらを向いているのに気づき、素早く身を隠すが、銃弾どころか発砲音すらも出ていなかった。敵は一瞬フリーズし、その後トリガーを何度も引くが、もちろん銃弾は出てこなかった。

「Fuck!」

 これは相手の銃弾の不良だろう。彼が顔を上げた頃には僕はすでに三メートル以上移動したが、運が悪いことにカバーしにきたもう一人の敵からまた足を負傷してしまった。

「とりあえず止血帯で止血だ」

 安全な場所まで移動してから右足の止血を行い、敵側に倒してフラッシュとグレネードを投げて牽制し、リロードの時間を稼ぐ。

「メインのリロードは完了。次はハンドガンのだ」

 素早くガバメントでをホルスターから取り出し、マガジンをポーチから引き抜いてリロード......とかっこよくいきたかった。この時の僕は心理的にも肉体的にも結構疲労が溜まっており、自分が何を触っているのか分からないほどだった。つまりこんなことが起きる。

「リロー......ド⁉︎」

 急いでポーチから取り出したのはマガジンではなくチョコバーだった。そんなことあるのか?と思うかもしれないが、実際にリロードミスやスコープの倍率調整ミスもいっぱいある。僕は強いが無敵で超有能ではないんだ。そこだけ勘違いしないでくれ。

『飯は戦い終わってからどうぞ』

「そこは見逃してくれ」

 気を取り直してハンドガンのリロードを行い、臨戦体制に再度切り替える。さっき敵は詰めてこなかったから治療でもしているんだろう。

「これは好都合」

 そろそろ敵も疲労してきた頃だろう。今のうちにみんなの援護を呼ぶとするか。そんな考えを脳内で回転させていた頃、一つの物体によって僕の思考は止められた。


任務開始から30分経過

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