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【祝2000pv!】ケモミミ傭兵お仕事日記   作者: 広報部のK
【第三章】ケモミミ傭兵、次はロシアでお仕事です
34/45

【第八話】ビーチって遊ぶ場所だよね......?

 僕は海が好きだ。無論山もだけど、海ではビーチでワイワイ騒げる。簡単に言えば、ビーチで遊べるから山よりも海の方が好きだ。

「あぁ......遊びたい」

 でも今日は遊べない。なんなら仕事しに来たまである。この世界の運命がかかっているといっても、あながち間違ってはいないような仕事。

『今回はがまんしろ。ここでの仕事が終われば東京に戻れるだろ?』

「それがいつになるやら……てか冬で海は凍え死ぬと思うけど?」

『お前が遊びたいといったんだ』

 ダストの言葉は気にせず、BTRの中から外の様子をうかがう。見渡す限りは一面の雪。シベリアでもライジェンス・ファクトリーでも見たのと同じ光景だ。かすかに雪が降っていたが、視界には大して影響はなさそうだ。

「寒そうだな~」

 奥の方にはバリケードや有刺鉄線、廃棄された国連軍のキャンプやロシア機甲部隊のBTRがあった。

「さっさとライトキーパーに会ってこよ」

『そんな簡単に済むとは思わないけどな』

「もうすぐでライトハウスだ。装備チェックしとけ」

 ドライバーさんに言われ、F46Tのチャージングハンドルを引き、チャンバーチェックを行う。ちゃんと弾は装填済みみたいだ。

「ヘッドセットも良し。大して意味ないけど」

 ガバメントも確認しておく。使っているのは新調してきたダブルカラムモデル。従来品はマガジン装弾数が7発だが、今回は14発。最悪接近戦になっても問題ないはずだ。ただ貫通力のないHP弾を持って来たから、切羽詰まってる状況だと心許ない。

「メインとサイドはどちらも準備OK」

 F46Tは狙撃用のサプレッサーとレーザーデバイス、目潰し用のフラッシュライトと正確に狙うためのフォアグリップ、それと1から6倍のショートスコープを乗せてきた。これで近遠距離、どちらも対応できる。

「使用弾薬は変わらず.300BLK。僕の大好物だ」

 BTRが止まり、車外確認用のペレスコープで外部の状況を全方位確認する。とりあえず周囲に敵はいないようだ。

「では行ってきます。ここまでありがとうございました」

「いいってことさ。俺の役目は顧客の安全を守って輸送することだ」

 ドライバーさんに一礼をして、外に出る。冷たい風が体を強く叩きつけてきた。

「さて......通信設備を確保しに行くか」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



~ライトキーパータスク~


タスク名:Come Back2


タスク発行者: ライトキーパー


タスク目標:

タスク品とカメラ映像をライトハウス外周にある通信塔に持っていく

映像はパソコンにインポートさせ、通信塔の下に設置

追加情報:


 遠方に存在する気象台にはスナイパーがいることがある。十分注意するべき

 通信塔付近にはそこでの職員が使用していた寮があり、内部の安全確保はできていない。


現在時刻: 5:38

脱出予定時刻: 9:00

現在地:ロングビーチ

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「まだ暗いね」

『当たり前だ。もうそろ日の出だ。それまで暗いのは当たり前だろ』

 降り積もった雪をザクザクと踏み進んでいく。こっから100mちょい先に通信塔があるはずだ。

「へっちゅ!にしても寒すぎない?」

『現在気温は氷点下を下った。寒いのは当たり前だろう』

「雪は好きだけど、今日のこっちの《《雪》》は好きじゃないね」

 そうこうしているうちに通信塔が見えてきた。寮と思わしき建物が3棟。コの字に建物が配置されており、その間に通信塔が配置されているみたいだ。

「敵はいない......否、いるわ」

 ショートスコープを覗き込むと、通信塔付近に三名。建物の屋上にスナイパーが見えた。装備的にスコンドラーっぽく、多分元民間人の奴らだろう。

「ここにスコンドラーっているはずだっけ?」

『ここでの国連軍の制圧はまだできていない。いてもおかしくないだろう』

「他にもいる可能性はあるし、面倒なことになりそうだね」

 まずは屋上のスナイパーからだ。スコープのゼロインを100mに合わせ、敵に照準を合わせる。

「若干100mより近い気がするから、中央より少し上に着弾するかな」

 ゼロイン調整は本当にめんどくさいことだ。距離を測定する道具がないため、詳しい距離がわからない。だから目測で合わせないといけないのだが......

「にしても視界が悪いな。無理とまではいかないが、距離が分かりずらい」

 強くなった雪のせいで、視界不良になった。無理とまでいかないがおおよそでしか分からない。こうなったら外したらすぐに修正ってことをしないと。

「よいしょっと......これで安定するはず」

 ちょうど良い木の枝に銃を乗せて、委託射撃の体制に入る。

「Standby......」

僕は息をひそめ、照準をスナイパーの頭に合わせる。風の音と雪の降る音が、静寂を際立たせる。側頭部を狙い撃ちすることはできなくないが、念のため顔がこっちを向くまで待とう。

「Standby……」

 呼吸を整え、引き金に指をかける。ゆらゆら揺れていた照準が一点に止まった。目標は屋上にいるスナイパー。

「今」

銃声が雪原に響き渡る。スナイパーは体勢を崩し、膝から崩れ落ちた。

「Beautiful。意外と当たるもんだね」

『まぐれだ。あまり調子に乗らないほうが身のため』

「少しぐらいは褒めてもいいんじゃない?」

 銃を下ろし、全速力で通信塔に向かう。とりあえず、敵はあと三名だ。そして全員、通信塔の近くにいる。

「これなら右側から海岸沿いに移動すれば、寮に邪魔されて射線が通らないはず」

 そうと決まれば移動だ。さっさとタスクをやって、ライトキーパーに会うぞ!

               △ △ △

「すみません。僕が甘く見てました。だから許してくだひゃぁぁぁぁ!!」

 僕は今、無数の銃弾に襲われている。口径は7.62mm。怪我するレベルでは済まない物騒なものだ。

「なんで行く先々で敵に当たるんだよ!アブネ!」

『運が悪いことに。南無阿弥陀仏』

「まだ死んでないよ!」

 とにかく射線を切って身を守る。まずはどう攻略するか考えないとね。

「全員屋内にいる。まずはロックを外さないとね」

 僕はグレネードを握りしめる。これでどうにかなってくれ。

「よいしょ!」

 まずは二つほど。これで寮の中に入るぞ。

『仁。今だ。寮同士を結ぶ、一階の連絡通路から入れ』

「言われなくてもわかっている!」

 華麗な動きで窓を乗り越え、一階に侵入する。現在確認できている敵は4人。それぞれ二階と三階に、半分ずついる。

「多分、外の3人もくるはずだ。この先に電波塔に通じる入り口があるから......」

 スコープの倍率を等倍に戻し、入口に向けて照準する。もちろん、目をくらますためのフラッシュライトの点灯もしたよ。

「ここで待ってれば来る!3名様のご案内!」

 連続してなる炸裂音と共に、弾丸が敵に向かって飛んでいった。

「まずは2人やれた。ただもう1人の状態がよくわからないな」

 身を隠してマグチェンジを行う。急いで対処しないと二階からの敵が駆けつけてしまう......と言いたいところだったが

「どうやらすでに階段に来てしまっているみたいだね」

『どうするつもりだ?一階の敵はまだ1人残っている。これで階段の方を対処すると、後ろから襲われる。かと言って1人の方を倒しに行くと』

「二階の奴らに襲われる。最悪の選択肢しかないな」

 苦笑いしながらフラッシュバンを構える。まずは一階のを倒す必要があるな。いくら危険でもだ。

「フラッシュ!」

 ピンを抜いたフラッシュバンを階段方面に投げ、牽制する。それと同時に能力でファイヤーウォールを階段に生成させた。

『そういやお前はそんなことができたな』

「これで安全に一階のクリアリングができる」

 敵が言ったと思われるのは、右奥の空間。普通に行ったら、ロックされてると思う。敵も馬鹿じゃないはずだ。ただし、《《普通》》なら、ね。

「セーフティをフルオートポジに入れてっと」

 見ての通り、僕は普通じゃない。トラスト市での遠距離狙撃でダイブをするほど普通じゃない。だから

「助走をつけてダイブ撃ち!」

 論外すぎる方法で敵を倒しにいくのだ。壁から飛び出して来た僕を見て、敵は呆然。そのままあっけなく蜂の巣にされた。

「次は階段」

 体を翻して、エイムを階段のところに置く。上の階からはまだ足音がするから、踊り場には来ていないようだ。

「こりゃまた面倒」

 倒した敵からグレネードを拝借し、階段に歩み寄る。壁はそのまま放置。僕にはダメージないから、後ろの牽制用だ。足音的に敵は階段上がってすぐそこ。のこのこと歩いて行ったら、結末は言わなくてもわかるだろう。そうならないためのグレだ。

「斜線に入らないように注意して......壁に向かってポイ」

 僕の手から放たれたグレは宙を舞い、見事に敵のいる場所に落ち、爆発する。

「ゲット!」

 断末魔が二つ聞こえ、地面に体と銃が倒れる音がした。

「次は廊下の主導権を握らないと」

 急いで階段を駆け上がり、銃を構える。ちょうど先から生きのいい的(スコンドラー)が現れた。

「.300BLKAP弾の着払いで〜す。返品は無しで」

 敵を倒し、マガジンを交換する。多分制圧はできてきただろう。そう思っていた。

「うぐ!」

脇腹に散弾を喰らい、地面に崩れる。急いで隠れ、包帯で巻き巻きする。

『ラッキーヘッショだけ貰ってないのが不幸中の幸いだな』

「ふぅ......ショットガンナー、殺す」

 銃を構え直し、廊下を覗き込む。

「いた」

 すぐさまAP弾フルオートコースをお届けするが、怒りのあまりエイムがブレ、仕留めきれなかった。しかも敵がこっちに向かって来た。

「Fuck!リロードしてる暇はねぇ!」

 威力を考え、死体のそばに落ちていたモスバーグ590A1を手に取った。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


モスバーグ590A1(M590A1)。モスバーグ社が開発したモスバーグ M500シリーズのポンプアクション式ショットガン。

 このシリーズは、アメリカ合衆国のモスバーグ社が開発・生産するポンプアクション式散弾銃で、アメリカ国内では軍・警察・民間と広く使われている良いもの。

 カスタムはあまりできないが、それを必要としない本体性能を有しており、財団でも愛用者は多い。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「目には目を、歯には歯を、ショットガンにはショットガンじゃ!」

 エイムを敵の頭に合わせ、引き金を強く引く。銃口から放たれた12ゲージバックショット弾は、馬鹿でかい爆発音を上げながら、敵の頭を吹き飛ばした。

「危機一髪。あと数秒遅れたら、頭吹き飛んだの僕だったかもしれない」

『それはそれで面白そう』

「はぁ......誰か言ってたよ。一番怖いのは有能な敵じゃなくて、無能の味方だってことを」

 敵のショットガンを投げ捨て、地面に落としたライフルを拾い直す。

「これで大丈夫かな?」

『人の気配は無し。他2棟からの応戦もなし。制圧済みだな』

「ならささっと設置しに行くか」

 僕は足早に建物から出て行った。

               △ △ △

「そしてタイプCのケーブルをパソコンに差し込めば......」

 パソコンの画面にアップロード中の表示が出る。これで大丈夫のようだ。

「あとはアップロードを待つだけだね」

 体を地面に投げ出して雪の上に倒れ込む。タスク開始からそこまで時間は経ってないものの、巣で僕の体は疲弊していた。

「無駄な敵に変に神経を使ったよ......」

 ふと思い出したことがある。タスク概要の内容だ。確か「遠方に存在する気象台にはスナイパーがいることがある。」て書いてたよね......

「ん......」

 体を起こしてF46Tに手をかける。確か気象台はここから300m先ぐらいの場所にあるはずだ。

『仁?急に動いてどうした』

「いや。やるべきことを思い出してね」

 スコープの倍率を6倍に変える。普通なら4倍ぐらいでざっくりどこにいるのか確認するべきだが、僕にはその必要はない。

「気象台から通信塔を狙うことができる場所は限られている。しかもここら辺は木が邪魔になるから......ポジションはより特定できる」

 塔の影に隠れ、周辺区域のマップを取り出す。気象台からは、北側からしか射線は通っておらず、途中で木々に邪魔されるため狙撃のベストポジションは片手で数えれるだけしかない。

「そして僕に対してまだ発砲してないとなると......僕から見えるポジションにはいないと分かる」

 ここまで分れば十分だ。僕は通信塔から離れ、寮の屋上に向かう。おそらくスナイパーはここでの銃声を聞こえているはずだ。そして、こっちにエイムを置いていると思う。

「スコープを覗いている時の視界は極端に狭くなる。だからスコープの視界外のものには反応が遅れることが多い」

 屋上の機銃が置いてあるガンナー席に移動する。ハンドガードを土嚢の上に置き、地面に伏せて痛く射撃の準備をする。

「さぁ、スナイパーよ......狩る側から狩られる側になる恐怖をたくさん味わってもらおうか」

 スコープのゼロインを300mのに合わせ、中心を敵スナイパーの頭に合わせるべく索敵する。

「いた〜♡」

 敵は気象台のドームの骨組みに銃を設置している。どうやら完全に意識外からの攻撃ができるようだ。キモいとも言える声をあげて、思わず表情筋が緩む。

『キモいぞ』

「わざわざ言わなくていいよ」

 セーフティをフルオートポジからセミオートポジに入れ戻し、敵の側頭部に照準を合わせる。

「それでは......」

 指をトリガーにかけ、息を吐きながらゆっくりと力強く引く。

「逝ってらっしゃい」

スパァァァァン‼︎

 .300BLK特有の重い反動が肩に伝わる。弾丸は放物線を描きながら敵に飛来していき、頭を綺麗に貫いた。

「beautiful……」

               △ △ △

「アップロード終わったぁぁ!」

 疲労の溜まった体を再度雪原に放り投げる。これでタスクは終了。あとはライトハウスに行ってライトキーパーに会うだけだ。

「さて、ライトハウスに行くとしますか」

 僕は上半身を持ち上げ、目線の先に存在する灯台(ライトハウス)を見つめた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


今更感半端ないけどライトハウスの説明。元ロシア海軍兵士と言われている「ライトキーパー」の所在地。彼は主に灯台の中におり、その灯台がある島のことがライトハウスと呼ばれている。

 周囲は断崖絶壁であり、ロングビーチから続いている橋以外で入る方法はない。また島の外周にある山の上には、ライトキーパーの護衛がいるらしく、狙撃の達人とのことだ。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「ライトキーパーさ〜ん。月夜仁です。タスク完了しました」

 橋に備え付けられているトランシーバーでライトキーパーにタスク完了の連絡を入れる。しばらく雑音が鳴った後、渋い男性の声が聞こえた。

《あー。聞こえるかね?》

「えぇ、聞こえますよ」

《そうか。では島に入れ。橋の道中にあったクレイモアは赤外線で反応するやつだが、無効化してやった。狙撃班にも連絡入れてあるから心配しなくて良い》

「了解です。10-7」

 トランシーバーを戻し、橋に入るための重々しいゲートを開けた。見えるところのほとんどにはクレイモアが設置されており、如何にも「部外者のお尋ね拒否」をしている感じがした。

「螺旋階段嫌い......」

 灯台内部に入り、最上階に向かうべく螺旋階段をぐるぐると登っていく。あまりにも長いせいで少し酔ってきた。

「よいしょっと......ここが最上階か?」

 階段を登り切った先には錆びた鉄の扉が一つ鎮座していた。重い扉を押し開け、その先に進む。

「おっと......ようやくきたか」

 部屋に入った僕は顔を上げる。そこには装甲列車の運転手さんと同じほど年老いた老人が一人、大きな椅子の上に座っていた。

「あなたが.......ライトキーパーさん.......ですか?」

 腰を低くしながら聞く。

「そうとも。君が求めている情報を持っているライトキーパーだ。まぁ、来てくれたんだ。一旦座ったらどうだ?」

 僕は促されるままに向かい側の椅子に座る。

「さてまず最初に、お前が欲しいのはカルトの目標......的なものだったよな」

「えぇ」

 そう答えると彼は引き出しを開けて、なんかのファイルを取り出した。

「ほれ、このファイルに情報が入っている。自分で確認せい」

 僕はファイルを開け、中に入っている書類を食い入るように読み始めた。

「嘘でしょ......」

 読めば読むほど視界がぼやけてくる。頭に血が昇ってきた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


ここではカルトの目標簡潔に書かせてもらう。

・カルトの目標は世界各国の政府に手を伸ばし、自分たちで世界を支配する。その際に第三次世界大戦もどきのことを引き起こす予定。→悪役典型


・信仰の対象である神「ジャノウド」を召喚し、未来予知能力を手に入れ、世界中の敵対勢力を壊滅させる。→ダストがいる時点で実現の可能性はある


・その第一歩として無差別テロを計画

→?????


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「無差別テロ......?なぜ?」

 突然の話の飛躍に頭がフリーズする。今まではシベリア、トラスト、トカルストと言った僻地or協力者が管理している区域での武力行動だった。なのに今度は不明、しかも無差別テロときた。

「えっとぉ......無駄だと思いますが、国連やFBIとかへの通報は......」

「《ふざけたことを言うな》と一蹴された。てことでお前が言っても意味はないだろう」

「は......はは」

 苦笑いしながら頭をフル回転させる。今分かるのはテロはまだまだ先に起きることだ。情報によると、必要な毒ガスの準備が終わっていないようだ......待って、毒ガス⁉︎

「それと一つ。彼らが行うのは毒ガスによる無差別テロだ。そっちの方が抑制力や効率が良いみたいだ」

「こんなところで効率を求めんなよ」

 書類を置いて天を仰ぐ。財団に戻ったら大量の仕事が増えそうだな。ただその前に、絞れるだけ情報を絞ろうか。

「ねぇ、ライトキーパーさん」

「なんだ?仲間になって欲しいのか?悪いができないんだ」

「いえ、それじゃないです」

 僕は体を起こし、ライトキーパーさんの目を見る。

「僕らが行った浄水場......そこにいたはずの機甲部隊はどこに行ったかご存知ですか?」

「......」

 僕の予想外の質問に、彼は体が固まる。

「ずっと気になってたんですよ。僕らが行った時、すでに部隊はなかった。内部の監視カメラも確認したが、めぼしい情報はなかった」

 あそこでのタスクは区域の制圧、そして反乱部隊の抹殺だった。しかし肝心の部隊がいない。動いた形跡もないし、なんなら来たかどうかすら怪しくなってきた。こんな摩訶不思議なことはあるのか?

「青年よ。それ以上は首を突っ込まない方が身のためだ。お前には妻がいたはずだ。死んではならないだろ?」

 彼は焦って僕に話しかける。どうやら突っ込まれたくない部分をドンピシャで選んだようだ。

『なぁ仁、お前は何をしようとしているんだ?』

「見ての通り、尋問だよ」

『情報もらって戻る。じゃなかったのか?』

「いや。作戦変更だ」

 僕はバックの中から持参してきたファイルを開ける。

「そういえばライトキーパーさん。あなたは世界真理教に《《関係がある》》ようですね」

 僕は薄笑いを浮かべながら喋る。尋問は財団職員としての基礎能力だ。敵でも味方でも、得られる情報は全て得る。それが僕の思考だ。もちろん、限度ってもんもあるけど。

「もしそれが本当なら......ここ(情報)にないことも知っているはず......ですよね?」

「お前......今やっていることがどれだけ危ないことかわかっているのか?」

「えぇ」

「なのになぜ首を突っ込む?相手は前例のないほど大規模のカルト集団だ。お前ら財団では歯も立たないんだぞ!なのになぜ」

「だって守るべきものがあるのですから」

 僕は微笑んで答える。メカニクスさんの時と同じの展開になった。こっからは僕の独壇場だ。

「守るべきもの?お前の妻か?仲間か?それとも財団の利益か?」

「いえ。この世界です」

 僕はきっぱり言い切る。

「僕はこの美しい世界を守りたいのです。だからここにいます。たとえそれが無駄であっても、身を危険に晒すとしても、僕らは守り抜きます」

「なぜだ。なぜそんなに必死になる。この世界はすでに壊れかかっている。2度の大戦を経験してもなお戦争をやめない。そんな世界を今更守れるというのか!」

「だって、それが僕らの《《使命》》ですから」

 僕は笑って答えた。

「あなたにだってあったはずです。この使命が」

 ライトキーパーは無言で立ち上がり、窓に向かって歩いた。外ではまだ雪が降っておるみたいだ。

「......確かに私にもあった。祖国を強くし、不滅のものにしようと。国民や同志を守り抜こうと。世界とまでいかないが私にはあった」

 彼は一呼吸し、また続けた。

「でも気づけば無くなってた。祖国が崩壊した頃だろうか。私は軍を抜け、ここで隠居を始めた。何をしたって世界は変えられない。平和を掲げたところで机上の空論になることが多い。人民平等と言っても結局上下関係ができる。私はそんな世界を今まで見てきた......」

「だからなんですか?だから無理だと言いたいのですか?だから希望をなくすのですか?」

「君も見てきたはずだ!財団如きでは絶望の権化とも言える教団を止めれるはずがないことを......平和なんて掲げても叶えれないことを......」

 彼は外を見つめたまま言い続けた。

「さぁ、もう帰れ。君にはもう用がないんだ」

「ですが僕はあります」

 僕は椅子から勢いよく立ち上がる。

「言っちゃ悪いですが、僕はあなた以上の絶望を見てきました」

「......」

 返事はない。けど続ける

「中学上がる前に親を亡くし、周りからも見放された。頼れる人もいない。僕はそんな絶望を生き延びたのです」

「......」

「ではもう一度聞きます。世界をよくしたい。そんな使命はもうないのですか?」

 僕らは事前に情報を得ている。詳しいことはわからないが、とにかく大変な人生だってことを知った。だから問いたい。僕は一直線に彼を見つめた。そこにはメカニクスさんと同じような絶望と希望が写った瞳があった。

「......ある。ただ、私はもう何もできない」

「そんなことはないですよ。あなたにだってできることはあります」

「そうか?」

「あなたとその部下たちなら」

 僕はもらったファイルをバックに入れ、部屋から出る準備をし始める。

「もし協力する気になりましたら、GATE12に来てください。僕らはそこにいますので」

 僕はドアを開け、そう伝える。これでいいんだ。尋問には限度がある。ここまで行えれば良いだろう。

「傭兵君よ」

「なんでしょうか?」

「お前は一体何者なんだ?」

 唐突な質問に足を止め、しばらくの間考え込む。

「そうですね......死に損ないの狼傭兵......とか?」

「ふん。自虐ネタか?」

「至って真面目ですよ」

「それと、次回からはライトキーパーって呼ぶな」

「えっと......ではなんと呼べば?」

「イヴァン・ペトロフ。イヴァンと呼べ」

 そう言うと彼は椅子に座り直した。

「そうですか。ではまたどこかで」

 僕はそう言って灯台から出た。気づけば雪は止み、大晴天となっていた。

『どうやらうまく行ったみたいだな』

「そうね。ただそれより」

『無差別テロのことだろ?教団のことだ。おそらくガスはもう世界中にあると見ていいだろう』

「そうねぇ......そろそろ引き時かな?」

 元の任務である「カルトとアドラスグループの関係の調査」も完了したし、カルトの目標も分かった。これで十分だろう。どうやらバンパーたちも任務を完了しているみたいだし、アドラスをひっくり返すだけの手札は揃ったはずだ。

「さて、まずはハイドアウトに変えるとしますか」

 時間は12時を過ぎた頃。僕はハイドアウトへの帰路についた。

「ただ......なんでアドラスはカルトと手を組んだんだろう......」


現在時刻12:37 Long Beach脱出成功

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