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【祝2000pv!】ケモミミ傭兵お仕事日記   作者: 広報部のK
【第三章】ケモミミ傭兵、次はロシアでお仕事です
31/45

【第五話】神様、マジ勘弁(でも多分いるんだよなぁ)

 「Vectorのマガジンに30発フル装填。本数は4本っと」

 現在地はライジェンス工業団地にあるライジェンス・ファクトリーの屋外資材置き場。これから行うのはクソタスクの完了だ。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


ライジェンス工業団地及びライジェンス・ファクトリー。アドラスグループ所有の工業団地を指す。主に軽・重化学工業を行っており、グループの総本山でもある「アドラス製薬」の医療品生産もここで行っていた。ライジェンス・ファクトリーの他に、浄水場もある。

 トカルスト市紛争発生後はグループが撤収し、現在は裏社会の人の巣に成りかけている。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


『サイドアームは確認したか?』

「もちろん。いつものガバメントと予備マグ3本。どちらも.45口径弾を使うから、弾は使いまわせるね」

『防弾プレートの確認は?無線の状態は?』

「全て確認済みだよ」

 医療キットから取り出したイブプロフェンを飲みながら苦笑いする。今までの何十何百もの任務を遂行してきたが、ダストがここまで心配してきたのは初めてだ。

「にしてもダストがここまで気を使うとは珍しいね。そんなに僕に死んでほしくないことでもあるの?」

『そりゃもち……いや、何でもない』

「そう」

 何かがおかしいダストをほおっておく。彼は何でも言うようなやつだ。話したいことでもあればいずれ言うはずだ。

「レーザーデバイスの動作確認完了。フラッシュライトもドットサイトもしっかり点灯するね」

 朝と言っても今は冬。雪が積もった世界は、まだ若干暗闇の包まれていた。

《あーテステス。師匠、無線聞こえますか?》

「二度目の確認ご苦労さん。しっかり聞こえるよ」

《了解です。そっちのボディーカメラの映像もクリアに映っています》

「了解」

 チラッと腕時計の方を見る。現在時刻は6時5分。そろそろタスクを始めるぞ。

「それじゃあ、タスクを開始する」

《分かりました。幸運を祈ります》

「あぁ」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


タスク名:Come Back

現在地:Rigence Factoryライジェンス・ファクトリー

タスク内容:ライジェンス・ファクトリー内、工場長室に到達する。

工場長室に保管されているライトキーパーの物品を回収する。

回収した物品をライトキーパーに届ける。


脱出予定時刻 未定


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 開きっぱなしになった搬入口に体をくぐらせ、工場の一番西にある区域エリア1【生産ライン】に侵入する。エリア内にはたくさんの大型機械やベルトコンベア、何台かのフォークリフトが破棄されており、何らかの物質が生産されていたことが伺えた。現在は稼働しておらず、埃をかぶっている状態だ。

「うぅ……埃でくしゃみ出そう」

『お前は埃アレルギーじゃないだろ』

「アレルギーじゃなくてもくしゃみは出るやろ」

 地面に散乱しているがれきに注意しながら、工場長室に向かっていった。工場長室はエリア3【オフィス】の一番東(建物の一番東でもある)にあり、ここからは結構距離があった。

「にしても、敵いないな……」

『警戒は怠らない方がいい。もしかしたら二階の連絡橋から敵が撃ってくるかもしれないだろ?』

「確かに僕だったらあそこに陣取るね……」

 そう言いながら二階に見える連絡橋の方を向いた。連絡橋はエリア1の上に存在しており、エリア3の二階部分とエリア1の横にあるエリア2【休憩区域】の二階部分とつながっている。

「内部構造が複雑すぎて頭は追い付かねぇ……」

『時間をかけて理解しろ。それよりもあたりを警戒しておけ』

「はいはい、連絡橋の方を見ておけ……ば?何かいる?」

 連絡橋の方を向いたその時。一発の曳光弾が頭をかすめた。銃声的にモシンナガンを使っていると思われ、今ので当ててないのなら銃の精度が悪いかクソエイムか、もしくはアイアンサイトで狙ってきたと思われる。

「隠れろぉぉ!」

ズサァァァ!

 反撃が来る前に、コンテナを遮蔽にして身の安全を確保した。

『な、連絡橋から撃ってくるかもしれないって言っただろ?』

「誰がドンピシャで言い当てると思うかよ!」

 敵が撃ってきた場所からここまでは、目算だと20mぐらい離れている。相手の姿が見えなかったから最小ピークで撃ってきただろう。

「これじゃ、反撃しようにもどこを狙えばいいか分からないな」

 今の銃声で他の敵も僕の存在に気付いたはずだ。そう考えると、今いる場所は比較的通っている射線が多い。

「ここで戦いのは無謀だから、一時撤退!」

 トカルスト市内で拾った野生のRGD-5(グレネード)を山なり軌道で連絡橋に投げる。目的は敵のロックを外すこと。そうでもしないと、移動する際に撃たれる可能性がありからね。

Граната!(グレネードだ!)

 橋の方からロシア語が聞こえたからきれいに飛んで行ってくれたはずだ。その隙に近くの階段から地下一階に移動。そこからエリア2に向かうつもりだ。

「お願いだからそこまで敵は多くないように!」

『それはどうかな?』

「ダニィ⁉って、そのネタはやめろ。縁起悪いよ」

 ダストのいたずらにつっ込みながら、僕は階段を駆け下りて地下のエリア0【実験室】に向かっていった。

                △△△

「これとこれとこれ……あと医薬品もあるから貰っていこ」

 研究室内に置かれていた医薬品を回収しながら、緊張でカラッカラに乾いた喉に水を流し込んだ。それとついでにお金になりそうなものも回収した。

『しれっとパソコンのGPUとかグラフィックボードを盗んでるな』

「こうでもしないとお金が稼げないの。敵はまだここまで来ていないよね」

 幸いなことに、ここの地下にはあまり敵がいない。違う言い方をすれば、結局敵はいるということだ。実際にここに来る道中でカルトらに出会った。Vectorで肉塊に変えたけど……

「これぐらいかな。そろそろエリア2に向かうぞ」

『臨時タスクも忘れずに』

「知っているよ」

 臨時タスクとは、ついさっきにガルーダさんが出したタスクのこと。どうやらこの工場にKD社のPMC三人衆が来ているとのこと。目撃したガルーダさんの仕事仲間が話した特徴と、僕のボディーカメラに記録された襲撃してきたPMCの特徴と合致したため、その時のやつらだと思われるそうだ。そして奴らがガルーダさんの商品の仕入れを妨害しているみたいなので、排除してほしいとのことだ。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


サブタスク:Clearing blockages

タスク内容:ガルーダの商品の仕入れを妨害しているPMC三人衆を各個撃破

      三人の撃破の証明として、ドックタグを回収し引き渡すこと。必ず成功する必要はない


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 崩れ落ちたがれきを迂回し、垂れ下がっている蛍光灯を押しのけながら歩いていく。地下通路は薄暗く、湿った空気と埃の匂いが鼻をつく。時折、水滴が落ちる音が静寂に響く。僕は水の音のような自然音は好きであるが、戦場では全く好きではない。もしかしたら敵の音が自然音でかき消されるかもしれないからね。

「コンタクト」

タァァンタァァン

 バイザーをかぶったスコンドラーが一人いたが、一発目でバイザーに傷を負わせ、二発目で頭を貫いた。他に敵の音は聞こえない。

「右!左!クリア!」

『ナイス』

 十字路をクリアリングして切れかかった鎮痛を決めなおす。鎮痛効果が体に染み渡るのを体感しながら、エリア2に向かう。地下全体に舞い上がった土ぼこりを吸わないように、首に巻き付けたアフガンストールを口まで覆わせる。荒い息が無機質な空間に響き渡る。

『仁。この先から敵の気配を感じる』

「敵?本当に?」

 十字路を抜けて、真っ直ぐ進んでいた時、ダストが敵の気配を感じた。疑いつつも前方を警戒し、遮蔽がどこにあるか確認していった。手を当てなくても鼓動が高鳴っているのが分かる。僕に与えられている猶予は1秒もないはずだ。

「10m切った」

「|It's the Foundation!《財団だ!》」

 タァァンタァァン!!

「くそったれ!」

 頭を出した敵を貫き、近くの遮蔽に身を隠す。英語をしゃべっていたからKD社のPMCだろう。でも装備的にはあの三人衆っぽくなかったから、別のPMCどもだな。

「Open Fire!」

 敵からの激しい弾幕が通路の奥から飛んでくる。僕がいる場所はデータバンク。機械の後ろに隠れているから射線は通っていないが、この空間は全ての通路がつながっているため、いずれは挟み撃ちされてしまう。

「まずは右側から制圧!」

 スタンを左の方に向かって投げ、敵の動きを制限する。ここからは直線での打ち合いだ。僕は体の露出が少なく済む右壁ピークを使えるのに対し、敵の位置では露出が大きくなる左壁ピークをすることになる。とっても有利だ。

「ここでの模範解答は、右壁最小ピーク!」

 身体のほんのちょっとを機械からさらけ出し、同じようにピークしてきた敵の脳天に、フルオートで.45ACP FMJ弾を叩き込む。

「足音的にあと二人」

 右サイドをコントロールできたため、間髪入れずに敵に詰め寄る。おそらく倒した敵付近に一人がいて、真反対にもう一人がいるだろう。Vectorにはまだ弾は入っている。大丈夫だ。

「サプライズ!」

 不意を突いた飛び出し撃ちで、フルオートの弾幕を叩きつける。相手も反応して数発撃ったが、最後に頭を抜かれて息絶えた。すると、一発の散弾が襲ってきた。

 バァァァァン!!

「うぐっ!戻ってくるの早すぎる!」

 先ほどまで反対にいたはずの敵が詰めてきて、プレートキャリアに散弾を浴びてしまう。衝撃で体が大きく揺さぶられ、息が詰まる。プレキャリがなければ確実に致命傷だっただろう。咄嗟で撃ち返したが、手ごたえはなかったからいったん引くことにした。

『おい、大丈夫か!?』

「ああ、なんとか……クソッ、効く……」

 壁に手をつき、荒い息を吐き出した。プレートのおかげで命拾いはしたが、当たった時の衝撃は大きく、体には痺れが残っている。鎮痛はまだ切れていないから、体自体は動かせるはずだ。

「痛みはただの電気信号……痛みはただの電気信号……」

 どっかの陸上自衛隊の言葉をつぶやきながら、聴音をする。まずは敵の位置をつかまないと。

「近い……せき込んでいるから運よく反撃は入ったみたいだ。体力アドバンテージどっちもない」

 どうやら、かなりの至近距離まで詰められてしまったようだ。このままではまずい。体力アドバンテージはどちらにもないが、瞬間火力は相手側に軍配が上がる。だが相手はポンプアクション式のショットガン。最初の一発を避けるか、先制をもらえば勝てるはずだ。

「ダスト、何か手はないか?」

『フラッシュはあるか?』

「ああ、ポーチに一つだけ………って、そういうことか」

 ポーチからフラッシュバンを取り出し、ピンを抜いた。

「行くぞ!」

 強烈な閃光と爆音が地下通路に響き渡る。僕が使ったのは僅かに2秒ほどで炸裂する即爆スタングレネード、避けることはほぼ不可能だから敵は完全に視界を奪われただろう。僕はその隙を逃さなかった。

「今!」

 機械の陰から飛び出し、残りの敵に向かってVectorを掃射した。盲目状態の敵は反応できず、そのまま見るにも耐えない蜂の巣にされた。

『よし、仕留めた!ナイスだ、仁!』

「ぐっ……!ふぅ……」

 壁に寄りかかり、肩で息をした。プレートに受けた衝撃がまだ体に残っている。

「医療キット……止血しないと」

 震える手で個人用救急医療キット(IFAK)を取り出し、アドレナリン注射を太ももに打ち込んだ。アドレナリンが全身を駆け巡り、体の痺れが和らいでいくのを感じる。止血帯で右腕を圧迫し、包帯を巻いて、止血した。

『おい、落ち着いてる暇はないぞ。まだ他の敵がいるかもしれない』

「分かってる。少し休んだら行く。どうせ、いつ死んでもおかしくないからだなんだ。生の実感ぐらいはさせてくれ」

 深呼吸を繰り返し、意識を集中させた。体の状態は最悪だが、ここで止まるわけにはいかない。

「はむ……」

 切れかかる鎮痛を決めなおし、自分の体に活を入れる。

《師匠。鎮痛剤の使い過ぎはご注意ください。オーバードーズになる可能性がありますので》

「――分かっている……」

 錠剤を水とともに、胃袋の中に流し込み、Vectorのマガジンを変える。

「行くぞ……」

 鎮痛剤の使い過ぎはオーバードーズになってしまうことぐらい知っている。知っているけど、僕は鎮痛を決めることを止められない。否、止めれない。肉体的苦痛から逃れようっていう理由もあるが……今はどうでもいいことだ。

                △△△

「回収するものはこのデスク付近にあるっていうのか?—―噓だろ……」

 僕は今、工場長室のデスク前で絶望している。

《そう……見たいですね》

 時をさかのぼること数分前。道中邪魔してきたスコンドラーを蹴散らし、サブタスクのPMCに遭うことなく、すんなりと工場長室まで来れた。ここまではいい。問題はタスク品がよく分からないのと、工場長室内にあるとしか聞いていないため、詳しい位置は手探りで探さないといけないことだ。そして今に至る。

「ライトキーパーの頭はとち狂っているのか?タスク品が何なのかも言わないで……どう探せと……」

『仁。てやんでい』

「むぅ……」

 ダストにどこで覚えたか分からない江戸弁で注意される。こうなったら根気強く探すしかないか。

「ねぇ、光君?」

《はいはい》

「タスク品はファイルかどうか分かる?」

《そうですね……‘‘段ボールなどのケースに入っている‘‘ということだけが分かります》

「了解。ありがとう」

 光君のヒントを頼りに、部屋の中にあるすべての箱を漁る。僕が覚えているのは、とにかくめんどいことだけなので、幾分か省略させてもらう。段ボール箱、書類ケース、金庫、ロッカー、キャビネット……部屋中を文字通りひっくり返したが、それらしいものが見つからない。埃まみれになり、軽く咳き込みながら、僕はデスクに腰を下ろした。

「――マジでどこにあるんだよ……」

『落ち着け。まだ探していない場所があるはずだ』

 僕はデスクの上を見上げた。そこには、埃を被った古い地球儀が置いてあった。あるわけがない。あんな小さな地球儀に目的のものがあるとは思えなかった。

「まさか、こんなところにあるわけ……」

 僕は地球儀に手を伸ばし、ゆっくりと回してみた。すると、ある地点で地球儀が止まり、地球儀から一枚のパネルが剥がれ落ちた。

「……なんだ、これ?」

 剝がれた所を調べてみると、小さな鍵穴があるのを見つけた。おそらくこの地球儀は、入れ物としても使えたものだっただろう。

「……鍵穴か?鍵、持ってたか?」

 僕はポケットの中を探してみたが、鍵らしきものは見つからない。この部屋を漁っていた時も見当たらなかった。どうしようか。

『仁。お前はマスターキーって知っているか?』

 ダストから愚問を聞かれる。いくら僕のことを馬鹿にしてても、さすがにそれは愚問過ぎだ。

「僕を馬鹿にしているの?それぐらい当たり前だろ?ショットガンにきま……」

『いったんストップ。お前に聞いた俺が馬鹿だった』

 ダストが僕の言葉を遮る。今の何がいけなかったんだ?マスターキーって、ショットガンのことでしょ?


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


マスターキー(ショットガン)。特定のマスターグループに属する複数の異なる鍵を開けれるマスターキーになぞられたショットガンの通称。木製のドアとかなら、鍵の種類問わずに破壊ができる能力を有している。便利


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「とにかく、この地球儀もショットガンで破壊して、開ければいいでしょ?」

『壊れるかもしれないが?』

「開けれるならなんでもいい」

 地球儀を持ち上げて、上下に振る。音的に収納物は球の下半分に入っていると思う。それなら上半分を破壊すればいいか。

「さて……ソードオフショットがン君。君の出番だよ♪」

 使えるかもしれないと思って、倒したスコンドラーから拝借したソードオフショットガンを構える。フルメタルの銃身が、蛍光灯の光で鈍く光っていた。

「開けゴマ♪」

バァァァァン!!

 12ゲージの鈍くてうるさい銃声が部屋に響き渡る。きれいに地球儀の上半分だけ吹き飛び、収納スペースに入っているものが見えた。

「さてさて……っと、これはUSBか?それとこれは……」

『鍵……だな。形的に南京錠で使うようなモノみたいだが』

「先にUSBの中身を見るか」

 鍵をポケットにしまい、バックの中からUSB OTGを取り出す。typeCコネクターをプレキャリに装着したスマホに挿し、USBのデータを読み込む。しばらくして、データは無事に読み込まれた。

「これは……何かのマップか?」

 画面にはどこかの街の地図が映っていた。日本語表記があるから、日本のどこかの街だろう。

『街の構図的に大都市っぽいな』

「うん」

 続けて他のデータも拝見していく。他にはC4の画像や、アメリカ大使館の写真。そしてカルトらの魔法陣らしきものの写真もあった。

「なんだこれ?」

『分からん』

 ダストと首をひねりながらスマホケースを閉じる。USBに入っていた情報は、ハイドアウトに戻ってから調査しよう。そう考えた僕らは、未だに謎のカギについて調べ始めた。

「南京錠の鍵っていったよね?」

『あぁ』

 鍵をポケットから取り出し、部屋の隅にある戸棚に向かう。さっき、部屋を探索した時に、ここに南京錠があった気がした。実際、そこには一つの南京錠が掛けられていた。今思えば、探していた時はなぜ破壊して開けなかったんだろう?

「僕の考えが当たっていれば、鍵が開くはず……」

 鍵を鍵穴に差し込んで、右に回す。すると南京錠はカチッという音と、ともに解除された。戸棚を開けると、何やら大量の書類と段ボールが一つ入っていた。

「これは……なんだ?」

 そう言って、僕は段ボールに手を指し伸ばした。

                 △△△

「見て見て!これクソ楽しんだけど!」

『はしゃぐなはしゃぐな』

 ダストから注意されるが、全く聞き耳を立てなかった。僕は今、ドローンで遊んでいる。しかも普通のドローンではなく、人外軌道を最高140キロで飛べるFPVドローンだ。これは戸棚の中に入っていた、段ボールから出てきたもので、バーッてリーもあり

『そもそもお前はまともにドローンを使えるのか?』

「失礼な!一応、趣味で空撮とかしてたんだぞ!ほら!」

 ドローンの操縦桿を巧みに操作し、工場長室の中を縦横無尽に飛び回らせる。ドローンは壁ギリギリをかすめ、デスクの上を旋回し、天井近くまで上昇するなど、アクロバティックな飛行を見せた。

『—―確かに、上手いな。だが、遊んでいる暇はないぞ。』

 ダストは呆れたように言ったが、僕はドローンの操縦をやめなかった。その時の僕は、まるで新しいおもちゃをもらった子供だった。

「大丈夫だって。ちょっとくらい遊んでもバチは当たらんさ。それに、このドローン、ただのドローンじゃないんだぜ?」

 ドローンのカメラ映像をスマホに転送した。そこには、通常のカメラ映像に加えて、赤外線映像やサーモグラフィー映像などが表示されていた。

『これは……特殊なドローンだな。市販品そのものではない。カメラ部分に手が加えられてそうだ』

 ダストは感心したように言った。

「だろ?これなら、隠れている敵や、熱源を探知できるかもしれない。しかも、ドローンは敵にとって結構なストレスにもなるよ」

『根拠は?』

「僕はストレスだった」

『お前の感想だろ』

「いいやろ」

 ドローンを回収して、バックの中に詰める。どうやら棚に入っていた大量の書類がライトキーパーに渡すものみたいだ。急いで持参してきたフォルダーにしまい、工場からの脱出を始める。

「予定した場所は……マンホール脱出……くぅぅ」

 ガルーダさんのから入荷したEDUポーチ(平たく言えばスマホケース)を開き、スマホの画面をつける。慣れた手つきで周辺マップを展開し、マンホール脱出の位置を確認する。正直言って下水道が嫌いなわけではない。下水道のにおいが嫌いというわけでもない(好きではないけど)。ただ、マンホールを降りるときに隙ができるから嫌なんだ。

「やだなぁ……マンホール脱出」

 マンホール脱出はエリア3【駐車場・第一搬入口】のすぐ外に位置している。現在安全が確保されているのはエリア2の二階部分、かつ工場長室周辺のみ。そして一階のエリア1と2は未だにクリアできていない。となると移動は2階から通った方がよさそうだ。

「先に連絡入れておくか」

『それが無難だな』

 EDUケースを閉じ、PTTスイッチに手を伸ばす。

「こちら仁。光君、聞こえるか?」

《あー、音声クリア。どうぞ》

「脱出開始《Escape now》」

《Copy。帰還地点に車両を要請します》

了解(10-4)。BTRの運転手を頼むよ」

《10-4。交信終了(10-7)です》

「10-7」

 無線を切って、銃のセレクターをセーフ(SAFE)からセミモード(SEMI)に切り替える。イブプロフェンを取り出し、鎮痛を決めなおし、僕は工場長室を出た。若干視界がもうろうとするが、心にとめない。今はそんなことに気を遣う暇はないんだ。

『お前もテンコードなんて使うんだね』

「最近覚え始めたんだ。便利だと思ってね」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


テンコード。主に北米の警察や緊急サービスで使用されていた無線通信における略号のこと。「10-」の後ろに数字が来ることで、迅速に連絡をすることができる無線用語である。例えば、さっき使ってた「10-4」。これは‘‘了解‘‘という意味。「10-7」は‘‘交信終了‘‘という意味がある。他にもいろいろあるよ。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


『ふ~ん。てか、何で光も知ってたんだ?』

「彼が所属している財団の警備隊では使われているみたい。そこで覚えたんじゃない?」

『なるほどね』

 ダストの疑問に答えながら廊下を足早で抜けていく。やるべきことはやったんだ。これ以上、この気味悪い工場に滞在する意味はない。

「あぁ……家に帰りてぇ」

『仕事のケリをつけてからな』

「いつになったら終わるんだよ……」

               △△△

「Fuck!こいつらはどっから湧きあがってきてんだ!」

 左腕に包帯を巻きながら叫ぶ。その間にも敵PMCとスコンドラーレイダーは攻撃を止めなかった。

『西のPMCと東の元軍人が共闘しているとは……レアだな』

「感心してないで解決策考えて!!」

 残弾ゼロになったマガジンを投げ捨て、新しいのを差し込む。ボルトの閉じる音が耳に伝わる。戦闘準備完了だ。

「まずはここから動かないと!」

 ラストとなったグレネードを敵のいる通路に投げる。僕は今、窓の付近にいる。一方敵は、僕が来た通路の奥にいる。人数は五人。それに対してこちらは僕と役に立たない悪魔が一人の、計二人だ。なんといえばよいのだろうか……‘‘圧倒的不利‘‘とでもいった方がいいのかな?

バァァァァン!!

「そこから来るのはわかってんだよ!」

 グレネードを避けるために後ろに下がった敵に発砲。やつがいた場所はちょうど壁が崩落していた。そしてこちら側からは射線を通せる場所。まったくいい場所に行ってもらえたよ。

「あと4」

 後ろの窓を開けて、外への退路を確保しておく。窓の外は屋根があったため、少なからず「外に逃げたら落下死した」ていうシチュエーションはなくなった。

「だめだ。疲れで頭が鈍ってやがる」

 敵を一人は落とせたものの、それ以降の打開策は思いつかなかった。既にタスク開始から3時間が経過している。

『仁。敵が詰めてきたぞ』

「くそったれ!もう少し時間くれよ!」

『タイムアップだ。答えを出せ』

 敵の足音が近づいてくる。1、2、3、4、なんとまぁ、全員仲良く襲い掛かってきている。ダストの言う通り、僕には時間がなかった。ふと横を見る。そこには先ほど開けた窓があった。僕の頭ではすでに解は出た。でもその答えを信じたくなかった。

「この世に神がいるなら、死ねといいたいもんだ」

『俺の方から言っておく』

「本当にいるのか⁉」

『あぁ……多分な』

 Vectorを後ろに回し、窓から距離をとる。僕にはこれ以外の正解が分からなかった。

「Fire!」

 敵からの集中砲火を搔い潜り、窓に向かって全力ダッシュする。痛んでいた体の節々が悲鳴を上げるが気にかけない。視界ももうろうとするが、気にせず走り続けた。窓を飛び、屋根を走り、さらに飛んだ。


「勘弁してくれよ、神様ァァ!」


現在時刻:12:56


 

 

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