【第三話】道は必ずしも‘‘足元‘‘にあるわけがない
「人生は山あり谷あり」って言葉を聞いたことはあるかい?でもなんか前にも話したような気が......。まぁいい。この言葉の実際の意味は「いろんな困難がある」的な意味で使われており、決して人生では本当に山や谷にぶち当たるわけではない。
しかしあくまでも一般人での話だ。もしこの言葉を僕の人生に当てはめると、あら不思議。実際に山や谷、もしくは崖にぶち当たる状況が出てくるんだよね。
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~タスク~
⓵地下バンカー及び施設全体を占領しているスコンドラーを全員始末。その集団のボスのドックタグを持ってくる。:Eliminate the intruders
⓶装甲列車の運転手に食料品を渡す:Lifeline
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現在時刻 5:46
現在地:|Boinby Abines
脱出予定時刻 未定
「う~ん!空気が実家らへんと同じぐらい透き通っている!」
背伸びをしながらトコトコと森の中を歩く。
《実家って言われてもわかりませんよ》
僕の空気に対するコメントに突っ込む光君の声を受け流しながら、今回のタスクを再確認する。結構関係のない話だけど、僕の実家は秋田県の男鹿市。ね?いかにも空気が澄んでそうな街でしょ?子供のころはなまはげが怖かったな~
「確かバンカー内の殲滅と食料品の配送だっけ?」
PTTスイッチを押しながらタスク内容を光君に聞く。僕は今トカルスト市内ある軍事施設にきている。理由は簡単。タスクをこなすためだ。
《そうですね。問題はバンカーがどこにあるのか……》
「マップにも記してないしね~」
ユーティリティーポーチから‘‘|Boinby Abines‘‘のマップを取り出しながら答える。マップはタスク受理時にもらったものだ。そこそこの信憑性はあるものの、一部記入されていない場所があった。例えば、さっき言った地下バンカー。通称‘‘D2バンカー‘‘。
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|Boinby Abines。トカルスト市内に存在する荒廃したロシア軍の軍事施設の名称。
射撃訓練場や保管庫、車両基地などの軍事施設はもちろん、貨物駅や地下バンカーもある‘‘行っとけばなんか見つかる‘‘場所だ。現在はロシア軍から離脱したスコンドラーが占拠しており、無法地帯となっている。風のうわさ程度の情報だが、今日ここでカルトらがスコンドラーやKD社のPMCと会談を開いているとのことだ。
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元ロシア兵の友人によると、核シェルター的な役割も備えているとのこと。他には武器庫や司令部など、一般的に《《重要》》とされるような場所はほとんど記されていない。
「一体どこにあることやら…」
『文句を言ったってバンカーは出てこない。ごみ漁りしながら探せ』
「そういうダストも方法を考えてよ」
森の中をとぼとぼ歩きながら口答えする。はたから見ればただのひとりごとがうるさい獣人だ。
『よかろう。神の領域にいる悪魔の私がお主を助けようではないか』
「まただよ……」
首を横に振りながらつぶやく。ダストは僕から助けを求められた際に、‘‘俺の方が偉い!‘‘と主張して上から目線になることがあるのだが……
「それで何か方法は思いついたの?」
『……』
だいたいその時は現状を打破できそうな回答が出てこないのである。僕の経験上、彼は約80%の回答が沈黙からの
『…すまん』
そう。‘‘すまん‘‘の構成となっている。ぶっちゃけ、分からないならそれでいいけど、もう少し回答のテンプレートを増やしてもいいんじゃないかな?さすがに聞き飽きてきたよ。
「まぁあいいや。いつものことだし。使えそうなものを漁りしながら探すか~」
そう言って銃を構えなおす。そろそろ森から抜けそうだ。ここからはスコンドラーや他勢力の敵との戦闘に備えないとな、と思った矢先
ダダダダァァァ!!
敵がいる現実より、人生は理不尽であることを突き付けられた。
△△△
「ワンダウン!」
マグチェンジしながら嬉々として言う。マガジンをポーチに戻す暇はないため、地面に投げ捨てる。
『残りは3名。今日は調子がよさげだな』
「AK使って三日目だよ。そろそろ慣れてこないと面目丸つぶれ」
チャージングハンドルを引いて5.45×39mmFMJ弾をチャンバーに送り込む。欲を言えばAP弾とかほしかったけどなにせ金がない。あんな高価な弾薬は買えませんよ、うちじゃあ。
ダァァァンダァァァン
射線を変えてダブルタップ。一発目はヘルメットに防がれたが、そのための二発目。二発目はキレイにヘッドに入った。敵は後ろに倒れこんでいった。
「ラスト2!このままいくぜ!」
連続二キルをかました僕はどうやら調子に乗っていた。
「三途の川の反対岸までぶっ飛ばしてやる!Come on!」
訂正。どうやら《《相当》》調子に乗っていた。いくら手慣れた傭兵でも調子に乗るとミスはする。Ex、残弾管理や射線管理。敵の展開を読むことがいつもより苦手になってしまう。
ビシャァァァ!!
「うぐぅ!」
ほら言わんこっちゃない。どうやら敵の片方が左サイドに展開していたようで、僕はそれに気づけず脚に被弾。しかも鎮痛を決め忘れたため走って遮蔽に入ることもできないときた。
『これが調子に乗ったものの末路ってやつか。この後は死ぬパターンとでも来るのか?』
「そうはさせねぇ!」
カチャ
敵のマズルフラッシュと銃声で位置を特定。脚の痛みを耐えて素早くエイムを合わせる。
ズダダダダダァァ!
しかし特定したって言っても詳しい位置はわからない。いくら耳が良くても、しっかり見えていなければ、ワンショットワンキルなんて贅沢なことはできない。だから
「結局は弾幕ってとこ……か」
敵の断末魔が耳に届くまでトリガーを引き続ける。おおよそ半分は撃っただろう。
「ハスの考えに素直に賛同はしたくないけどな」
敵の撃破を確信した後、残り一人を華麗なフリックショットで頭を吹き飛ばす。オールクリア。ようやく邪魔ものどもが消え去った。
『んで、また死んでないときた。いつになったら死んでくれることやら……』
「うるさい。雪がまだいるのに死んでられるかよ。お前も実際は死んでほしくないだろ?」
『……ぐうの音も出ない』
「ほらやっぱり」
止血帯で被弾した脚の止血を行いながら口答えする。ついでに鎮痛剤も口の中に放り込む。これで奇襲に合って被弾しても、どうにか動けそうだ。ふと遠くから列車の汽笛が聞こえてくる。多分装甲列車が来たんだろう。
「バンカーはいったん後回しだ。まずは食料の配達からだ」
残り半分ほどのマガジンを交換して、装甲列車のいる駅に向かって歩き出す。
それと落としたマガジンも拾い忘れずにね。
△△△
僕は今荒廃した貨物駅の中にいる。荒廃する前は軍事施設の貨物駅として使われていただろう。その痕跡と思われるクレーンがいくつかあった。
「いたいた~」
駅のホームのところに列車は止まっていた。その名の通り車体の周りは頑丈な板などで補強されており、窓は鉄格子でおおわれていた。
「中は……意外ときれいか」
開いていたドアをくぐり、車両の中に足を踏み入れる。中は思った以上に汚くなく、意外と明るかった。
「先頭は左手側ね」
そのまま何事もなく、先頭車両までたどり着く。ドンドン!と運転室につながるドアをたたき、運転手を呼ぶ。
「運転手さ~ん。食料の配達で~す」
声をかけてから数秒立って、ドアが開いた。中からはボロボロになった帽子と、ソ連軍のものと思われる上着を着た老人が出てきた。
「あ、こんにちは~」
「君があの狼傭兵か。ここで話すのもあれだから中に入れ」
そういってその老人は僕は運転室の中に招き入れた。運転室の中は護身用と思われるAKといつの時代かわからないリボルバー。そして一つの写真が飾られていた。そこには二人の兵士が映っている。
「随分と世の中が変わったものさ。一昔では亜人は悪というイメージだったのに、今では一国の兵士にもなってるよ」
「亜人の大群がよくなったのは僕が生まれたころですかね~。それとこの写真に写っているのは誰でしょうか?」
「あぁ、それか。そいつは俺のアメリカの旧友だ。最後にあったのは中東でだ」
「アメリカの旧友?」
僕は食料を横に置いてあった木箱において聞く。
「そうだ。戦争の時に敵同士だったが、ふとしたことで仲良くなってな。その時に撮った写真だ。いまでは軍をやめて会社を作っているだとか」
老人は写真を触りながら言う。おそらく長い間会ってない旧友のことを思い出しているのだろう。
「さて、俺はそろそろ列車を発車させる。お前は乗っていくか?」
「大丈夫です。僕はまだタスクがあるので」
「そうか……まぁがんばれ傭兵君」
「えぇ、頑張りますよ」
~タスク:Lifeline 完了~
駅から離れた僕はあたりを見回す。遠くには兵士の宿舎とヘリポート、そして廃棄された装甲車両が見えた。
「ねぇ、ダスト?」
『なんだ?』
「バンカーってどこら辺にあると思う?」
『確か答えたはずだぞ。分からないって』
山のふもとを見ながら歩く。
「どこかにバンカーの入り口はないかな?」
そんな感じで歩きながら見つけること10分ぐらい、ようやくバンカーを見つけれた。
「本当に山のふもとにあるとはね」
『見つけたならさっさと行け。タスクをさっさとやれ』
「はいはい。分かったよ」
銃を構えてPTTスイッチを押す。
「ねぇえ光君?」
《はいはい、何でしょうか?》
「この後地下に行くからさ、電波が悪くなるかもしれないよ」
《分かりました。ケガには注意してくださいよ》
「知ってる」
スイッチを放してバンカーに向かう。この先は大規模な戦闘になると思われる。普通なら一人でこんな危ないところに行くことはないだろう。でも僕は普通ではない。だから、
「こんなバカげたこともするんだよなぁ」
△△△
バンカーの中はとても暗く、人の死臭と下水のにおいが漂っていた。
「うぅ……鼻がダメになる」
銃を構えるために、鼻をつまむのを我慢しながらバンカー内を歩いていく。足元からは水を踏む音が鳴り響いており、静かなバンカー内に響き渡る。
『まったく音沙汰がないな。すでにもぬけの皮か?』
「なくもない。本音は戦いたくないからいいけど、タスク的には戦わないとね」
下水道の機械室横の階段を下って、開けた空間に足を運んでいく。ハンドガードについているフラッシュライトが銃口の先を明るく照らしていた。
「どこにいるんだろう……早く帰りたい」
『仁待て』
ため息をつきながら歩いているとき、ダストが体に停止命令を出した。
『マガジンを差したような音が聞こえた。壁の反対側、お前の左手にあるドアの向こうだ』
「制御室か?」
制御室は入口が狭く、その先が入り組んでいる部屋。入口は鉄のドアで固く閉ざされており、敵襲にも対応するだけの時間も稼げる。会議をするなら確かにいい場所だ。
「こりゃ厄介だ」
銃を構えて呟く。さてどう攻略しようか。僕はしばらくの間、久々の頭脳戦に頭を悩ましていた。
△△△
「めんどいから脳筋でいいやぁ!Open Up!!」
結局、とてつもなく頭の悩ました僕が下した結論は脳筋で殲滅することだった。馬鹿と呼びたければ呼べ、死亡フラグ建築士と思うならそう思ってくれたっていい。でも僕は作戦を変えない。理由は簡単だ。
「だって今までこれで何とかなってきたから!」
『ご都合主義ってやつか』
「勝てばいいんだよ!」
重い鉄の扉を少し開けてグレネードを放り込む。別に一網打尽にしたいわけじゃない。ただ隙を作りたいんだ。隙さえあればどうにかなる。
バァァァァン!!
重厚な爆発音が制御室内で響き渡り、一人の断末魔が聞こえる。運よく一人持って行けたようだ。
「今!」
素早く扉を開けて、一番手前の空間に滑り込む。始まりは上々だ。
『五人か。ボスらしき人はいないから、多分もぬけの殻だ』
「一歩遅かった!この恨み、お前らにぶつけてやる!」
『これを人々は‘‘八つ当たり‘‘という』
「うるさい!」
前線を押し上げたレイダー(どうやらカルトの部隊だったらしい)の頭を撃ち抜き、もう一人を一緒に撃ち抜く。あと三人、とりあえずキルタスクはやれそうだ。
「もうめんどいからこれでいいや」
道中拾ったインパクトグレネードを構えて言う。おそらく敵はグレのピンの音が聞こえたはずだ。
「絶対詰めてくるな」
すぐにグレネードを奥の空間に向かって投げる。ちらっと見えたが敵は全員そこに固まってそうだ。
「勝った」
グレを投げて数コンマ。一つの爆発音と三人の断末魔が制御室内に響き渡った。
『グッジョブ』
「タスクは終わってないけどね」
敵を殲滅した後はというと、敵の使える装備をはぎ取ったり、バンカー内部の未探索区域を調査してバンカーから離脱した。
△△△
「いないね~」
現在地は変わらずのアビネス。建物変わりまして通称‘‘ピショップ‘‘の屋上。僕は倒した狙撃手から拝借したM700で索敵していた。
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ピショップ。アビネス内の建物の名称の一つ。この軍事施設には五か所の主要建造物があり、それぞれチェスの駒の名前が命名されている。
⓵キング……貨物駅。出口の一つ
⓶クイーン……気象台。狙撃の絶好スポット
⓷ルーク……別称‘‘二階寮‘‘。兵士のための二階建ての寮
⓸ピショップ……別称‘‘三階寮‘‘。以下同文
⑤ポーン……弾薬庫。バカでかい。サッカーコートぐらいはある
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『あのボスのことか?名前が何だったかは忘れたが』
「Bloodhoundだよ。狙撃手だと聞いたけど……見えないね。会談が終わったから帰ったのか?」
『分からん。でも警戒は怠らない方がいい』
「分かっているよ」
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Bloodhound。アメリカの賞金ハンター。元々は賞金稼ぎとしてやってきたが、KD社やカルトらと手を結んでアビネスを占領した。他の区域のボス同様、ロシア連邦と国連から賞金首として掲げられている。
目撃情報によると5~8人の取り巻きを連れて徘徊しているとのこと。一番目撃情報が多いのはピショップの道路を挟んだ反対側にあるルークの外周と、ポーンの内部だそうだ。それと貨物駅のキングにも出るとのこと。
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「ふぁぁぁ………」
あまりの暇さに思わず欠伸をしてしまう。キング方面もスコープで確認したがまったく人影がなかった。こうなったらまだ見ていないポーンにいるのかな?そんなことを考えながら伏せ状態から立ち上がった。
「ポーンに向かうか……はぁぁぁ、めんど」
愚痴を漏らしながら銃を持ち上げる。その時、ダストが訝しんで語り掛けてきた。
『なぁ仁。嫌な予感する』
「なに?」
『誰かに狙われている気がする』
ダストが言った瞬間、一発の至近弾が顔をかすめて後ろの壁にめり込む。
「狙撃ぃ!」
次弾が来る前に建物内に避難する。方角はルークの方からだ。さっき見たときには敵はいなかったが草むらの中にでもいたのか?
『仁。お知らせが二つあるがいいか?』
「なに?今取り込んでいるから早くして」
M700をバックにランヤードで括り付けてAK-74Mを取り出す。
『多分、敵はブラッドハウンドの集団だ』
「そう。探す手間が省けたね」
『それともう一つ。敵はもう突入しているみたいだ』
「……」
耳を澄まして建物内の音を拾う。1、2、3、4……7人。否、8人はいるようだ。こりゃ面倒なことになったな。
「マガジン良し、チャンバー内OK。ドットも良好だ」
慣れた手つきで銃の状態を確認していく。
『仁?正気か?』
「何が?」
ハンドガードに取り付けているレーザーデバイスを起動させる。緑色のレーザーと白くてまぶしい光が放たれた。
『こんな狭いところで対峙するつもりか?いくらお前でも無理だぞ!』
「僕はそんなに馬鹿じゃない」
吐き捨てるように言って、屋上に向かうドアに手をかける。外にまだ狙撃手はいるかもしれないがそんなのを考えようとは思わなかった。室内で滅多打ちにされるなら、狙撃で一発貰った方がまだましだ。どっちも嫌だけど。
「でも馬鹿でもある」
ドアを思いっきり開け、外に飛び出す。後ろからはボスの取り巻きと思われる人たちの足音が鳴り響いてた。一発の弾丸が耳を貫くが、気にせず屋上の端に向かって走る。
「There it is!」
後ろからも多数の弾丸が飛んできて、数発が腹部に突き刺さる。それでも僕は走るのを止めなかった。
「死に戻りができねぇから人生は楽しいんだよ!」
屋上に設置されている天幕に滑り込んで反撃を始める。
「It's showtime!」
素早くドットを相手のヘッドに合わせてトリガーを引く。
ダァァァンダァァァンダァァァン!!!
三発の銃声が鳴り響き、展開してきた敵の頭が吹き飛ばされた。屋上にはあと二人だ。インパクトグレネードを取り出し投げる。
「弾着今!」
インパクトグレネードの爆裂音が鳴り、一人が吹き飛ばされ、もう一人が重傷を負った。
『グッドファイト』
「どうも」
重症のを素早く仕留めて移動する。屋内にはまだ二人、屋外には狙撃手も一人いるはずだ。
「一回降りるか」
『降りるって?建物内には敵がいるかもしれないっていうのにどうするんだ?』
「簡単だよ」
リロードを済まして、後ろに向かって走り出す。僕が向かっている場所は屋上の端。目的は簡単、飛び降りるんだ。
『仁馬鹿!その先には道はねぇんだぞ!』
「道は必ず足元にあるわけじゃねぇんだよ!」
端からフライハイして宙に飛び出す。ルークの外周から銃弾が飛んできたのを確認し、空中で反撃する。地面にたたきつけられたと同時に受け身をとる。
『反撃が来るぞ!』
建物の陰に体を隠してボスと思われる敵の攻撃から逃れる。連射の感覚的に使っているのはマークスマンライフルだ。装弾数もそこまで多くないと予想できる。
「弾切れどんまい!」
敵の攻撃がやんだ瞬間に鉛球を叩き込む。銃身は赤く焼け付き、ルーク方面から甲高い断末魔の声が聞こえた。これでボスは撃破完了だ。
『グッドショット』
「どうも。それよりもまずは鎮痛決めないと」
鎮痛効果が切れ始めたのか、体の節々が痛み始める。気づけば腹部からは血が大量に流れ出ていた。
『止血もだな』
アドレナリン注射器を腕にさして鎮痛投与。それから服を巻き上げて包帯で止血に取り掛かった。ふと耳がピクッと反応する。建物の中から二組の足音が聞こえてきた。
「足音も聞こえてきたところで止血完了。さてどう料理しようか」
相手は建物の中にいるみたいだ。窓からちらっとのぞき込むが敵の姿は見えなかった。
「グレネードで動いてくれるかな?」
グレネード(普通のね)を構えて建物内に投げ込む。音的に敵は一階にいることが確認できた。これで最低でも射線の通るところに移動、良ければそのまま爆散してくれたらありがたい。
「お。動いてくれた」
ダァァァンダァァァン!! バァァァァン!
爆音に合わせて射線の通るところに移動し、射撃を始める。グレネードに意識を持っていかれた敵はこちらに気付くことなく、僕のFMJ弾によって息絶えた。
「これでボス集団は全滅か?後でドックタグを回収してこよ」
マガジンを交換し、草むらの横で息絶えたブラッドハウンドのタグを回収してくる。これで回収タスクも完了だ。
『なぁ仁……お前ってやつは命知らずなのか?』
ダストがあきれたように声をかける。それもそうだ。普通の人なら降りるときに‘‘5m以上もの場所から飛び降りよう‘‘とは思わないだろう。
「命知らずってよりギャンブルの神とでも呼んでくれ」
ドックタグを回収し、使えるものを回収し終わったころ。気づけば太陽は傾き始めていた。
~タスク:Eliminate the intruders 二分の一完了~
△△△
僕は今、大変な目に合っている。どれぐらい大変なのかを例えるならば、頭の上から鉄骨が落下してきているぐらいにね。
「待て待て待て待て!何でガチムチのPMCが3人もいるんだよぉぉ」
現在の居場所は地下バンカーである‘‘D2バンカー‘‘。ついさっき、ルークの建物の中にバンカー内につながる入り口を発見。脱出口の一つとして地下バンカー脱出があったことを思い出した僕は、あたりを警戒しながらバンカー内に降りてきたところだ。
『あれはたぶん……会談に参加したと思われるKD社の野郎だな』
「何で分かる?」
『勘だ』
「……一回黙ろうか」
今はハスの戯言に付き合っている暇はない。敵は五人で全員がガッチガチに装備を固めている。それにも関わらず彼らの動きは素早く、重武装兵とは全く違うようなやつらだった。
「それにしてもなんだよあの動けるデブたちは……」
全員がバイザーを着用。来ているアーマーの質もよさそうだ。FMJ弾で貫けるだろうか?
『どうする?グレネードはもう底をついたが?』
「なるべくバレないようにしたい……」
敵の進行方向とは逆方向に身をかがめて進み、脱出口に向かっていく。このままいけば脱出できる。しゃがんで移動して3分後、敵の姿が見えなくなって安堵した瞬間。
バァァァァン!!
一つの爆発音が僕の体毛をすべて逆立てた。
「ねぇだすと……」
『受け入れろ』
「やだぁ……」
普通のグレネードならまだいい。それなら避ければいい話だ。でも今回の爆発はグレネードが原因ではなかった。なぜって?
『あの音を聞いたならそれは事実だ』
「なんであいつらはグレネードランチャーを持っているんだよ!」
身体を180度回転させ逃げ出す。それに合わせてポーンポーンと地獄のような発射音が聞こえてきた。後ろでは連続して爆発が起こり、一部の破片が体の伏婦氏に突き刺さる。痛い、そんな感情はあったものの気にするだけの余裕はなかった。
『しかも六連装のようだな。随分高価なものを使い追って』
「高価とかどうでもいいんだよ!ヒェッ!」
脱出口につながる扉を急いで開けて中に走りこむ。扉を閉めてグレランの被害を受けないようにしようとしたが
バァァァァン!!
「うぐ!」
炸薬を増やしたのか知らんけどドアごと破壊され、鉄の扉の下敷きになってしまう。
『仁!大丈夫か!』
「うぅ……」
足音は気づけば消えていた。どこかに去っていったのだろうか。でも今の僕には全く関係のない話だった。
『動けるか?』
「いや……まったくだ、くそったれ」
吐き捨てるように言って体の力を抜く。思った以上に扉は重く、体を負傷した僕では動かせなかった。血が滴れる、体が痛い。いつの間にか鎮痛も切れており、瞼が重く感じてきた。
「うぅ……無理かも……」
下敷きになってからどれくらいたったのだろう。最初は扉だけかと思っていたが、その上からはコンクリートも落下してきており、ここから這い出れる希望はなかった。天井からは小石がパラパラと振ってきており、崩落する前兆を見せている。しばらくの沈黙が続き、気づけば口が勝手に開いた。
「ダスト……人生って、山あり谷ありって言うだろ……?僕の場合、バンカーで、鉄の扉に挟まれてるんだけど……」
『まだ頑張れるはずだ!ここで……ここで終わっちゃどうする?お前は今までどうやって生きてきたんだよ!あんな大きな大義名分を掲げて死ぬってことはゆるさねぇぞ』
ダストから言葉をかけられるが僕には聞くだけの気力は残っていない。
「なぁダスト、教えてくれ。どうして、どうしてなんだ。希望はこんなにも近いというのに……なぜ手が届かないんだ」
『…………』
「僕はただ......もう少し《《生きる》》っていう感覚を感じたかっただけなのに。まだ目標が果たせてないっていうのに......残りは君が頑張ってくれ」
現在時刻 不明
『やっぱりやるしかないか』




