【プロローグ】これって労災出るの?
プルルルル プルルルル
トラスト市脱出から5か月ぐらいたった12月のどこかの午前5時頃。雪を抱きしめながら眠っていた僕は一本の電話によってたたき起こされた。
「むぅ……だれ……」
ピッ
「もしも~し」
手を伸ばしながらスマホを探し、電話に出る。腕の中では雪も目覚めたのかもぞもぞ動いている。
《朝早くに電話してすまない》
電話主はケイン先輩だった。どうしたんだろう?
「ケイン先輩~分かっているんでしたら電話しないでくださいよ~」
《そうと言っても一大事なんだ》
「これで一大事じゃなかったら今月の弾薬代をおごってもらいますよ」
《勝手にしろ》
ぶっきらぼうに返してくる。
《それで一大事のことなんだが…》
△△△
ウィーン
午前6時。東京の街を包み込む冷風に、体を震わせながら本部に足を運びこむ。いつもより2時間早い出社だったため、体が睡眠を求めている。でもそんなのは気にせず財団内の連絡橋から機動部隊管理室に向かう。
「失礼しま~す。月夜仁、参りました~」
部屋の中には見慣れた東京支部にいるα-0メンバーの顔が見える。それとテレビには会長さんとほかの支部なり本社なりに勤めているメンバーが映っていた。さりげなく僕の弟子君第一号の光君もいた。
《みんな揃ったようだな。まず最初に、急に呼び出して済まない》
《ジョージアン会長。いつものことですからいいですよ。ただ一匹はとても不満そうですけどね》
バンパーが言っているのは、おそらく僕のことだろう。確かに僕はとても不満を抱いている。いつもより短い睡眠時間のせいで、とても眠い。
《それよりいったい何が起こったのですか?》
バンパーが会長に質問する。
《先日、ロシアのトカルスト市で戦闘があったのを覚えているか?トカルスト市紛争と呼ばれている奴だ》
「えぇ、覚えていますよ。どうやら国連軍まで介入してきたようで」
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トカルスト市紛争。ロシア連邦の中堅都市であるトカルスト市で発生した紛争。最初は反亜人勢力によるデモだったものが、どこかで発生した発砲によって、暴動が巨大化。カルトや他勢力PMC、果てにはアドラスグループが関与している疑いも出てきた事件である。
現在はある程度鎮圧されたものの、未だに戦闘が絶えていない。街が封鎖された今では、狂暴化した住民とPMC、国連軍らによる三つ巴のバトルが始まっているとかいないとか……
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《そこの戦闘員の死体でカルトと思われる人物が見つかったんだ。おおよそ今回の事件もカルトがかかわっていると思われる》
《確かそこはアドラスグループが会社を置いてあり場所でもありましたよね》
さっきまで目を閉じていたガスターが目を開けて聞く。
《その通りだ。いままでカルトが出没したのはその国の重要な都市。今回のトカルスト市もロシア連符の重要な都市のうちの一つだ》
「いよいよカルトとアドラスグループの関係が気になってきますね」
《それでだ。今回は仁君と光君にトカルスト市に行ってもらってカルトとアドラスグループの関係を探ってほしい。国連軍にもそのことは言ってある》
うんうんと状況整理していた僕はその一言で脳みそが止まった。
「えっと…今なんて?」
《君と光君にトカルスト市に行ってカルトとアドラスグループの関係を探ってほしい》
嫌な予感がする。
「おっと……?ほかのメンバーは?」
《彼らにはアメリカに住んでいる元アドラスグループの情報部の最重要人物の護送に行ってもらう。終わったらそちらに向かわせる》
気づけば僕の耳はトロ~ンと垂れ下がっており、尻尾に関してはこちらも思いっきり垂れ下がっていた。やる気なしアピールだ。
「……ちなみに労災は?」
いくら仕事でもそれ相応の保険や報酬がないと僕らのような傭兵はやる気にならない。
ジョージア:『それに関しては労災はないが、報酬はいつもの10倍。いや20倍だ。今回の依頼元は国連と来たからな』
その一言を聞いた瞬間、垂れていた耳と尻尾がブンッ!とカザキリ音を立てんばかりの勢いで立ち上がった。
「分かりました!!」
一方光君は自分も行くのかと驚きつつも、師匠である僕と一緒に仕事ができると知って案外嬉しそうだった。
さてと、次の任務はヨーロッパにあるロシアのトカルスト市での調査。これまた嫌な予感しかしないが……まぁいいでしょう!
それではお仕事開始と行きますか!




