【エピローグ】コンテニュー
「すぅ…」
MMAVに揺られながら雪は僕の体に寄り添って寝ている。顔にはシップが貼ってあって、ここ数日何があったか伺える。僕は雪の頭をそっと撫でながら助手席に座っているバンパーに声をかけた。
「ようやく終わったね」
「あぁ……完全ではないけどな」
バンパーは険しい顔をしながら答える。
「あの本来のミッションの機密情報のことだね。結局見つかったの?」
「見つかったは見つかったが一部破損してたり、データが抜かれた部分がある。十中八九カルトの仕業だろう」
横に座っていたカインが答える。
「データって?」
「今回のトラスト市がカルトに占領された時の記事や裏情報をまとめたものだ。とりあえず最重要のものは破壊されずに済んだ」
カインがため息をついて体の力を抜く。
「その最重要なものっていうのは?」
「それに関してなんだが……これを見てくれ」
スマホを取り出してとある動画を見せてきた。そこにはカルトと思われる集団ともう一つの武装集団が映っていた。
「この武装集団は装備的にPMCだと思われる。そして装備の質や採用している車両、ワッペンなどから見るに、おそらく西側諸国に幅広く展開している‘‘コブラ・ディフェンダー‘‘という会社だと思う」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
コブラ・ディフェンダー。略称‘‘KD社‘‘。主に西側諸国で軍事的な仕事を幅広く承っており、その実力は世界最強傭兵集団と名高い僕らのWBF財団と誤差レベルだった。しかし彼らは汚職事件や炎上事件を多く起こしており、一説によれば裏社会ともつながっているとのこと。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「その説が成り立ってしまったって訳さ。そしてこれ以外にもまだまだ衝撃的なことがあるぞ」
画面を切り替えて続ける。
「ここのトラスト市は企業国家というのを知っているか?」
「うん」
「そしてその企業国家を管理しているのがアドラスグループというグループ会社なのだが、トラスト市にいた上層部以外全員死んでるんだ」
「えっと……つまりどういうこと?」
「カルトたちに殺されてもおかしくないのに死んでない。つかまってそうなのに捕まっていない。おおよそアドラスの上もカルトとつながっている可能性がなくもない」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
アドラスグループ。世界トップの家電・医薬品・食料品・軍事用品のシェア数を誇っているグループ会社。本社はアメリカのシリコンバレーにあるのだが、それとは別として企業国家「トラスト市」も所有していた。こちらもかつて、一度不祥事を起こしたことがあるという。そして近年は医薬品開発で人体実験を行っているといううわさが出てきた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「う~ん…なんか勢力図が複雑になってきたな。まだ未確定のこともあるし……」
「まだカルトとの対テロ戦争は終わっていないと思え。今後も奴らの動向を見ておかないとな」
「うん。奴らの教祖も捕まえてないし、まるで幽霊のように急に消息を消すからね」
「んぅ……」
トラスト市から本当に脱出できたという安堵感が僕を包み込み、睡魔が僕を襲ってくる。この三日間はしっかりとした睡眠をとった覚えはなかったな。僕のシートの後ろでは光君も疲れて眠っていた。
「さて……そろそろ一休みしますか。ふぁ~」
欠伸しながら口ずさむ。目を閉じ徐々に力を抜いていく。
「ふぅ……」
『お疲れのようだな』
「当たり前……でしょう。ふぁぁぁ」
ところでドラファさんはどうなったのだろうか。救助部隊によるとトランシーバーしか見つかってなかったようだけど………すぅ……
頭の中の疑問はいつの間にか消え、僕はしばらくの間雪と深い眠りについた。
~第二話、完~




