【第十話】Take And Escape(後編)
「がはっ!ぐぅ…」
ガスによる体への蓄積ダメージと視界不良のため避けるのがいつもよりむずくなっている敵の攻撃。それらによって僕の動きをどんどん鈍くなっていった。ガラス越しで声が聞こえなくてもわかる雪の泣き声。ここで終わってはいけないと思っても体が過去一に脳の命令を聞かなかった。
「くそが!」
どうにか炎やフラッシュで戦況を打開できないかと思ったが
「おっと、能力を使ったって意味ないですよ。あなたが動き、呼吸するたびにガスが体を侵食していきますのでね」
心を読まれていると思ってしまうほど的確な説明を奴から言われた。なぜ能力を使うと分かったんだ?
『いったんガス区域から離れろ!そのままだといずれガスで死ぬぞ!』
言われて体の向きを変える。今は一時撤退だ。
「すまないけどここの研究棟、すべてがガスに包まれているよ」
『マジで心読まれているのかよ!』
気のせいではないと思うほど的確な指摘。僕でなきゃパニくるね。
「さてと……私とだけ遊ぶのは少々つまらないでしょう」
彼は攻撃をやめて、腕を上げる。なんだと思ってにらんでいたのが悪かったと今思った。
「あのいけにえを捕まえなさい。われらの主も喜ぶだろう」
最後の言葉が聞こえた瞬間、一発の弾丸がほほをかすめた。
「あぶねぇ!」
すぐさま壁に隠れる。ガスのせいでよく見えなかったが足音的に十人弱はいるだろう。しかもどれも足音が重い。絶対重武装兵だ。
「さて、わたくしの手下も交えてあなたの死の果てまで遊びとおそうではありませんか」
「あの人。紳士そうに見えてめっちゃサイコパスなんだけど」
『俺をサイコパスと言ってたお前が馬鹿に思えてきた』
「黙れ」
さてとどうしようか。銃は持っているけど小口径だから重武装を貫通する可能性は低い。背中に背負っているスナイパーライフルで敵を貫きたいけど
「このガス濃度じゃ、スコープで探すことは無理だな」
『倍率的に視界が吹っ飛ぶだろ』
あいにくのガス濃度で敵も見えない。しかも体の動きが鈍い。不幸中の幸いとして、このガスが即死性の物質を含んだものじゃなくて助かった。さもないと今頃は三途の川にいるところだったよ。
「急げ!相手は階段の横にいるぞ!」
「まったく…動きが早いのは兵士としてよいもんだけどさ」
牽制がてらMP7をブラインドファイヤで敵に向けて牽制する。十発ぐらい牽制して銃を戻す。
「ダメだ。牽制しても重戦車ごとくこっちに来やがる」
『どうにかしろ。さもないとお前もろとも雪もいけにえにされて死ぬぞ!』
頭の中からダストの忠告が入る。即死性ではないといったものの、ある程度のガスダメージはある。ゆっくりだが体がどんどん毒に犯されているのが分かる。このままだと雪と一緒にとらわれていた男の子を助ける前に自分が先に死んでしまう。いったいどうすれば、と思った矢先
コロコロ
「グレネード!」
目に丸いものが移った瞬間、回避行動をとろうとして階段から転げ落ちる。踊り場に落下したタイミングで階段の上から爆発音が聞こえ、グレネードの破片が飛んでくる。何個かの破片が跳弾して太ももにめり込んでくる。
「ッ!!!!」
太ももから大量の血が流れてくる。大量出血を今すぐ止血帯で止めることをあきらめた僕は一本の注射器を刺した。
「フゥ…フゥ…」
僕の手には一本のラベルが貼られている注射器。過去にも何度か僕の命を助けてくれた「BT-8」であった。
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BT-8。正式名称は‘‘亜人用急速回復鎮静薬プロトタイプ8‘‘その名の通り、亜人用の鎮痛剤。この薬品には体の自然回復速度を上げることができ、大量出血もわずか数秒で止めることが可能となっている。しかしその仕組みとして体の代謝を早めることであるため、寿命を縮めてしまうことが危惧されている。
亜人用に開発されたため、人間が使用すると薬の成分として使われている高濃縮の麻薬が毒となって即死してしまうことがあるらしい(やったね!毒殺できるよ)
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「グルルルル…フゥ…フゥ…」
注射を指してからしばらく経つと、大量出血していた血は効果通り止血された。鎮痛効果もあるため、窮地に立たされて焦っていた僕は冷静になり、ハンターの顔に変貌していった。鎮痛効果が体中に回ってきて脳が落ち着きを取り戻す。気づけば頭の中では敵の殲滅へのプロセスを瞬時に導き出していた。
『いつもより使う判断が甘いな。そんなに窮地だったのか?』
「気のせいだ。それよりあの重戦車部隊を《《粉々》》に粉砕しないとな」
おそらく小口径だとレートでゴリ押しても倒しきれないだろう。そうなったら至近距離に近づいて首を切り裂くしかない。僕はナイフを右手に握って階段を上がっていった。音を立てず、ゆっくりと……
『あと少しだ。すぐ壁の横にいる』
「あぁ」
多分カルトは僕の気配がなくなって死んだのか気絶したのかと言い合っていると思う。
「もしかして死んだのか?」
訂正、予想が的中したから「言い合っている」に変更。いまなら敵の意識外から奇襲することができる。僕は体を前に倒し走り出す。
「さてと……狩りの時間だ」
『待ってたよ』
「ところで白旗がないんだがどうすりゃいい?もし降伏する時用に欲しいんだ」
『殺して奪え』
毎度毎度敵を殲滅するときはダストと意見の食い違いをしない。そもそもでダストの趣味が人が死ぬところを見るっていうことだからな。
「それじゃあまずは一人!」
「!!」
「回り込んでからの履帯切りじゃぁ!」
『それは対戦車の戦法』
気づいた時にはすでに僕の射程圏内に入っていた。階段のところに足を踏み入れたカルトの足元を狙って飛び込む。両足の膝裏を切り裂き、動きを止める。
「次は首!」
すぐさまターンし、首に向かって飛び込む。ネックアーマーを敵はつけていたもののバイザーの下を狙ってナイフを滑り込ませる。首筋に当たった瞬間に真横にナイフをひく。首元から鮮血が飛び出し、顔にかかるものの気にせず次の敵を探す。
「何事だ!」
異変に気付いて来たカルトにもまったく同じように料理する。BT-8によって筋力が一時的に増加したおかげでプレートキャリアを着ていても素早い動きができた。
「ぐはっ!」
いくら重装甲でも必ず弱点を持っている。そして僕はそこを狙うだけ。
「敵はあと8人!このままやるぞ!」
残りの敵に向かってガスの中に突っ込んでいく。なるべく息を吸わないようにしてガスを体内の中に取り込まないようにする。そうすることで毒がすぐに体全体に回を防ぐ。でもあくまで気休め程度。すぐに敵を倒してガスを止めないといずれは毒で死んでしまうし、雪たちも連れ出すことができない。
「あっちだ!すでに3人もやられているぞ!」
「気づいても遅い…よ♪」
軽く返してからナイフをカルトの首元にあてて横に引き裂く。相手は首から他のと同じように首から鮮血を噴き出して地面に倒れる。顔についた血をぬぐって異変に気付いたほかのカルトも同様に切り裂く。一人二人と倒していき……違和感に気付いた
「あいつはどこいった?」
リーダー格と思わしき人物がいない。たしかジャンクというものだった気が……もしや隠れたのか?
「こっちだ!撃て!」
「うぉ!」
そんなこと目先の敵を倒さないと!さっき倒した敵を肉壁として抱え込んで弾を防ぐ。少しガスが消えてきたのか敵の輪郭を視認することができてきたこれなら拳銃やMP7を使って攻撃もできそう。ホルスターからハンドガンを取り出し、二発を敵に向けて撃ちこむ。目先にいた敵はネックアーマーをつけていなかったから首から抜けれるかどうか試したが…
「くそ!全部バイザーに吸われてやがる!」
敵のバイザーに全部吸われていった。さすがに片手で狙わないで撃ってもまたもに当たるわけがない。でも有効打でなくてもヘッドには当たっているから脳震盪ぐらいは起こっているだろう。フラッシュバンを投げて一時撤退だ。下手に追い打ちをかけては逆に転がされてしまう。
「フゥ…フゥ…」
まだ鎮痛効果は切れていない。これは好都合だ。スリングにかけたままにしたMP7を取り出して残弾を確認する。
「だいたいフル」
ほぼ30発あった。これなら大丈夫だろう。なにせこのマガジンにはAP弾をパンパンに詰め込んできているからな。ポケットにしまった残り少しのチョコバーを口に放り込む。甘いチョコの味と同時に喉も乾きが脳に伝わる。
「水はいったん後だ」
敵の足音が聞こえる。そして銃を構えただろう。おそらく脳震盪は収まったと思うから下手に顔を出さない方がいい。彼らは今まであってきたどのカルトよりもエイムがいい。もし通路をロックされて照準をヘッドラインに置かれてもいたら、ヘルメットをつけてない僕の頭は確実に吹き飛ぶだろう。
「そしたらこれが最適解だな」
ロックされているとなればそれを外すしかない。僕はグレネードを取り出しピンを抜く。壁に向けてグレネードを投げ、敵を退けさせるつもりだ。
「フラグアウト」
バァァァン!! うぅぅあぁ…
敵の断末魔が聞こえてきた。どうやらうまくグレネードが刺さったみたいだ。
「まったく……手こずらせやがって」
重装備は高い防御力を誇るがその反面、動きが遅くなりグレネードなどの投擲物に対する回避行動がとりにくくなる。おそらくさっき倒したレイダーもそれが原因でグレに刺さったのだろう。
『まだ警戒を怠るな。ジャンクというものがまだいないぞ』
「そうだ!いったいどこに行ったんだ?」
五感を敏感にさせて、周囲の警戒を始める。雪たちが助けを今か今かと待っている祭壇室の前を通った瞬間。
「うぉ!」
LABO本館の方から爆発音が聞こえた。もしやカルトが設置した爆薬が爆破したのか?と思った。
「いやはや、見事な戦いでしたね。重戦車のレイダー集団をたった一人で壊滅させるとは……やはり実力を侮れないようですね」
突然後ろから声が聞こえる。驚いたあまり銃を落としそうになるという失態を犯した。後ろを向くとそこにはASh-12を持ったジャンクがいた。
「さて、施設の爆破のタイムリミットも近づいてきました。名残惜しいですが、あなたは私たちにとっては邪魔な存在。いけにえになってもらうか消えてもらいましょう
そういって彼は銃を構えた。
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ASh-12。ロシア連邦庁保安の要請で2010年にKBP社によって開発された対テロ部隊向けのブルパップ式アサルトライフル。
とてつもない大口径弾である「12.7×55mm」を使用するのだが、どんな障害物でも貫く性能ととんでもなく反動が大きいというThe玄人向けのライフルだ。財団内でも物好きで使っている人が何人かいた。
ちなみに同口径のリボルバーとしてRSH-12がある。これも反動がえぐすぎて肩が外れる。
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「うぉ!」
ほほに一発かすめる。顔から血が出ているがそんなのを気にする余裕もなく、僕は素早く壁裏に転がり込んだ。
「どうしました?先ほどまでの戦闘能力はどこに行きました?」
こいつは絶対大口径主義者だ。リコイル制御が完璧すぎる。絶対素人じゃねぇ!
『仁!そろそろ鎮痛が切れてきたぞ』
「まじかよ!」
これが泣きっ面にハチってやつか。またもや窮地に追いやられた。しかも鎮痛も切れた。すぐに鎮痛を決めないといけないが、下手したらその瞬間に詰めてくるかもしれない。
「……出てこないのでしたら彼女らとのお遊びを終了させますが?」
スキャナーが何かを読み取る音が聞こえてきた。もしかして祭壇室のドアを開けたのか?そうだとしたら雪が危ない。僕は鎮痛を決めずに壁を飛び出した。
『仁!馬鹿!』
「やはり来ますか。フェイクとも知らずにね!」
引っかかった!と気づいたときにはASh-12の銃口がこちらを向いていた。
ダダァァァンン!!
重厚な銃声が二発鳴り響き、プレートキャリアの防弾プレートを貫く。プレートは連戦によりボロボロになっており、ASh-12の大口径弾を防げるわけがなかった。
「うぐぅぅぅ…」
腹部と胸部の間と右肺に被弾する。大口径弾によるダメージは歴戦の傭兵である僕を軽々とひねりつぶすには十分すぎた。床に倒れこみ痛みに悶絶する。動かないと、戦わないといけないのに体が痛みによって脳の命令を聞かなくなった。
「痛い……うぅぅ……」
『仁!大丈夫か!』
今までにないほどの痛みが体を走る。なにせ12.7mmで体を貫かれたのは初めてだからな。鎮痛を決めようにも敵が自分の先にいる。下手に動くとすぐに脳天をぶち抜かれるかもしれないという恐怖が僕を襲ってくる。
「結局のところ……人外でもASh-12のダメージに耐えれることはないということですね。いやぁ~期待して損しました」
彼はしゃがみこんで僕の耳をつかみながら言う。銃傷によって流れ出た血がほほの上を流れていく。
「こんな重症になってはいけにえとして使えなさそうですね。狼は殺処分してしまいましょうか」
祭壇室のガラスの向こうから、雪が涙を流して首を全力で横に振っている。
ゴン!
鈍い音が僕の頭に直接鳴り響く。頭が地面に殴りつけられたことによりズキズキと痛む。
「われらの主神に逆らったものの結末を見せてやりますよ」
彼は僕の耳をまたつかんで僕の頭を何度も何度も地面にたたきつけた。何度かすると頭の横からも血が出た気がしてきて、出血多量なのか意識も遠のいてきた。うっすらと見える雪は今にも泣き崩れて気絶しそうな感じだった。
「うぅ……うぐぅ……」
「まだ生きているのですか?しぶといですねぇ~」
彼は乱暴に僕を地面にたたきつけてから立ち上がる。彼はホルスターからRSH-12を取り出した。そして銃口を僕の頭に突きつける。目を開けるのもやっとな僕はただただそれを見つめるしかなかった。怖い、死にたくない、そんな感情が走馬灯のごとく流れていく。
『仁!意識を交換してくれ!』
絶望にくれていた時にダストから忘れていたアイデアを伝えられる。
『お前が根気折れして動けなくても、俺が無理やり動かす!まだ生き残る方法はあるぞ!』
どうしようもなかった僕はダストの要求を呑んで目を閉じる。何もしなければどうせ死ぬんだ。それなら一矢報いてやりたい。体をリラックスさせると、ゆっくりと体の感覚が消えていくように感じ…
「まだ終わっちゃいねぇ」
気づいたら僕の体の主導権はダストにわたった。
△△△
「うぐ!な、なんでまだ動けるんだ!満身創痍のはずだろ!」
「動けてないのは仁の方だ。体本体はまだ動けるしな」
出血多量で動かすのがつらいはずなのに、ダストが痛みに耐えながら無理やり動かす。
「お前が仁ではないのですか!仁じゃないならお前は何者なんだ!」
ジャンクから悲痛な叫びが聞こえる。先ほどまで地面に倒れていた敵から急に炎が出現し銃を投げ捨てられているから当然だ。ダストは不敵な笑顔を浮かべながら、ナイフを握って歩いていく。
「僕……否、俺はダストだ。一般的には悪魔や死神と呼ばれる存在だな」
ジャンクの瞳孔が開くのがわかる。おそらくダストの発言に驚いただろう。信仰していた悪魔の一種が目の前にいる。一般人なら見たら驚いて腰を抜くだろう。
「お、お前は悪魔なのか?ならなぜけがれた獣人にとりつくんだ!人間側に立って亜人を排除すべきだろ!」
「ごちゃごちゃうるっせぇんだよ!」
ボゥッ!!
彼の横に垂れていた僕の血痕を能力を使って火柱を立てる。ジャンクはびっくりして体のバランスを崩して倒れる。さっきまでの勢いは消え去り、まるで肉食動物に襲われて窮地に立たされた草食動物のようにおびえていた。
「さてと……今度はこちらがこの遊びに終止符を打たせてもらおうか」
ゆっくりと近づいていく。彼は後ろにどんどん下がっていったが、壁に当たって下がるにも下がれなくなり、顔からは汗が滝のように流れ出ていた。人というものは立場が逆転するとこんなにも態度が変わるのか。自分が有利だと相手をけなし、自分が不利だと……
「た、頼む!命を刈り取るのはやめてくれ!何でもするから!」
命乞いや胡麻をするようになる。俺はこんな人間が嫌いだ。
「何でもって言ったな?」
「あぁ、何でもだ!何でもするからお願いだ!」
「それじゃあ、雪を傷つけた罰として死んでもらうか」
「まtt!!」
彼はまだ何かを言おうとしたが、ダストは口から言葉を出させる前にナイフを首元めがけて投げ込んだ。
ザクッ! ブッシュ
鋭利の刃がジャンクの首元に刺さり、血が傷の間から流れ出る。彼は眼を大きく見開き自分の首元を見て、こっちを向いたと思ったらそのままこと切れた。
「ようやく終わったな」
『うん……後は助け出して逃げるだけだね』
彼は死体となったジャンクのポケットからブラックカードキーを取り出し、祭壇室のドアを開けた。
△△△
「仁~!!心配したよ~!!うぅ……」
泣きながら雪が飛びついてくる。その後ろでは一緒に閉じ込められていた獣人の男の子が目の置き所に困っていた。
「無事だから心配しなくてもいいよ。それよりすぐに外に出ないと。いつ倒壊するかもわからないからな」
後ろにいる獣人君を見て声を掛ける。
「君もついてきて。ここにいる人全員生きて返すから」
「そ、その……助けてくださりありがとうございました。どうやってお礼したらいいのか……」
「お礼なんていらないよ。それより君の名前は?」
身体に抱き着いてくる雪の頭をなでながら聞く。よっぽど僕が死ぬのが怖かったんだな。
「暁光です。猫族の獣人です。あなたは……狼ですか?」
「ドンピシャ。それより君は銃を使えるかい?ハンドガンとか」
今の僕は鎮痛を決めて痛みをごまかしているものの、満身創痍には変わりようがない。できれば僕以外にもある程度戦える人が欲しいもんだ。
「警備部隊でライフルを使ったことがあります」
「なら十分だ。これをもって」
MP7を肩から降ろして彼に投げる。ラストマグも一緒に添えて。
「そいつにはAP弾がパンパンに詰まっているからな。操作方法は分かる?」
「えぇ。ところであなたは…」
「僕は自分のハンドガンを使うよ」
ホルスターから愛銃のガバメントを取り出して見せる。真っ黒に塗装された表面はところどころ塗装剝がれが見られた。
「ここから一番近い脱出口はセクターAと呼ばれる地下搬入口だ。そこまで距離はないけどレイダー集団には気を付けないとな」
LABOのマップを開き、セクターAの位置を指さす。
「セクターYは知っています。実はここの貨物用エレベーターから行けば普通に行くよりもっと早く行けます」
光君がマップの一か所を指さしながら衝撃の事実を言う。
「えっと……もしかして警備してたのは…」
「はい。LABOですね。しかも研究棟内のを」
「それだったらその貨物用エレベーターまで連れてってくれないかな?まさか内部構造に熟知している人がいたとはね」
「お役に立てて光栄です。それではついてきてください。なるべく体に負担がかからないようにゆっくり歩きますね」
△△△
セクターAにはたくさんの車と貨物、そして警備員の死体があった。道中の出来事は省いておこう。エレベーターを通る道は決して楽だったわけではないとだけ残しておこうか。
「ゲートの開け方は……」
「後ろのコントロールルームにあるスイッチを押したら開きます。ちょっと待っててください」
そういって彼はコントロールルームに向かって走り出した。ようやくこの地獄から出れる。出たらすぐに信号弾を撃たないとな。プレートキャリアに括り付けたフレアを見ながら考えた。そうこうしているうちに光君がスイッチをつけたのか、目の前のゲートがゆっくりと開き、ゲートが開いたことを伝えるアナウンスが鳴り響いた。
「仁さん危ない!」
ようやく出れるという安堵感によって僕は目の前を何も見えていなかった。一発の弾丸がほほをかすめたことで現実に精神が戻ってくる。またカルトの野郎か!なんで僕の悪い予感はいつも的中するのだろうか。僕は遮蔽の裏に隠れながら考えた。
「交戦!」
光君が後ろから応戦している。雪に関しては最初から少し離れたところで待機していたから大丈夫そうだ。また前を見ると次々と敵がなぎ倒されていく。こりゃあ驚いた。思った斜め上の射撃技術を光君は有していたんだな。
「オールキル!いきましょう!早くこの地獄から離れましょう!」
瞬く間に敵を一掃した彼が先導し、僕と雪が後ろからついていく。もう問題ないなと思った時
「Wait!」
ダァァァンダァァァン!!
カルトの声とともに二発の弾丸が飛んでくる。一発は僕の足に、もう一発は雪のほほをかすめた。鎮痛を決めていても痛いものは痛い。体のバランスを崩し地面に倒れれる。やはりそんな簡単に逃げれないようだ。光君はすでに上がりきって助けれそうな気はしない。こうなったら自分で片づけるしかない!そう考えた僕はガバメントの照準を敵の頭に合わせる。敵はすでに光君によって半死状態になっており、まともに銃を持てない状況だった。それでよく狙えたもんだ。
「仁!大丈夫?」
「気にしないで。すぐに耳をふさいで!」
失敗を許されない一発。当たらなかったら自分と雪の命が危ない。息を吐きだしトリガーをひく。ゆっくりと、でも確実に。
ダァァァン!!
銃声が通路の中で反響する。後ろから足音が聞こえてきた。おそらく光君だろう。45口径の弾丸は真っすぐカルトの頭に飛んでいき、眩しいマズルフラッシュが僕の視界を包み込み……
ビシャァァ!!
全てが終わった
現在時刻9:01 脱出成功
合流済みメンバー:全員
未合流メンバー:0名




