【第五話】敵と味方がごちゃ混ぜ状態
戦闘をしている最中、ドラファさんを見るたびに僕の頭の中では右から左、上から下へと疑問が横切って行った。
彼は何者なのか
敵なのか味方なのか
味方ならなぜ攻撃してきたのか
ここで何をしていたのか
などなど…
考えれば考えるほど思考の沼にはまっていく。でも今はそんなのを本人に確認するほどの余裕はない。なぜって……
Broooooooooooooooooooo!!!
けたたましい銃声とともに弾幕がこっちに向かって飛んでくるからね。
「なんであいつらは|MG42《ヒトラーの電動ノコギリ》を持ってんだよ!僕も使いたい!」
「「「嫉妬かよ!」」」
「頭隠せ!こいつは仁のマグナムよりやべぇぞ!」
そんなバンパーの警告もMG42の銃声でかき消される。本当にこの音が嫌いだ。今、僕らがいる場所はORIから出てすぐのところのバリケード。先ほどカルトにグレネードを投げて奥に下がらせることはできたけど、まさかそこにMG42が設置されているとは思いもしなかった。ドラファさんの結界も切れ、全く動きようのない状態に僕らは現在進行形で陥っていた。僕は耳を両手で抑えながらドラファさんに質問を投げかける。
「ド、ドラファさん。もう一回結界を出すことはできますか?」
「出すことはできますけど…あの量の銃弾が飛んできてはすぐに切れてしまいます。お力になれずに申し訳ございません」
そう言いながらドラファさんは首を横に振った。
「いえいえ、無理なものは無理です。無茶させたくもありませんですし」
ドラファさんが無理となれば他に何がある?今いる人でまともに作戦立てれそうな人は誰一人いないしドラファさんは僕らの名前すらもまだわかっていない。そんな人が早々僕らに合う作戦を立てられるはずはない。いったいどうすればいいのか、そう悩んでいた時
《……おい、バンパー聞こえるか?》
無線の向こうから希望の光がこんにちはしてきた。これはまさに勝利の女神、否オペレーターが舞い降りてきたってやつか!
「しばらくの間あっていなかったな。優秀なオペレーターのカインよ」
《今は無駄話をしている暇はないはずだと思うが……違うか?》
「全くその通り。今の状況を説明するからちょt」
《その必要はない。やつらの銃声がでかすぎて、だいたい予想がつくからな》
無線の向こうで僕らのオペレーター、カインが笑った。
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パルロセ・カイン。元中央情報局所属のオペレーター。同局内でも有数のオペレーターであり、一時期は米軍にも所属していた……らしい。特技は作戦立案であり、いかなる戦況でも最適な作戦を即座に作ることが可能の人物である。
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「作戦はあるのか?」
《ある。今そっちにドラファという人物がいるだろ?》
「そうだけど……何で知っているの?」
《後でいう。仁は彼が展開した結界に合わせて炎でデコイを設置。敵の注意力がそっちに向かった瞬間に畳みかけろ。それに合わせてこちらも背後のバックヤードから攻める》
「君たちそんなに近いところにいたのかよ!?なんでもっと早く出てこないんだよ!」
《タイミングの問題さ。とにかく今すぐやれ。ドラファさん、できますよね?》
そういわれてドラファさんはしばらく悩んで、答えた。
「行けます。でも一か八かの作戦ですね」
《勝てりゃなんでもいい。これが今思いつく最善の作戦だ。グレネードを投げてもあの弾幕とバリケードには焼け石に水だろう。それじゃ、行くぞ!》
その一言に合わせて僕とドラファさんは同時に自分の能力を使用した。
「ていうか、焼け石に水っていう日本のことわざ使うんだ」
全員分のデコイを作り、手前のスタッフ用出入り口に向けて動くように命令。そしてドラファさんはそれに覆いかぶさるように結界を発生させた。結界は敵の弾幕によってあっけなく消え去り、思惑通りにカルトの注意がデコイの方に向いた。
「だま、ん!騙されたな!」
「そこでかむな」
決め台詞を嚙んでしまったのは置いておいて、弾幕がデコイ方面に向いた瞬間、僕は愛銃を構えてトリガーを引いた。
スパァァァァン!!
.338ラプアマグナムは見事な弾道を描いて機銃についていたカルトのヘルメットを貫通し、後ろにいた別のカルトもつまみ食い感覚で空のかなたに魂を葬った。
「Frag out!」
そして僕の銃声に合わせてバンパーがグレネードを投げた。反撃開始ののろしだ
△△△
「ちくしょう!人が多すぎる!邪魔だてめぇ!」
見た目に合わない暴言をつぶやきながら味方とともにカルトとの乱闘を繰り広げいく。
僕とドラファさんは同時に能力を発動した後、バンパーがグレを投げて敵を混乱させて合流したマリーの部隊と一緒に機銃部隊を殲滅できたのだが……
「誰が!この!カルトが!さらに増援しに来るってわかるんだよ!しねぇ!」
「無駄口をたたくなカルイ。殺せ」
なんと僕らが来たORI方面やバックヤード、さらにはEDEAからもカルトが増援しに来た。しかしあまりにも交戦距離が近すぎる、カルトも誤射されたくなかったのか銃を持った人同士とは思えないようなこぶし同士のぶつかり合いが始まった。
「よいしょ!」
左腕を重心にして地面につき、足で相手の顎を蹴り飛ばす。すかさず後ろのやつに飛びつき三角絞めを行い、二人のヘッドラインを合わせてダブルキル。ひさしぶりにこんなに血が舞う戦場を見たよ。
「本当にすごいわね、仁君」
ザクッ!
「これで4人目かな?」
「そんなの考えてる暇はないはずだろ?ははっ」
自分でいうのもあれだけど、みんな強い。何気にここにいる全員は、入隊前に1対5の格闘試合をやってから入っている。老若男女関係なくここのメンバーは格闘にたけている。そのせいか、みんな余裕そうに軽口をたたっきながら戦闘していた。ちょっとやりすぎな気もするけど…
カルトとの乱闘中、何度か味方に攻撃をしそうになった。何せ16対30(目測)の大乱闘だったからね。当然ながら無傷で勝つわけもなく、何か所かはナイフによる切り傷を食らった。
「よ……ようやく終わった」
カルトとの乱闘開始から15分後、ようやくケリが付いた。結果はぼくらの勝利。でも敵の人数が少しでも多かったら負けてた可能性があったため、圧勝とは言えない戦いだった。
「それじゃ、本当の目的ので食料品を回収しに行くか。…疲れた」
しかし、戦いに勝っても僕らのミッションは終わっていない。なんだったらこれからやることが本当のミッションまである。しかもただただだるい作業だ。
「ん~!いっちょやりますか」
「えぇ、めんどい作業をね」
僕らは重い腰を上げて本当のミッションである「食料回収」を始めた。
△△△
作業開始から数十分、僕らは食品量販店のゴリャンでの食料回収を終わらせてカルトが消え去ったメインホールに集合した。多分、数日分の食料は集まっただろう。そっからしばらく、ドラファさんに自己紹介やその後のルートなどの確認をした。
「それじゃあ、先を急ごう。できれば今日中に国境付近までは移動をしたい」
バンパーがみんなに声をかけて立ち上がった時、ドラファさんが彼を呼び止めた。
「バンパーさん。出る前にお聞きしたいことがあります」
そう言って彼はスマホを取り出し、何枚か画像を見せた。
「彼女に見覚えはありませんでしょうか?獣人の女の子らしき方ですが……」
「獣人?なんでだ?」
「昔にあったことがある人物なんですが、忘れてしまって……あなた方なら何か知っているはずだと思いましてね」
「どれどれ?」
気になった僕は横から覗き込んだ。さっきまで好奇心に満ち溢れた僕は覗き込んだ後、崖に突き落とされたような絶望に変わった。
「……ゆ…き?」
どう見てもそこにいたのはカルトに車の中に連れ込まれている僕の大切な人《月夜雪》だった。でもなんで?なぜ彼女がカルトにつかまっている?車に乗せられてどこに連れてかれている?頭の中で疑問が無限に出てきた。
「彼女って仁さんの知り合いでしょうか?」
「知り合いどころじゃすまないぐらいの関係よ。俗でいうなら『夫婦』って言った方が正しいぐらいよ」
「なん……で?」
そう言って僕は膝から崩れ落ちた。頭の中は真っ白。連れていかれる心当たりもないし、彼女が何かした覚えもない。
「どこに向かったかわかりますか?ドラファさん」
「一応二か所に絞り込めています。一か所目はロングビーチ近辺にあるバンカーとカルトの本拠地の」
そう言ってドラファさんは画像を切り替えた。
「《《LABO》》です」
ちらっと見上げた先には白い研究施設の画像が載っていた。
「カルトたちは信仰している神を現世に降ろすために儀式を行おうとしているのですが、そのいけにえとして獣人が選ばれることが多いと聞いたことがあります。たぶんそれが原因で連れていかれたと……」
「ドラファさん、助ける方法はまだありますか?」
僕は今にも泣きそうな顔で聞いた。
「まだ可能性があります。基本的に儀式の日は毎月の最終日の夜。つまり《《明日の夜》》、日付が切り替わる零時に行われるとのことです」
「てことはまだ一日と半日の時間があるってことだな」
「えぇ、その通りです。仁さん、まだ助けれる希望はあります」
「分かりました!でもまずはどこから?」
希望があると気付いた僕はスクッと立ち上がって問いかけた。
「まずはロングビーチにあるバンカーからですね。バンパーさん、街の地図はお持ちでしょうか?」
「確か持ってた気がするが……あった!」
「ありがとうございます」
そしてドラファさんはマップを広げて一か所を指さした。そこは今いる場所からそう遠くない海沿いにある山だった。
「ここですね、バンカーは。そして工業地帯はここにあって、その斜め上に「アクロス」があります」
「そうときたら今すぐ行くぞ!雪を助けるために!」
「「「「「「「「おぉ~!!」」」」」」」」
みんなが声を張り上げた中、一人だけ黙っていた。
「……ドラファ。お前っていったい何者なんだ?なぜカルトについてこんなに知っている?なぜ資料の用意がそこまで周到しているんだ?」
「なんというべきですかね。ここのオーナーの執事だったといえばわかるのではないでしょうか。写真は昔に撮ったものを使いまわしただけですよ」
「……ふ~ん」
僕らが出発の準備をしていた中、横ではそんな会話があったがその時の僕は全く心に留めていなかった。雪が誘拐されたことにしか頭が回っておらず、それ以外のことを考えるための脳の容量がなかったからね。
△△△
「そこの部隊!今すぐに奴隷のメス獣人を差し出せ!さもないと痛い目にあうぞ!」
戦闘が終わって、準備をして、いざバンカーへ!と思っていた矢先、工業地帯で変な輩に絡まれた。その工業地帯は要塞化されており、そして僕が思う「今すぐ死んでもらいたいやつナンバーワン」は監視塔らしき上に立っていた。
「……あんた、誰?」
アイサは目を細めて問いかける。そもそもでそいつが言ったことを僕たちは理解していない。ここの部隊に女性はいるがメスの獣人はいない。いったい誰のことを言っているんだ、あの《《馬鹿野郎》》は?
「我が名はターネル・オーガー!この工業地帯の工場長‘‘キリル・ギラ‘‘に直属の優秀なぶk、うぎゃぁ!!」
「ちっ……刺さんなかったか」
雪を助けようとしているのに足止めを食らった僕は相当イラついていたのか、気づけばナイフを投げていた。手から放たれたナイフはきれいな曲線を描いて飛び、オーガーというやつの真横にぶっ刺さった。
「そもそもで、僕らに女性はいても女性の獣人はいないよ?まして奴隷なんか」
「とぼけたふりをするのではない!さっきナイフを投げてきたやつのことを言っているのだ!」
その時、僕の中で何かがプチッっと切れる音が聞こえた。その時の僕はほんわかした顔でもないし狙撃時のハンターの顔でもない。ただただ憎悪と怒りが満ちた真顔だった。イラストでいうならば目のハイライトが消え去っている状態だろう。
「……殺す」
「……はっ?」
「てめぇ、ぜってぇ殺す!!」
「あ~あ……あいつやっちゃったね」
「うん。死んだわあいつ」
「禁句言いやがったぞ」
「死んだら念仏唱えればいいだろ」
「仁さん落ち着いてください!」
その時の僕は、あのゴリラみたいな顔を粉々にマグナムで消し去ってやると考えていた。
現在時刻14:48 日没まで約4時間半
合流済みメンバー:仁、ジェイド、バンパー、ハス、アイサ、ガスター、カルイ、ケイン、マリー、カイン
未合流メンバー:残り6名




