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【祝2000pv!】ケモミミ傭兵お仕事日記   作者: 広報部のK
【第二章】ケモミミ傭兵、お次は脱出が任務です
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【第四話】嵐の前の静けさならぬ乱闘の前の余興

 湿った空気が僕の耳と鼻の中に流れていく。いい意味と悪い意味が両立している朝が来た。いい意味は‘‘僕らはまだ死んでいない‘‘ということ、悪い意味は‘‘まだまだ地獄のような場所を歩く必要がある‘‘ということ。

「はぅぅぅ……いい天気♪」

 ここが地獄(トラスト市)と忘れてしまいそうなぐらいいい天気だ。その時、後ろから誰かが覆いかぶさってきた。無防備だった僕はそのまま地面に倒れる。

「ひゃうっ!!な、何!?」

「仁君おはよ~」

 どうやら寝起きのアイサだった。彼女はずっと覆いかぶさってにおいをかいでいる。本当に元米軍の人かと思ってしまうような行動だ。彼女のプライベートは全部こんな感じなのか?

「アイサ、今すぐ起きて。仁が苦しそうにしているでしょ」

「は~い…」

 アイサに押さえつけられ、身動きが取れなかった僕を見かけてマリーが助け舟を伸ばしてくれた。

「ふっ……ほほえましい光景だな」

 カシャ!

 シャッター音が鳴り響き、ガスターが回れ右をして逃げる。

「写真撮らないでよ!ねぇ!今すぐ消して!」

 僕はガスターからスマホを奪うべく、彼に向かって走り出した。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 さて‘‘こんなにふざけても精鋭と名乗っているのか?‘‘と思う人もいるだろうからいったん説明しよう。

 僕ら確かに財団の精鋭だ。でも同時に人でもある。そのため疲れやストレスも一般人と同じように溜まっていくのだ。ストレスが溜まると、集中力が低下して仕事に支障が出る。そのため、今のようにふざけてストレス発散することも多々あるのだ。決して仕事をさぼっているわけではない……多分


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 ドタバタな朝が過ぎ、次の中継ポイントを目指すべく僕らはまた歩き旅《脱出》を開始した。湖を通り、森から抜け出し、僕らは不足する食料品を回収すべくインターチェンジにあるショッピングモールに向かっていった。

                △△△

「つ、疲れた……」

「大丈夫だ、動けと思えば動ける」

「厳しくない?」

 歩き始めてから1時間以上が経過。僕の足はすでに限界状態に近づいてきた。いくら傭兵でも、昨日の戦闘と途中の全力ダッシュのせいで足が絶賛筋肉痛になっていては無理がある。それにプラスしてこの長距離移動だ。死にかけの足に追加攻撃だよこれは……

「と、とりあえず休憩しよ?ねぇ?」

 そう隊長のバンパーに願った。バンパーはう~んとうなって考え

「わかった。お前が可愛いことに免じて休憩しよう」

「やったー!」

 嬉しすぎた余りにその場でハイジャンプし、満面の笑みをこぼした。ただ理由が変な気がするけど……

 そして僕に対して休憩は必要ないと言い張っていたガスターは不満そうな顔をしていたが、本人も疲れているのか反論はせずにそのまま道端に座った。ほかのメンバーも各々休憩を始めたので僕も肩に荷物を寄せて、そこに頭を乗せるようにして仮眠を取り始めた。休憩を欲していた僕の体はすぐに眠くなり、目の前がだんだんと暗くなっていった。

                 △△△

『運命は終焉に向かっている』

「うわぁ!!」

 どすのきいた声によってたたき起こされ、真っ暗だった世界が一気に色とりどりの風景に代わっていく。しばらくの間は目の焦点が合わず、訳も分からないまま虚無を見つめていた。

「ど、どうした?」

「大丈夫?」

 急に大声をあげて飛び起きた僕をみんなが心配して見つめてくる。

「しゃべれるか?反応しろ」

 バンパーからも声かけられようやく気が戻った。

「だ、大丈夫……心配かけてごめん」

 とにかく脱出に必死になっている仲間に‘‘余計な心配かけたくない‘‘との思いで今回も噓を吐く。みんなの心配はありがたいけど、今は脱出に集中しないと。

「そう、ならいいけど」

「なんかあったら爆破してやるからな」

「なんで物理的なんだよ」

「う、うん……みんなありがとう」

 若干顔を暗くして返事する。

「それじゃあ、休憩もできたことだし出発するか」

 顔を暗くしている僕とは別に、部隊メンバーのみんな元気にインターチェンジ付近の「アクロス」に向かう準備していた。

                △△△

 ハイウェイ沿いを道なりに沿って歩き目的地の大型ショッピングセンター「アクロス」はすぐ目の前。でもその時僕は何かを見つけた。

「みんな隠れて、屋上に狙撃手がいる」

 アクロスの屋上にカルトの狙撃手と思わしき人物が3名いた。距離にして約500ヤード、メートル表記だとおよそ400m強もある。

「距離は500ヤードぐらい?大体450ぐらいかな?」

「距離は457m。ほぼドンピシャに言い当てているじゃねぇか」

「それはどうも。風速は?」

 すぐさま放棄されたピックアップトラックのフロントバンパーにバイポットを立てて狙撃体勢に入った。

「風は東から1m。それよりどうやって見つけたんだ?元狙撃手の俺でも見えねぇぞ」

「屋上で不自然に動くものが見えた」

「人じゃねぇ」

「人外だよ」

 そういい僕は冷たいトリガーに指をかける。敵はまだ気づいていない。これはラッキーだ。

 「敵もしっかり3名っと。しっかり殺れるか?」

 そう聞かれ僕はいつものホンワカしている顔ではなく獲物を絶対逃さないハンターの顔で返す。スコープの倍率を調整して、距離に合わせて狙いを微調整する。

「殺れるかどうかじゃない」

 そこまで言い、トリガーを引ききった。サプレッサーを付けても大きく聞こえる銃声も、100mも超えればあまり聞こえなくなる。

 スパァァァァンン!!! ガシャコン

「殺るんだ」

 一人目が血しぶきを上げたのを見届け、次のターゲットに向かって同じく.338ラプアマグナム弾を頭に撃ちこむ。焦らず正確に。そうやって最後の一人も無事に空のかなたに葬った。

「|Enemy downed《敵撃破》」

「グッジョブ。先を急ぐぞ。早くその物騒なマグナムライフルを担げ」

「マグナム弾を使うリボルバーを持っている奴に言われたくないな」

 アクロス屋上にいた狙撃手を倒し、僕らのアクロスへの侵入劇が始まることとなった。


 え?バトルシーンが少ないって?大丈夫大丈夫、これはまだ戦闘の余興の余興だから。本当の戦いはこの後にあるよ……


結構先だけどね

                △△△

「バンパーだ。ORIのバックヤードに入った。ほかのところはどう?どうぞ」

《こちらマリー。地下駐車場に入れたわ。敵影はなし、やけに静かよ。どうぞ》

「了解。EDEAの従業員エリアで集合な」

《コピー》

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 今僕たちがいるところはアクロスという名の大型ショッピングモール。つい先ほど屋上にいる狙撃手を倒して入ったところだ。8人で固まると流石にばれるため4:4で二手に分かれて片方は地下駐車場から、もう片方はORIというホームセンターのバックヤードから侵入することになった。

 ちなみに僕がいるのはバンパーたちのグループ。ショッピングモールの中は一応電気が通っていて多少の明かりは確保されているが、夜になると全く見えなくなりそうな感じだった(目に暗視機能あるから詳しくはわからん)そして集合場所の「EDEA」は全世界チェーン展開している家具・電化製品を販売している専門店だ。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「お前ら、使えそうなものは取っておけ。バックパックはみんな背負ってきているだろ?」

 バンパーの提案にみんな同意する。備えあれば患いなしだ。実際、周りを見渡すと使えそうなものが大量にあった。水道管やバール、ワイヤー等々。工夫すれば強力な武器になるものがそこら中にあった。

「あぁ、わかった。敵の頭をカチ割ることができるものを探しておく」

「もう少しまともな道具を見つけない?物騒だからさぁ」

「何言ってるのよ仁。ここは戦場だよ?物騒って単語以外に状況説明できないような世界だよ」

 そういやそうだった。

「とりあえず、使えそうなもの拾っておいて。この水道管とか」

 そういってバンパーは棚から水道管をひょいと取り出して見せてきた。工夫すれば使えるといったものの、いったい何に使うのか見当もつかない。

「それ……何に使うの?」

「愚問だろ。鈍器に決まってんだろ?常識的に考えて」

「いや、その常識は知らないよ!勝手に変な常識を作らないで!」

 言い終わった後にしまった!と思ってしまった。ここはカルトがいるかもしれない空間なんだ。変に大声出すと襲われるかもしれない。僕はすぐに周囲を警戒したが

「やけに静か……だな」

「うん。僕ら以外に全く人の気配を感じられない……怖い」

 周りには全く()()()()を感じなかった。

「でもあれだけはあるね」

「あぁ、いやになるぐらいにこれだけは感じられる」

「な、なにが?」

 ハスが問いかけてくる。

「「殺気だ」」

スパァァァァンン!!

 一発の弾丸が飛んでくる。弾丸は0.1秒前に頭があったところの空気を切り裂いて飛んで行った。もし()()を感じて避けていなかったら今頃頭が……いや、やっぱり考えるのはよしておこう。

 ピィィン!

 銃撃された後、間髪入れずに蛍光灯が切れている暗闇からグレネードが飛んできた。

「みんな隠れて!」

 すかさずライフルでグレネードを撃ち落とす。運良く雷管には当たらずに炸薬だけに当たったのか、グレネードは爆破することなく粉々に砕け散った。

「さすがは亜人族の中でも戦闘よりの獣人。銃弾も避け、宙を舞っているグレネードも撃ち落とすとは……非の打ちどころもないですね」

『「……誰だ」』

 偶然にもダストと声が被った。いつも「死」以外に興味が持たないダストですら興味が持つ人物は絶対何かヤバい。そう本能が叫んでいた。でも、僕の本能の訴えは好奇心には勝てなかった。味方とともに銃口を闇に向けて構え、じりじりと近づいていく。

「お前は誰だ?」

 バンパーが左から展開しながら暗闇に声をかける。

「これは失礼しました。初対面の人には先にご挨拶が礼儀でしたね」

 そういってそいつは暗闇から姿を現した。その姿は人々に()()()()を思い出させるような見た目だった。それはまさに吸血鬼だろう。

「吸血鬼……なのか?お前は」

「厳密に言えば間違ってますけどね」

 先ほどまで誰もいなかった空間から名の通り現れた彼は、執事のような服装だったがほのかにミリタリーテイストな雰囲気をかもしていた。顔は白く、目は僕と同じよう赤だったが一部が黒に染まっている。ただ、彼を見ていると警戒心よりも懐かしさがあふれてくる。いつなのか忘れた遠く離れた、僕がまだKRPの社員だった時代……今となっては連以外の知り合いの顔を思い出せなかった。

「それでは皆さん初めまして。吸血鬼と人間の混血のフィード・ドラファです」

「人間と吸血鬼の……混血?君は亜人か?それとも人間なのか?」

「私にもわかりません。でも、そこの獣人に近いものではないでしょうか」

 ドラファ。そう名乗る人物は僕を見つめてきた。

「仁。お前も混血なのか?」

「そうだ……ね。うん、そうだ」

 実際に僕のお父さんが人間でお母さんが獣人だ。それで考えると彼は僕に似た存在といってもおおむね間違ってはいないだろう。

「とにかくお前はなぜ俺たちを攻撃してきた。カルトの手先か?」

 左に展開していたバンパーがベクターの銃口を向ける。指はすでにトリガーにかかっていて、いつでも撃てる状態だった。

「いいえ。ただあなた方の狼くんに興味がわいただけでしてね」

「それで人が死んだらどうするんだ」

「彼のことですからそれはないでしょう。それよりも」

ダァァァン!

 そういって後ろに振り返ってORI入り口付近でこっちを狙っていたカルトの頭を吹き飛ばした。僕らも素早く遮蔽に身を隠して応戦を始める。ドラファさんと話していて忘れたが、ここでの最大の脅威は()()()だ。その前では僕らとドラファさんの間に敵も味方の関係もない。

「応戦しろ!」

ダダダダァァァ!!!

 ORIの入り口では大量の硝煙が充満し始め、怒号や悲鳴が聞こえ始める。

「本当に嫌な敵が介入してきましたね」

「えぇ、とりあえずは協力するか」

 まだ敵か味方かわからないドラファさんだが、カルトが共通の敵ということを理解し一時の同盟が結ばれた。

                 △△△

「こいつらはどこから来てんだよ!リロード!カバーしてくれ!」

「多分EDEA方面から流れてきたんでしょう。確かあちらにはカルトのキャンプ地があった気がします。おそらくわたくしの銃声が原因できたかと……」

「理由分かってるのでしたら応戦してください!」

 昨晩のカルトよりも多い気がしてきた。いったい何人いるんだ?

「横!」

 タァァン!

ガスターが左サイドの向って発砲し、裏取りしてきたカルトの頭を撃ち抜く。どうやら左側には従業員用の入り口があるようで、僕らの守備範囲が拡大してしまった。

「あっちにも入り口があるのかよ!」

 僕たちがいる場所はとてつもなく不利な場所にいる。ちょうどよく二つの入り口から射線が通っている。どうにかして一か所を潰して移動しないと!そう思ってグレネードを取り出したが弾幕が激しすぎて全く頭を出せない。いったいどうすれば…

「チクショウメ!何か役に立つ道具はないのか!」

 そういってバンパーはバックの中からさっきの水道管とどこで拾ったが分からないゴムや鉄の棒を取り出した。彼が取り出したアイテムを見た瞬間、僕は今の状況を打開すべく方法を思いついた。

「バンパー!鉈を貸して!」

「……もしかして打開策を思いついたのか?」

「その通り!汚い花火を上げてやるよ!」

「さっきのアイテム回収が打開策の元となるとはな……さすがは俺ってところか?」

「それはないな」

 ガスターに心をえぐられたバンパーを横目で見ながら、僕は鉈を水道管に鉄の棒が入るすき間切り出した。水道管に棒が前後に動けるスペースを作ったって言った方がわかりやすいかな?

「ここにゴムを固定して……できた!簡易グレネードランチャー!」

 さっき開けた穴にゴムをくっつけた棒を通して、水道管の口の両端に固定。管の中にグレネードを入れて引いて放すことで猛スピードで発射することが可能となっている。後はこれをカルトに向かって放つことだが…

「グレネードですか。発射するまで援護しますよ!」

 そう言ってドラファさんは何かの黒い結界を僕らの前に展開した。こちらからは向こうが見えているが、どうやら向こうからはただの真っ暗な闇が現れているみたいだ。多分さっき攻撃してきたときもこれを自分の前に出していただろう。だから暗視機能のある僕の目でも向こう側が見えなかったのだ。

能力(アビリティ)ですか。闇属性なんですね」

「これは一種のテレポート魔法です。一時的に前から飛んできたすべてのものを虚無に飛ばします」

 これは好都合。敵からは弾も飛んでこなくてこっちが何をしているかもわからないと来た。

「ドラファさん、ありがとうございます!」

 タイミングを見つけて、ピンを抜いたグレネードを管に入れて棒を引く。そして棒を放し、勢いよく飛んで行ったグレネードは見事のカルトの顔面に当たった。あまりにも早かったのかそのカルトの顔面は陥没し即死、他のカルトはグレネードから逃げるように引いていったが爆散。僕らはそれに合わせて前線を上げて行った。


……が抜けた先がまた一つの絶望だったとは思いもしなかった。


 現在時刻11:17 日没まで約8時間

合流済みメンバー:仁、ジェイド、バンパー、ハス、アイサ、ガスター、カルイ、ケイン、マリー

未合流メンバー:残り7名


 

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― 新着の感想 ―
水道管は鈍器じゃない役立ち方でしたねー。 まさかの使い途でした! ドラファの目的が気になります! 以下二ヶ所ほど、読んでいて「ん?」って思ったところです。 ・アイサの経歴がエピソード14で「元米軍…
2025/06/15 12:42 退会済み
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