【第一話】今回の任務は脱出です
『‘‘ウルフ‘‘、こちら‘‘デルタ-A‘‘、トラスト支部内に侵入済み。これよりデータセンターに向かう。どうぞ』
「こちら‘‘ウルフ‘‘、了解。今のところ敵影はなし、支社に近づく人影もないよ。オーバー」
今僕はトラスト支社の向かい側にあるビルの屋上でスナイパーライフルを構えていた。
「風速変化なし、今日は狙撃の絶好日和だな」
そして僕の横ではジェイドが口笛を吹きながら呟いていた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ジェイド。フルネームはジェイド・ガルーラ。僕の専属スポッターだ。基本的に僕はスポッターを必要としないことの方が多いが、いた方が僕の狙撃時の負担は減る。
ちなみに彼は元アメリカ海兵隊の狙撃手だ。そのため狙撃精度は財団トップに食い込んでくる。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「狙撃をする相手がいればの話だけどね」
この時、日向ぼっこしながら場違いの平和ボケをしていた僕はバンパーからの報告に耳を疑った。今回の任務は本当だったら支部内のバンパーたちがデータを回収してヘリで帰還の予定だったが
『‘‘ウルフ‘‘、こちら‘‘デルタ-A‘‘。緊急事態だ、機密情報がすでに抜き取られている』
「こちら‘‘ウルフ‘‘ちょっと待って…機密情報が消えた⁉」
『あぁ、データセンターのどこにも入ってないんだ。どうやらすでに抜き取られたらしい』
「分かった、まずは本部に連絡して」
一筋縄ではいかないような任務になった。
「まったく……何でいつもこんなに運が悪いんだよ……」
その時、ジェイドが僕にさらなる最悪の内容が伝えてきた。
「11時方向、狙撃手が2名。服装的に民兵……訂正、あれは世界真理教の野郎だな」
さっきまでいなかったはずの狙撃手がいつの間にか現れたのだ。しかもカルトときた。今回も奴らがかかわっているというのか??
「HQHQ、こちら‘‘ウルフ‘‘、11時方向に狙撃手が2名。暫定的にカルトと思われる。敵対勢力と思われ排除を開始する。窓辺には近づくなよ」
『こちら‘‘デルタ-A‘‘、了解。しっかり仕留めてくれ』
「こちら‘‘ウルフ‘‘、そんぐらいわかっているよ。オーバー」
通信を終えた僕はすかさずライフルのボルトを戻し、銃弾をチャンバー内に送り込む。
「風速北西3m/s、調整幅は…分かるよな」
「知っている、そんなのはもう感覚だ」
「敵スナイパーがこっちに反応した。撃つなら今だ」
了解、と言って僕はトリガーを引いた。
タァァァン!!!
サプレッサーの防音材を貫通して耳を貫く甲高い銃声が空を轟かす。そして弾頭は敵スナイパーのこめかみを見事に貫いた。
「もう一人はスポッターだ。ライフルを構えられる前に殺れ」
「あいよ」
ボルトアクションの音と薬莢の音が耳に入ってくる。スナイパーやっていると、この音が本当にたまらない。コッキング後、敵スポッターが顔を上げた瞬間
タァァァン!!!
また空をとどろかす銃声が銃口から鳴り響き、敵スポッターの頭が吹き飛ぶ。
「HQHQ、こちら‘‘ウルフ‘‘、二名ダウン」
『ナイス』
ひとまずの危機は去った。でもカルトらがいるとなると、情報を抜き取ったのはカルトだろうか?
ドカァァァン!!!
「な、何だ!?」
う~んと頭をフル回転させていた時、支部の方から爆発音がなった。
『支部に何者かによって砲撃された!今から安全確保のため、施設からd……いやちょっと待て!』
「何があった?」
『カルトだ!カルトがビルを襲撃してきている!グレネード!』
「か、カルト!?」
情報量が多い。今この場所では何がどうなっているんだ?
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
まずはここで情報整理、トラスト支部に到着した僕らは突入部隊と監視部隊に分かれた。しかしここで問題が2つ発生
⓵回収予定の機密情報が何者かによって取られたかもしれない
⓶カルト集団に襲撃された
現状から考えるに、おそらくカルトが情報をとっただろう。そして近くで待ち伏せて僕らを襲撃したと考えれる。しかしここで問題が残る。彼らはなぜ情報を抜き取ったんだ?
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
『ここでの戦いは不利だ!撤退する』
「分かった。どこで落ち合う?」
『メインストリートにあるシネマ館でだ!』
「了解。ジェイド、撤収だ!」
「了解、警戒は怠るなよ」
「分かっている」
そう言い、僕らはビルの屋上から一階に向かって階段を駆け下りて行った。
「これじゃあ、もう脱出ゲームみたいなEscape From trustじゃねぇかよ!」
こうして僕らの任務は情報回収から
「あぁ、トラスト市からの脱出だな」
トラスト市からの脱出となった
△△△
ガチャ タッタッタッ
ビルから飛び出た僕らは爆速で路地裏をクリアリングしていく。
「路地裏クリア!シネマ館に急ぐよ」
「了解、スナイパーには気をつけろ」
「分かってる。そうやすやすと死n」
パスッ!
スパァァァァンン!!!
「「……」」
ゾゾゾゾゾゾ(←後ろに下がる音)
「俺なんて言ったんだっけ?」
「今度こそは気を付ける」
改めてフラグって怖いなと思った。言った瞬間に狙撃され、あと数センチ前に進んでいたら死んでいたところだ。改めて気を取り直し、銃を構える。敵スナイパーの位置は、道路を挟んだ反対側のビルだとわかったが絶対ロックされている。距離は約100m。今顔を出したら確実に頭を抜かれるのは確かだ。こうなれば予想外の方法で反撃しないといけない。そうなると……
「ちょっと賭けに出る。死んだらごめん。でも成功するとは思う」
「ちょっ、お前!なんだよ死んだらごめんって!」
少し後ろに下がって助走をつけ路地から大通りに飛び出した。すぐに敵スナイパーの位置にエイムを置き
スパァァァァンン!!!
敵が驚いた顔をしたのに対しての笑いを抑えながら頭を撃ち抜いた。
ズサァァ……
「ねっ」
「ねっ、じゃねぇよ!!あぶねぇだろうが!!」
「ごめんごめん。あれしか方法がなかったんだ」
「あれしか方法がない分けねぇだろうか!ボケッ!!」
パコ!
ジェイドに頭を軽く一発叩かれて、解放される。取り合えず引き続き周りを警戒しながらシネマ館に向かうか。
「っと、その前に」
スナイパーライフルを構えて、さっきまで狙撃手がいたところに向かって再度撃ちこむ。
タァァァァン!!
「やっぱりスポッターはいたか。あぶね」
もう一度同じ方向を見ると、撃ち落されたスポッターがビル上から落下して地面にたたきつけられていたのが見えた。
『グッロ』
「結構距離あるのに見えてんのか?」
『お前が見えるなら俺も見えるよ。俺の身体能力はお前に依存する、そうじゃなかったっけ?』
「まぁいいか」
コッキングレバーを引いて次弾装填を行う。残りは一発ってところか。
「ジェイド。シネマ館に向かうよ」
「そろそろ行かないと心配されるしな」
ジェイドを先頭に、僕らは荒廃し始めたトラスト市のビル街を歩いて行った。
△△△
静かな街を歩いていると「平和だな~」と思ったことはあるだろうか?まぁあるだろう(多分)。もちろん戦場でも市街戦で静かになることはあるが、平和と思ったことは一度もない。逆に緊張が増して汗が止まらないことの方が多い。なんでかって?そりゃあもちろん
タァァンタァァンタァァン! ビシャァァ!
「ぐぅっ!」
市街戦で静かになることは「敵が音もなく奇襲してくるかもしれない」という可能性を背負っているからさ。
「奇襲だ!大丈夫か」
「な、何とか……すぐに近くの車の後ろに隠れて!」
唐突な奇襲により右腕と右足に被弾し、出血した。
ズダダダダダッ!! タァァンタァァンタァァン!
被弾により傷んでいる体に鞭を打ってすぐに近くにあった車の後ろに隠れる。ジェイドが反撃している間に、ベルトキットに付けていた止血帯を取り出し止血を始めた。
ギュゥゥゥウ!
「グルルルル、ガウッ!」
止血っていうのはとても痛いこと(体を締め付けるからね)だが、そんなことにかまっている暇はなかった。すぐ近くに敵がいるし、なんだったら被弾した時の痛みの方が大きいまである。
「OK!止血はできた!」
「そしたら援護して!どっから湧いてくるんだよ」
ジェイドがリロードのために遮蔽に滑り込んでくる。その間僕は、できる限りの援護射撃を行った。
「Fuck……あのカルトの野郎ども、どっから湧いてきてるんだよ」
「そもそもこの街全体がカルトに支配されている可能性すらあるしね」
「国連はどうした、国連は……」
「派遣が見送られたみたい。どうやら常任理事国のどっかが拒否したみたい」
二人でどうしようかと弾幕の音を右から左にと聞き流していた時
Brooooooooooooo!!!
突然、機関銃の銃声が響いて……奇襲したカルトらは木っ端みじんに消えていった。
「おぉ……何が起きた?」
「分からん。俺に聞いても‘‘知らん‘‘としか言えねぇよ」
それもそのはず、奇襲されて負傷してどうしようと悩んでいた時に機銃掃射がきたんだ。
ふと横を向いたら財団が所有している装甲車がババァン!!という感じに鎮座していた。車体上部にある機銃がどうやら敵を吹っ飛ばしたものらしく、銃口からは煙がまだ出ていて、銃身は赤くなっていた。その時、車のドアが勢いよく開いた。
「よぉ仁、援護は間に合ったか?」
バンパーだ。援護に来てくれたのはいいとして、どこから車両を拝借してきたんだ?
「援護はありがたいんだけどさ……どっから車を持ってきた?」
「ハスが支部の駐車場で見つけた。あいつ、機銃が載っているのを見て狂喜乱舞していたぞ。さっきも狂ったようにトリガーハッピーしていたし」
「そ、そう……」
「とりま早く乗れ、時間がない」
どちらにせよ助けが来たのはうれしい。いち早く脱出するために僕はジェイドに肩を貸してもらいながら車に乗った
△△△
車の中にはバンパーとハス、そしてグレネーダーのアイサも乗っていた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
アイサ。本名はアイサ・ルイ。元米軍の女性グレネーダー。自前のグレネードランチャーを使用しており、命中精度は僕のお墨付きである。今回は重量の問題で持っていない。
ちなみに、部隊の中でも異次元に入るほどケモ好きである。そのためたびたび僕が彼女の餌食になることがあるのだ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ほかのメンバーは?」
「多分ほかの場所。襲撃されてバラバラになってしまったの」
「そうか。で、どこに移動するんだ?」
「とりあえず、郊外に位置する村まで移動する。一部のメンバーとは集合場所はそことなっているからな。残った奴らは順次主要のランドマークで合流する」
「了解」
そんな感じで車に揺られ、ふとした気のゆるみで寝落ちした僕と仲間たちは郊外の丘に位置する村まで車で移動することとなった。
「寝顔かわいい♡」
なんか聞こえたが気のせいだろう
現在時刻13:49 日没まで約5時間半
合流済みメンバー:仁、ジェイド、バンパー、ハス、アイサ
未合流メンバー:残り11名




