【第八話】これは始まりに過ぎない
「ロックンロ―――ル!!」
Broooooooooooooooo!!!
崩落現場をゆっくりと降りきった時、聞きなれた機銃の音が聞こえてきた。
「こりゃまた派手にやってんな」
『そろそろ弾もそこにつくと思うが?』
銃声に合わせながらウイングの中心部に向かっていく。銃声は休む暇なく鳴り響き、カルトらの怒号や悲鳴が聞こえてきた。そろそろ敵の後ろに回り込めるはずだ。
「まさかこんな作戦がうまくいくとはね……屋上に上がってから20分後に機銃掃射を開始。その間に僕が上から回り込んで襲撃……って、ん?」
右手側にたくさんの木箱が見える。好奇心に負けた僕はあたりを警戒しながら木箱に近づいて行って、ふたを開けた。
「これは……は!」
これがあるんだったらまだ爆薬や弾薬の方がよかった。僕が明けた木箱の中には、研究室で見つけた毒ガスと同じ種類の毒ガスがはいっていると思われるボンベが大量に詰まっていた。
「うそだろ……」
他の木箱も同様に開けるがすべてにガスボンベは詰まっている。その数推定700本。もしこれが本当に研究室で見たものと同じガスだったら......そんなことが無意識に脳内を駆け巡った。
「なんでこんなにあるんだ……」
『それより早くハスのもとに行け。それはまた後でいい』
「うん……」
頭を振って気を保ち、また走り出す。ガスのことは考えたくなかったが、どうしても考えてしまう。彼らはガスで何をするんんだ?大規模テロ?無差別殺害?それとも……いろんな考えが頭をよぎっていく。そんなとき、敵の頭が見えてきた。十人弱が遮蔽裏にいて、何人かは無線に向かって何かを言っている。おそらく増援要請だろう。
「敵の援軍が来る前に!」
ピン
銃を撃つよりも爆殺した方が手っ取り早いと判断して、インパクトグレネードの安全ピンを抜く。
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インパクトグレネード。またの名を衝撃式信管手榴弾。
名前は複雑だが、簡単に言えば‘‘着弾したらすぐに爆発するグレネード‘‘である。
威力は普通のグレネードより高くないが、壁や地面に当たると爆発するため避けることはほぼ不可能。そのため‘‘禁忌の武器‘‘と僕は呼んでいる
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「よ~く狙って……ボールを相手のゴールにシュ―—ト!!」
グレネードを敵が固まっている部分に向かって投げ込み、銃を構えて反撃に備える。
「弾着今!」
バァァァァンン!!
グレネードは敵の足元に落ちていき爆発。その場にいた敵は一人残らず木っ端みじんになった。
『ビューティフォー。お前が禁忌の武器を使うとはな』
「使えるものは何でも使う。もちろん禁忌の武器でも使うよ」
腰装備からサイリウムを取り出し、パキッと折ってハスに向かって投げる。これが僕が来たという合図だ。
「ようやく来たんだ。遅すぎてワンボックス撃ちきったよ」
ハスが歩きながら空になったアモボックスを見せびらかしてくる。一つのボックスは約200発。それをこいつはさっきの戦闘で撃ちきったというのだ。
「ちなみに良いニュースと悪いニュースがそれぞれひとつある。どっちから聞きたい?」
「悪いニュース」
彼は背中に背負ったバックを下ろしてアモボックスをすべて取り出す。そこに置かれたボックスは全て残弾ゼロとなっていた。
「悪いニュースは機銃の残弾が切れたことだ。その代わりに……よっと!」
ハスは残弾がゼロとなったMINIMIを地面に置いて、倒れている敵からM4と予備マガジンを拝借していった。
「こいつらのを借りることにするよ。返すつもりはないけどね」
彼はマガジンをプレキャリのマガジンポーチにさして、チャンバーチェックをする。
「ちなみに良いニュースは?」
「僕らの通信兵が敵の無線妨害をかいくぐったようだ。どうやら駐車場に戻った研究員らが妨害装置を見つけて破壊したらしい」
「……本当か」
「うん。それと仁が音信不通になったのを機に、本部が本格的に機動部隊を送り込んだみたいだ」
「えっと……どの機動部隊?」
「α-4 とγ-6 」
「これは勝ち申した」
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機動部隊。僕ら財団の精鋭が集まった部隊であり、様々な任務に対応できるように目的別の部隊が作られている。その数は35個あり、すべての部隊の練度は大国の特殊部隊に匹敵するレベルである。
ちなみにα-4 は通称"飛び出た弾は戻らぬ"と呼ばれており、財団トップクラスの機動部隊。主に敵勢力施設の制圧を担当している。
もう一つのγ-6は通称"バイオハザード殺戮隊"と呼ばれており、化学物質が漏洩した区域や、汚染区域の消毒を行う機動部隊である。どうやら僕らが助けた研究員が毒ガスのことを伝え、その処理として来ているみたいだ。
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「ちなみにあと何分で来るの?」
「あと数分。とんでもないスピードで来ているみたいだよ」
あと数分なら全然待てる。これなら施設を完全に制圧して、毒ガスもすべて回収できそうだ。
「なぁハス」
「何」
「この場所を地獄に作り替える準備は?」
「元からできている」
僕らは口角をフッと上げて見つめ合う。彼の目から光は消え去っている気がした。
△△△
バババババババ…… ガシァァァン!!!
空からヘリコプターのローター音が聞こえたかと思うと、天井のガラスが割られて機動部隊員が入ってくる。彼らは真っ黒の装備に身を固め、各々がガスマスクをつけていた。どうやら身元を特定されないようにするためだ。
「Get down!」
「It can't end here!」
敵味方の怒号と断末魔の声、そしてウイング内を地獄に変える銃声が同じ空間で鳴り響いてた。カルトらはどうやらウイングの中心部に籠城しており、その攻略でてこずっているみたいだ。
「よぉ、われらの狼くん。よく生きていたな」
「バンパーか。そういやお前は名目上はα-4 の隊員だったな」
「ここでいうなボケ。機密だろ」
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バンパー。本名はアルス・バンパー。ロシア出身の戦闘狂であり、WBF機動部隊「α-0」隊長及び「α-4」の名目上の隊員。愛用武器はVector45という名のSMG。
身長は176㎝もあり、顔を見るために毎回天を仰がないといけない。
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「本当はこんなめんどい仕事やりたくなかったけど、お前がいると聞いてな。同じ部隊のリーダーとしてサボるわけにはいかなかったんだよな……って、おい!」
「待って」
バンパーと話している間に後ろから敵の負傷兵が一矢を報いようと迫ってくる。バンパーが先に気付いて銃を構えるが、すかさず静止させる。
タッ
「君には話を聞かせてもらうからね」
敵が銃を構える前に後ろに回り込んで手刀を首に叩き込む。
「わぉ。きれいな攻撃」
倒れた敵の手を後ろに回して、ハンドカフで縛る。こいつにはこの後、ここであったことについて聞くとするか。
「とりあえず……他の機動部隊員に何人かは事情聴取うように捕まえてって無線を入れて。ここでの事件をしっかりと調べなきゃ」
△△△
カルトとの籠城戦は本当に地獄といっても過言ではなかった。僕ら機動部隊は何を考えたのか、グレネードランチャーを持参してきた人が数名いた。地獄をさらに地獄に変えるつもりか?
「撃て!」
ボォン!ボォン!ボォン!
三発の軽い炸裂音が鳴り、三発のグレネード弾が敵に向かって飛んでいく。
バァァァァンン!!
そして3つの爆発音が重なり、鼓膜を破壊しに来る。
「注意しろ!間違ってもガスボンベを壊して、流出させるな!」
「ゲートが破壊された!押し込め!」
爆発によって敵のゲートが崩壊。機動部隊員は山から流れ落ちてくる土砂を彷彿させるようなスピードで制圧しに行った。
「さすがは財団トップの機動部隊。動きに迷いと隙がねぇや」
彼らが突入してからわずか1分後。現場にいたカルトらは一部を除いて死亡、毒ガスはγ-6が一つも残らず回収していった。
「これで一件落着かな?」
しれッと制圧に参加してきたハスが戻ってくる。
「あぁ、そうだ」
バンパーが答える。
「HQ。こちらα-4。カルトの制圧が完了。これより要救助者を助け出し、帰還します。武装解除」
バンパーの言葉を聞いて一気に肩の力が抜けていく。さっきまでは神経が引きつってアドレナリンが出ていたせいなのか、とてつもない疲労感が襲い掛かってくるもが体感できた。
ガシャン ドサ
そのまま地面に横たわり、爆発でぽっかりと開いた天井を眺める。シベリアの冷風が体に吹き付けてくるのが実感できた。
「ようやく終わったんだね……ふぅ」
毒ガスの回収やカルトの連行で忙しく動いている機動部隊員を横目に見ながら、ため息を一つついた。
『そうだな』
ハスは負傷した機動部隊員の治療に当たっており、バンパーはカルトの連行を手伝っている。僕は手足を放り出して、銃をそこら辺に置いておいた。
「ねぇダスト」
『なんだ?』
「いや、気になったことがあってね」
おそらく爆発がカルトによって起こされたテロだと知ったあたりだろうか。僕はなぜカルトが財団をターゲットにしてテロを起こしたのかが疑問に感じた。僕ら財団はアメリカやロシアといった大国とも関係を持っている。そのため世界トップ軍事企業と言っても過言ではないが……
「そんな僕らになぜカルトは攻撃を仕掛けてきたんだろうと思ってね」
『なるほどな。はっきり言って俺もなぜ奴らがこんなことをしたかはわからん』
「なんか原因が見つかればいいけどね~」
『あくまで俺の予想だが、奴らはこの施設を利用したかったのではないか?』
「利用?」
実際にシベリア研究所は他の企業の研究所よりも設備が充実していたり、様々な分野の実験にも対応できるようになっている。それが動機だとしたら奴らは馬鹿としか言えない。ここを襲撃する=世界最強と名高い財団に敵対するってことだ。
『実際の動機は彼らに聞かないとわからないけどな』
「そうだね」
真っ暗の空に映るオーロラを見ながら返事する。オーロラを見ていると、こんな平和な時間が続いてほしいと思ってしまう。まぁあ、仕事がなくなるのはごめんだけどね。
「おい仁!撤収だ!」
バンパーの声が耳に届く。そろそろ撤収の時間みたいだ。
「はいは~い」
おろしたバックと銃を担いで走り出す。鎮痛が切れたのか、体は痛かったがそんなのを忘れてしまうほど生き生きとしていた。
「早くしねぇとお前の嫁さんに怒られるぞ~」
「それだけは勘弁!」
バンパーやハスがいる仲間のもとに走っていく。
『なぁ仁』
「なに」
『これはまだ始まりに過ぎない気がするんだ。カルトらはこれで引き下がらないはず』
「そう」
『そうやって調子に乗っているとマジで死ぬぞ』
「あっそう」
ダストの忠告を覆いかぶせるように声を出す。
『人の話ぐらいは聞けと教えられなかったのか?』
「お前は人じゃないけど?でも心配はないよ。だって……」
確かに今回の事件はこれで終わる気はしなかった。奴らとの戦いはまだまだ始まったばっか。僕らはまだ彼らの目的も知らないし、何をしようとしているかもわからない。僕らが今やっていることは、深淵に身を投げ込んでいるばかげた行動だ。でも……
「僕らは最強のバカ野郎《α-0》だよ?こんなので死んでちゃ、最強の名にふさわしくないでしょ?」
僕らは最強のバカ野郎だ。だからこんなバカげたことをやっている。
任務終了 01:49




