【第七話】中心区域に潜入開始
「お祈り禊グレネード!おりゃ!」
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禊グレネード。禊が身に罪や穢 (けが) れのある者が、川や海の水でからだを洗い清めることであることより、敵を上空からのグレネードで清めさせようと思って名付けた戦法。
禊は滝に撃たれて行うこともあり、そこから僕はインスピレーションを受けたのである。
ちなみに刺さるか刺さらないかは、神のみ知る‘‘運ゲー‘‘
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「追加でもう二つ!」
禊グレの刺さる確率を上げるために、追加で二つを敵の近くに向かって投げる。敵もさすがに異変に気付いたのか移動している音が聞こえた。これはしめた。スナイパーライフルにつけるスコープは動きながら狙うと、敵を見失いやすい(僕もそう)。そのため敵が動いている最中は撃たれにくいのだ!
「刺さんなかったけど……そんなの置いといて、貰ったぁ!!」
タァァァァン!
トリガーを引く前に顔の横から弾が飛んでいく。
「………」
本能的に命の危険を感じ、遮蔽に引っ込んだ僕は状況を理解できず、ただ黙っているだけだった。
「今……あのスナイパー……」
『お前の言いたいことはわかる。ただこれが事実だ』
「やだやだ!こんな事実は認めない!」
『事実は事実だよ。あのスナイパーは動きながら当ててくるだけの能力を持っている。単純明快さ』
「そうだけど!うわぁぁ!」
敵が動いて射線を通しに来て、弾丸がほほをかすめて行く。距離は80mほど。冬迷彩で見にくかったが銃はレミントンM700スナイパーライフルだと思われた。
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レミントンM700スナイパーライフル。アメリカの銃器メーカーのレミントン・アームズが製作したスナイパーライフル。レミントン社のベストセラー製品であり、日本でも狩猟銃として許可が下りやすく、世界各地で人気のライフルである。
ちなみに僕は副業でハンターとしてもやっているが、そこでも愛用している。本業では別のライフルを使っているけど。
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「ぱっと見拡張マガジンは使ってなさそうから、装弾数は6発が最大!」
「ウグッ!」
弾丸が左腕を貫き、赤い血が真っ白の雪の上に飛び散る。こうなってはまともにエイムを合わせられない。でも不幸中の幸いに、骨は撃ち抜かれなかった。これならまだ舞える。
「残りは2発!よっと!」
敵は焦ってきたのか弾がばらけてきた。スナイパーはいつどこでも安静を保たないといけない。焦ってきたらそれがTHE.Endの警鐘となるのだ。
「ラスト一発!」
敵の残弾はゼロ。こっからは僕の舞台だ。
「It‘s a showtime!」
勢いよく敵の懐に飛び込んでハンドガンを撃ちこむ。が
「しばらく見ない間に弱くなったな、仁」
「はぁ!?」
二発三発と撃ちこむがすべてよけられてしまう。誰なんだこいつは?財団トップレベルの射撃成績を有している僕の銃弾をすべて避けるだと?
「6年間。お前はあのころと変わらないわけでもなく、逆に弱くなった」
空を切った銃弾の代わりに敵のパンチが腹にめり込んでくる。口からは血が飛び出た。
「うぐぅ!」
「これが俺たちを裏切った末路だ。仁」
殴られたときに相手の顔をのぞき込んで驚愕する。まったく光が見えない目、性格がひん曲がったような顔、いつまでたっても忘れられない奴がそこにいた。
「あ、赤山……連!」
「あぁそうさ。俺だよ」
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赤山連。僕が財団職員として働く前に所属していた民間軍事会社、通称‘‘KRP‘‘というところの上司だったもの。とてつもなく会社愛がすごく、任務に失敗したものを会社の恥として罰をよく与えるのである(僕もある)
ちなみに彼からは裏切者と言われているが、それは退社するときに会社が行ったすべての悪事をさらし、破産に追い詰めたからだ……と、同じKRPで今は財団の同僚に聞いた。
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「連!なんでっ!お前がっ!カルトになっているんだよぉ!」
連のパンチを避けながら問いだす。
「推薦だよ。俺のダチから連絡が入ってよぉ!」
頑張って右ストレートを受け流し、みぞおちに向かって殴り込む。相手もかがんで避けた。
「お前のような下劣の生物を消し去りてぇから入ったんだ!」
「なんだとぉ!うぉっと!」
連のケリを避けて後ろに離れる。お互い見つめ合ってタイミングを見計らう。さっきまではいつもの接近戦のペースを乱されたんだ。今度は相手のペースを乱してやる。
「そういうお前は手を出す相手を間違えたようだな!」
こぶしが相手のみぞおちに当たる。感触的にアーマー類は来ていないようだ。これなら一発でも銃弾を撃ち込めれば勝機は大きくなる。
「僕らがどんな組織か分かっているの?」
よろめいているところにケリを入れて、後ろに吹き飛ばす。ようやく僕のペースになってきた。あとは胸に一発撃ちこめば勝ったも同然だ。ライフルは先ほどの殴り合いで運悪く落としたから、ここはハンドガンで……
「あぁ、もちろんさ。建前だけが良くて、実態はさほどのことはやっていない財団だろ?装備の量も兵力も俺らが勝っているのに、財団ごときが勝てるとでも?それと……」
そういって彼はひらひらと《《僕の》》ガバメントをポケットから取り出す。
「はぁ……?」
いつの間に奪われたんだ?なぜこんなにも華麗に盗れたんだ?
「昔にも言わなかったか?お前のホルスターだと相手に抜き取られやすいって。ここで裏目に来たな」
ガシャン
「こんな物騒なもんなんておいておこうか。男ならこぶしで語り合おうじゃないか」
僕のハンドガンを横に放り投げて、ファイティングポーズを僕に向かってとる。こうなったら奴を撲殺、もしくは隙を見て銃を拾って射殺するしかないな。
「やろうじゃねぇか!」
声に合わせて前に飛び出し、顔面に向かってストレート。奴は華麗にかわして僕の腕をつかんできた。
「この!」
足を使ってバランスを崩させ、いったん離れる。どちらも一歩も引かない状況だが、今は若干僕の方が有利な状態になっていた。さっき投げ捨てられたハンドガンに僕が一番近づいている。このままいけば拾えそうだ。
「どこを見てるんだ?」
素早くこっちに移動してきて真下からこぶしが勢いよく飛んでくる。間一髪でよけ、お返しに膝蹴りを胸に向かってぶち込んだ。
「後ろに下がっとけ!」
攻撃を止めずに蹴りを一発入れて前に吹き飛ばす。
『仁今だ!』
「タイミングは分かっている!」
素早くターンして、ハンドガンに向かって走り出す。あと数m。銃が手に触れれば僕の勝ちみたいなもんだ!
「僕がもら……!」
一発の銃声が響き、弾丸が僕の肩を貫いた。血は目の前の雪を赤く染め、痛みは脳をフリーズさせた。
「うぅ……!」
気づいたら鎮痛効果が切れていたため、痛みに耐えるのが必死になって身動きが取れない。本当にいつまでたっても鎮痛の継続時間が分からないもんだ……
「そうすると思っていたよ。まったくずるい奴だ。見破られるとわかっていたのにやるとはね……」
彼は口角を上げながらゆっくりとこちらに近づいてきて、リボルバーの銃口を向けてきた。おそらく.357マグナム弾を使ったものだろう。だから45口径のガバメントの銃弾より痛いと感じたんだ。
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.357マグナム弾。.38スペシャル弾という日本の警察でも使われているリボルバーの弾を、より強力にしたもの。マグナム弾は同じ口径の銃弾に入っている火薬の量を増やしたものだ。そして連が使っているのはその.357マグナム弾が撃てる‘‘コルト・パイソン‘‘というリボルバー。
ちなみに僕が狙撃で使っているのは.338ラプア・マグナムという狙撃銃向けのマグナム弾とい。
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「この世は人間によって支配される。そしてこの戦いの結末が、その事実の動かぬ証拠となる」
カチャ
リボルバーの撃鉄が起き上がる。僕の最後がそこまで迫ってきた。
「‘‘世界最強の傭兵‘‘と言われていたお前の最後がこんなんとはな……まったく面白い限りだぜ」
彼の指に力がこもった瞬間、僕の目の前は赤い炎と、重々しい銃声に包まれ……
ボォッ!!
「なんだ⁉」
なかった。そう、厳密にいえば炎には包まれたけど銃声には包まれなかった。簡単に言えば撃たれてないってこと。
「アツッ!この炎はどっから湧き出てきたんだよ!」
「え……」
炎が発生する原因はないはずなのに発生したことについては、連もそうだが、僕も理解ができていなかった。火花が散ったわけでもないし、誰かが火をつけたわけでもないし……
『ったく……なんでお前の血だまりができているのに活用しねぇんだよ。俺がいなかったら今頃死んでいたよ』
「え?」
『しばらくお前の体を借りるぞ』
「はぁぁぁ!!??」
回答が出た。ダストが火をつけた。
「っつ!!ふざけやがってぇ!!」
業火に包まれて、消火活動に必死だった連が反撃体制に入ってくる。体のところどころには火傷の跡もあり、よくこんなので動けるもんだと思ってしまう。
『黙れよ』
闇が広がる夜にガバメントの銃声が鳴り響く。銃弾はしっかりと奴の腹を貫いていた。
『お前みたいなやつが亜人の上に立つと考えるとな……』
ダストが僕の思っていたことをすべて話す。本当は制御権を取り返すこともできるが、奴の結末が気になって仕方ない。僕は制御権をダストに渡したままにした。
「亜人ごときがなめた口ききやが......!」
二発目が右肩を貫く。奴はすでにまともに立っていられる状態ではなく、真下には流れ落ちた大量の血が止まることなくたまっていく。
『イラついて殺意が抑えきれんぇんだよ!』
「仁おま……ッ!!」
三発目が左肩を貫く。そこまでやらなくてもよくないかと不覚にも思ってしまう。
『それとな、一つだけ勘違いしてほしくねぇことがあるんだけどさ』
銃口が連の頭を捕らえる。彼は痛みと複数個所の被弾によって到底逃げれる状況ではなかった。
「な、なんだ……」
『俺は仁じゃない……《《ダスト》》。悪魔だ』
「え?悪魔?」
『俺の知り合いに元気だったって伝えろな』
四発目。マズルフラッシュと血が視界を赤く染め、銃声は残響を残しながら静かに消えていった。
『終わったぞ。あのうざい奴をようやく殺せたわ』
「一応言っとくけど、僕の元上司だよ?」
ダストから体の制御権を返され、被弾箇所を治療していく。包帯をぐるぐると巻きながら奇襲予定箇所に向かっていく。最後に鎮痛を決めれば治療完了だ。この後ハスに遅れたことを謝らないとな。そん考えながら歩いて行った。
『元だろ元。今はただの敵さ。敵は殺す。それだけだ』
「本当のことを言うといくつか情報を引き出したかったんだよね……まぁ、確殺したみたいだからいいか」
去り際に拾った連の身分証明書を取り出す。そこには‘‘幹部会No.5‘‘と書かれてあった。
「幹部だったら有益な情報持っていると思うけどなぁ」
『あいつのことだから死んでも言わないだろ』
「それもそうか」
目の前に巨大崩落現場が現れてきた。これが奇襲を開始する場所か。
「上でドンパチしちゃったからばれているかも……」
F46Tを取り出してマグチェンジをする。どこでなのかはわからないが、マガジンを一個落としたみたいだから残りは3マグ。ギリギリ最後まで戦えそうだ。
『そしたら強襲だ。お前の部隊の得意分野だろ?』
「まぁね。そして僕はそこの精鋭。得意すぎるよ」
崩落現場をのぞき込みながら替えのライフルマガジンをとりだ……
「あ……これハンドガンのだ」
間違ってハンドガン用のを取り出してしまった。
『これが精鋭ってやつか。メモメモっと』
「お前に実体があったらシバキ倒したい」
こうしてグダりながらも僕の中心区域への強襲作戦が始まった。
現在時刻 01:17
「それと、連のやつまだ息の根が少しあったけど大丈夫なん?」
『安心しろ。あんなに重出血していたら生き残れるわけがない』
「そう……お前が言うならいいか」




