ep1-5.炮烙:第一層
大勢の冒険者たちが津波のように雪崩れ込んでいく中、トップに躍り出たのは全身にタイツを着て、両足の靴と、両腕にブレードをつけた男だった。
試合中はARの使用に制限がかかるため、データベースへのアクセスは出来ない。が、優勝の脅威となりそうな選手のステータスは事前に調べをつけている。
全身タイツ男についてのおおまかな情報は次の通りだ。
——ユーザー:『凍山明羅』:冒険者ネーム:『氷上の支配者』:レベル:112:ジョブ:『スケート・ブレーダー』
己の住処を駆け抜けていく者を、無論、モンスターたちは許さない。七匹の【禍斗】は黒い毛並みを逆立たせて唸り、凍山に飛び掛かった。
肉片と鮮血が舞い散る。跳躍した凍山は宙で回転。トリプルアクセルを披露しながら、四肢についたブレードで【禍斗】たちを切り裂いた。速度を落とすことなく敵を屠った凍山は追随を許さず独走していく。
彼は選手の中で最もスピードに特化した冒険者だ。本大会の最序盤では首位を握り続けるだろう。
凍山が先陣を切り、粒子で彩られた道を走るのは、軽快な服装に身を包んだ少女だ。種族は半天人。しかし、その特徴の一つである優れた容貌は仮面の下に隠されていて、頭上にあるはずの光輪も見かけられなかった。
——ユーザー:『前原光』:冒険者ネーム:『怪盗ウィンド』:レベル:104:ジョブ:『世紀の大怪盗』
怪盗ウィンドの行く先には、二匹の【火鼠】と三匹の【禍斗】が待ち構えている。だが、彼女はトレジャーに特化したジョブだ。優勝に狙うのは、深層のお宝。雑魚は相手取る価値も、必要もない。
怪盗ウィンドが踏み出すと、バネのようにその身体が跳ねる。モンスターたちを飛び越え、15.79m先までたった一飛びで移動した。スパンが必要なのか、即座に跳躍することはなかったが、なかなか驚異的な跳躍力である。
その後もスピードを長所とした冒険者たちが一人、二人と駆けていく。僕は最上位争いに加わらず、上から十七番目となった。
僕の進路に【禍斗】と【火鼠】が立ち塞がる。彼らが僕の視界に収まると同時に、メッセージが表示された。
——モンスター:【禍斗】:詳細な情報を表示しますか? (はい / いいえ)
——モンスター:【火鼠】:詳細な情報を表示しますか? (はい / いいえ)
これは『ダンチャレ』の機能の一つ、DEリンクだ。
この機能を用いることで、冒険者はジョブやスキルと連動してARを動かすことが出来る。
僕のジョブ、『データアナリスト』の能力の一つに、過去に解析した敵のデータを自動取得できるというものがある。
本来ならば、得られた情報は脳に直接伝わる。一方、こうしてDEリンク機能を使うことで、画面上に客観的な形で表示することも可能になるのだ。
なお、基本的にARの使用は大会中、禁じられている。が、DEリンクやリタイアボタンなど、『ダンチャレ』の機能の幾つかは規制対象外である。
——スキル:【炎牙】
——スキル:【火炎球】
【禍斗】が燃え盛る牙を見せつけ、飛び掛からんとする。【火鼠】が尾から火球を生成し、僕に放つ。両者が攻撃すると同時に、視界上の隅に彼らが発動したスキルが表示された。
ダンチャレの機能の一つ、スキル連携を用いれば、こうして敵が発動したスキルとその内容を【解析】を通じて見る事も出来る。
なぜ【解析】済みなのかと訊かれれば、【火鼠】と132回、【禍斗】と127回、それぞれ戦ったことがあるからだ。
故に、適切な対処法も理解している。
——スキル:【フェイタル・ショット】
遠距離から撃ち抜き、
——スキル:【シャープ・キリング】
カウンターで首を刈る。
片手剣についたダイヤルを回しながら、引き金を引く。瞬く間に剣は一振りの短剣と、拳銃に変形し、同時に青い魔弾が【火鼠】の脳天を貫いた。
【ヴァリアブル・ガンソード】。独自で開発した可変武器だ。付属するダイヤルを回すことで、短剣、魔法拳銃、魔法杖に変形可能である。
地面に落ちていく短剣を片手で掴み取り、身を軽く引く。【火鼠】が飛ばした火炎と、【禍斗】の嚙みつきを躱す。即座に前に出て、短剣を振り抜く。刃が【禍斗】の首を切り、DE粒子が舞う。
実行したのは、体力と時間の消耗を最も抑えた攻撃だ。元となったのは両者併せて259回にも及ぶ戦闘データ。十分過ぎるほどの量が確保できている。一層は、スコアを最大限稼ぎつつも、最高のコンディションで突破できるだろう。
立ちはだかる【火鼠】と【禍斗】に対処して前に進みつつ、時折、ちらりと、後ろに目を遣る。
四度、後ろを見て、ようやく柳山を視認する。しかし輪郭ほどしか見えず、それさえ他の選手の身体に遮られ、見えなくなってしまった。
僕と彼女の間にいる選手数は推定二十四人。それもそのはず、彼女のAGI値の評価はBだ。素早さを示すそのステータスが低ければ、もちろん脚は遅い。
そもそも彼女の強みは俊敏性ではなく、持久力だ。今は低い順位であっても後々、追いついてくるだろう。
ただ、少し違和感がある。やけにモンスターが後ろに集中している。未知留の周辺となれば、平均の2.86倍はいるだろう。
僕が通る道にもモンスターが多い。平均して他の出場者の1.68倍は相手している。
原因は明確。押し付けられているからだ。
僕の一つ前にいる忍者風の格好をした男が、後ろに手裏剣を投げ飛ばす。手裏剣は円の軌道を描き、彼を追っていた【禍斗】の足先に突き刺さる。
痛みで呼び起こされた怒りは、ちょうど【禍斗】の前にいる僕へと向けられる。
また、猫人ギャルの一人が「にゃおーん」と鳴くと、彼女に向いていた【火鼠】の意識が僕に向いた。
加えて他三人ほどが各々のやり方で戦闘を回避、僕に戦闘を押し付けていた。
まずは僕らが相手取るモンスターを増やし、攻略を遅らせる作戦だろう。簡易に実行可能だが、悪手だな。
ライジングカップのスコアは、攻略タイムだけでは決まらない。選手がどれほど攻略に貢献したか、どれだけ苦難を乗り越えたか、でも決まる。
他の選手にモンスターを押し付ければ、確かに攻略は遅らせられるかもしれない。しかし、そのモンスターを討伐して得られるはずだったスコアを渡す事にもなる。
そして、一層のモンスターであれば、相手にならないことは確認済みだ。
遠距離には拳銃で発砲。飛びついてきた敵には、カウンターで致命傷を負わせる。
2.08秒で三体の【火鼠】、二体の【禍斗】を仕留める事に成功。このペースなら、攻略に支障をきたすこともない。
ついでに視線を後ろへ遣ると、柳山は剣を大振りに振るって、周囲の敵を一度に葬るのが見えた。
この分なら彼女も問題なく、攻略を進める事だろう。




