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ep1-2.データでは会話ができない

 僕は柳山に詰め寄り、眼鏡を取り返そうとする。

 

 取り戻さなければならない。数値が見えない。データが見えない。


 データが無ければ成功も失敗も分からない。何をどう判断すべきかわからない。何もわからない。


 分からない。分からない。分からない。


「お、おいどうしたっ!」


 柳山は驚いた様子を見せながらも手で遮り、僕の手に眼鏡が渡らないようにする。


「早くっ! 今すぐ返すんだっ!」


 柳山の手を除けて眼鏡に手を伸ばす。


「ちょ、落ち着けって!」


 だが、彼女は手を後ろに伸ばし、またもや眼鏡を僕の手に届かないようにする。


「返せ、返せ、返せっ!」

「わかった、わかった! 返す、返すから!」


 柳山は音を上げたのか、こちらに眼鏡を手渡した。


「大事なモンなんだな。取ったりして悪かったよ。でも、フツーに話そうな」

「ふむ……」


 眼鏡をつけると、世界が色を取り戻したように感じた。途端に頭が冷えて、冷静になる。


 取り乱し、最適な行動から外れてしまった。こちらへの彼女の好感度は大幅に下がったと見て良いだろう。


 また、これから話す場合には、彼女の定義する「普通」に合わさなければならないという条件も付け加わった。


 『ユング・プログラム』も使えないため、自分で考え出した会話をしなければならない。


 会話スキルの低い僕が話すのは下手に話すのは危険だ。


 好感度が下がり、パーティー勧誘に失敗する可能性があるだろう。


「えーっと、まずは一旦自己紹介すっか! アタシは柳山未知留、Aランク冒険者だ。アンタと同じく未踏冒険者を目指してる。よろしくなっ!」


 先に口を開いたのは柳山だった。助かるな。これでこちらも柳山が求める「普通」に合わせられる。


「こちらからも自己紹介しよう。僕は電算巡。Aランク冒険者だ。未踏冒険者を目指している」

「ちょ、待った。……なんかだいぶ口調変わってね? 一人称も俺じゃないし……」


 柳山はまたもや戸惑っていた。


「俺、電算巡って言うんだ! どうもよ……」

「わかった、わかった! 繰り返さんでいいからっ!」


 先程の自己紹介を再現しようとすると、柳山は僕の話を遮った。彼女が求める『普通』は自分と同じことをすること、だと考えたのだが、違うのだろうか。


「で、電算巡、さん? アタシをパーティーに勧誘したいって話だが……、悪いがちょっと考える時間をくれ」

「ふむ、ならば君の承諾を促せる実績を提示しよう。すぐに君に追い抜かされてしまったが、月帰国におけるAランク昇格レベルの最短実績を保持していた」

「え!? そうなのか」


 柳山は目を丸くした。食いつきが良いな。このまま確実に勧誘の成功にこぎつけると良いのだが。


「他にも僕は輝かしい実績を残している。ダンジョン攻略実績で言えば、Bランク時点で、ソロでAランクダンジョンを三つ、Bランクダンジョンを……」

「もう大丈夫だ」


 まだまだ説明したい実績は山ほどあったのだが、柳山に手で止められてしまった。


「? 実績に何か不満か?」

「いや、アンタはスゲーよ。それに、パーティーに誘ってくれて、しかもアンタも未踏冒険者目指してるってので、アタシはすっごく嬉しい。正直、もうOKしてえ」

「それならなぜ?」


 説明の通りの心情ならば、二つ返事で承諾してもおかしくないはずだろう。


「でもアタシ、アンタのこと知らねえんだ」


 ふむ、彼女の言う通りだ。初対面ではお互いの情報が不足するのは必然だろう。僕はARを操作し、柳山にメッセージを飛ばした。


 ——メッセージ:添付ファイル:電算巡.doc:to 『柳山未知留』


「だから、ってな、ナニコレッ!?」

「僕のこれまでの経歴と実績、そして個人情報を纏めたものだ。参考がてら一読してくれ」

「違う違うっ! こーゆーの読みてえってことじゃねーって!」


 ますます彼女の発言の意図が理解できない。


 先刻、僕の実績提示を止めた上に、今回も詳細な情報を共有したところ、違う、と拒絶されてしまった。


 彼女はいったい何を求めているのだろう?


「つーかアタシ、アンタにアドレス教えた覚えねーんだけど」

「君を調査する一環として、住所、メールアドレス、家族構成、その他諸々の個人情報は把握済みだ」

「え、こ、怖っ!」


 取得した情報の項目を共有する度、柳山の顔が青褪めていった。


「ともかく、だ。んなこといくら知っても、アンタの中身は分からねーだろっての!」


 確かに、個人情報をどれだけ詳細に調べ上げても、人の中身を知ることは出来ない。


「解剖する必要があるな」


 内臓や骨格を確認できるわけではないのだ。


「いや、そうじゃねーよっ! 別にサイコじゃねーぞアタシ!?」

「探索中にモンスターの肉体から内臓が曝け出される確率は89.27%だ。故に冒険者として活動するうちに、そういった欲求に目覚めるケースも全体の0.97%存在する」

「確率低っ!!! なんで猟奇的だって思われてんだろ、アタシ……」


 妙な発言に戸惑う。特に僕は、彼女が猟奇的な欲求を持っている、とは言っていないのだが。


「ほら、一緒じゃねーと分からねーことってあるだろ?」


 そこでやっと彼女の発言の意図が理解できた。


 ネットでの収集と実地での収集で得られるデータは性質が異なる。


 前者は得られるデータが多いが、特定の目的をもって収集されたがために、視点が限定されている。


 一方で実地の場合は得られるデータは少ないが、臨機応変に必要だとその場で感じたデータが取得できる。


 今回、彼女が求めているのは後者に近いだろう。


「成程。納得した」


 僕が頷くと、柳山は頬に笑みを浮かべた。


「今日のライジングカップ、アンタも参加するんだろ?」

「ああ」


 首肯すると、彼女は僕の瞳をまっすぐに見た。


「アンタの実力を、今回の大会で見せてくれ。そこでアンタがどんだけ頑張ったか見て、入るかどうか決めるぜ」

「いいだろう。君の望む実力を持っていると、本大会で優勝し、証明してみせよう」

 

 僕は本大会で優勝を勝ち取るため、多くのシミュレーションを重ねてきた。如何なる迷宮が出されたとしても、優勝確率は93.28%だ。


 ほぼ確実に柳山をこちらに引き込めるだろう。あとは本番でそれを体現するだけだ。


「へっ、優勝狙ってんのか? 悪いが今回の大会、優勝はアタシのもんだっ!」


 柳山は自身を親指で指しながら、得意げに笑った。ああ、そうだった。彼女の目的は本大会での優勝だったな。


「であれば優勝は君に譲ろう」

「え? え? は? い、いやおかしくね?」


 柳山は困惑を見せた。

「僕の目的は優勝そのものではない。君を仲間に出来るならば、逃しても問題ない」


 柳山は頬を膨らませた。


「むー、アタシ、勝ち譲られても嬉しくねーよ。んなことすんならパーティー入らねーぞ」

「ふむ、それは困るな」

「アタシは全力で優勝を狙いに行く。だからアンタも全力で一位を取りに来てくれ」


 彼女は僕の瞳をまっすぐに見据えた。その曇り一点のない瞳に、どうしてか引き込まれそうになる。


「良いだろう。僕も全力を尽くし優勝を狙うと約束しよう」

「へへっ、その意気だぜっ!」


 柳山は満面の笑みを浮かべた。


「あのー、そろそろ受付締め切るんですけど……」


 するとそこで係員の男が、バツが悪そうに僕らに声をかけた。


「あっ、悪い。すぐ行くわ」


 柳山は軽く係員に頭を下げた。ふむ、まだ時間はある。もう少し彼女との時間を確保したい。駆けていく柳山に僕は声をかけた。


「待て、残り時間は一分四十二秒だ。列に並びさえすれば受付してくれるのだから、一分二十一秒も余裕がある」


「いやいやギリギリだって! ほら、アンタも行くぞっ!」


 腕を掴まれた僕は、引きずるように会場へと連れていかれた。

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