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ep0-3.配信:『アタシが新記録を出した』

 結果を塗り替えられたという情報が入ってすぐ、僕は彼女に関する情報収集をスタートした。


 彼女含め月帰国の有力冒険者の情報はあらかた収集済みなので、以前の調査よりも、データを一層、詳細にすることが目的となる。


 その最中、件の人物が配信を始めたという情報を手に入れた。早速、動画にアクセスし、僕は彼女の配信に訪れた。


 ——アプリ:OurTV:配信:『アタシが新記録を出した』

 画面に映ったのは、頭にゴーグルを乗せた少女だ。髪は赤色のミディアムショート。エメラルドグリーンの瞳。


 自室で撮影しているのか、ベッド付きの生活感ある部屋が映っていた。ただ、部屋の様子は一般的な女性のものと大きく異なる。


 置かれているのは、オシャレと評されるような家具や調度品ではなく、トレーニング用具ばかりだ。


 それに整理されておらず、棚のスペースがまだ空いているのに、その上や床に物がある。おまけに菓子の包装といったゴミ類や物が転がっていて、清潔とは言えない。


 この部屋の様相ならば、少年の部屋だと紹介された方が違和感はないだろう。


 ツールを使って確認したところ、バーチャル背景ではないことが確認された。部屋が汚い場合、配信では別の背景に差し替えるのが通例なのだが、珍しいことに彼女は隠すことなく見せていた。


——コメント:

——user:『イカシマB』:何が始まんだ?

——user:『コーヒーソムリエ』:そりゃ、記録更新したけど質問ある?的な奴じゃね?

——user:『さすらいのtreks』:いやいや人気になりたいんでしょ

——user:『伊藤矢倉』:つーか、主の部屋汚いなこれ

——user:『黒天子ちゃん』:ざわざわ


 コメント欄は、84.29%が本配信で何をするかついての論じるモノが占めていた。実際、タイトルや概要欄、サムネイルには本配信の内容や目的に言及していない。


 82.16%の動画が、何らかの手段で内容を示すのにも関わらず、だ。コメント欄で話題に挙がるのも必然と言える。


『これで五千人、か。んじゃ、そろそろ始めっか』


 頃合いと見たか、柳山はそう言った。正しくは5009人なので、実は若干、タイミングがズレている。


『今回、配信をしたのは、アタシから、言いたいことがあるからだ』


 少女は深く息を吸って、話を切り出した。


『遊びでダンジョンに潜ってる奴ら、プロになってリーグに出ることを夢見てる奴ら』


 少女が瞳をカメラにまっすぐに向けた。


『アンタらがやってるのは冒険じゃない。アンタらなんか、冒険者じゃない』


——コメント:

——user:『ぽるぽるさん』:は?

——user:『Aru231』:何言ってんだ?

——user:『RB:お面ファイター最新作面白かった!』:冒険じゃないってなんだよ

——user:『あいうえお』:月帰語わかる?

——user:『黒天子ちゃん』:ざわざわ

——user:『蜜夜ソーダ納豆メロン味』:ざわざわざわざわうっさいわ


 視聴者一同に衝撃が走り、戸惑うようなコメントが次々に投稿される。


『冒険ってのは未知の世界に挑むことだ。けどアンタらはニセモンの冒険でその気になってる。ネットで調べりゃまるきり中身も攻略法も出てくるような迷宮だけで満足して、苦しかったらすぐ逃げる』


 彼女の発言は、現代の冒険のあり様を批判している。


 機械が人の代わりにダンジョンへと潜るようになって、百年十一か月二十四日。


 世界のダンジョンの97.88%は今や攻略され、新しく誕生するモノもその98.13%の確率で機械に踏破される時代。


 人々は、かつての冒険者たちの栄光に思いを馳せるように、レジャースポーツとして浸透したダンジョン探索へと熱狂した。


 しかし、昔日の冒険者が求めていた未知の世界や値千金の財宝も、代償として向き合っていた生死の危険もそこにはない。


 電子の海を泳げば、未知の迷宮は、入口から出口まで既知の一本道になる。

 出回り過ぎた財宝の価値は、今や安価に大量生産可能な工業製品程度。


 誰もが気軽に楽しめる冒険には、苦痛は不要だ。迷宮を管理する人々は、冒険に伴うリスクの一切を排除した。


 四肢や五感を失っても、迷宮から出れば綺麗に元通り。

 たとえ迷宮の中で死んだとしても、五体満足の健康体で蘇る。

 怪我の痛みも、寒暖の不快感も、薬物でちょっとした刺激程度にまで鈍らせられる。


 僕らが迷宮に潜るのに支払う代償は、少しばかりの金と時間だけだ。


 当然だろう。今は、基本生活保障金ベーシックインカムにより、働かずとも死ぬまで衣食住が満ち足りた生活を送れる時代だ。

 

 そもそも、冒険などする必要がなくなったのだ。


『そして、ダンジョンスポーツで鎬を削ってる奴ら。アンタらは努力してる。けど結局、枠組みの中に籠ってる。ルールがなんだ。記録がなんだ。馬鹿らしい。他人が決めた世界に潜って何が冒険だ』


 彼女が批判しているのは、ダンジョンスポーツの大会に出ているような者達だろう。彼らはレギュレーションの中で、より高い記録を残そうと、日々邁進している。


『アンタらは結局、ただ安全圏で過ごしてるだけだ。誰かに管理された迷宮で、ニセモンの苦難を乗り越えて、空っぽな満足感を得る』


 そこで彼女は、再び深呼吸した。


『そんなの、冒険者失格に決まってる』


——コメント:

——user:『霊騎士フィーベルト』:はい???

——user:『さすらいのtreks』:※冒険者に特別な資格は必要ありません

——user:『アリウス128世』: ほら、言われてんぞwww、トレカス

——user:『Non deli』:言動からも見た目からも頭の悪さが分かる

——user:『黒天子ちゃん』:ブーメラン刺さってて草。貴方も人が決めた指標で記録を出したんですよ? 冒険者失格では???


 攻撃的な発言を繰り返したせいで、コメント欄は非難の嵐だった。しかし、柳山は臆することなく、変わらず画面に向き合い続ける。


『アタシは、未踏冒険者になる』


 そう宣言する少女の瞳には強い覚悟が備わっているように見えた。


 未踏冒険者。既に攻略されたダンジョンを娯楽やスポーツとして消費する現在の冒険者とは異なり、本物の危険、未踏破のダンジョンに潜る職業だ。


 そして、僕の目標でもある。


『アタシは本物の冒険をする。本物の危険と困難に立ち向かって、乗り越えて、その先にある世界を味わってやる』


 彼女は決意するように固く、強く、己の拳を握りしめた。


——コメント:

——user:『Aru231』:そうですか。勝手にやっててどうぞ

——user:『ぼるぼるさん』:自分が世界の主人公だと思ってそう

——user:『KBG』: 唐突な謎宣言で草

——user:『フィヨルド=ランド』:で、自分は特別ですってか?

——user:『黒天子ちゃん』:なら砂漠にでも行ってみろよ。本物の冒険が味わえるぜ。イキリ乙wwwwww


 批判的なコメントには困惑も少し見受けられた。僕も疑問に思う。批判目的で配信という手段を用いるならば、目標を大勢の前で公言する必要はない。


『この動画はアタシから、アンタらの挑戦状だ』


 僕らの疑念に答えるように、彼女は話題を切り出した。


『まず手始めに、近々開催されるライジングカップで、アタシは優勝する』


 ライジングカップ。ダンジョンスポーツにおける新人戦の役割を果たす大会だ。対象者は直近のB、A、の昇格者で、ランクごとに分かれて大会が行われる。


 本大会で実績を残せば、後々、プロの世界に入る際の箔付けにもなる。実際、プロの冒険者の32.91%が、アマ時代、ライジングカップで上位を取ったというデータもある。


 しかし彼女が目指すのは未踏冒険者であって、プロではない。不要な実績をわざわざ取るのは、挑発の意図があるのだろう。


『アタシの目指す冒険が、アンタらの生温いもんと比べて、ずっと凄いんだって、証明してやる』


 そこで配信は終了した。


——コメント:

——user:『黒天子ちゃん』:自分が嫌いな輩に混じって、お嫌いな記録出そうとするのほんと草。貴方にプライドはないんですか?

——user:『フリーレストランの常連』:レベル99で優勝は無理でしょwww

——user:『天道アカリ』:ぷぷぷ、いかにもおバカで生き恥晒してる感じのおねーさんじゃーん、アカリ、Aランク上がったばっかだしー、潰して身の程わからせっちゃおっかなー?

——user:『永遠の義務教育者』:偽物乙。アカリたんはぷぷぷなんて書かないんだな。ぷぷぷっって笑うんだな

——user:『外道B』:解像度低すぎ乙。書き込みの時はそう書くわ。あと、メスガキは黙ってろ

——user:『天道アカリ』:ほらほら、皆もこいつ潰す作戦会議しよー:link:hps://kusa.ourTV.com/watch?v=2P21j9R7AEG

——user:『相山守』:他人の配信にうらる張ってやがる……。これが登録者三百万越えの配信者の姿か……?

——user:『黒天子ちゃん』:元々こんな奴だわ


 残されたコメントは攻撃で刺激的。なのに、内容がまるで頭に入らない。配信が終わってなお、未だに僕の脳内では彼女の言葉の一言一句が繰り返され続けていた。


 僕はビッグデータを元として、逐次最適な結果を出せる冒険を編み出してきた。既知を最大限に積み重ね、未知の領域を最低限までに減らすことで、目を見張るほどの結果を出してきた。


 それは柳山未知留からしたら、偽物の冒険なのだろう。既知の部分が存在せず、一切が未知のベールに包まれた場所に挑むこと。それこそ彼女が理想とする冒険だ。


 僕から見れば、良いアプローチには見えない。たとえ未踏冒険者であっても、未知の変数の介在は極力排除するべきだ。


 だが、柳山は僕よりも高い実績を出した。未知を未知のまま挑むやり方で未知を最小化、既知を最大化する手法に勝ってみせた。


 彼女は僕と同じく未踏冒険者を目指している。柳山が異なるアプローチを用いて最善の結果を出した以上、僕も彼女から学ぶべきところがあるだろう。


 柳山に会ってみたかった。


 彼女が見ている世界を知れば、より最適な判断を下せるだろうから。


 これが、心から信頼し合う仲間との刺激と変化に満ちた日々の始まり、そして僕の人生を変えるきっかけをくれた少女、柳山未知留との出会いだった。


冒険者:inf:

かつてはダンジョン探索を生業とする者の総称を示していた。しかし、探索が娯楽化した結果、冒険者連盟に登録した人々を指すようになった。登録料無料な上、ランクが上がればクーポンが貰えたり、関連商品の購入でポイントがつくため、お得。基本的に誰でも登録している。迷宮関連の産業が身近な昨今では、世界人口の七割近くが冒険者などという異常事態が発生している。

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