ep0-2.Aランク昇格最小レベル実績保有者『電算巡』
データの収集。それを基とした仮説の設定。実地での検証。そして、フィードバック。不足していると感じるデータがあれば、また収集を始める。僕の人生の98.12%は、この繰り返しだ。
いつだってこのフローを用いることで、データをより完璧にし、より正しい判断が出来るよう行動してきた。
——ライフログ | 分類:ダンジョン攻略 | アタック数31(総アタック数72203) | 日付:2062/8/21 | 攻略ダンジョン:【鬼ノ島】(Dランクコース)
——取引:1200 クレジットを『絡繰屋』に支払いました!:30%引き!
潮騒流れる浜辺の洞窟の中で、【悲哀に泣き叫ぶ青鬼】が棍棒を振りかぶった。眼前の脅威に対応するため、僕はスキルを発動した。
——スキル:【分析】
——スキル:【演算】
脳内で敵が繰り出すであろう攻撃を、敵が保有する武器、敵のサイズ、推定重量、行動パターンといったデータから計算する。
やがて、敵の攻撃軌道が計算され、敵が腕力に任せた振り下ろしを行うと分かった。
次に僕が取るべき行動を計算する。回避すべきか、受けるべきか、防御すべきか、そしてそれぞれ身体をどれだけ、どう動かせばいいか。
計十八もの己の行動パターンをシュミレーションし、得られる結果を試算する。そして、最も成功率の高い戦略を求める。
全ての計算が終わったのは、敵が金棒を振り下ろし始めてからだ。予測された行動のうち、58.92%が現実となった後である。
計算によれば、動作全体のうち、21.47%のみ実行されているはずなのに。そして、攻撃軌道そのものも予測より、8.23%ズレていた。
僕は0.43m後ろに飛び退こうとするが、失敗。金棒は僕の膝を打ち据え、骨が砕けた。衝撃で片手剣と拳銃が手から零れ落ちた。
0.48秒後に腹部へと衝撃。【悲哀に泣き叫ぶ青鬼】が金棒の軌道を唐突に変え、振り上げたのだ。予測できなかった行動である。
肋骨が砕け、僕は途端に身動きが取れなくなる。青鬼は追撃と言わんばかりに頭蓋へ金棒を振り下ろした。
予測精度不足が、このアタックの失敗要因だ。そして、予測精度を左右するのは、データの量である。
FランクからDランク冒険者の間は、特にデータが不足していた。予測ミスが多発し、十五回以上アタックしても一層すら辿り着けないこともざらにあった。
他の冒険者と比べても低いパフォーマンスしか発揮できず、成長効率も32.01%も低い。同じCランク冒険者の平均昇格レベルより8.82高いにも関わらず、未だDランクのままだった。
所謂初級者と呼ばれるランク帯で、僕は停滞していた。
だからこそ、より多くのデータを効率的に集めようとした。
——ライフログ | 分類:データ収集 | 日付:2062/8/22
机の上に六つのホログラムディスプレイが表示されている。
右二つには表示されているのはログ。滝が逆に流れるように文章が下から上に次々と流れていく。
左二つには図表や、棒、円、折れ線などの多種多様なグラフ。表の空白の行に次々と数値が埋められていくのに合わせ、グラフの形が徐々に変化していった。
僕のすぐ前のディスプレイにびっしり詰め込まれているのは、プログラムコ―ド。僕が素早く指を動かすのに合わせ、次々にコードが追加されていく。
そして、その上のディスプレイに映し出されているのは探索映像。片手剣使いの冒険者が【鬼ノ島】を冒険する様子が三倍速で映し出されていた。
一見して作業は複雑に見える。が、言葉にすればそう難しくない。
商業用ダンジョンに設置されている監視カメラをハッキングして映像を取得し、細かく分析・数値化しているのだ。
公開データなどセキュリティの低い情報であれば、ここまでの手間をかける必要はない。
例えば、動画投稿サイトにある探索動画は、自動で取得・分析されるようプログラムを既に構築済みである。
手動でコードを組み、データを集めねばならないのは、よほどセキュリティが厳しいものだけだ。
こうして日々データを収集した。自動で集められる仕組みを作った。おかげでまともに目を通せば一生を費やすほどのデータ量を手に入れた。
また、収集したデータを元に、最適化された動作が成せるよう努力した。
——ライフログ | 分類:トレーニング | 日付:2062/8/22
壁も床も、天井も真っ白な、無機質な空間で、【悲哀に泣き叫ぶ青鬼】のホログラムが咆哮する。半透明の青鬼は僕に接近し、金棒を次々に繰り出してくる。
2.34歩分の後退。半身を傾ける。腰を落とす。考えうる最低限の動作で、ギリギリで攻撃を躱していく。しかし、五度目の攻撃で、ホログラムの金棒が僕の膝に当たり、すり抜ける。
ビーッ、という音が鳴ると、ホログラムが消滅する。
1.08秒ほどして、また青鬼のホログラムが表示される。が、今度は僕を模したそれと同時に現れた。
ただし、僕のホログラムは重なっている。水色と、赤色の二つが。
即ち、理想の僕と、現実の僕。
データを元にシミュレーションした、最適な動作と、つい先ほど僕が取った動作だ。
この二つを比較することで、問題を明確に出来る。
やがて、青鬼と僕のホログラムが動き始める。最初の一回目、二回目の攻撃までは理想との違いは寸分程度で対処できていたが、三回目で明確にズレた。水色の僕から赤色の足がはみ出してしまった。
ズレはすぐに大きく作用し、四回目では水色と赤が完全に分離する。そして、五回目の攻撃がヒットし、リプレイは終了した。
問題点を把握したうえで、再度、僕は青鬼のホログラムの攻撃を避ける。動作が0.01ミリもズレないように。こうした練習を繰り返すことで、データが導く理想へと己を近づけていった。
前述した通り、すぐには成果が出なかった。しかし、データを積み上げていくうちに、僕の行動は、判断は最適化され、得られる結果も最大化されていった。最終的には、素晴らしい結果として実を結んだ。
——ライフログ | 分類:ダンジョン攻略 | アタック数2 (総アタック数150392)| 日付:2069/12/31 | 攻略ダンジョン:【蒼き煉瓦要塞】(Aランクコース)
——取引:0クレジットを『冒険者連盟月帰支部』に支払いました!
【白の鯨艦】が背負うおびただしい数の砲台から、星空を描くように、火花が噴き出す。
発射された無数の砲弾は余すことなく、要塞へ、地上へと着弾し、壁を砕き、地を抉り、建物を焼き、瞬く間に辺りを焦土へと変えていく。
絶えず壊れていく街の中で、煉瓦道を駆ける僕だけは、変わらず無傷だった。
左方と右方に砲弾が着弾し、砕けた建造物から瓦礫の数々が散り飛ぶ。
——スキル:【高速解析】
雨の如き速さで飛んでくるそれらの軌道をすぐさま計算、脚をズラして位置を右へ、左へ、前へ、後ろへと調整し、一つ一つ躱していく。
前方に砲弾が着弾し、砕けた煉瓦道が津波のようになって、僕を襲う。
僕は素早く足を動かし、跳躍し、或いは急制動し、至る所に降り注ぐ瓦礫を回避する。
この後も、砲弾はもちろん、着弾の衝撃で跳ね飛んだ礫すら、僕に当たることはなかった。
強いて言うなら、砂埃がかかった程度。それすらも、視界を大幅に塞ぐことなく、活動にさしたる支障はきたさない。
やがて、目的地たる壊れた桟橋の端が見えてくる。地上で最も【白の鯨艦】に近づける場所がここだ。
目的地に到着すると同時に、右手に抱えたロッドに魔力が溜まり切る。僕は最適な角度で【白の鯨艦】にロッドを突き付け、充電された魔力を一気に放出する。
——魔法:【ホーリー・ブラスター】:チャージ:『100.00%』
ロッドから放出された光線が、【白き鯨艦】の砲台へと炸裂する。狙い通り、装填していた砲弾や火薬に引火したらしい。爆発が次々と誘引され、敵の背中をみるみるうちに火炎が染め上げていく。
「HYAaAaAaAAAaAAAaaAAa!!!!!!!」
【白の鯨艦】が上げた悲鳴が、大地を震わせた。神秘的なその声に呼応するかの如く、波に波紋が広がり、風が激しく吹き荒れる。
——魔法:【ホーリー・ブラスター】:チャージ:『100.00%』
僕は動揺することなく、ロッドの先端に魔力を集中させ、次の魔法を放出した。光線は容赦なく【白の鯨艦】の腹を抉り、破裂するように粒子が飛び出ていった。
二発目、三発目と、次々に【ホーリー・ブラスター】を直撃させていく。
四発目の【ホーリー・ブラスター】に横腹を貫かれたところで、敵は地響きのような音共に、大海へと沈んでいった。
——通知:Congratulation!!:【蒼き煉瓦要塞】(Aランクコース)を攻略しました!
——リザルト | タイム:2:24:19 | トレジャー:なし | 達成ミッション:なし | 総合スコア:A
このアタックは、僕がAランク冒険者として昇格するのに必要な攻略実績の、決め手となった。
平均的にはレベル114.71でAランクに到達するが、僕はそこよりも14.71も低い100レベルで到達した。この記録は月帰国で、最も低いレベルでのAランク到達記録となる。
最終的なステータスは次のようになる。
——アプリ:『ダンジョン・チャレンジャーズ』:ステータス:user:『電算巡』
Lv:100
Job:『データアナリスト』
HP:D
MP:B
STR:C
DEF:C
DEX:S
CRI:A
AGI:S
INT:S
RES:E
——基準:『冒険者連盟』:詳細:
※Cランク冒険者の平均ステータス値をCとする。
ここまで辿り着く過程で、データ不足がたたり、出遅れた。が、十全にデータが揃って以来は、他の追随を許さぬパフォーマンスを発揮し、最終的に唯一無二の実績を残すことが出来た。
何事においても重要なのは情報収集であり、データだ。僕らは充分なリサーチがあって、初めて正しい判断を下せる。
失敗は全て情報不足によるもので、データを集めきれば、如何なる難題でも必ず成功へと導ける。
僕の軌跡と、結果を見れば、誰もが自ずとこの真理に納得できるはずだ。
そう。そう思っていた。
だからこそ、余計に僕は衝撃を受けた。
——ライフログ | 分類:生活 | 日付:2069/12/31 時刻:8時11分39秒
——通知:ニュース:Aランク昇格レベル最少記録更新。一日で二度の最短記録更新。新記録はレベル99。
僕の結果を塗り替えた少女の名を、柳山未知留という。




