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ep1-6.炮烙:第三層:切り立った溶岩地帯

 ——【炮烙】:ライジングカップ:第三層


 横合いから噴き出してきた炎を、咄嗟に身を低くして躱す。ガンソードを数瞬の間に抜き、遠方の敵に銃口を合わせ、引き金を引く。同時に首を傾ける。


 音もなく碧の魔弾が、火矢を飛ばした敵の胸部を貫く。僕の首のすぐ横を前方より飛来した火の矢が通り過ぎていく。


 倒した敵を包むは、空色の羽毛に赤い文様。小剣のように鋭いくちばし。その身を支えるのは、どっしりとした一本足。


 鶴と孔雀を掛け合わせたような見た目のモンスター、【畢方ひっぽう】が鋭い断末魔を上げ、壮麗そうれいな翼を散らして地に落ちる。


 直後、僕は腰を低くして前に跳躍した。0.24秒も経たぬ間に、背後から高熱を感じた。ついさっきまで僕がいた場所を、火炎が通り過ぎていったのだ。


 三層からは一定頻度で、洞窟の端から放射された火炎が、ダンジョンを一直線に横切ってくる。


 着地する予定場所は、ここから4.03mほど先だ。視界に入る陸地は穴開きで、途切れ途切れ。上から見れば、群島のように見えるだろう。それらの隙間に落ちれば、一巻の終わりだ。


 陸地はどれも切り立った崖のようになっており、脚を踏み外せば奈落へまっしぐら。そして、その底には溶岩が池のように溜まっていた。


 ステージ両端からの火炎、前からは【畢方ひっぽう】の火矢。不十分な足場。単純な力押しでは突破できない、厄介なギミックである。


 やや開けた陸地に着地する。前方に、狩人風の男が小さな孤島に脚をつけているのが見えた。直後、彼の横から火炎。


 彼は躱そうとするも、そうするには立っている場所が不安定で、狭すぎた。


 彼の靴が半分足場の外に飛び出る。落下を避けようとした彼だったが、バランスを崩して転倒。


 仰向けになった彼に、横からやってきた炎が炸裂する。着ていたコートに引火し、彼はみるみるうちに火だるまへ。


 炎を振り払おうとしてのたうち回った末に、溶岩へと落ちていった。


 誰もいなくなった陸地に、僕が飛び移る。すると、ピピ、という電子音が足元から響いた。


 即座に危険と判断。すぐに遠場の陸地めがけて飛び移る。


 耳をつんざくような轟音。熱を帯びた強風が一瞬だけ吹き荒れ、僕の背を強く押した。


 どうにか上半身で次の陸地に掴まる。振り返れば、抉れた地面に薄い白煙が漂っていた。


「ひーっ、ひっひっ、ひっ。やったんだな。厄介ファンに痛い目遭わせてやったんだなっ!」


 白衣を着た男が両手に手榴弾を持ちながら、震えていた。天道の集団にいた一人だ。

——ユーザー:『尚道昭』:冒険者ネーム:『ボマー』:レベル:108:ジョブ:『世紀の爆弾魔』


 『世紀の爆弾魔』は、高火力かつ小回りの利く爆弾を自作できるジョブだ。


 先程の爆発は地を抉る威力に、光学迷彩とセンサー機能を搭載したであろう地雷によるものだろう。


 天道のグループに属している彼は、今後も僕を狙うはずだ。なかなか厄介な相手である。

 

 上腕に力を入れて下半身を持ち上げ、全身を陸地に上げる。


 乗り上げた陸地は、他と比べ広い。しかし、気楽に移動できる場所ではないようだ。


 ほぼ隙間なく敷き詰められたまきびしが鈍色を放っている。走りでもすれば途端に足が使えなくなるだろう。


 僕はまきびしを払おうと、ガンソードを下に向けた。すると、首の真横に鋭い風が吹いていった。


「ちぇっ、なんでビビらねーのよ」


 悪態をついた下手人、猫人ギャルは弦に新たな矢をつがえ、僕に放った。その矢は僕の足元へ突き刺さる。やはり、威嚇射撃の域を出るつもりはないらしい。


 以降は無視して、横からの炎を躱しつつ、ガンソードを箒のようにしてまきびしを前に押し出し、溶岩へ落とす。

 

 並行して七つ回収しておく。初めは矢も次々と放たれていたが、効果がないと見るや撃たれなくなった。


 片がついて安全な道が出来た所で、まきびしを投げつける。今まさに火矢を吐き出さんとしていた【畢方ひっぽう】の喉元に得物は突き刺さった。


 断末魔を上げて落下し、空色の鶴はゆっくりと溶岩へその身を沈めていった。


 ひと段落して、辺りを見回していると、火山地帯には不自然な冷気を感じた。


 視線を遣ると、やや先の陸で天道の一団である銀髪の少女が【畢方ひっぽう】の群れと相対していた。少女の両腕には氷で作られたハルバードが握りしめられている。


 【畢方】たちの口から矢継ぎ早に火矢が撃ち込まれる。銀髪の少女は跳び上がり、【畢方】と一瞬だけ交錯する。


 銀の煌めきが迸ったかと思うと、少女が相対していた【畢方】は全て氷像となっていた。


 少女が手をかざすと、氷像は宙に浮き上がる。ハルバードを放り投げて、彼女が手を下ろした途端、氷で出来たそれらは弾けるように砕け散った。


 氷塊が雨のように、僕の方へ降り注いでくる。成程、討伐よりも妨害が本命だったのだろう。


 ——スキル:【高速演算】


 一つ一つの氷塊の軌道を脳内で計算する。それら全てを回避し尽くし、かつ最も素早く前進できるルートを、0.24秒で導出した。


 ダイヤルを回してガンソードを二振りの短剣に変え、降り注ぐ氷塊のうち、十四個を弾く。


 残り十六個に関して、特別な対応をする必要はなかった。自然と動くうちに、回避できるようなルートを選択したからだ。


 氷塊は僕の首元を、顔を、瞳を、手を、足を、掠めるギリギリの距離で通り過ぎてゆく。どれ一つとして肌を裂くことも、手袋、ジャージ、チェストプロテクター、どれも傷つける事はなかった。


 そのうえ少女が通った道を辿れば、【畢方】は排除済み。予定よりも、滑らかに進むことが出来た。


 次に立ち塞がった刺客は、忍者装束の男だった。


 指で印を結んだかと思うと、彼は口から他の陸地へと炎の吐息を吐き出し始めた。燃え移るものがないにも関わらず、炎は陸地で燃え盛り、瞬く間に火の海が出来上がる。


 そうして僕の半径12.36m以内の陸地八つが激しく燃え上がり、残った二つの陸地も天道の一団が占拠し、塞いでいた。


 少し思案が必要だ。炎上している陸地に飛ぶのは論外。僕のHP値やRES値はあまり高くない、炎上した陸地に少しいるだけでも危険だ。服にでも延焼すれば生命の危機に陥る。


 残った陸地に着地出来ないこともないが、天道一行が占拠している都合上、スペースが取れず必ずや不安定な体勢になるだろう。そこに天道の一団から攻撃でも加えられれば、一巻の終わりである。


 遠方に飛ぶ方法も容易な解決法とはならない。離れた陸地には、まきびしやトラばさみ、地雷が仕掛けられていた。


「おりゃああああああっっ!」


 思案に耽っていると、柳山が気勢を上げるのが聞こえた。


 彼女は【畢方】を切り伏せ、横から迫る炎を打ち払い、威嚇として放たれる矢や手裏剣を弾き、前へ前へと突き進む。


 天道の一団が占拠した場所へ躊躇いなく飛び移り、横断しようとする。想定外の行動だったのか、彼らは両脇にズレてしまう。


 出来た隙間は平均0.35m程度だったが、柳山の強引な突進によってより大きく押し広げられた。彼女は足を止めることなく、次の足場へ飛び移っていく。


 一団を叱責する天道の声が、後ろから響いてきた。


「ちょ、ちょっと、おにーさんたちっ!!! 何やってんのっ!!! ビビり過ぎじゃないのっ!」

「いちっ、いちち……、いってーっ!」


 柳山は今、足裏に刺さったまきびしに悩まされ、トラばさみに挟まれた足を引きずっている。そして、足を大きく振って外そうと試みていた。


 あれらの罠は大きく敏捷性を低下させるが、対策自体は容易だ。にも関わらずかかったということは、無鉄砲に動いたのだろう。


 思いつきや直感。柳山の行動指針はこれに限りなく近いと予想できる。だからこそ、先程のような、珍しい状況に時間を要さず対応できたのだろう。


 しかし、ああいったやり方はあまりに短期を見据え過ぎている。判断に時間がかかったとしても、未知の状況に会した時は慎重に意思決定を行わなければならない。


 そうでなければ、長期的には損失が多い。


 だが、あのやり方で彼女は僕より低いレベルでAランクに到達した。故に、非合理だと切り捨てず、もっと彼女のデータを集めるべきだ。


 一見、無計画に見えても、僕が知らない合理性があるのかもしれない。

 

 さて、僕は僕で戦略を計算できた。すぐさま行動に移すべき時だ。


 駆け出し、地を蹴る。宙で移動経路を計算・導出し、やがて天道の一団の下へ降り立つ。


 彼らは侵入者を通すまいと武器を振り回し、或いは押し出さんと身を広げた。シミュレーション済みの行動だ。


 陸地の端から大きく跳躍。カーブするような軌道を経て、再び陸地に舞い戻る。


 背後からツーハンデッドソードの柄で打たれる寸前で、また跳躍。


 陸地に着地する直前、僕はガンソードを振り抜くようにして投げた。剣は陸地の上で、勢いよく前進しながら回転。


 まきびしや地雷といった罠を排除し、溶岩溜まる奈落の底へと落としていった。


 ガンソードが陸地の縁まで前進し、奈落へと落ちてしまう前に回収。腰に差して次の陸地へと跳び上がる。


 やがて僕は、次の層への階段に辿り着いた。


 妨害はあったが、三層も突破できた。計画より順位が低いため、これからペースを追い上げる必要があるだろう。


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