第9話 勝負《セレスト視点》
今日から王太子の近衛騎士.......。
なんとしてでもこの国に俺を留めたいというのが丸分かりだな。
それにしても、こんな14にもならないガキ1人に対してこんなに執着するとは...。
俺はただ運良く戦果を上げれただけだ。騎士を目指した理由だって、国を守るためじゃない。自分を守るためだ。
近衛騎士なんて、なりたくもないな。
.......応接間がここら辺にあると聞いたのだが。
どれだけ歩いても見当たらない。
これはもしかして...。
「あれ?お兄さん、迷子なの?」
突然、後ろから声をかけられた。
振り返ると、白い髪をした綺麗な女の子が俺を見上げていた。
「王城は広いからね!!ミルが案内してあげる!」
白い髪の少女はそう言うと、俺の返事を待たず手を引いて走り出した。
王家には今はご息女は居ないと聞いている。ということは、この子はどこかの貴族の令嬢なのか?
だとしても、王城を我が物顔で歩くとは、肝が座っているな、そう思った。
「お兄さん、見て。このお花。」
この子はそう言うと、窓の外に見える花を指さした。
「このお花はね、カモミールっていうの!私に似てるでしょ?これは私のお花なの。」
彼女はそう言うと、その花を撫でた。
確かに、彼女の白い髪に黄色い瞳がその花に似ていると思った。
「お兄さんはあのお花に似てるね!あの花の名前は...」
彼女はそう言いながら、少し遠くにある赤い花を指さした。俺はこの国では珍しい黒髪だ。誰もが俺の事を見たらまず、髪について尋ねてくる。一部の地域では呪われているとまで言われているそうだ。だから、俺に似ているのは黒い花なのではないのか?
「どうしたの?お兄さん。お兄さんの目、とっても綺麗な赤色。ね?似てるでしょ?」
彼女はそう言うと無邪気に微笑んだ。
「お兄さんの目、とても綺麗だったから、話しかけた時もびっくりしちゃった。」
彼女はそう言うと、また俺の手を引いて歩き始めた。
目が綺麗.......そんなこと、初めて言われたな。
これが、俺とミルの出会いだ。
◇◇◇◇
「セレストはさ、結婚する気とかないの?」
急に王太子、アイルが声をかけてきた。
2年前、この方の近衛騎士となり、今は友人のようなものだ。俺は爵位を貰い、騎士団長に任命されたため、もう近衛騎士ではない。だからこそ、急な話だった。
「僕はもう婚約者決めてるんだけどさ、誰だと思う?」
「俺は令嬢には詳しくないので、誰とまでは...。」
「カルミール・ルートイル嬢。」
彼の発言に、2年前出会った少女のことを思い出した。確か、その令嬢がカルミール嬢だ。
あの日以降ほとんど顔を合わせていないがはっきりと覚えている。
「あれ、リアクション薄いね。セレスト、あの子のこと好きなんじゃないの?」
「はぁ?」
思わず素っ頓狂な声が出てしまった。
好き、だと?
国中で悪評しか目立たない俺が、恋愛ごとなどしているわけが無い。していい存在でもない。
「え?好きなんじゃないの?何回か僕と彼女が会ってた時、すごい凝視してたのに?」
「してないですよ。」
「してたって。あ、もしかして無意識ってこと?」
そう言うとアイルはニマニマと笑った。
「だから違いますって。ただ、どんな人か気になって見ていただけで...。」
「ほら、見てるじゃん。セレストも可愛いところがあるんだなぁ〜。そういう感情を好きって言うんだぜ?」
アイルは楽しそうに話す。
話している相手も楽しくなる。そんな感じがする。
王太子にぴったりの性格だなと感じた。
「まぁ、この話はここまでにして。僕はカルミール嬢を王太子妃として迎えるつもりはない。僕個人の恋愛感情で選んでいいものじゃないからね。だから、側室に迎えちゃおうかなーって。」
側室...?まさかこの人が、正妻以外にも妻を娶るつもりだったとは.....。意外だな。
「でもさ、ただ側室に迎えるだけじゃ面白くないじゃん。だから、僕とひと勝負どう?」
「なんの話しですか?」
「カルミール嬢をかけた勝負だよ。」
アイルの話はこうだった。
俺がカルミール嬢を婚約者として迎える。
その代わり、恐らく半年以内に起こるであろう隣国との戦争に俺も参戦する。
だから、その戦争に行くまでに彼女の心を俺自身に向かせることが出来れば俺の勝ち。
もし、出来なければ、俺が戦争行っている間にアイルが彼女と接触し、俺が帰ってきた時には、彼女はアイルのものとなり、俺の負け。
まるで人のことを遊び道具にするかのような提案だった。正直気に食わない。
「僕はいずれ王になるんだもん。少しくらいクズじゃなきゃ、国なんて治められないよ。まぁ、別にセレストとカルミール嬢が両想いになったら終わる話なんだし、戦争に行くまでは幸せに過ごせばいいんじゃない?」
そう言うと、アイルは部屋を出ていった。本当に何がしたいのだろう。まずそもそも俺には好きな人なんていないし、彼女と両思いになりたいなんて思ってもいない。
恋愛ごとなんて、するつもりもないのだがな。
◇◇◇
最近の俺はおかしいのだろうか。
ミルがこの屋敷に来てから、俺の生活は一変した。
今までは、この、ほとんど人がいない屋敷で何も考えずに過ごしていたが、最近はいかに彼女と顔を合わせずに済むかを考えて過ごしている。廊下も、絶対に彼女と出会わないルートを選んでいる。
彼女と目を合わせると、おかしくなりそうだった。
あの目で見つめられる度に胸が苦しくなる。
誰にも見せたくなくなる。
俺のものにしたくなってしまう。
なのに彼女は俺に対しては何とも思っていないようだった。
このままでは俺が戦争から帰ってきたときには俺の元から居なくなってしまうのではないかと本気で心配した。戦争は思っていた以上に近くなりそうだ。もう時間がない。俺は、本当に焦っていた。
まさか、恋愛ひとつにここまで振り回されると思っていなかった。
でもそれほどまでに、彼女を手放したくなくなってしまった。
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なんてことを全部話したら流石に引かれるよな?
簡潔に伝えるべきだと思う。
だが、今のミルは.......。
向かい側に座る彼女に目を遣ると、すぐに目が合った。
「焦ってる理由、早く教えてください...」
「あ、その.......。」
だめだ、どう伝えればいいのだ?
アイルとの話をすれば、俺もその勝負に乗ったように聞こえるから、よくないと思う。
単純に好きだから、と伝えるのは俺には不可能だ。恥ずかしすぎる。
戦争が起こるかもしれないから、それまでに距離を縮めたかったと伝えればいいだろうか。
いや、だめだ、それじゃあ理由になってないよな。
いちばん肝心な、俺が距離を縮めたい理由が伝えれていないし.......。
まさかこれは、好きだと告白するしか道がないのか...?
いやでも、俺は幾度の困難に立ち向かって来、色々な策略を使って乗り越えてきた。今回もどこかに突破口が.......。
「セレスト様。お話出来ないような事なのでしょうか。」
「いや、違う。そうではなくて...」
「でも、セレスト様はお話してくださらないじゃないですか...」
ミルは俺を潤んだ瞳で見上げてきた。
その顔は.......。
俺は本当に、彼女には弱いな.........。
「実は.....戦争が、あるかもしれなくて...」
「その話は伺っております!よく騎士団に出入りしていますので!」
そういえば、彼女はよく俺の訓練を見学していた。
見られているとすごく緊張するから俺は1番奥で訓練しているが.....。
「その戦争がどうかしましたか?」
「その、俺はその戦争に行くんだ」
ミルの顔が曇っていくのが、人の感情に鈍感な俺にでもわかった。
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