第7話 そんな話、今されても困ります!!
「セレスト様...っ、離れて...ください.....。」
「ミルがセスと呼んでくれるまで離れない」
うぅ.......。どうして...どうしてこうなってしまったのですか?!
というか、今は王太子殿下の婚約式なのですよね。お庭でこんなことしていたら怒られるのではないでしょうか!でもこんな状態のセレスト様を連れて行っても恥ずかしいだけですし.....。
どうしようと考えている間もセレスト様は私に抱きついてきます。こんなに綺麗な顔をした人に抱きしめられているなんて...。心臓が何個あっても足りません!!
どれだけ考えても、この後どうすればいいのか分からず、私は考えるのを諦めました。
そして私に擦り寄ってくるセレスト様に声をかけました。
「どうしてそんなに私に愛称で呼ばれたいのですか?」
「それは...おれたちは婚約してるし.....」
そういえば、副団長が、セレスト様は習慣を大切にしたい方だと言っておられました。つまり、婚約したら愛称で呼び合うのが習慣だから、それに倣って欲しいという事なのでしょうか?とはいえ.....愛称で呼ぶのはなんというか、恥ずかしいです.......。
「もう少し、待っていただけませんか?」
「どうして?もう婚約して数ヶ月も経つよ」
「それでも...私たちはお互いのことあまり知らないじゃないですか」
「それじゃあ今からおれについて知ってもらえば、いいってこと?」
「だから、そういう意味じゃなくって...!!」
どれだけ引き離そうとしても、離れてくれません。
さすが怪力。そういえば、初めて会った日も、壊れた馬車の扉、素手でこじ開けてましたもんね。私のか弱い力ではビクともしません!!とはいえ、ずっとくっつかれるのは恥ずかしいというかなんというか...。
そう思っていると、ふと私たちの元に影が落ちました。
「僕の婚約パーティーでいちゃつくなんて、セレスト騎士団長は大胆だなぁ.....。」
穏やかな笑みを浮かべながら、そこに立っていたのは紛れもない、王太子殿下でした。
「っっっ!!!セレスト様!!離れてください!」
は、恥ずかしすぎます!!!!今私たちありえないくらいくっついてて、もう、ほんとに、周りから見たらイチャイチャというやつです!!無理やり引き剥がそうとセレスト様の方に力を入れようとした時、耳元で一定の呼吸音が聞こえてきました。
.....これ、寝息...........??
「あー、セレスト、寝ちゃった?」
「.......みたいです。すみません...。」
「謝らなくていいよ。それより、セレストの寝顔初めて見たけど、年相応って感じだねー。」
王太子殿下にそう言われ、私の肩にもたれているセレスト様の顔を覗いて見ました。
とても長いまつ毛に高い鼻。肌はとても綺麗で、今まで沢山戦場に出たはずですが、顔には傷1つありません。寝顔は何だかあどけなくて少し安心します。
いつもは無表情で、無口で、何を考えているのかも分からない人ですが、とっても愛らしい人だなと、最近は感じています。
そう思いながらセレスト様の寝顔を見つめていると、王太子殿下が私の隣に座ってきました。
「今は僕の婚約者になったセレスティナが会場を取りまとめてくれてるから、安心してくれていいよ。それより、カルミール嬢はそんな顔もするんだね。僕が君の婚約について話した時の絶望したような顔とは大違いだ。」
え?!私そんな顔してましたか?!
「僕の婚約者を決める茶会の時、実は護衛に来てくれていたのがセレストだったんだよ。茶会が終わった後に、カルミール嬢が凄く嫌そうだったて落ち込んでいたよ。」
王太子殿下は笑いながら話されています。
が、私、めちゃめちゃ失礼なことしてしまっていたのですね!!セレスト様を傷つけてしまっていたとは!!
「カルミール嬢は変わってるなぁって思うよ。」
「...え?」
変わってる.......?
「まだ幼かった時にさ、2人きりで話したことがあっただろ?あのとき、僕は君に、君に似た花を贈りたかったのに、花を摘んだ瞬間に怒られて、本当にびっくりしたよ。」
そ、その時のことですか?!
「その節は本当に申し訳ございませんでした!!」
「謝らなくていいよ。その時から、僕は君に惹かれていたから。」
「そうなんですね.........。」
...............ん?
ひかれる...?惹かれる...ですか?
「王太子殿下、嘘は良くないですよ。」
「はは、僕は嘘なんて、ついたことないけど?」
「でも、お互い婚約者が他にいるのに...」
そうですよ!!!お互いに別の人と婚約しているのに、なんでわざわざそんな事言うのですか?!
というか、私に惹かれていたのに、どうして他の人と婚約を?!益々意味が分かりません!!!
まぁ、私が王太子殿下を嫌がっていたのは、彼も気づいていたのかもしれないですけど.....。だから私との婚約はしなかったとか...?
「ほら、僕、小さい頃から顔も良くて勉強も出来て誰にも優しくて、みんなから凄く好かれてたじゃん?」
自分で言っちゃうんだ...と思ってしまいました。
でも、王太子殿下は本当にみんなから好かれています。
「叱られたの、初めてだったんだ。」
「.....え?」
「あの日、君が僕に初めて、叱ってくれたんだ。」
「.....それだけ、ですか?」
「うん、それだけ。ただ、他の令嬢みたいに媚びを売らずに、真っ直ぐ接してくれた君のことを特別に感じていただけだよ。本当に、それだけだよ。久しぶりに話せてよかった。」
「はい...。」
「そろそろ会場に戻らないとね。今の話は僕たち2人の秘密だよ。」
王太子殿下はそういうと、椅子から立ち上がりました。
「あの!どうして、この話を...?」
「さぁ?さっき酔った君とセレストのやり取りを見てちょっと嫉妬しちゃった...それだけだよ。」
「さっき"酔った私"のやり取り.......?」
「僕は凄く可愛いと思ったよ。」
か、可愛い?!?!やっぱり、酔った私、何かやらかしてますよね!!!!一体何を.......。
「あ、庭の門の傍に馬車を回しておいたから、それを使って。転送陣のところまで送るよう伝えておいたから。」
そういうと、彼は会場へ戻っていきました。
さて、今から酔ってしまったセレスト様を馬車までお連れしないと.....。そう思い、私が王太子殿下と話していた間、ずっと私の肩のところで眠っていたセレスト様の方へ目をやりました。すると、セレスト様と目が合いました。
そう、目が、合ったのです。
「セレスト様?!?!起きてらっしゃったのですか?!」
「うん。馬車までは自分で歩くよ。」
とはいえ、足元が少し覚束無かったので私が支えながら馬車へと向かいました。
―――
「ミル。さっき君がアイルと話してるの、聞いてしまったんだけど。」
馬車に乗り込んでから少しして、セレスト様は口を開きました。
「アイルが君のことす、好きって、知らなかった。」
「いや、きっと勘違いですよ?!?!王太子殿下は婚約されてますし!!!!」
「それでも、惹かれていると言っていた。」
確かにそうです。けど、昔少し憧れていた、程度なのではないでしょうか?というか、そうだと信じたいです。
「もし、アイルが今の婚約を解消して、ミルにプロポーズしてきたら、ミルは俺との婚約を解消して、アイルの元へ行くのか?」
「行かないですよ?!何があっても、あの王太子殿下の元に行く予定はありません!!」
悪意がなかったとはいえ、お花をちぎってしまう方は、少し.......いえ、かなり、嫌です。
「そうか、よかった...。俺にはいい噂がないし、噂通り、冷たい男だと思っている。だから、君に嫌われてしまうのも時間の問題だと思う。だけど、出来れば、他の男の元に行って欲しくないというか...。」
セレスト様が少し顔を赤くして俯いています。
な、なんて可愛らしい生物.....。
初めて会った時から、セレスト様への印象は変わるばかりです。
こんなに幼くて可愛い方が、残酷な剣士だなんて...。信じられないです。それに、騎士団長だなんて.....。
「俺、本気でアイルより良い男になるから、だから、」
「もうすでに、私の中では王太子殿下よりもいい男性ですよ?」
花をちぎる男より数千倍!!
なんて思っていると、馬車が止まりました。
どうやら転送陣に着いたようです。
その後はすぐに屋敷に着きました。
それぞれ自室に戻って眠るので、セレスト様とは、今日はもうお別れですね。
「ミル、おやすみ」
そう言うと彼は私の部屋とは反対の方向の廊下へと歩いていきました。
「おやすみなさい!セス」
私はその背中に、勇気を出して返事をしました。
更新遅くなりました!
読んで頂きありがとうございます!
今後も不定期の投稿になってしまいますが、お付き合いいただけるとと嬉しいです!
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