第4話 騎士団にやってきました。
嫁いできてから1ヶ月が経ちました。こちらの生活にも少しずつ慣れてきました。私の生活には特に変化はありませんが、少し退屈です。
セレスト様は騎士団のお仕事や稽古があるそうなので、お昼はほとんど毎日お屋敷にはいらっしゃいません。アレシア様もアカデミーに通っているらしく、ほとんど毎日お屋敷にはいません。
「.........暇です。」
「カルミールお嬢様。どうかなさいましたか?」
私の髪をといてくれていたアレッサさんが声をかけてきました。アレッサさん、いつ見ても素敵な容姿で.............。あれ?気のせいでしょうか。アレッサさんとアレシア様、瞳の色がとても似ています。しかも、名前も少し似てて...........。え?
「私顔に何かついてます?」
「い、いえ!!ただ、アレシア様とお顔が似ている気がして。」
「あぁ、そうでしたか。あの子、私の弟なので。」
「.................え?」
その後アレッサさんに話を聞くと、どうやら2人は孤児で、行き場がなく、街の裏路地にいたところ、セレスト様のお父様に保護されたそうです。その後、2人の才能を評価され、養子にしたいとお願いされ、アレシア様はシーヴェルト伯爵の次男となったそうです。
「ということは、アレッサさんは長女ということですか.........!!!」
「いえ、違いますよ。私は養子になるの断ったので。」
「断ったのですか?!?!」
「えぇ、私、貴族令嬢にはなりたくなかったので。特に、孤児だった私が急に伯爵令嬢なんて地位を持ったら、周りからどんな目で見られるか分からないでしょう?」
「そうなんですかね.......。」
「あと私、騎士になりたかったので。」
「騎士.............?!?!?!」
アレッサさん曰く、騎士団に入団したいから養子にはならないと言ったそうです。ですが、セレスト様のお父様は才能のある彼女をどうしても離したくなかったそうで、ある約束をしたそうです。
先代が亡くなって、セレスト様が当主になったとき、彼を助けるためにもういちどここに戻ってきてくれ、というものだったそうです。だから彼女は今、ここにいるのですね。
「あれ、ということは、事実上、私のお姉様ということですか?!」
「え?一応はそうですね。私セレスト様より4歳年上なので。」
「私、姉妹がいなかったのです!!!男ばっかりで.......!アレッサ姉様とお呼びしてもいいですか!!」
私は目をキラキラさせてアレッサ姉様に近づきます。あ、心の中で呼ぶ時はアレッサ姉様と呼ぶのは決定です!!!
「私も、妹が欲しかったので、いいですよ。その代わり、私は貴方のこと、カルミールとお呼びしても?」
「本当ですか!!!私のことは愛称のミルとお呼びください!!!」
「...セレスト様より先に愛称を呼んでしまっていいのかしら。」
「姉様?」
「いえ、なんでもないですよ、ミル。」
こうして、私に姉ができたのです。その日から毎日、「私に姉妹がいたらやりたかったこと」を一緒にしてもらい、退屈はなくなりました。
―――――――――
朝起きると、テーブルにお弁当が置いてありました。
私のかな?と思って、あのムキムキ料理人さんに声をかけてみると、どうやらセレスト様のものだそうです。
.......あれ?彼もう家出てません?
「姉様!!!!セレスト様のお弁当が!!!!」
「あ、それわざとです。」
わ、わざと...........?!セレスト様に対する嫌がらせでしょうか!!!お昼ご飯抜きなんて、とっても酷い!!
「ミル?多分貴方が想像してること、全然違うと思うわよ。」
どうやらめちゃめちゃ顔に出てたみたいです。令嬢として有るまじき失態です!また表情筋のトレーニングをしなければ.......。
◇◇◇
「アレッサ。」
「なんですか?セレスト様。」
「最近カルミール様と仲がいいようですね。」
「えぇ、ミルはとてもいい子で可愛いですよ。」
「み、ミル...........?」
私がいつも通りミルと愛称で呼ぶと、セレスト様は不満そうな顔をしました。
「ずるい」
え?
この人は何を言っているのだろう。今まで女性関係の事に一切関心を示さず、ずっと訓練と勉強に打ち込んでいたこの人が、まさかミルに興味を持つとは。
「俺に、どうやったら彼女との距離を近づけれるか教えてほしい。」
「なるほど.......。相手のことを知りたいのなら、自分のことを知ってもらえばいいのです。つまり、自分に興味を持ってもらう。これが重要です。」
「興味を持ってもらう...か。ちなみに彼女は、俺のことどう思ってるのか知らないか?」
「さっきの話聞いてました.......?」
セレスト様はきょとんとしています。知りたいなら自分のことを教えてあげろと今言ったじゃない...。
「とりあえず、自分の事を知ってもらえばいいのです。明日にでも、騎士団にミルを連れていきますね。」
「え?」
「お弁当を届けに行くという口実を使います。私は元々王国騎士団所属だったので、すぐに入れますし。」
「あ、ありがとう.......。」
セレスト様は戸惑いながらも頷いてくれました。
◇◇◇
「昨日の夜こんなことが。」
アレッサ姉様が簡単に説明してくれました。つまり、
「私がこのお弁当を届けたらいいのですね!!」
そう意気込んだのはいいのですが.....。
ここって伯爵領よね?王都まで何日かかるの?というか、セレスト様はどうやって毎日通っているの?まぁあの方規格外とか言われているから、超能力とか持ってたり.....。
「あ、屋敷に移動用の魔法陣があります。」
「超能力は.............?」
心を読まれた気しかしませんし、超能力もなくて残念ですが、その魔法陣を使えば一瞬で王都に着けちゃうんですね!
瞬き1回の間に、王都に到着しました。すごいです。浮遊感があって少し気持ち悪かったですが、とてもはやくてびっくりです。
王国騎士団は王城の訓練所で日々鍛錬されているそうです。王城は警備が鉄壁でしたが、アレッサ姉様が元々騎士団所属だったので、すんなり通して頂けました。
門をくぐり建物に入ると、とても長い廊下が続いています。
「人の声が聞こえます!」
「この時間は恐らく模擬訓練だと思います。」
私が柱から顔を覗かすと、たくさんの人が木刀を交えていました。
はじめて訓練の様子を見ましたが、迫力があって凄いです!
セレスト様がなかなか見当たらず、頑張って奥の方まで見てみると、端っこの方にいました。どうやら新人の子に剣を教えているみたいです。
「セレスト様は人に教えるのがお上手なのです。まぁ、丁寧に教えるというより、体に叩き込むみたいな感じなんですけどね.....。だから、ちょっと怖いんですよね.........。それに自分より年下に教えられるなんて、騎士としてのプライドまでズタボロに.........。」
叩き込む...........?一体どんな教え方.......?
「お嬢さん、1人で訓練所に何の用かな。」
突然後ろから声をかけられ、思わず悲鳴が出そうになりました。あ、あぶない...........。
後ろから声をかけてきたのは、騎士団の服を着ていて、ちょっと癖のある茶髪で、なんだか話しやすそうな、優しそうな方でした。
って、1人?と思い後ろを見るとアレッサ姉様がいません。辺りを見回すと、すごい遠くにいらっしゃって、頑張ってと言わんばかりに親指を立ててらっしゃいます。これは、1人でなんとかするしかないのですね...。
「じ、実は私、お届け物を届けに来まして!」
「ということは誰かの侍女さんかな?その人、呼ぼうか?」
侍女?と思い、自分の服装を見ると、慌てて来てしまったため、とてもラフな格好で、とても令嬢とは思えなかったです。着替えてこればよかったです.......。
「いえ!今は忙しそうなので、ここでしばらく観察させてもらいます。休憩時間になったら教えてください!」
お仕事の邪魔はしたくないので!!!
話しかけてくれた人はとてもびっくりされています。
私、変なこと言いました...?
しばらくして、その人は少し考えた後、真剣な顔で口を開きました。
「休憩時間までは少し時間があるので、貴方がどの方を呼びに来たのか当てようと思う。」
「当てる.....ですか?」
その男性は、私と一緒に、訓練所の傍にあるベンチに腰をかけました。
「その人の特徴を教えてよ。」
「特徴...ですか。剣を振るう姿がとってもかっこいいです。あ、あと、ご飯食べてる姿がリスさんみたいです。」
「り、リス?」
みんなリスって言ったらその顔するのやめてくれないかしら。本当にかわいいのに.........。
その男性は色んな人の名前を挙げてくれましたが、セレスト様の名前は出てきません。
そろそろ的確なヒントを出した方がいいかな?なんて思っていたときでした。
ふっと私たちのところに影がさしました。
顔を上げると、セレスト様がこちらを見下ろしていました。
「そんなところで楽しそうに何の話をしてるんだ?副団長。」
「せ、セレスト騎士団長...?」
セレスト様はとても怒っているようです。
というか、え?この人副団長?
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