第1話 王太子妃はお断りです!
私はお花が大好きです。私の名前も、お花の名前をちょっと変えて付けたのだよとお母様が言っていました。
私の花はカモミール。白い花びらに黄色い苞。私の白い髪と黄色い瞳にぴったりです。それにこの、小さくて可憐な花を私は気に入っております。
私は侯爵家の長女です。兄と弟がいて、女の子は私だけです。去年行われた私の14歳のデビュタントでは、両親が盛大に盛り上げてくださいました。私のお母様譲りの白い髪が美しいと評判になったようです。
私は両親に恩返しがしたくて、ずっと仕草やマナーの勉強をしていたので、デビュタントの時にそれを披露できて私もとても嬉しかったです!
私は今、庭でお花の手入れをしています。お母様がお花好きで、うちの屋敷は庭がとても広く、たくさんの種類のお花が咲いています。私もいつか婚約すると思いますが、綺麗なお庭があるお屋敷に嫁ぎたいですわ!
「ミル、ちょっと時間あるかい?」
「わ!ダリアル兄様!大丈夫ですわ!」
ダリアル兄様に呼ばれ屋敷の中に戻りました。
呼ばれた先は執務室、どうやらお父様がお話があるようです!
「ミル、急に呼び出してすまない」
「大丈夫ですわ!お話があるのでしょうか?」
「実は、来月王太子妃を選ぶ茶会が開かれるそうだ。王太子殿下はもうすぐで19歳だからな、そろそろ婚約しろと言われたのだろう。それに、ミルも招待が来た。」
「王太子妃.......ですか?」
い.........嫌ですわ.........................。
私、王太子様とはいい思い出がないのです。
お父様が侯爵家当主という高い身分なので、王族の方と出会う機会が何度かありました。王太子様とは2人きりで話したこともあり、昔は私が王太子妃になるのではと噂されたこともあるのです。この国には公爵家が3つ、侯爵家が4つで、残りの貴族はそれ以下という感じです。確か辺境伯が1つだけあった気が...?とにかく、そんな感じなのですが、なんと、3つの公爵家のうち2つは女の子がいなくて、1つはもう婚約しているらしいのです。つまり、結婚可能な女性の中で1番爵位が高いのが、侯爵。つまり、私。でも、私は王太子様が嫌いです。理由は簡単。お花を大切にしないからです。
◇◇◇
―3年前
「お初にお目にかかります。王太子殿下。私はルートイル侯爵家の長女、カルミールと申します。」
「王太子のアイルだ。よろしく。」
第一印象は素っ気ない人だな、でした。国王様に2人で話してこいと庭に連れてこられました。流石に国王様の命令には逆らえないので、こうして仕方なく話をしているのです。
だけど話題が見つからなくて、とりあえずお庭にあるお花を観察しました。
え?あれは.....胡蝶蘭?!?!?!まさかあんなに高価なお花を自分の目で見れるなんて.......!
そう思い、しばらくその花を見つめてました。
.......はっ!!!殿下の存在忘れてました!!
何か話題を...!と思い横を向くと殿下は真剣にお花を見つめておられました。その横顔はとても綺麗でした。金色の髪に碧色の瞳。王家の血をしっかり受け継いでいる証拠です。その横顔がとても神秘的で、美しいなと思いました。そしてじーっと見つめていると、その視線に気がついたのか、殿下がこちらを振り向き、目がばちっと合いました。
.......気まずい。
殿下はすごい勢いで顔を逸らし、そのまま話しかけてきました。
「カルミール嬢は花が好きなのか?」
「え?えぇ!お花は大好きです!」
そういうと、彼は「そうか」と言いながら歩き始めました。そして、少し歩いたところで立ち止まりました。
「この花、カルミール嬢に似ている気がする。」
殿下が立ち止まった先にある花はカモミールだった。
「私の名前は、そのお花から取られたのです。」
にこっと返すと、殿下は顔色を変えず、また、「そうか」と短く返事をしました。本当に素っ気ない人です。そう思っていると、彼は思いもよらない行動に出ました。
なんと、お花を、ぽきっと折ったのです。
お花を折る。それは私が絶対に許せない行為でした。それがたとえ王族であっても、お花を傷つける行為は許せなかったのです。
そして私はめちゃめちゃキレてしまいました。私も当時は12歳だったと言うこともあり、ちょっとカッとなってしまいました。彼は驚いた顔をしていましたが、それも構わずに叫んでしまったのです。
この時は、国王様の命令によって、周りに誰もいなかったので、不敬罪とかにはならなかったですが、王太子殿下が国王様にこのことを話していたらどうしようと思うと、夜も眠れませんでした。
しかし1ヶ月経ってもなにもなかったので、それ以降は安心して眠れました。
今でも、お花を傷つけた王太子殿下は、嫌いです。
◇◇◇
ということだから、出来ればそのお茶会には行きたくないです.....。そう言おうとしましたが、お父様と兄様が勝手にお話を進めていて、なにも言い出せませんでした。
ドレスの色や誰がエスコートするのか、どんどん決まっていきます。そして私は、言われるがまま、お茶会に参加することになりました。
お父様にも兄様にも、悪意が全く無いことは分かっています。ただ、私に素敵な人と結婚して欲しい。そう思ってくださってるはずです。だからこそ、その思いを無下にはしたくなくて、私も参加することを決意しました。
―1ヶ月後
「カルミールお嬢様の御髪はとても綺麗ですわ!ヘアメイク、腕がなります!」
侍女のアンがノリノリで私の髪に触れました。彼女は侍女の中でも特に器用で、彼女のヘアメイクは1級品です。でも、今日はどうしても目立ちたくないです。だから、地味目にしてほしいとお願いしていたのです。
なのにこれは.........。
「アン、私のお話、聞いていました?」
「聞いていましたが、手が勝手に...」
てへ、と舌を出すアン。これは彼女の癖です。何か失敗する度に舌を出すのですが、これがとても可愛くて、毎回許してしまいます.....。そして鏡に映る自分を見てみます。
長くて白い髪を緩くハーフアップにし、下ろした髪は緩く巻かれています。そして薄いピンクのお花の装飾がついた髪飾り。とても綺麗で可愛いです。髪型はとてもシンプルですが、それによって優雅に見えて綺麗です。
ドレスはダリアル兄様と、弟のアンソニアが選んでくれたそうです。白を基調とし、裾に向かって淡いピンク色のグラデーションになっています。露出が少なく、落ち着いたデザインのドレスです。でも少しフリルがあって、可愛らしい印象もあります。
私がめちゃめちゃ可愛くなっている.......!!!
薄めだけどメイクもしてもらったため、とても可愛らしい印象です。本当なら嬉しいのですが.......。
今日は会いたくもない王太子殿下の婚約者選び.....。
出来れば可愛くない女、くらいがよかったです。
―――――――――
お茶会に参加した令嬢は、私を含め10人でした。
もっと大規模なお茶会なのだと思っていたのでびっくりです。他のご令嬢は王太子殿下に見初められようと、きらびやかなドレスに派手なメイクをされています。私も一応メイクもドレスもちゃんとしているので、浮いていることは無いと思います。気持ちの問題だったら私だけ仲間外れだと思いますが.......。
会場はお庭でした。周りにたくさんのお花があり、私にとっては楽園のような場所です!.......王太子殿下がいなければ。
周りのご令嬢がざわざわし始めたので、殿下が来たのだなと察しました。王太子殿下はいつものようにきらきらした笑顔で登場しました。
私が殿下を嫌いになったあの日から、どうやら殿下は笑顔の練習を始めたようで、今では誰からも好かれる人となっています。私は好いていませんが。とにかく、今日は皇太子殿下の開いたお茶会です。失態を晒さず、かつ、王太子妃に選ばれないように、適度に頑張らなければなりません!
お茶会は順調に進んでいます。他のご令嬢が王太子殿下と話してくれているので、私はお花を見ながら、王城の美味しいお菓子を堪能させて頂きます。最初は参加するのを渋ってましたが、来てみると、とても良いものですね!
しばらくすると、殿下と1人のご令嬢が席を外されました。気に入った令嬢が見つかったのですね!これで私もひと安心です。そう思っていると、突如目の前のご令嬢が立ち上がりました。
「貴方、そんな格好でこの場に来て、相応しいとお思いですの?」
目の前に座っていた令嬢は真っ直ぐに私を見つめて言いました。殿下がいなくなった瞬間にこんな態度を取るなんて.....。そう思っていると、彼女は私に無視されたと思ったのか、さらに声を大きくしました。
「そんなみすぼらしい格好で参加するなんて。どこの子爵の令嬢ですの?体もそんなに貧相で、見てるこっちが恥ずかしいですわ!」
彼女は確か、どこかの伯爵令嬢だったと思います。私のことを子爵令嬢だと思ってそう言っていると思いますが.......。彼女を見ると、とても大きなものを胸につけておられます。彼女から視線を外し、下を見ると、絶壁。何度か彼女と私に視線を行き来させましたが、その差は明確。貧相と言われても仕方がありません。少しだけ分けてもらいたいものです。
「ちょっと、聞いてますの?!」
あ、私が返事しないからとても怒っていらっしゃる.....。なんて言うおかなと迷っていると、私の隣から、凛とした声が響いた。
「少しおいたがすぎるのではありませんか?ラズエル伯爵令嬢。こちらの方はルートイル侯爵令嬢です。そちらこそ、身分を弁えた発言をした方がよろしいのでは?そのような態度、この場で相応しいと思っていらっしゃるのかしら。」
彼女はロズウィルド侯爵令嬢です。何度かお会いした事ありますが、とても綺麗で、優雅で、優しく、芯の通ったとっても素敵なご令嬢です。私の憧れでもあるのです!頭もよく、マナーも完璧なので、私はこの方を王太子妃に推薦します!!!まぁ、私が王太子妃にならなければどなたでもいいのですが.....。
しばらくして王太子殿下ととある令嬢が戻ってきて、またお喋りが再開しました。そろそろ終わり時かなーっと思っていると、殿下が急に立ち上がりました。
「今日は来てくれてありがとう。王太子妃は決めさせてもらった。」
そんなにすぐに決めちゃっていいものかな?と思いましたが、まずそもそも、招待を送る時点で、ある程度選別されていたのですかね?この中なら誰でもいいよー的な?
とにかく今は祈るしかありません。
どうか私の名前、呼ばれませんように.........。
新連載です!!
たくさんある作品の中から、こちらを読んで頂きありがとうございます!
これから少しずつにはなりますが、投稿していこうと思います!
ゆっくりお付き合い頂けると嬉しいです!
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