第9話 全裸と生贄
「―――だから呪いを解く術を探していたのだ」
「そ、そうか。禁呪の所為でそんな事に…」
何が『そんな事に』なのか想像は付くが、メアリは特に訂正しない。
した所で無意味だからだ。
元からあんなとんでもないモノをぶら下げていたなど、メアリ自身信じたくない思いがある。
ちなみに、二人ともディスの方へは目も向けない。
背を向けるようにして話す二人に、ディスは首を捻るばかりであった。
「それで、何か思い当たる事はあるか?」
「ひゃう!? わわわわしらと致しましても古代の禁呪となると如何ともしがたく…!」
ディスが声を掛けた瞬間、竜人は悲鳴を上げながら距離を取る。
高速で建物の裏に隠れた竜人は、出来るだけ目を合わせないよう明後日の方向を見ながら答えた。
しかし、その返答に焦るのはメアリである。
何かしらのヒントでもなければ、彼女に平穏は訪れないのだ。
「せ、せめて知っていそうな者とか知らんのか!?」
「そ、そう言われてもだな…」
「解っておるのか! ここで何かヒントが無ければ、目的地が無くなるのだぞ!?」
「ッ!? そんな、まさかこの集落に留まるつもりか!?」
「それが嫌なら何か知恵を絞り出せ!!」
小声で怒鳴り合う二人。
二人とも長寿であり、ディスよりも遥かに年上であるが、これまで生きて来た中でこれほど慌てた事など無いだろう。
正に必死である。
「そ、そうだ! 精霊ならその時代から生きているはず! 勇者であると言うなら、精霊とて会ってくれるはずだ!」
「それだ! 精霊に会いに行け勇者! 即刻! 今すぐにだ!!」
希望を得たと手を取り合いディスを振り返る二人。
そして、秒速で視線を背けた。
対するディスは雪深い村のど真ん中で腕を組み、もはや股間を隠す素振りすら無い。
「精霊の森だろ? あそこなら魔王軍が焼いたじゃねぇか」
「何してくれとんじゃ!!」
「し、知らぬ! わしはそんな話知らんぞ!!」
先ほどまで手を取り合っていたのは何だったのか。
魔王軍が焼いたのは真実ではあるが、引き籠っていたメアリが知るはずのない情報である。
「あ! なら、竜神様に会うがいい! あの方達なら精霊とも会話出来る! 精霊の森でなくともやり取りが可能なはずだ!!」
「竜神?」
「我等竜人の祖とも呼べる方だ! この山の天辺に祠がある! そこで会えるはずだ!!」
必死である。
竜人はひたすらに必死である。
自分の言っている事がどういう事か理解していない。
そう、竜人は自らの為に、自分達の祖を売ったのである。