第6話 全裸で脱出
「りゅ、竜人族は寿命が長い。古代の禁呪についても何か知っているはずだ」
挙動不審な様子でメアリは嘘を吐く。
実際に知っている可能性はあるが、厄介事を押し付けたい一心から出た言葉であった。
メアリは今この場をどうにかする事しか考えていない。
何より、この男が近くに居ると言うだけでかなりの圧を感じるのである。
主に股間から。
冷静な考えなど出来る訳もなかった。
「竜人族? 聞いた事はあるが、実在するのか? 眉唾じゃねぇの?」
お前の股間よりは現実的だろう。
そうは思いつつも、メアリは続ける。
なんとしてでもここで言い包めねばならない。
こんな奴が魔王城に居るとなれば、怖くて夜トイレにも行けないのだ。
「に、人間は知らぬかもしれんが、奴等は実在する。魔王軍も奴等の協力を得ようと何度か接触しているからな。人と魔族の争いになど興味は無いと突っぱねられたが」
「そうか。なら行こう」
「えっ」
思い立ったが吉日。
ディスは行動派である。
特に今は、一刻も早く服が着たい。
迷っている時間さえ惜しいのである。
「場所は解るのか?」
「あ、ああ。アンセットの山奥に――――」
「道案内しろ。すぐに出るぞ」
「えっ!?」
目にも止まらぬ速さでメアリを小脇に抱えると、近くの窓を解き放つ。
誰かがこの場に居合わせたなら、全裸の男が幼女を攫うシーンにしか見えない。
「ちょっ、おまっ、まさかわしも連れて行く気か!?」
「他に誰が道案内するんだ? 大体、俺は竜族の顔も知らねぇんだよ」
暴れて逃げようとするメアリであったが、小脇に抱えられた事で具現化した恐怖が視界に入る。
しかも、暴れるメアリに合わせて踊り狂っているかのようであった。
ふっ、と意識が遠のき、メアリの抵抗はそこで終わった。
「アンセットの山奥だな? まずはそこまで飛ぶか」
この日、魔王城から全裸の怪物が飛び去った。
この光景を見た者はこう言ったと言う。
『頭が三つある化け物であった』と。