第5話 全裸で説明
ディスは気を失ったメアリを放置するわけにもいかず、部屋に備え付けてあった長椅子に寝かせると部屋の様子を伺う。
研究用に使っていた機材やよく解らない素材が所狭しと置かれていた。
本人は何も言わずに気絶してしまったが、彼女がメアリ本人であるのは間違いなさそうだと、謎の素材を眺めながら考える。
であれば、禁呪についても何か知っているかもしれない。
最早、裸を見られてしまったのだ。
今更隠れても遅い。
であれば、なんとか説き伏せて協力させるべきだ。
そんな決意と行き当たりばったりな思考で、メアリが目覚めるのを待った。
◆
「…ハッ!?」
気を失ってから小一時間ぐらいだろうか。
息を吹き返すようにして、カッと目を見開いたメアリ。
見慣れた天井を見て、少しだけ安堵する。
「こ、ここは…そ、そうか。夢か、夢だったんだな。良かっ……」
天井から部屋の中へと視線を向けようとし、首を傾けた時、『ソレ』が目に入った。
目覚める瞬間、ディスが目の前に近づいてきていたのである。
長椅子に横になっていたメアリからすれば、目の前に邪悪の権化が顕現している状態であった。
瞬間、現実だと理解すると同時に、自分の死を思い浮かべ――――再び失神した。
ディスは目を覚ましたと思ったら泡を吹いて気絶したメアリを見て、ただただ困惑するのであった。
…そうしてまた小一時間後に、再びメアリは目を覚ますのである。
「…落ち着いたか?」
「おおおお落ち着くわけあるまい! 何者だ!? 悪魔か貴様!」
「どう見ても人間だろうが!」
「どこがだ!? 百歩譲っても人外だろう!」
「俺は勇者だ! お前に話があって起きるのを待ってたんだ!」
「全裸で練り歩くのは勇気ある者ではなく、単なる変態だ!」
「そう言う意味じゃねぇよ!」
暫くワイワイと言い合っていたが、やがて互いに怒鳴り疲れたのか、微妙な沈黙が訪れる。
これ幸いに、とディスは現状を説明する事にした。
自分が何者で、何故全裸で、何故メアリが起きるのを待っていたのか。
警戒しながらではあるが、メアリは静かに話を聞いている。
ちなみに、下半身には一切目を向けていない。
怖いのである。
「…つまり、魔王様の遺した呪いにより全裸になり、その解き方を探す為に魔王城を全裸で徘徊しているのか」
「全裸を強調するな」
「つ、つまり…その、そんなに禍々しくなっているのも呪いとやらの所為か」
「何の話だ?」
「い、いや…だから、その…」
「何も着られない以外は特に変化はないが…」
「元々なのか!? ゆ、勇者とは人知を超えた存在なのだな…」
「だから何の話だ?」
後にメアリは語る。
あんなモノが存在するのだから、神や神器が実在したって何ら不思議はない、と。
どんだけ衝撃を受けたんだって話である。
それはさておき、魔王の呪いについてである。
残念ながら、メアリは呪いの事を知らなかった。
ディスの口から聞いて、初めてその存在を知ったのである。
だが、とメアリは口を閉じる。
ここで知らないと言った場合、自身の無事は保障されるのであろうか。
自然とディスの下半身に目が行きそうになるが、ぐっと堪え、思考を巡らせる。
ただでさえ頭のいい彼女であるが、今までの人生で、ここまで頭をフル回転させた事などなかったであろう。
(もし知らないと言った場合、勇者に私を生かしておく理由などないはず。となれば、私の利用価値を示さねばならん。……あ、あんな恐ろしい生体兵器を使われては一溜りもない…。ミキサーに掛けられた方が遥かにマシだ!)