第20話 伝説の全裸
「よ……よく、戻った。勇者…勇者? ディスよ」
「はっ」
王の言葉が謁見の間に響く。
その震えた小さな声は、先ほどの重厚さなど微塵も感じさせない情けなさであった。
困惑や恐怖が抜けきっていないのは誰の目にも明らかである。
ただし、貴族達もそれは同じであり、その事に気付く余裕のある者などこの場にはいない。
「その……過酷な旅であったのだろう。その姿を見ればわしにも解る。まずは何か着る物を…」
言ってから、王は気付いた。
普通、王の前に立つのに全裸のままで通す訳がない。
なのに今、目の前の男は全裸である。
下着一つ付ける事なく、そのあまりに禍々しい物体を余す事なく見せつけていた。
「で、ではこれを…」
近くに居た貴族が、ディスに上着を被せる。
彼も動揺しているのだろう。
ディスに近づくまでの間に、三度も立ち止まった。
近付く事に躊躇したのが良く解る姿である。
そして当然の如く、上着が弾けとんだ。
赤い上着は粉々に千切れ飛び、それはまるで英雄を称えるバラの花吹雪である。
見ていた者達は、王も含めて綺麗だと呟き、思考する事を放棄した。
「このような姿で御前を汚した事、平にご容赦を。魔王の禁呪により、私は聖剣を握る事も、聖鎧を纏う事も許されぬ身となりました」
話が進まんと見て、ディスが言葉を発する。
本来、王に促されなければ話してはならないものだが、そんな場合ではない。
「……そ、そうか」
そのぶら下がってる奴は? と聞き返さなかった辺り、この王は聡明である。
「しかしながら、今も戦う同士達の為にも、魔王討伐の報告を為すべきと…恥を忍んで御前に立った次第であります」
「……そ、そうか」
先ほどから『そうか』としか言っていない。
王が話題にしたいのは服が着れなくなった事より、その大蛇についてである。
貴族達も含め禁呪でそうなったのか、元々なのか、それが一番気になっているのだ。
「勇者ディス。魔王討伐の任を終え、今この時、王都へ戻りました事、ご報告申し上げます!」
ディスの良く通る声が、謁見の間に響く。
目に見えてビクっとなった王や貴族達であったが、まばらな拍手でディスを祝福するのであった。
その後のディスの動向は知れない。
連れたった二人の女性とどこかへ旅に出た、あるいは魔王軍残党を倒す為に旅に出た―――そんな噂が残っているが、真実は解らないまま。
ただし、全裸の勇者が居た事だけは、各地に伝説として語り継がれている。
趣味で書いていた作品は幾つかありますが、一応完結しているのはこれだけです。
話を続ける事も出来ますが、これ以上伸ばすとギャグでなくなりそうだったので辞めました。
とは言え、個人的に書いていて楽しい作品だったので、気が向けば書くかもしれません。
登場人物の描写ももっとしたかったですし。
くだらない内容の作品ではありますが、少しでも笑って頂ければ幸いです。
ここまでお読みくださいまして、ありがとうございました。