第11話 全裸と竜神の娘
「ち、父上! どういう事ですか!」
竜神には眷属が居る。
龍神によって生み出された四種の竜がそれだ。
そして今、その内の一匹であるブルードラゴンのレフィーナがこの場に呼ばれている。
ちなみに半泣きだ。
「私がこの場を動く事は出来ぬ。故に、邪神…いや、勇者の共をせよ」
「嫌です! 絶対に嫌です!」
「わがままを言うでない!」
「私がこの場を守りますから父上が行ってください!」
「嫌だ!」
メアリは二匹の竜のやり取りを横目で見つつ、焚火に枯れ木を足す。
山頂は寒いのだ。
目の前に全裸の男が居ると余計に。
「何を言い争っているんだ?」
「……知らぬ」
もはや精魂尽き果てた様子でメアリは答えた。
竜人の集落で別れるつもりだったのが、ディスに捕らえられ連れて来られたのだ。
追われた時の恐怖が未だに頭から離れない。
「だって、このっ…アレ! 絶対に人間ではありません! 娘が心配ではないのですか!?」
「本人は人間だと言っているだろう! 人を見た目で判断するなと教えたではないか!」
「教わっていません!」
「じゃあ学べ! 今教えたぞ!」
「ズルいです父上!」
どちらも必死である。
どんな死を迎えても悔いは無いと豪語していた二匹だが、彼等の想定を超えた恐怖がそこにあった。
「なんでもいいから早くしてくれ。寒いんだ」
「きゃあああ!! 止めて! 来ないで!!」
「そ、それ以上来ると死ぬぞ!! 私達が死んでもいいのか!?」
もはや竜の威厳などあったものではない。
「こんな所で言い合うより、さっさと済ませて終わりにする方がいいのではないか?」
もはや達観の域に居るメアリである。
魔王城の一件からまだ一日と経っていないが、随分と神経が図太くなった。
いや、すり減ったのかもしれない。
「そ、そうだ! そこの魔族の言う通りだ! さっと行ってさっと終わりにすればいいではないか!!」
「それこそ父上でいいではないですか!」
ここまで言い合いながら、二人が逃げないのは理由がある。
ディスが祠の入り口側に居るからである。
狙ってその場に居る訳ではないが、お陰で竜神達の退路は絶たれているのだ。
「良いかレフィーナ。今お前の双肩には世界の平和が掛かっているのだぞ」
「私には重すぎます!」
「ええい、聞き分けの無い娘め!」
竜神は叫び、レフィーナに何やら魔法を掛ける。
すると、みるみると人の姿に変わってしまった。
青い肌の美女がそこに現れたのである。
「な、何をするのですか!?」
「そして眠れ!」
続け様の魔法で、レフィーナは眠りの魔法を掛けられ、その場に倒れ込んでしまった。
もはや容赦の無い竜神である。
そこまでディスが怖いのか、とメアリは思ったが、ちらりとディスを見て考え直す。
(…うん、怖いな)