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初対面はイメージの80%を決定するとかなんとか


 教室の扉が開いた。


 クラスにいる生徒全員の視線を集めて開かれた扉の先に居たのは、九人目の生徒ではなく、深い皴の刻まれた老婆であった。背はそこまで高くない160センチほど。白く染まった髪やところどころに刻まれた皺には、彼女の歩んだ歴史の深さを知ることができるだろう。


 そんな老婆は、開口一番に鼓膜が破れてしまいそうな大声で言うのだった。


「外に出な!!」


 うわなにこのばあさん怖い。


「お、大きな声!」


 突然の大声に、アルクも少し引き気味で耳を抑えている。いやはや、一体あの老婆は何者なのだろうか。

 ただ、あのただならぬ気配……少なくとも、今の大音声を聞いた上で彼女に逆らおうなんて気は俺にはなかった。


「あれ、移動するの?」

「いやいや、外に出ろって言われただろ」

「……ああ、そうか。そうだね、外に出ようか」

「……?」


 何言ってんだアルクの奴。ともかく、俺たち二人はばあさんの指示通りに教室の外へと出た。いやしかし、本当にさびれた場所に立っているものだ。騎士学校を挟む山の中腹やや下あたりにあるクラスⅥ教室だが、学園全体を見渡せるほどに小高い場所に在るぐらいしかいいところがない!


 教室だって、これを教室だと知らなければ倉庫か何かだと思うことだろう。まったく、なんてひどい環境なんだろうか。


 まあ、しいて言うのならば監視の目が同級生しかいないから、俺が偽物の精霊武器を握っていることがバレにくいってところか。


 さて、教室から外に出てみれば、すぐそこにあるグラウンドに件のばあさんが仁王立ちしていた。


「並びな!!」


 またも発される大音声。耳を塞ぎたくなるような勢いだけど、室内よりはマシだ。


 んー、にしても。


「なんか、素直に言うことを聞かなそうな奴いるのに、指示には従うんだなこういうの」

「まあ、ここは崖っぷちだしね。彼女が教師なのだとすれば、指示に従わなかったから退学、ってのもありえるのかも」

「そうか、そういうこともあり得るのか」


 教室に居た同級生の中には、眼を合わせた瞬間に襲い掛かってきそうな野蛮な男も居た。とはいえ、斬れるナイフのような一見取扱注意表示が付いた男でも、退学は怖いらしい。


 それもそうだ。ここに居る皆々はクラスⅥの待遇を許容した上で学園にしがみ付くことを受け入れた人間たち。こんなところで些細な問題を起こしてなんかいられないか。


「よし、並んだね。それじゃあ自己紹介だ。私はヴァルサーノ。貴様らクラスⅥを受け持つ婆だよ」

「ヴァルサーノ……?」

「……まさか!」


 ばあさんの名前を聞いた生徒たちからざわざわと声が上がる。それもそのはずだ。俺だって知っているんだから。ヴァルサーノのという精霊騎士の名は。


 躯騎士のヴァルサーノ。三十年以上前にあった、世界を二分した百年戦争を終結させた〈円卓〉の一人で、伝説上の人物だ。

 この学園が精霊武器を扱う騎士――精霊騎士が教鞭をとることは有名であり、そして目の前のばあさんがヴァルサーノと己の名乗るならば、彼女が本人の可能性だってあり得るだろう。


 とはいえ、だ。


「優れた戦士が優れた先人であるとは限らない」

「何それウィル?」

「俺の気取った父さんの言葉だよ。いくら伝説上の素晴らしい人間だろうと、その人間のすべてをまねすればいいってわけじゃないって教訓だ」

「いい言葉じゃないか。ってことは、つまりヴァルサーノ先生が素晴らしい先生かはわからないってことね」


 何の気なしにつぶやいた言葉をアルクが拾う。本当に何でもない、俺の親父が酒の勢いで気取った言葉なんだけどな。


 ただ、どちらにせよ覚悟した方がいいのは確かだろう。


 あのばあさんがいくら伝説の人物であったとしても、俺たちはクラスⅥ。この学園最底辺の待遇を確約された、地獄のクラスだ。

 そんなクラスに訪れる教師が、まともな人間なはずがない。そう思ってしまうのは、俺の先入観ゆえだろうか。


 ともかく、続くヴァルサーノ先生の指示に従て、俺たち八人はグラウンドに横一列で並んだ。


 学園説明会と聞いていたのだが……果たして、この整列に何の意味があるのだろうか。いや、意味はあるのだろうな。先生にしかわからない何かが。


 横に並ぶ俺たちをじっくりと見つめるヴァルサーノ先生。カッと開かれた両目は一種の恐怖を覚えてしまうような威圧感を発しており、無言無表情というそぎ落とされた情報に、俺たちは――少なくとも俺は戦慄することしかできない。


 端から端まで、男子四人女子四人をたっぷり五分眺めた彼女は、その中から数人を指さした。


「三人だな」

「三人……?」

「ああ、三人だ」


 彼女が指を差したのは、言葉通りに三人の生徒だ。その中には、俺も含まれている。彼女の言葉をオウムのように返すばかりの俺は、戸惑いと共に指を差されたほかの二人を見た。


「あぁん?」

「な、なんですか三人って」


 一人は目つきの悪い生徒。先ほど俺が素直に話を聞くタイプじゃないだろうと評価した、切れ味鋭いナイフそのものと言っても過言ではない凶悪な目をした男だ。高い背丈は180は超えているだろうか。短く刈り上げた髪に、威圧的な態度と恐れない理由がないほどに威圧的な背格好をしている。


 そしてもう一人は、フードで顔を隠した生徒だ。一見すれば性別はわかりようがないが、指を差された後にこぼれた声によって女性と判明する。彼女は精霊武器と思わしき槍を両手で大事そうに抱えており、少しばかり引け越しな態度からは彼女が臆病な人間だろうと思えてしまう。


 そんな二人と俺が三人という枠組みで指定された。その意味とは――


「素質なしだ」

「なっ……」

「随分と、引き離してきたな、おい……」


 どうやら、俺たち三人は素質なしなのだそうだ。いやいや、まだここでいう素質が、精霊武器を扱う素質であるとは決まったわけではないだろう。だからこそ、言葉を失った二人を置いて俺は問いかける。


「それはつまり、精霊騎士に至ることができないという判断でよろしいのでしょうか?」

「ああ、そういうことだよ。あんたらが例えここで五年鍛えようと、並の騎士にさえ劣る出来損ないになるだけだ。ならばこそ、若い時間を無駄にしないためにもこの学園を出ることだね。荷物の輸送な後でやってあげるから、家に帰ったらどうだい?」


 あー、ね。なるほどなるほど。

 つまりあれか。俺たち三人はどれほど頑張っても足掻いても、この学園を卒業して精霊騎士になることはできず、よくて一年持てばいい方で、それなら村に帰ってママのお乳でも吸ってろってことね(意訳)


「……ふっざ――」

「ふざけんじゃねぇぞババアァ!!」


 喉の奥からこみあげてきた怒りが爆発するよりも先に、目つきの悪い男が列から飛び出した。その手に握られるハンマーの精霊武器に火をまとい、彼は怒りのままに突撃する。


「『ファブニール』!!」


 主の呼びかけに応じる精霊武器は、敵と見做したヴァルサーノ先生へとまっすぐ振り下ろされた!


「きゃああああ!!」


 突如として起こった殺人事件。無手の老人に襲い掛かった悲劇に、生徒の中から悲鳴が上がる。しかし、ただし老体に起こった悲劇を幻視したのは悲鳴を上げた彼女だけだ。


 数秒としないうちに、俺たちは信じられないものを目撃することとなる。


「ほら、素質がない」


 銘を呼び、その力を解放した精霊武器をヴァルサーノ先生が素手で受け止めていたのだから。


 炎をまとったハンマーを止めて見せたその姿に生徒の間に激震が走る。動揺する俺たちを眺めたヴァルサーノ先生は、くつくつと静かに笑っていた。


「意気はよいよい、(かえ)(おそ)い。さて、貴様らはこのまま帰るか?」


――この時、俺たちはまだ知らなかった。


 十年以上前に起こった一斉退学。入学したばかりのクラスⅥ生徒十一人全員をその日のうちに退学にした伝説を、俺はまだ知らなかった。


 その事件を起こした張本人こそが、俺たちの目の前に立つヴァルサーノ先生であるということを、俺たちはまだ知らなかった――

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