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八人目


 山間に作られた騎士学校フルール。

 広大な敷地内には、他の学園も存在するという話だ。まあ、聞く話によれば騎士学校の生徒自体の数は少なく、この広大な敷地もほとんどは他の学園が利用しているのだとかなんだとか。


 まあ、使える場所があるなら、有効的に使った方がいいのは確か。いずれは、そっちの学園の生徒とも知り合えるといいな。


 友達百人できるかな、というやつだ。


 なんせ、騎士学校だけで友達百人作ろうとしようものなら、問答無用で全校生徒の九割と友達にならなければならないのである。なんとハードルの高い話だ。こちとら片田舎出身のお上りさんだぞ。


 さて、話はそこまでにして。敷地内に入ってから目的地の違うクラリアと別れた俺は、二つの山の中にできた学園の敷地を悠々自適に歩きながら、指定された教室へと向かっていた。


 山、といってもほとんどなだらかな丘だ。森があって川があって、少しだけ小高いから山といわれているのだそう。はてさて、問題は俺が目的地に進むにつれて、その山の片方にどんどんと近づいていることだろうか。


 嘘だろ? クラリアを彼女の目的地まで送ったから知ってるけど、クラスⅠの教室は学園の敷地のど真ん中に立つ時計塔の麓にできた大理石の建物だったんだけど?


 ちょっと待ってくれ。まさかだが、今俺の視界に写ったあのぼろ小屋がクラスⅥの教室とか言うんじゃねぇだろうな。おい、嘘だと言ってくれよ。なんで扉にきっちりと一年生クラスⅥって貼り紙がされてるんだよぉおおお!!


「なんだ、貴様。教室には入らないのか?」

「どこの誰だから知らないが、今俺は全力で現実逃避をしているところだ……」

「現実逃避? ああ、他クラスのとの扱いの違いのことか。まあ、ここは学園でも最底辺の場所だからな。実力主義も、ここまでくるとむしろ笑えてくるものだぞ」

「そうだよなぁ、そうだよなぁ……まあ、入れただけ良しと受け止めるしかない、か」


 教室の手前で項垂れていた俺に声をかける女が一人。声色から同年代の女子だが……なんともまあ男勝りな口調なことで。


「悪い。今気を取り直した。自己紹介しとくか?」

「悪くはない提案だ。我はリーリャ。貴様と同じクラスⅥに入れられた生徒だ」

「俺はウィル。片田舎出身のペーペーだよ。一通り戦えはするが、このクラスに送られている時点で察してくれ」

「なんともまあ愉快な自己紹介だな。気に入ったぞ」

「そりゃよかった。んじゃま、お互い退学するまではよろしくな」


 顔を見上げた時にそこに立っていたのは、黒髪の美少女だった。黒曜石のような漆黒の長髪を背中まで伸ばし、まっすぐの伸びた背筋は彼女の持つ自信を表しているようだ。

 そんな彼女の肩には、手のひらサイズのトカゲが一匹。見たこともない黒色をしたトカゲだ。


 おそらくは、このトカゲこそが彼女の精霊武器なのだろう。


「それでは、我は先に入らせてもらう」


 そう言い残して、さっさと彼女は先に教室に入ってしまった。まあ、ここで二の足を踏んでいる必要もないし、俺も続く形で中に入ろう。


 そうして、俺は扉に手をかける。


「リーリャの奴、俺が後ろにいるのに扉を閉めやがって……」


 そんな悪態をつきながら、古臭い木の扉を開いた。経年劣化による引っかかりに苛立ちながら、俺は勢いよく扉を開いた。


 あまりにも想像通りにボロボロの教室の中には、俺と同年代と思われる生徒が七人。机やいすの類もしっかりと設置されているが、俺を含めて八人の生徒のための教室にしてはあまりにも多く、だからこそ全員が距離を開けて着席していた。


 生徒の数の三倍以上の机が並んでるって、どうなってんだよこの教室……。


 ともかく、特に机に名札が付いているわけでもはないので、俺も先人に倣って机に座るとするか――


「こっちこっち」

「……なんだ?」


 そこで、俺は奥の方で手招きをしている一人の生徒を見つけた。眼鏡をかけた聡明そうな青年だ。背は俺と同じぐらいか、少し大きいぐらいに見え、無造作に伸びたオレンジ色のくせ毛が、窓際の席で揺れている。


 はてさて、あれは俺を呼んでいるのだろうか。


「君だよ君」

「……」


 どうやら俺らしい。そんなにアピールするのならば、声を掛ければいいんじゃないか? まあ、断る理由もないし、誘いに乗るか。


「なんだよ」

「ごめんごめん。ちょっと空気感に耐えられなくてさ。話し相手が欲しかったんだよ」


 誘われるがままに、オレンジ髪の男の席の隣に座る。してみれば、軽い調子でその男は話し始めた。よほど話し相手に飢えいていたようで、その口は滑らかに回る。


「空気ねぇ。まあ、確かに新生活を祝うような和気あいあいって感じじゃないことは確かだな」

「そりゃそうだ。なんたってここは崖っぷち。そもそも、ここに来るぐらいなら退学を選ぶって生徒もいるぐらいだしね」

「はぁ? そりゃどういう意味だ?」

「言葉通りだよ。だってほら、生徒に比べて席が多いだろう? それだけ、このクラスに来ることが決まって、やめた連中が多いってことさ」

「はぁ? まだ集まってないだけじゃ……」


 空席の理由を疑う俺に、彼は時計を指さして見せた。教室の入り口に置いてある振り子時計。アンティークにもほどがある代物が示す時刻は午前八時手前。もうすぐ、入学説明が始まる時間だ。


「君がこのクラスの八人目。最底辺の烙印と共に、最底辺の暮らしが保証されたクラスⅥにて、それでもなおもこの騎士学校にしがみ付こうと藻掻く人間しか、ここには集まらない。ここはそういうクラスなのさ」


 騎士学校フルールの実力主義。話には聞いたことがあるが……なるほど、そういうことか。最底辺のクラスに所属したということは、学園内の地位でも最底辺に落ち込む。となれば、自然と学園からの扱いにも差異が出るのだろう。


 強きモノを迎え入れ、弱きモノを排除する。いや、流石にそこまで露骨ではないだろうが……それでも、このクラスに所属した時点で待遇は下の下で確定する。


 過ぎた言葉だろうけど、精霊武器に選ばれた人間にとって、好待遇は当たり前だ。なにせ、魔物の蔓延るこの世界において戦闘力とはあまりにもわかりやすい指標だからだ。だからこそ精霊武器の使い手は重宝され、好待遇で迎え入れられる。


 そうして祭り上げられて、この学園に来たのに、同年代の人間の中でも自分が最底辺に位置すると知ったのだとしたら? 少なくとも、ここで上を目指さずとも故郷に帰れば、それなりの待遇が待っているのだ。


 それに、このクラスに配属されたということは、実力無しという烙印を押されたことに他ならない。そこに自分の才能を感じて、その道をあきらめる人間がいてもおかしくないだろう。


 そうか。だから、八人しかいないのか。


「この学園にたった八人しかいない同胞だ。だからこそ、僕は友人として接したい。僕の名前はアルク。君は?」

「俺はウィル。片田舎出身の木っ端だよ」

「出身なんて関係ないさ。なにせ、この学園は実力主義。()()()()()()()()()()()()()()は知らないけど、このクラスに配属されたんだ。そこに上も下もないだろう」


 アルクはそう言ってシニカルに笑った。その言葉に、数人の生徒が反応を示したようだが……気のせいだろう。気のせいじゃなかったとしても、俺には関係のない話だ。


「さて、時計が八時を示す。これから、僕たちの学園生活が始まるよ」

「そりゃ楽しみだな」


 振り子時計が八時を示すまであと数秒。


 俺にも、目指している席があるんだ。ここが学園の最底辺だろうとも、それを誰かに譲る気なんてさらさらない。


 それがたとえ無謀な願いだとしても、だ。


 俺は、クラリアのために絶対に諦めない。


 そして、八時を示す鐘の音と共に、教室の扉が開くのだった――

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