最大の問題にして最大の艱難を超えて
騎士学校フルール。
大国エブリフィールの都市ドゥエズに存在する学園である。
精霊武器と呼ばれる超常の力を持った兵器に選ばれた人間だけが通うことを許される学校である。
そも、精霊武器とはなにか。
精霊武器とは、意志を持った武器の総称である。
剣や槍などの武器の形態と、動物を模した二つの形態を持ち、その体に莫大な魔力を宿している。その力は海を割り、山を削る程とも言われ、その力を十全に発揮することができたのならば、千人規模の軍隊をも相手に戦うことができるとされる。
まさしく一騎当千の力を発揮する精霊武器の所有者は、数百年前のころより重宝される人間兵器であった。そして現代。小国同士の小競り合いから、大国同士の滅亡を掛けた百年戦争を経て訪れた平穏な時代の中で、精霊武器の所有者は人口に比例するようにその数を増やすのだった。
しかし、そんな時代となっても精霊武器の発生原因や、所有者の選定方法などは現在もはっきりとしてはおらず、今になって急増した精霊武器の所有者の増加原因もまたわかっていない。
ただ、その才能を腐らせておくことはできないと声をあげた大国エヴリフィールの鶴の一声によって、かつての大戦で活躍した騎士たちの指導の元、精霊武器の鍛錬を積むことができる学園が出来上がった。
「流石にでかいなー」
「まあ、精霊武器のための学園じゃないからね」
さて、そんな騎士学校の存在する山のふもとに俺とクラリアは来ていた。
なにせ、俺達は精霊武器の使い手として学園に招待されたのだから。
そう。俺ではなく俺たち、だ。
俺が精霊武器の使い手として入学するのはもちろんだが、実はクラリア自身も精霊武器の使い手としてこの学園に招待されている。なぜそんなことになっているのか。それには、深い深い事情がある。
というのも――
◆◇
「学園にクラリアが精霊武器だとバレるのはまずいわね」
「え、どういうことです?」
「そのまんまの意味よ、ウィル君。クラリアが精霊武器になったことは、学園や国にバレるとまずいのよ」
騎士学校に行くと決めた日から始めた剣術の訓練中に、クレアおばさんはそんなことを言いだしたのだ。
「もうちょっと詳しく説明してよ。お母さんって、説明を省きすぎて時々わけわからないこと言うんだから」
「そうね。私の悪いところだわ」
剣から人に戻るクラリア。どうやら、訓練は一時中断らしい。
そんなわけで、俺もクレアおばさんの話を聞く姿勢を取る。俺の聞く態勢が整うのを待っていたクレアおばさんは、第一声にこういうのだった。
「クラリアが精霊武器になったことが問題なのよ」
「……まあ、確かに聞いたこともない話ではありますけど」
謎かけかな? ただ、クレアおばさんの表情を見る限り、ふざけた話ではなさそうだ。
「いい、人間が精霊武器になったのよ。それはつまり、今まで不明だった精霊武器の作り方の答えに一番近いところにクラリアはいるの」
「もしかして、クラリアが精霊武器の作成のために利用されてしまう、ということですかね?」
「最悪、今の所有者であるウィル君が殺されてしまうことまであり得るわ」
まじかよ。
いや、確かにあり得ない話じゃない。
今まで精霊武器は動物だったというのなら、問題はなかった。その動物が霊的なそれか、もともと存在したものなのか、精霊武器事態は人間に説明することができないからだ。
しかし、人間となれば別。特に、今まで何の変哲もない村娘だったクラリアが精霊武器になったのが一番の問題だ。なにせ、これで人を精霊武器にできる可能性が生まれてしまったのだから。
「大国がにらみを利かせている今の時代、人間なんてどの国にも余るほどいる。非人道的と非難されようと、力を得るためにクラリアを攫おうとする国は必ず出てくるはずよ」
「なるほど。確かに、バレてはいけないですね」
「少なくとも、君がクラリアをどんな奴からも守れるようになるまでは、ね」
クラリアの安全のためにも、ひいては俺の身を守るためにもクラリアが精霊武器であることは隠さなければならない。
しかし、そうなると問題が一つ。
「それじゃあ、俺は精霊武器を使えない人間になってしまうんすけど……それで、騎士学校に通えるんですか?」
「そこで私は考えたのよ。いい、精霊武器は動物に変化する以上に判別する方法がないのよ。最悪、魔法が使えてそれっぽい武器を持っているだけでも、精霊武器の使い手として迎え入れてもらうことはできるわ」
「えっとお母さん……それってつまり……」
「そうよ。二人には偽物の精霊武器をもって学園に入学してもらうわ。大丈夫、そのための作戦はちゃんと考えているから」
「まじかよ……」
そうして、クレアおばさん主導の裏口入学作戦は始まった。
結局のところ、一定水準の魔法を学園の試験官に見せることができれば入学できるのだとか。実際、過去にも優れた魔法の才能を使って、試験官をだまして入学した例があるそうだ。
しかし、だ。
「俺にそんな魔法の才能ないんですけど」
残念なことに、俺に魔法の才能はない。もちろん、まったく素養がないというわけではなく、狩人としての便利な魔法は一通り覚えている。
周囲を照らすことができる〈ライト〉や、着火に使える〈フレイム〉とかな。ただ、逆に言ってしまえばそれだけだ。果たして、その程度の人間の俺が、半年後に控える入学試験に合格することができるのか――
「あら、そこに関しては問題ないわよ」
「というと?」
「歴代のペテン師と違う点が、貴方たちにはあるじゃない」
「違う点……クラリアの存在、ですか?」
「その通り」
考えてみればそうだ。俺には、彼らとは違い本物の精霊武器を持っている。
「精霊武器とその使い手は、見えないパスによって繋がれていると言われているわ。そのパスを使って、魔法の発動に必要な魔力を供給していると言われているの。もちろん、武器化した時が一番その力を発揮できるのだけれど……人の状態でも、ある程度の魔法が使えるはずよ」
クレアおばさんの言われた通り、確かに俺は精霊武器なしでも今まで以上の魔法を使うことができた。それこそ、マッチ棒程度の火をつけることが限界だった今までとは違い、野球ボール大の火の玉を作り出し、それを放つことまでできるようになっていたのだ。
「これなら、行ける……かも?」
不安はあった。この程度の魔法で、果たして試験官の目を騙せるのか、と。ただ、その不安は杞憂であったようで……無事、俺は騎士学校の入学賞を手に入れたのだ。
ただ、ここにきて予想だにしていない問題ができてしまった――
◆◇
「なあ、クラリア。お前、何クラスだ?」
「えっと……クラスⅠだよ」
「俺はクラスⅥだ。まさか、入学早々分断されることになるとはな」
聞く話によれば、騎士学校は実力主義の学園だとか。その実力によってクラスが分けられ、数字の大きいクラス程、落ちこぼれという。ちなみに、クラスの数は六つ。俺はがっつり最下位のクラス行きだ。
そして、クラリアはクラスⅠ。どうやら、精霊武器となった彼女の体には精霊武器の魔力がそのまま存在し、とんでもない規模の魔法が使えるらしい。俺も一度だけ見せてもらったが……俺が薪に火の玉を当てる練習をしている横で、あわや山火事になりかねない規模の大魔法を使っていやがった。
これが精霊武器の本来の力か……ほんと、あのゴブリンリーダーとの戦いは、全然力を引き出せてなかったんだなと、俺は思った。
「ま、お互い頑張ろうぜ」
「う、うん。バレない様に頑張ろうね!」
「ハッ! それって、俺が絶対に退学にならないって前提の話だろ?」
「そうだよ! だってウィルは、かっこよくてすごい私の幼馴染なんだから!」
ここは、実力の如何によっては退学もありえる厳しい学園だ。しかし、クラリアは言うのだ。偽物の精霊武器を使っていることさえバレなければ、俺は絶対に退学にならない、と。
まったく、実力最下位の退学筆頭候補に選ばれた俺に、無茶ぶりをしてくれるじゃないか。
わかってるよ。俺は退学にならない。
絶対に、俺はこの学園の首席に上り詰めてやるからな。




