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握った手を離さない


 灰色の刀身が陽光を浴びて艶やかに煌めく。派手な装飾はなく、しかし無骨というには流麗な刀身だ。丸みを帯びた刃先は、少しばかり内側に反っている。まるで引っ込み思案なクラリアの性格が映し出されたかのような形状だ。


 そして、その刃を見るたびに少しずつ体の内側から力が湧いてくる。柄を強く握るほどに、あふれんばかりの力が俺の身を包んでいくことがわかる。


 これが、精霊武器。選ばれた人間だけが持つことを許された、超常の力。


 きっと、俺はクラリアの力のすべてを引き出せているわけではないのだろう。それでも――だとしても――


「負ける気がしねぇな」


 ゴブリンリーダー程度に、負ける気がしなかった。


「ギャギャギャ!」


 はてさて、あちらさんは俺たちの様子に気が付いたようで、威嚇なのか歯をむき出しにして声をあげている。いつもの俺なら、それだけで委縮してしまっていたかもしれない。でも、俺には心強い相棒がいる。だからこそ、その程度の威嚇でひるむわけがない。


 そして、俺はゴブリンリーダーに向かう一歩を踏み出した。


「ギャ! ギャギャ!」


 なんだ? 俺を恐れているのか?

 俺の一歩に合わせて、ゴブリンリーダーが一歩後退している。


「悪いな」


 同情か、憐れみか。

 少なくとも、このゴブリンリーダーが村まで出てきたのは、俺が禁域の森でゴブリンたちを殺したからだろう。俺だってあの時、クラリアを殺された憎しみでゴブリンたちに襲い掛かったんだ。


 だけど、こちらを害そうというのなら、全力で抵抗させてもらう。俺たちだって死にたくないから。


「ああああああ!!!」


 魔法の使い方なんてわからない俺は、ただひたすらに力を籠める。俺にまとわりつく力の奔流。渦巻くそれを無造作につかみ取り、言うことを聞けと手繰り寄せる。


 力をくれ。あいつを倒せる力を。そう願い、俺は地を蹴った。


「やぁあああああ!!!」


 たった一歩の踏み込みが、十数メートル離れていた彼我の距離を簡単に縮めてしまった。予想外の肉薄に俺もゴブリンリーダーも目を丸くしてしまい、ごつんと頭をぶつけてしまうのだった。


「ギャっ! ギャギャギャ!!」

「痛っ……!!」


 鼻っ面をぶつけあった俺たちは、痛みに顔をしかめてしまう。


「ギャ、ギャギャギャ!!」

「おい、待ちやがれ!!」


 驚いた俺の行動は一足遅れ、先に動き出したゴブリンリーダーは悲鳴をあげながら森の方へと走って行ってしまう。戦いは終わってない。だというのに、逃げ出したゴブリンリーダーの背中を見て俺は――


「……締まらねぇなぁ」


 なんともかっこ悪い撃退に、ため息をついてしまうのだった。


 ただ、勝ちは勝ちだ。例え奴を殺せずとも、村から追い出したのだから、村を守るという目的は達成された。あの様子なら、二度と襲ってくることはないだろう。


「お疲れ様~」

「お疲れ様」

「かっこよかったよ!」

「本当か?」

「うん!」


 戦いが終わり、剣から声が聞こえたかと思えば、光り輝きクラリアに戻る。今度は全裸ではなく、しっかりと服を着ていたので一安心だ。


「……ねえ、ウィル」

「なんだ?」


 クラリアが剣になった時そうであったように、剣から光に戻った彼女は俺の手を握っていた。だからこそわかった。彼女が何かを言いだそうとしたとき、俺の手を握る力が少しだけ強くなったのを。何かを、決心したということを。


「騎士学校に行こう、ウィル!」

「いいのかよ」

「うん。だってさ、ゴブリンリーダーを何にもせず追い払える力があるんだよ! ならさ……もっとたくさんの人を助けられると思うんだ!」

「……そう、だな」


 確かに、クラリアは凄まじい力を持っていた。多少は戦えるとはいえ、ゴブリン一匹を相手取るのが限界の俺を、更に強いゴブリンリーダーを頭突きだけで追い払えるようにしてしまえるほどには、凄まじい力を持っていた。


 国の端っこの農村で燻らせておくにはもったいない力だ。


 ただ、それは彼女の力であって、俺の力ではない。精霊武器としてのクラリアの力でしかないのだ。


 ……でも。


 クラリアは臆病だからな。知らないところに行くときは、俺が手を繋いで引っ張ってやらないといけないんだ。

 たとえこの思いが俺の傲慢な気持ちだったとしても、クラリアが必要としてくれるのなら俺は――


「わかった。行こうぜ、騎士学校に」

「うん!」


 俺は、どこまでこいつを連れて行ってあげようと思った。




――幼馴染は剣になった。


 その力は想像を絶するものだった。

 平凡な農村に置いておくにはもったいない力。国のため、人のため。多くの誰かを救うことができるこの力を、俺は誰かのためになれる場所に連れて行くんだ。


 それが自分の使命だと、俺は悟った。


 だからこそ、俺はその手を握る。

 臆病な彼女に変わって、前を進むんだ。


 手を握って、手を引いて。


 まずは騎士学校。そこで、主席になる。


 無論、簡単な目標ではない。騎士学校といえば、国中から精霊武器に選ばれた若者が集まる場所だ。そんな選ばれた人間の中でトップにならなければ、主席の椅子には座れないのだから。


 それでも俺は夢を見る。主席に座り、剣を掲げて。


 俺の幼馴染はすごいんだ、と。


 そう言って、たくさんの人を救うんだ。


 子供のような夢だけど、だからこそ燃えるものがあるだろう?

 

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