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一番の問題は案外くだらないことだったりする


「……本当にお前、クラリアなんだよな?」

「ああ、えっと……はい。クラリアです……」


 禁域の森から帰ってきた俺は、とりあえず家の自室に戻った。

 一応、親からはいつも通り近場を冒険してきたのだと思われているらしく、泥だらけになった服をすぐに着替えて来いとだけ言われている。


 もちろん、剣――あー、クラリアは隠してここまで運んできた。


「そ、それよりも!」

「お前が剣になったことよりも重大なことがあるのか?」

「あるよ! ウィル、怪我大丈夫!?」

「怪我? ……あー。そういえば……」


 思い出したように俺はわき腹を触ったが、禁域の森を走っていた時のような痛みはなかった。治ったのか? いや、それにしても傷の痕すらないのはおかしい。でも、あったことだけは確かだ。なにしろ、滲み出た血が服を汚していたのだから。


「なんか無事だな」

「そ、そう? ねえ、もうそっち向いてもいいかな」

「いや、向き変ってるのそれ?」

「い、一応、ね?」


 はてさて、俺が傷の具合を確かめるために上着を脱いでいると、変な反応をする剣もといクラリア。一応、()立て(・・)かけておいてはいるのだが、身じろぎをした様子もないのに向きとはいったい……。


「寒っ!?」

「え、どうかしたか?」

「いや、なんか急に寒気が……」


 はて、一体何があったのだろうか?


 いや、そんなことよりも。


「温度は感じられるんだな」

「そういえば……これ、五感はどこまであるんだろうね。一応、眼も耳もないけど、ウィルがどこにいるかはわかるし、こうして会話できてるわけだしね」

「口もないのに喋れてるわけだしな」

「不思議な体。なんだろこれ」

「なんだろな、ほんと」


 それに、クラリアは眠ってたのかしらないが……俺は、クラリアをもってゴブリンを殺していた。一応、猟師の家だから殺生云々に関しては冷めている方だから問題はあんまりないが……クラリアを使って、生き物を殺したことには少し思うところがある。


 それ以上に、ゴブリンに囲まれていたあの状況で、俺一人が暴れるだけ暴れて何とかなったこと自体がおかしい。


 十五歳とはいえまだまだ子供。暴れ終わって冷静になった時の惨状を見てみれば、あの場に居たゴブリンは十匹を超えていたはずだ。俺のような子供が、それだけのゴブリンを相手にして大立ち回りできるはずがない。


 そんなことができるのは、()()()()()()()()()だけだ。


 ……武器に選ばれた人間?


「ねぇ、ウィル」

「なんだ、ちょっと待ってくれ。今考え事をしてるところなんだけど――」

「緊急事態!」

「な、なんかあったのか!?」


 大声をあげて緊急事態を告げる彼女に、俺は驚いて対応する。やはり、人の体から剣に変わった手前、何か異常事態が――


「すごいトイレに行きたい!」

「はぁー……なんだ、そんなことか。トイレならいつもの場所だって知ってるだろ?」

「いや、私いま剣なんだけど!」

「……あ」


 今のクラリアは手もなければ足もないただの剣だ。ここまで来たのだって、俺が運んできたからだ。それはつまり――


「運ぼうか?」

「――ッ!!」


 トイレに行くにも俺が運ばなきゃいけないということだ。


「いや、いやっ! ちょっと待って!」

「いいのか? ってか、剣にも膀胱ってあるんだな……」

「ちょっとウィル! デェェリカシー!!」

「す、すまん」


 なんだこの剣。ただそこに置いてあるだけなのに、なんて圧力を放つんだ。

 あ、いやまて。


「とりあえず、トイレの前まで運ぶからな!」

「ちょ、持たないでよ!」

「いやいやいや、仮に剣から漏れ出てきたとして、俺の部屋でやられるのだけはマジで困る!」

「うっ……そ、それは確かに……」


 どうやら俺が思うところは伝わったらしく、とりあえずトイレ前まで運ぶことには了承してくれたクラリアだ。急いで走る俺は、服の中に剣を隠して疾走する。


「ウィル~、我慢は体に悪いわよ~」

「わかってる!」


 家のトイレは外にある。そのため、俺の部屋から居間を挟んで移動しなければならず、バタバタと疾走する俺を見た母さんが要らぬ世話を口走った。


 それからトイレの前に俺は立つ。


「……さてどうしようか」

「うぅ……」


 声から漂う悲壮な様子。クラリアの我慢は限界らしく、このままではいけない。とはいえ、そもそも人のために作られた厠にどうやって剣を配置すればいいのか。


 木の台座にぽっかりと空いた穴。下手をすれば、剣のままその穴へとホールインだ。


「もう我慢できない!」

「マジかよクラリア! ちょっと、どうしたら――」


 悩む暇もなく音を上げたクラリアの声が響き、俺が動揺したその瞬間であった。


 まばゆい光が剣を包み込んだかと思えば、そこには一人の少女が現れたのだ。


「ひぃー!!」

「ちょ、クラリアお前、体が……!!」

「待って待って! ってかどっか行って!」

「……お、おう」


 必死なせいで自分の体の異変に気付いていないのだろう彼女は、急いでトイレへと引きこもる。そして、渾身の拒絶の言葉によって俺を追い払うのだった。


「……全裸だったんだけど、流石に服とか届けた方がいいよなぁ」


 自分が全裸であることに気づいたであろうクラリアの叫び声が聞こえるまでには、そう長い時間はかからなかった。


 


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