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おい努力は報われないとか言ったやつ出てこいぶっ潰してやる!!


 合同演習当日。

 いつもの教室から離れ、一日の移動時間を経てたどり着いたのは、騎士学校フルールを擁する都市ドゥエズより南東の都市『エズガルド』。草木の少ない高山地帯にできたこの街は、鈍色の活気に包まれながら訪れた学生たちを歓迎している。


「はぁ……すげぇでかいな」

「あれが件のダンジョンか。初めて見たな」

「すごいです~」


 石の並木によって作られた建造物の冷たい気配の中で、俺は遠く見える石組の遺跡の威容に感嘆の域を吐き出した。


 騎士学校の全校生徒合同演習では、世界中に点在する遺跡――ダンジョンを攻略することを目的としたイベントだ。

 そもそもダンジョンとは、数千年前から存在すると言われる謎の遺跡群の総称であり、その最深部には莫大な魔力を有した魔物が存在する危険な場所だ。


 しかし、魔力とはこの世界において重要なエネルギー源であり、遺跡内部の魔力を利用したアイテム群を含めて人々はダンジョンを利用して発展してきた。


 ダンジョンから多くの魔道具理論が生まれ、それらは精霊騎士たちのように魔法の使えない人間たちの生活を豊かにしたのだ。ただ、魔道具の複製には未だ成功しておらず、出回っているのは魔道具に至らない便利品ばかり。


 結局、豊かになったのは豪商や貴族のような限られた上流階級のみだ。しかし、ダンジョンが齎す恵みはしっかりと下流の人間にも届いており、ダンジョンから入手できる魔鉱石と呼ばれる物質が彼らを潤している。


 これは、先ほど言った魔道具未満の品を動かす動力となるため、それなりの価格で取引されるのだ。純度が高くなれば宝石としての価値も生まれ、ダンジョンでそれらを見つけることで一攫千金を狙うことだってできる。


 そんな夢見る人間たちによって都市は栄え、ダンジョン内部に潜む魔物を利用した産業も盛んになる。こうして、世界各地にダンジョンを中心とした所謂ダンジョン都市が生まれたわけだ。


 もちろん、エズガルドもそんなダンジョン都市のひとつ。生憎と最深部の魔物は危険だからと、かつての精霊騎士の手によって討伐された後だが、ダンジョンの恵みによって今もなおこの都市は栄えている。


 そんな都市にお邪魔して、俺たちは自分たちの実力を示しに来たわけだ。


「どうやら、我らが最後のようだな」

「ま、最初から好待遇なんて期待してたわけじゃないけどな」


 そんなわけでエズガルドに訪れた俺たちだ。もちろん、その過程はそれなりに酷かった。すぐにでも倒れてしまいそうな馬に引かれた馬車は、ぎしぎしとひどく心配になる音で軋んでいるものだから、どこで馬車自体が瓦解するものかひやひやしたし、テントなんて気の利いたものもないし、食料だって用意されなかったから、自分たちで現地調達することになった。

 前を行くクラスⅤでも、干し肉は配給されてたってのによ。そうして遅れに遅れた結果、街に入るのが最後になってしまったわけだ。


 そんなことをぼやくリーリャと俺だったが、正直言ってるだけだ。学園に来て三か月。正直慣れた。


 まあ、この待遇も今日で最後だ。ここで実力を示して、下剋上するんだからな!


「……あれ、なんかこっち走ってきてる人いない?」

「どうしたアルク」


 ダンジョンを見上げて覚悟を決めたところで、アルクから声が上がった。どうやら、街の正門でたむろしていた俺たちの方へと走ってきている人間がいるらしい。


 はてさて、それがいったい誰なの――


「……あ」

「あん? どうしたんだウィル」

「俺の知り合いだ。すまん、ちょっと行ってくる」


 アルクの指さす方を見てみれば、走ってきている人物が目に入る。そう、あれは――


「ウィル!! 会いたかった!!」

「ちょ、クラリア!? 抱き着く……なぁ!!」

「ひどいー! もう三か月も会ってないんだよ! 私寂しかったんだからね!!」

「だからって抱き着くなよ! お前だってもういい大人だろ!」


 その人物とは、俺の幼馴染のクラリアであった。

 そういえばこの三か月、全然会う機会がなくて会ってなかったな……。俺はただでさえ精霊武器を持ってないから、クラスⅥの中でもさらに努力しないといけなったから……。


「学園内に知り合いが居たのか」

「あ、ああ。そうだよ。村の幼馴染だ」

「付き合ってるの?」

「付き合ってねぇよ、アルク」


 付き合っちゃいないが……まあ、そんぐらい距離が近いことは確かか。


「あ、ウィルのお友達……?」

「ああ、そうだ。ベルナルドとアルク。んで、あっちの女子の方が左から――」


 ここで人目に気づいたクラリアは、こそりと今更俺の後ろに隠れる。そういえばこいつ、人見知りの気があったな……。


「えと、クラスⅠのクラリアです」

「クラスⅠ……!?」


 クラリアが所属するクラスを聞いた時、ベルナルドはその目に驚愕を浮かべた。それから、俺の方へと「どういうことだよ」なんて目で訴えかけてくる。いや、別に俺がクラスⅠの奴と仲良くしてたっていいだろベルナルド。


 そもそも、クラリアは俺の幼馴染だ。


「うぅ……なんか邪魔しちゃった?」

「いいや、別に?」

「そ、そう? それならよかったんだけど……」


 他クラスとの扱いの差に思うところがある俺たちクラスⅥにとって、同年代の頂点に立つクラスⅠは目の敵。全員がそうであるわけではないが、何人かの生徒からは敵対的な圧が出てしまっているのは確かだろう。


 まあ、仕方のない話だ。なんたって、俺たちはクラスⅤから上を全部ぶちのめすつもりで今日まで特訓してきたわけだからな。競争心からくる高揚が、そのまま敵対心に代わってもおかしくはないか。


「ま、クラリア。今回の合同演習、お互い頑張ろうじゃねぇか」

「あ、うん。そうだね! 絶対負けないからね~!!」


 そんなわけで、わざわざ居心地の悪場所に置いておくのも悪いし、ここで別れることとする。彼女としてもあいさつに来ただけだったようで、そのまま街の方へと戻っていってしまった――


「……あ! ムースちゃんも頑張ってねー!」

「う、うん! そっちもー!」


 彼女の背中が見えなくなる直前に、クラリアが思い出したように振り返ったかと思えば、最後の最後でムースにも挨拶をして去っていった。


 あいつ、いつの間にムースと仲良くなってたんだ……。

 

 

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