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地獄よりも地獄な地獄


「ぎゃああああああ!!!」

「次ィ!!」

「ひ、ひぃい!! ちょ、ちょっと、先生! これ以上は……」

「その臆病さがあんたの欠点だ! あんたから向かってこない限り、今日は寮に戻れないと思うんだね!」

「いやああああ!!!」


 ここは地獄の八丁目。まさしく阿鼻叫喚の現場を前にして、俺はぐったりと倒れ伏していた。


「あ、飛んだ」


 精霊武器で武装もしていないのに、精霊武器を持ったムースを空高く吹き飛ばしたヴァルサーノ先生を見て、俺はぼんやりとこれまでの日常を思い出すのだった。




「おい、大丈夫かよウィル」

「ベルナルドか。水は飲んだから少し休ませてくれ……」

「休息は大切だからねー。ほら、ベルナルド君もしっかり休んだ休んだ」

「お、おうそうだな」


 グラウンドの木陰で休む俺たちは、今日で入学二週間目となる新入生だ。俺たちが所属するクラスⅥは、学園内の落ちこぼれ。勉学に励む教室から、日々を過ごす寮まで最底辺の暮らしを提供させられる俺たちに襲い掛かったのは、先生もといヴァルサーノ教官による地獄の訓練だったのだ。


 実践訓練の名を使った扱きは苛烈を極め、俺たちの精神をじわじわと追い詰めていく。


 さて、休憩中の今のうちに、これまでの二週間の間に、どのような怪物が俺たちに襲い掛かって来たのかを語らせてもらうとしようか……


 まずは勉学。


「さあ、第一期の内に、この中の内容を全部覚えてもらうよ!!」

「ちょ、……え?」


 風の吹き抜ける馬小屋のような教室の卓上にヴァルサーノ先生が持ってきたのは、歴史書もかくやという分厚い本の山であった。


「なんです、これ?」


 突如として並べられた頭の痛くなるような文字数の山に、思わずといった様子で言葉を漏らしてしまうエトワーズ。それもそのはずで、精霊騎士に最も求められるのは戦闘力であり、学力ではない。もちろん、精霊騎士の歴史や精霊武器を扱う知識は必要だが、これほどの資料を必要とするとは思えない。


 しかし、ヴァルサーノ先生は言うのだ。


「それでいい人間も居るだろうが、あんたらは違うだろう? 素質もなければ実力もないとなれば、使えるもんを何でも使うことが大事だよ。だが、その使えるもんがどこに眠ってるかなんてわからない。そのためには、それに気付ける学力だって必要だよ。そうだな、毎週確認のために小テストやるから覚悟し

ときな」


 生徒たちに配られる本の山。一冊の厚みが人差し指の長さと同じぐらいのとんでもない文字数の本が、一つ二つと積み重なっていくのを見て、俺は先ほどヴァルサーノ先生が言っていたことを思い出した。


「これを……第一期が終わるまでに、ですか?」

「ああ、そうだ。第二期から学園は本格的に始動する。他のクラスとの競争が始まるのも第二期からだ。そなれば、ゆっくりと本を読んでる時間だって惜しくなる。今しかないんだよ、今しか」

「うっそだろ……」


 十二の月で分けられた一年の内、三つの月が巡ることを一期とし、四期巡ることで一年となる。つまり、座る俺の頭よりも机に高く積み上げられたこの本の山を、たった三か月で読み切れというのだ。

 それも、精霊騎士となるための学園生活と並行して。


「できない、なんて言わせないよ。あんたらは選んだはずだ。逃げ出さず立ち向かう道を。なら、しっかり読みこむことだね」


 呆然とする生徒にそう言い放ったヴァルサーノ先生によって、最初の小テストが始まったのはその数分が。最初の課題は、自分たちに求められる学力の水準を明確にするためのものだった。


 結果は散々なもので、各設問の配点一点の小テストにて、俺は百点満点中、12点。ベルナルドは7点で、ムースの奴は21点だったらしい。最高得点はアルクの57点で、二位はムースであるため、二人を除いた六人は全員が回答用紙の二割も解けなかったということになる。


 この結果を見て、ヴァルサーノ先生は言うのだ。


「次、この点数を一点でも下回ったら特別授業だ」


 俺はその言葉に寒気を感じた。無茶ぶり続きのこの先生が行う特別授業だぞ。考えるまでもなく、ろくでもないものだと理解できてしまった手前、俺たちは追われるように与えられた教本にかじりつくことになった。


 しかし、何処まで行っても精霊騎士に必要なのは戦闘力で、武器の扱い方から戦い方までの授業も存在する。しかし、基礎的な知識は一切与えられず、ヴァルサーノ先生は実戦形式による体当たりな訓練にて、武器の使い方を俺たちに教授するのだ。


 その結果が、さっきのエルゼンの悲鳴であり、ムースの飛行体験である。


 伝説と謳われた円卓の精霊騎士の実力は確かなもので、一度俺とアルクとベルナルドの三人がかりで挑んだが、歯牙にかけられることなく全員がグラウンドに転がされる結果となった。


 もちろん、訓練のすべてが実戦形式というわけではない。しかし、俺たちが自分の精霊武器を握らせてもらえるのはこの時間だけで、その他の時間は何をしているのかというと――


「さあ、後五十八週だぞ!! ウィル、我は先に行くからな!」

「ちょ、速すぎんだろリーリャ!」

「ひぃ~……!!」

「ムース、大丈夫?」

「きつい……きついよぉ……」


 ひたすらな体力づくりであった。

 無駄に広いグラウンド百週から始まり、腹筋や腕立てなんかの基礎的な体力づくりが、実戦形式の訓練の前と後ろに二セットも存在しているのだ。


 もちろんだが、これらの行程を終えたころには日が傾くどころかとっぷりと日が暮れてしまっている時間帯になる。ここからクラスⅥ用の寮もとい、ボロ宿へとボロボロになったままに帰還した俺たちは、用意された夕食を前にして本を読むこととなる。


 くたくたになった脳みそに、更にこれでもかと知識を詰め込むのだ。


 なにせ、入学一週間目となる小テストで基準の点数を超えることができなかったベルナルドが、特別授業なるものを受けた後、言葉も発することができないような状態になっていたのだ。


 そのせいで、何が待ち受けているのかもわからないまま、特別授業という恐怖ばかりが募り、誰しもが必死になって本を読み、次の小テストに備える日々を繰り返すことになる。


 ここは地上の地獄だとは、エルゼンの言葉だったか。


 まったくもってその通りだろう。ただ、クラスⅥに叩き落された俺たちに何もかもが足りてないのは確かだし、反論するにもヴァルサーノ先生についてくるといった時点で覚悟してするべきだったという結論に至ってしまう以上、思うように反論することもできなかった。


 つまり、俺たちは第一期が終わるまで、この地獄のような学園生活を繰り返さなければならないのだ。


「……つらい」


 クラリアのためなどと奮起した俺も、思わずそんな言葉を漏らしてしまう日常が続く中、とうとうそれは起こってしまうのだった。



 ◆◇



「ウィル!」

「なんだよ、エトワーズ」

「ムースが居ないのよ!」

「はぁ!?」


 その日、珍しく俺の名を呼ぶエトワーズによって、俺はムースが居なくなったことを知るのだった。

 



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