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場違いなプレリュード


 私は今日、騎士学校に入学した。


 騎士というモノがどういうものなのかは一先ず措いておくとして、少なくとも私はこの学園に入るべくして入ったことだけはここに記しておこう。


 どうやら、私の体には精霊武器という超常の力が宿っているらしいのだ。らしい、というのは「どうして私なんかにそんな力が宿っているのか」という疑問形からくる不安を表しているとでも思ってほしい。


 精霊武器とは、超常の力を使い手に与える兵器だ。それこそ、呼吸をするような気軽さで、何千という人間を容易く殺戮できしてしまうような代物。

 そんな兵器に自分がなってしまった。そう考えなかったことがないと言えばウソになる。それでも、私は今を生きている。私は信じているんだ。自分が選んだあの幼馴染が、私の力を正しく使ってくれるすごい人だって。


 だから、ウィルと別々の教室になっちゃったからって、別に不安ってわけじゃない。わけじゃないったらわけじゃない!


「でも、ちょっとだけ寂しー……なんて思ったりして」


 本当にちょっとだけだけど、おんなじクラスで隣り合わせで勉強出来たらよかったな、なんて思ったりもした。まあ、叶わなかったのだから仕方ない。


 私には精霊武器として魔力があって、ウィルはそんな魔力もなしに入学試験を超えなければならなかったのだ。入学できただけでも、ウィルはすごいんだ。


 うん、くよくよしちゃだめ。切り替えないと。


 ぱんぱんと顔を叩いて意識を切り替えて、私は改めて教室の中を見た。白色美麗な清潔感漂う大広間。教師が立つ壇上から扇形に広がる長机の群れに、二十人近い生徒が思い思いの場所に着席している。


 貴族なのだろう従者を連れた人もいれば、実力者の風格漂わせるすごいオーラを纏った人もいるし、クラスⅠにいることに委縮しているように肩身を狭くきょろきょろしている人だっている。


 かくいう私も三番目。ここに本当にいていいのかと疑問に思ってしまっている。なにせ、元をたどれば一介の村娘に過ぎないのだから。もちろん、村娘というには実家が少しばかり太いのは自覚してる。それでも、そんな私の家を歯牙にもかけずに飛び越えていくような富豪も多いのだから、委縮してしまうのは許してほしいものだ。


「あら、あなた。具合が悪くて?」


 どうやら、具合の優れていない人もいるらしい。それもそうだ。なにせ、この教室に居る生徒の多くは貴族なのだ。貴族という立場や、金にものを言わせてクラスⅠ二入って来たと食って掛かる人もいるとは思うが、私はそうは思わない。彼らは、そういった立場や金を利用した鍛錬を積んできたのかもしれないと、私は思っている。


 そうでなければ、私がここに居る理由がわかんないし。


「あなたよあなた。顔真っ青よ、大丈夫?」

「……え?」

「ちょ、これ本当に大丈夫かしら。ねぇ、私が立ててる指の数を数えられるかしら?」

「えっと、指を一本も立ててないのにその質問はどうかと思うんだけど?」

「あら、それもそうね。錯視を確かめるなら、指を一本立てるべきだったわ」


 どうやら、先ほど聞こえてきた心配の声は私に対するものだったようで、一人の女性が優れない私の表情をのぞき込んできていた。


 綺麗な金髪を二つに結い、凛々しい居ずまいは庶民からは発することのできないただならぬオーラを漂わせるその少女。びっくりするほどに綺麗なその顔で、人の心配もできるとは――やっぱり、点は二物を与えるんだなーなんて思ったりして。


 いやいや、そんな感想はどうでもいいんだ。


「えっと……」

「ゾフィアよ。ゾフィア・レ・グレブフルル。貴方と同じ、新入生」

「あ、はい。心配、ありがとうございます」


 どうやら彼女は貴族らしい。使用人の一人も引き連れてないから、そうじゃないと思っちゃってた。ど、どうしよう。さっき、慣れ慣れしくしすぎちゃった……。


「いいのよ。ここに居る時点で、私もあなたも学園からの期待を背負った優等生。ならば蹴落としあうのではなく、助け合ってこそ高めあうことができる。でしょ? だから、そんなカチカチに畏まらなくていいの」

「そ、そうで……そう、かな?」

「ええ、それでいいわ。傲慢なだけの人間なんて、殴り飛ばされればいいのよ、ほんと」

「えー……」


 随分な言葉に呆れてしまう。一応、この国だって貴族を含めた階級制度がある以上、人の上に人がいる世界であるはずなのに――それでも彼女は、たかが村娘よりも上の人間であるはずの彼女は、私を同じ位置にいる人間とみているような物言いで、その手をこちらへと差し伸べてきた。


「さてと。それじゃああなたの名前を聞かせてくれるかしら?」

「あ、うん。私はクラリア。見ての通り、使用人なんて引き連れられないような村娘だよ」

「あら、そうなの? それにしては綺麗な髪ね。貴族の令嬢と差し支えないわよ、貴方」

「あはは、ありがとう」


 少し伸ばした私の灰色の髪の毛触れてゾフィアは私の髪の毛を褒めてくれた。その言葉に、私は思わず嬉しく思ってしまう。きっと、この言葉がお世辞だったのだとしても嬉しい。


 だって、この髪はウィルが褒めてくれた髪なんだから。


 灰色の髪はあんまりいなくて、馬鹿にされるのが怖くて家に引きこもっていた私を外に連れ出してくれたあの少年が、私の姿を肯定してくれたからこそ、今の私がここにあるのだから。


 だから、たとえお世辞だったのだとしても、私はこの髪を褒められるのがうれしかった。


「お友達になりましょう、クラリア。貴方となら仲良くなれそうだわ」

「え、いいの? いや、いいんだよね。うん。よろしくね、ゾフィア」

「いい返事だわ。これからも、気安くお願いね」


 入学一日目。ウィルと離れ離れになってしまった不安の中で、私は学園初めての友人を作ることができた。

 


 

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