隕石と無茶ぶりって似てない?
「意気はよいよい、孵りは晩い。さて、あんたらはこのまま帰るのか?」
炎を纏うハンマーを受け止めた上でそういうヴァルサーノ先生。彼女の口には、隠そうともしない笑みが薄らと浮かべられている。
そこに浮かぶのは好奇か嘲笑か。
まあ、そんなものは結局ところ関係ない。なんたって、目の前を走った男がそうであるように、このばあさんの言動には俺もカチンときてるから。
「帰るわけねぇだろばあさん」
「ほお、そうかいそうかい。あんた、あれだね? 熱血とかいう……努力をすれば何とでもなるとか思ってる小僧だね? いやはや元気なこって。しかし残念なことに、あんたには素質がない。騎士なる素質がね。これっぽっちもありゃしない。だってのに、あんたは私に歯向かうのかい?」
「当り前だよ。例えそれが正しかったのだとしても、俺にはやらなきゃいけないことがあるんでね」
俺には俺の使命がある。クラリアの願いを叶えるって使命がな。だってのに、あいつの知らぬところで勝手に退学にゃなってられねぇんだよ。
「ならば示して見せろ。あんたの価値を。ここは実力主義の世界だ。思う存分に苦しむがいいさ」
「端からそのつもりで来てんだよ。苦しまずして何が手に入るってんだ?」
嘲笑うようにヴァルサーノ先生の顔には悦の一文字が浮かぶ。それから、彼女は再び順繰りに俺たちの顔を見た。
先ほど先生に襲い掛かった目つきの悪い生徒は呆然としており、フードの少女は何も言わずなにも発さず、ただそこに立ちすくんでいる。そして、残る五人は傍観者として事の成り行きを眺めている。
見ろ、リーリャなんかめちゃくちゃ愉快そうにこっちのことみてるぞあいつ。何様だよって話だほんと。
「そうだな……じゃあ、こうしよう」
にやりと口角を上げたヴァルサーノ先生が、再び三本の指を立てた。先ほど立てられた指三本は、俺たち落ちこぼれの素質なしを指さしたものだ。では、この指三本は――
「三対三のチーム戦。あんたらが、素質が無くとも実力はあるとそこで示して見せろ」
「チャンスがあるだけ十分だ。それで、何をすればいい?」
「学園で試される実力は多々あれど、最も肝心なものがなければ何をやっても駄目だ。だからこそ見せてもらうよ。あんたらが、どれだけ戦えるのかを」
三対三のチーム戦。俺たち素質なしの三人組の相手は、傍観していた生徒五人から選ばれた三人だ。なお、この三人にリーリャとアルクは含まれていない。
弓を持った少女。カトラスを持った男。犬を引き連れた女。その全員が、俺とは違う正規の精霊武器持だ。いや、俺が精霊武器の使い手ではないというわけではないのだが……あいつは今、別の場所で戦ってる。
クラスⅠとクラスⅥでは苦労の仕方が違うだろうが……間違いなく、あいつも頑張ってるんだ。だからこそ、この程度の逆境は撥ね退けねぇとな!!
「おいそこの目つきの悪い男!」
「な、なんだよ!」
「それとフードのお前、こっちこい! 作戦会議をするぞ!」
「え、えぇ!? ちょっとまって……!」
俺に素質がないのはよくわかってる。なんたって、精霊武器に頼ることができないんだからな。ならばこそ、俺は考えなければならない。
「さて、ルールはシンプルに行こう。作戦会議は五分だ」
グラウンドの真ん中で、ヴァルサーノ先生はそう言ってその懐から一本の短剣を取り出した。……噂が正しいのならば、あれこそが躯騎士ヴァルサーノの精霊武器、短刀アルビスか。
そして短刀を鞘から引き抜いた彼女は、地面に向けてその力を振るうのだった。
「『屹立しろ』〈ビルドアップ〉」
振るわれたその力の名は魔法。八つの属性からなる魔法の地属性に分類される、地面を操る魔法にてヴァルサーノ先生はグラウンドを土の円柱立ち並ぶ戦場に変えて見せた。
「魔法を使い、武器を使い、相手全員を私が作った戦場から退場させて見せろ。手段は何でもいい。外に出た時点で、そいつの負けだ」
手段は問わず、グラウンドから一段上がった戦場から敵を叩き落せば勝利。なんともシンプルな勝利条件だな。
「安心して全力を出しな。死人すらも蘇らせたと謳われた私の魔法で、死からは全力であんたらを守ってやるからさ」
半身が千切れ飛んだ怪我人すらも復活させて戦列に復帰させる治癒能力を謳われ、故に付いたあだ名が躯騎士。そんな婆が安心しろというのならば、これほど心強いことはないだろう。
「さて、じゃあ自己紹介から始めようか」
戦いのルール説明を聞き届けた俺は、改めて仲間二人へと向き直るのだった。
◆◇
唐突に始まった試験。ヴァルサーノから提示された三対三の力比べに困惑する生徒たちであったが、やはりこのクラスに配属された鬱憤もあったのだろう、すぐさま意識を切り替えて、己の実力を証明するための準備を始めた。
精霊武器の調子を確かめるものや、集まって作戦を立てるもの。そうやって設けられた五分を各々が使っている間に、ヴァルサーノの元に二人の生徒が訪れた。
「僕たちはやらなくていいのかな、ああいうの」
「我としても、楽しみたいところなのだが?」
その二人とは、橙色のくせ毛が特徴的なアルクと、少女ならぬ口調でしゃべるリーリャの二人である。どうやら、今から始まる試験に参加できないのが不満気な様子だ。
そんな二人の表情を見て、ヴァルサーノはにやりと笑った。
「あんたら、冗談はそこまでにしておきな。今の私で完璧に致命傷が防げるのはあの六人の実力までだ。あんたらみたいな本来はこのクラスに居るべきじゃない実力者のためのもんじゃない」
その言葉を受けてアルクは苦笑いを浮かべた。
「僕、そんな人間じゃないんだけどな……」
「ともかく、我らにできることは一つだけか。無論、負けたから退学ということは……」
「さてね」
退学を懸念するリーリャの言葉をにこやかにはぐらかすヴァルサーノは、懐から出した懐中時計が五分の針を過ぎるのを確認した。
「さて、時間だよあんたたち。この学園の最底辺の実力を、見せてもらおうじゃないか」
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