第5話 怒りの再会
俺がタルク村を出てから一日経った。
……今日もいい天気だ。
俺が呑気に野原を歩いていると、俺を中心に直径1kmに黒い炎が円形に燃え盛った
……なんだ?
俺は自分の身に起きてることを理解できなかった。しかし、ひとつだけわかっていたことがあった
……この魔法は、村を焼いた、あいつの
そう。俺はこの炎を実物で1度見たことがあった。
それは、幼い頃村を焼かれたときに、黒装束の男が放った魔法だった。
俺が怒りで震えていると、空から烏の仮面をつけた男が降りて来た。
「久しぶりだな。少年」
「お前は……」
俺の前に現れた烏の仮面をつけた男は、故郷の村を焼いた人物と、同一人物だった。
……許さない
俺は今すぐ飛びかかりたい気持ちを抑えて、烏の仮面をつけた男から情報を引き出そうとした
『観察眼』
個体名:???
種族名:???
魔法:???
スキル:???
…なんだと
「ん?少年何かしたか?あぁ、鑑定に似たスキルでも使ったのか」
俺の観察眼はある程度の物体・生物には効果があるが、一つだけ弱点がある。
それは所有者の実力と、相手側の実力差が大きい場合、観察が失敗に終わることだ。
……チッ。あいつから何も引き出せねぇ。無様でも良いから、何かしら情報を引き出さないと……
「どうして……どうしてお前は俺の村を、大事なみんなを奪ったんだ!」
「お前ら人間と同じだよ。弱い魔物は人間にやられるんだぜ?魔物ばっかりやられるのは不公平だろ。だから、俺たち強いものがお前ら人間を殺してるんだろ?」
烏の仮面をつけた男の発言はその通りだった。
俺たち人間が魔物を倒すことがあるのだから、逆も当然あり得るのだ。
「お前なんて死んでしまえっ!」
ヴァースはそう言って、全速力で野を駆け巡り、烏の仮面の男のもとに向かった。
「そうだ少年。俺のことはクロウとでも呼んでくれよ。さっきからお前お前と随分適当な呼び方じゃないか」
「故郷の村のみんなを殺したやつなんて、お前で十分だ」
俺はそう言いながら、烏の仮面の男……クロウの首目掛けて、剣を振った。
しかし、クロウの首は剣が当たったにも関わらず、一才切れていなかった。
「少年。その程度の遊びの剣ではこの俺の首どころか、指の一本切ることも出来ねぇぜ」
俺は、圧倒的な力の前に絶望していた。
しかし、村を焼かれたという、怒りから拳を、剣を振り続けた。
どうしてもクロウには届かなかったが、俺は無属性魔法を駆使しながら戦っていた。
「『身体強化』『腕力強化』『剣技強化』『斬撃強化』
『防御強化』『速度強化』」etc.
俺は自分が使用できる限りの強化魔法を使った。
「死ねっ」
俺は力一杯剣を振り切ったが、その剣はクロウに届いたものの、一切の傷をつけることができなかった。
……まだだ……俺は絶対にアイツを殺さないといけないんだ
「初級火属性魔法『付属』」
俺がそう唱えると、持っている剣に炎が纏われた。
俺は雄叫びを挙げながら、クロウ目掛けて一直線に走り抜けた。
炎を纏った剣は、クロウの首元に目掛けて飛んだ。
「また同じような手か。つまらんぞ少年」
「まだだ。中級火属性魔法『爆撃』」
クロウの首元で、俺の振った剣から、爆発が生じた。
「ほう。少しは考えて行動してるみたいだな。それでも、どうしてこの程度の攻撃俺に挑もうとしてるのか全く理解できんな」
「なっ」
ヴァースが放った攻撃は、Bランクの魔物ぐらいなら余裕で倒せるほどの攻撃だ。
しかし、クロウはその攻撃を受けても埃や塵を多少を被って、ほんの少し傷がつくだけだった。
……チッ。圧倒的な差じゃないか。ここで倒れても良いからアイツを倒さないと
ヴァースは火属性の上級魔法を使うことを決心した。
「早く次の一手を見せてみろ少年」
「うるせぇ。上級火属性魔法『火炎獅子』」
「ほう。面白い。少年、お前もやはり火の力に目覚めたか。その攻撃受けてやりたいが、少年がその力を使えることに免じて、俺も少しだけ力を出してやろう」
クロウは、俺に向かってそう告げた後、一歩前に出た。
「上級氷属性魔法『氷龍』」
クロウがそう唱えると、俺の火炎獅子と対になる、青い龍が出来上がった。
「やれ」
赤く燃えた獅子と青く凍っている龍の戦いは長いようであっという間だった。
獅子が龍に噛み付くと、龍は獅子を翼で殴る。
龍が尻尾で薙ぎ払おうとすると、獅子が爪で引っ掻く。
獅子が野を走り回ると、龍が飛んで追っかける。
そして、飛んだ龍に掴まれて、獅子は段々と弱まっていった。
「クソッ。この魔法を使っても勝てないなんて……」
「俺と少年では実力が違うんだよ。その実力で俺に復讐だと?笑わせるなよ少年!」
俺の悔やんだ言葉に、クロウは切り捨てるように厳しく言った。
俺とクロウが互いに見つめ合い、牽制してると、クロウに向かって、上空から丸い物体が飛んできた。
「すいません。そろそろ時間なので、その人間ちゃっちゃと殺して、魔王城まで帰って下さい」
「もうちょい待ってろ。リーブド。先に帰っていても良いぜ?」
クロウにリーブドと呼ばれたのは、スライムだった。
「なりません。貴方は前回その人間を殺し忘れましたよね?だから今回わざわざこんな場所に来たんでしょ?
今回も同様にとどめを刺し忘れる、及び私たちを裏切る可能性もまだ残っているんですよ?それに貴方ほどの方が、そのちっぽけな少年にこんな時間をかけるとも思いませんしね。」
「チッ。流石魔王直属9大魔の纏め役は違うってわけだな」
「そういうことです」
「残念だな、少年。もうちょっと遊んでやりたがったが、そろそろ終わりだ。悪く思うなよ」
クロウはそう言って、魔法を打つ準備をした。
「中級火属性魔法『火炎連弾』」
俺はクロウの攻撃を弾こうとしたが、2.3発防ぐのが限界で、呆気なく体に傷を負った。
「まだ……俺はこんなところで死ぬわけにはいかない」
「諦めろ少年。俺に出会ったのが運の尽きだ」
俺は体から血が出ていくことを感じながらも、自分が死なない最善の一手を探していた。
「終わりだ少年。剣技『斬』」
しかし、クロウは俺に剣技を打ち込んだ。
「無属性魔法『反撃』」
「ほう。反撃の魔術まで使えるか。なら次はどうだ?
剣技『刺突』」
俺は、クロウが打ってきた攻撃をカウンターしたが、即座にクロウは次の攻撃を打ち込んできた。
「ガハッ」
「少々遊びすぎですよ。ちゃっちゃと仕留めて下さい。
貴方が仕留めないなら、私があの少年を殺しますよ?」
「うるせぇぞリーブド。俺が今遊んでんだ。テメェがアイツを殺すなら俺がテメェをぶっ潰す」
「なっ。魔王様に反逆する気ですか?
それなら私が今あなたを殺しますけど」
「諦めろ、てめえには俺の首を切ることは出来ねぇ」
「どうやらその通り見たいですね。めんどくさい」
リーブドと呼ばれたスライムがクロウに忠告をすると、クロウは声を荒げてそう答えた。
俺としては、そのまま2人で仲間割れして欲しかったが、その願いは叶わなかった。
「わかりました。勝手にしてください。だけど、今回のことは魔王様に報告させてもらいますよ」
「じゃあ俺はもう少し遊んでから、殺すからテメェははちゃっちゃと帰れよ?」
「わかりました。必ずその人間を殺して帰ってきて下さいね」
リーブドと呼ばれたスライムはそう言って、その丸い体をバネ状にして、天高く飛んで行った。
クロウはリーブドが戦場から居なくなるのを確認して、地面に降りてきたた。
「さて、少年。見苦しいところを見せたな。次は魔力無しの体術戦と行こうぜ?どうせさっきの火炎獅子で魔力は限界なんだろ?」
…クソっ。アイツ全部わかっていやがる。
それでいて体術勝負を仕掛けてくるなんて……
ヴァースは、クロウにここまで侮辱されてることの怒りと、そんな相手に一切何もできないことへの自分の怒りで、殺意を剥き出しにしていた。
「早く来いよ少年。そっちから来ないなら、こっちから行かせてもらうぜ?」
クロウは俺にそう言って、間合いを詰めてきた。そして、クロウは右手を俺の頭を目掛けて繰り出してきた。
俺はその攻撃をギリギリで避けた。
「ほう。まだ躱せる体力は残っていたか」
「次はこっちの番だ」
俺はクロウの後ろに高速で移動した。
クロウはそれに気づいて後ろを振り返ったが、俺は元居た場所に戻ってクロウ目掛けて精一杯拳を突き出した。
だが、それでも、クロウは、その攻撃を目で追い、己の掌で受け止めた。
「速度は充分だが、読み合いがまだまだ甘いな少年」
「クソっ」
クロウは俺とは比べ物にならないほど強かったのだ。
「割とお前には期待していたんだがな、俺の思い違いだったか?どうせ死ぬなら、今苦しまずに殺してやろう。さらばだ少年」
クロウはそう言って、俺の周りに発動していた黒炎を自分の手に集めた。
「『黒炎』」
クロウが放った黒い炎は少しずつ俺に向かってきた。
……チッ。結局、俺はこの黒い炎の前には、無力なのかよ
母さん……父さん……村のみんな……俺も今からそっちに行くみたいだ。
ブラウ……シエラ……校長先生……約束守れなくてごめんな。
俺がそうやって嘆いていると、俺の前で声が聞こえた。
「諦めるのはまだ早いぞ少年」
その声と共にヴァースの目の前にあった、黒い炎は消滅していた。
第5話 怒りの再会