第9話 修行開始
俺は、朝日が昇るころに目が覚めた。
目が覚めても、ベッドが気持ち良すぎて、出たくなかったが、今日から修行が始まるので、気持ちを一転するためにも水を浴びに行った。
水を浴びて、脳がしっかりと機能するようになるまで、時間が結構かかったが、脳が動き始めた。
俺は昨日の出来事を思い出して、感覚が忘れないうちに、もう一回だけ挑戦した。
昨日と同様にしっかりと無属性魔法の制御ができた。
1分ほどすると、俺は修行のときに支障が出ないように魔力の制御をやめて、魔法を消した。
今日の修行でなにをするか考えていると、ドアが勢いよく開かれた。
「ヴァース、起きとるかの?」
「はい。修行が楽しみで起きてましたよ。師匠」
「ふむ。起きてないようなら無理矢理叩き起こしてやろうと思っておったのじゃがの。
それより、昨日はしっかり休めたかの?
夜更かしはしておらんじゃろな」
「大丈夫ですよ」
俺はそう返答しつつ、寝てたら無理矢理起こされるのかと、不安に包まれた。
「朝食をとったら、すぐに街の外に出るぞ。
街の中じゃったら、邪魔になるだろうしのぉ」
俺は、師匠に対して軽く頷き、師匠と共に外に出た。
受付に外出することを告げ、俺と師匠は食事をとりにいった。
昨日の夜ご飯を食べたところと同じところで、軽く朝食を食べて、街の外に向かった。
「こんなものでよいかの」
師匠はそう呟いた。
街からはすでに、1キロメートルほど離れた森の中に俺と師匠はいた。
「今から何するんですか?」
「剣の打ち合いをまたしても良いんじゃが、剣のみとなれば、お主じゃちと不安じゃからな。ワシの剣について軽く語って、それを構成してる一つ剣術についての説明と簡単な技を伝授しようと思っとるのじゃ。
どうじゃ?楽しみじゃろ」
「はい。新しい力、とっても楽しみです」
俺は、師匠の話を聞いて、そう返答した。
しかし、師匠はその返答にあまり良い顔をしなかった。
「お主、あまり力に溺れるんじゃないぞ?
忘れてはいけないが、戦うと言うのは、生物の命を刈り取ることであり、他の人を守ることであると言うことを常々忘れてはいかん」
「わかりました。次からは気をつけます」
俺は、師匠が言ってた言葉が、校長先生が言ってた言葉に似てるなと思って、内心クスッとなった。
「よろしい。じゃあまずは、ワシの剣についての説明を軽くしようかの」
「ハイ。お願いします」
「うむ。ワシの剣は、速度と技を重視した剣で、そこまで力は無いのじゃよ。このことをまず1番に覚えておく必要があるのじゃ」
「なるほど?前の試験の時に、俺に押し勝ったのはまた別のものであると?」
「そうじゃ。ここがポイントで、ワシの剣は剣のどこを使うかで、どこに力を加えるのかが変わる特殊な剣なのじゃ。前の試験の時は、ワシは剣の腹と剣の先の丁度中間に力を込めたのじゃ。この攻撃をする場合、剣の先で突くよりも弱いがその分剣の腹に近いから次の攻撃に繋げやすいんじゃよ」
「なるほど。なら俺も使いこなせれば、体格差関係なく相手に優位を取れるのですか?」
「その通りじゃ。ワシの剣はどこを使うかで、その次の攻撃にどうやって繋ぐかを考える剣なのじゃ。その分難しいが、使いこなせればそれなりに剣で戦えるようになるじゃろ」
「わかりました。頑張ります」
師匠の剣の話は興味深く、頑張れば俺のような少年でさえ、オークやオーガといった大きい魔物を単独で魔法を使わず勝利できるとのことだった。
しっかりと習得するのは短時間では難しいらしく、技だけでも覚えて、基礎練習を反復してやればいつか出来る様になると言われた。
「うむ。前の試験の時に、体力面や剣の持ち方などは同じように練習しても問題ないと見た。
そこでじゃ、ワシの剣を作る上で重要な《剣技》について教ようと思う。
たくさんの技を一気に覚えようとすると全部使えんようになる可能性がある。
まず簡単なものをいくつか紹介させて貰おうかのぉ」
「ハイ。わかりました」
剣技と言えば、前師匠がクロウと戦ってた時に使ってた技か、あの時師匠はクロウが剣技を使用してることに違和感を覚えていたようだが……それも機会があったら聞いてみよう。
どんな技を教えてもらえるのか、今から楽しみだ。
「今日教える技の一つ目は、基礎連撃じゃ。
クロウという魔人とワシが戦った時にも使用した技で、
剣を振るときに大事な動作を4つ取り上げて連続で攻撃する技じゃ。
まずは一つずつしっかりとおさらいしていこうかの。
4個の技が組み合わさってるだけの簡単な技であるが、一つずつをしっかりと極めなければ、隙の多い技になり得ないからの。
初撃……1発目の攻撃は突きじゃ。
ほれいっぺんやってみなさい」
「ハイ」
俺は師匠にそう返事して、剣を思い切り突き出した。
「うむ。突き自体は綺麗じゃが、まだまだ遅いのぉ。
一本ワシが突いて見るから、それと己の剣を見比べてみるとええ」
師匠は、そう言って剣を構えた。
師匠が剣を突いた瞬間、あたりの風が前方に流れた。
「ほれ、これが突きじゃ。剣の先に全ての意識を向けて、一直線に突くのじゃ」
俺は師匠の言葉に軽く頷いて、それからずっと突きの練習をした。
そこから、数時間俺は師匠の言葉を聞いては剣をついてを繰り返した。師匠が及第点だと言ってくれるところまで成長して、突きの修行は終わった。
「明日も突きの修行はやるからの?用心してかかるように。次は、基礎連撃の次撃である『薙ぎ払い』じゃ。
薙ぎ払いは横に剣を振る動作じゃ。これも突きと同じで速度を重視するとええ。
ほれ、習うより慣れろじゃ。まず一本振ってみなさい」
俺は、師匠にそう言われて、再び剣を握りしめた。
突きをの時と同じ感覚で、剣を横に振った。
「ふむ。お主の剣は悪く無いんじゃが、薙ぎ払いとしては間違っておるのぉ。どちらかというと、突きをイメージしてやってしまった感じかの?」
「は、ハイ。速さを重視しろと言われたので、突きのイメージを少し持ち出して、横に振ったんですが、何か問題でしたか?」
「突きは突き、薙ぎ払いは薙ぎ払いでイメージを変えないといけないのじゃ。
ワシが一回お手本をやったあと、お主がやった薙ぎ払いを真似てやってやろう。どこが違うか見抜けるかの?」
そう言われて、俺は目を凝らして師匠の剣を見た。
「では、まず手本じゃ。少しゆっくりでやるから、しっかり見とくとええ」
そう言って、師匠は剣を横に振った。
師匠が振り終わった後、風が師匠の剣を追いかけるように吹いた。
「次にお主のを真似るぞ。剣をしっかり見とくんじゃ」
師匠は、再び剣を握りしめて、横に振った。
しかし、その剣は少しだけ上下していた。
「どうじゃ?見えたかの?」
「はい。なんとなくですが……」
「そうか。では、述べてみなさい」
「はい。まず、剣が安定していませんでした。剣が上下に揺れていて、剣が横にまっすぐ進んでいませんでした」
「ふむ。正解じゃ、他にわかったことは無いかな?」
「すいません。俺にはこんぐらいしか……」
「ふむ。まぁ片方わかっただけでも、十分じゃな。
これからも、考えて行動するんじゃよ?
もう一つは、どこに力を入れてるか、じゃな。
お主は、突きを意識したせいで無意識に、剣の先に力を入れていたのじゃよ。じゃが、実際は剣の腹の部分に力を込めるのが正解なのじゃ」
「なるほど……次は、それを意識して振ってみます」
師匠は、俺が一回振っただけで、俺の悪い部分を見抜き、尚且つ俺がどこに力を入れてるのかを見抜けていて、やはりすごいと思った。
師匠が、俺から少し離れた後、俺は再び剣を握りしめてた。
「行きます」
俺はそのあと5回ほど振ったがどうしてもうまく行かなかった。
「ふむ。イメージができないのじゃろか?」
「どうなんでしょうか……」
「よし。今からワシが時間に誤差が生じない速度で走って上から木の葉を落とすから、それを全て一回で切る練習じゃ。
こっちの方がイメージがつきやすいじゃろ」
「なるほど。わかりました。枚数は何枚ですか?」
「最終的には、10枚ほどを一振りで切ってもらいたいんじゃが、今はまだ初日じゃ、5枚でええぞ。
では、ワシは木の葉をありったけ集めてくる。
ちょいとそこで休憩しとくんじゃな」
そう言って、師匠は森の中に消えていった。
俺は、近くの岩に座って水を飲んだ。
今まで学園で習っていた剣よりも簡単な内容をやってるはずなのに、すごく会得するのに時間がかかる。
ほとんどの人が、こういうコツコツとした修行が嫌いだと思うが、俺はこういう練習が後につながって行くと思うと、全く苦ではなかった。
数分ぐらいすると、師匠は森の奥から帰ってきた。
「おかえりなさい。師匠」
「うむ。それより、体力は十分に回復できたのか?
木の葉をいっぱい集めてきたから、今から練習できるぞ?」
「わかりました。お願いします」
「では、行くぞ」
そう言った瞬間、師匠は俺が視界で追えない速度で俺の前を横切った。
師匠が横切ったところを上から葉っぱが落ちてきていることに気づき、俺は剣を振った。
結果として、3枚は切れたが、残り2枚は地面に落ちてしまった。
「ワシが走った方に気を取られすぎじゃな。まず、それで剣をしっかり握れておらぬ。これでは本末転倒じゃ。
次に振る速度じゃが、やっぱり遅いのぉ。多少気を取られようが、5枚ぐらいは、余裕で切れるようにならねばならぬぞ」
「ハイ。わかりました」
そう言って、師匠は再び木の葉を5枚もって、俺の左隣に待機した。そこから、何度も師匠と繰り返して、剣を振り続けた。
師匠から、試験の時と同じようにワシを殺す気持ちでかかればうまく行くのではと言われたので、その通りに振るように心がけた。
「ではもう一回行くぞ」
そう言った、瞬間。師匠は俺の前を横切って行った。
俺は、師匠を切る勢いで剣を振るった。
結果は、4枚が完全に切れて、1枚に切れ込みが入るというものだった。
「ふむ。中々じゃが、やはりもっと早く振らないとのぉ。それに、切れてる葉っぱも、切れてる位置がバラバラじゃな。それ次じゃ」
「ハイ」
俺は、師匠に言われてもう一度構えをとった。
師匠が俺の前に来て、木の葉を準備した。
「フンッ」
そう言って、俺は剣を横に振った。
剣は、1枚目に向かって吸い付き、そのまま速度を変えずに5枚目までを切り落とした。
「やっった」
俺はそう歓喜の声を上げた。
しかし、次の瞬間手に違和感が走った。
「いたっ」
「どうやら、さっきのがお主の限界じゃったようだのぉ……もう少し振れると思ったんじゃが……
とりあえず、これ以上練習しても身に付かん。
初日である今日の練習で、2つ剣技を覚えれたなら上々じゃろ」
俺は、師匠に言われて自分の体がボロボロなことに気づいた。
しかし、この身がボロボロになっても、やっとつけれるようになった力だった為、もう少し練習したいと師匠に懇願した。
「その意気はよろしい。じゃが、ダメじゃ。
お主、体が壊れたら明日から練習できんくなるぞ?
さらに、そこまで力をつけたくてもその体じゃもう剣は振らない方がええ」
「うっ。わかりました」
「よろしい。じゃあ街に戻って今日は休もう。
食事は自由にとって良いぞ」
俺は、そのまま師匠と宿屋に向かって帰った。
一度、荷物を置いて、余った時間、街の中を軽くぶらついた。
今後時間があったら何か買っておいても良いと言われたので、下見をしておくために。
その際に、食事も軽くとって宿屋へ向かった。
めぼしいものはあまり無かったが、さまざまなものを見れてとても面白かった。
俺は宿屋について自分の部屋に入ってから、水を浴びてベッドに飛び込んだ。
出て行く際にフロントで頼んでおいたので、フカフカであった。
そのままベッドの柔らかさを感じながら、俺は眠りについた。
こうやって、修行の1日目を終えた。