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プロローグ
「…ッ、は」
ドクドクと男の胸から溢れる血が辺りを濡らしていく。
手足の感覚が無くなっていく。倒れて顔に触れている筈の風に揺れる葉の感触も無い。
視界が暗くなっているのが分かり、もう直ぐ死んでしまう事を悟る。
脳裏に浮かぶあの人の姿。
人生で最初で最後の恋をした。生きてと愛しいあの人が願った約束を破ってしまう後悔。
そして脳裏に浮かぶあの子の姿。
自分とは違い感情豊かで、もし亡くなったと知ればボロボロ涙を流して悲しむ事だろうと男は思った。
悲しい悔しい、後悔の残る筈のこの状況…だが男は、それでも…。
「幸せだ」
この時を待っていた男は満足気にゆっくり目を閉じた。