第17話 大切な友だち
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《……あらリケアじゃない。まだ起きてたの?》
《うん。もっと勉強して早く騎士団試験に受かりたいから。》
《そんなに慌てなくても大丈夫なのに……。あなたなら立派な魔法騎士になれるわ。》
《えへへ、ありがとうお母さん。私絶対【オーディン】に入って、フェリ兄みたいに頑張るからね!────》
私には小さい頃から夢があった。
神殿騎士団に入って一人前の魔法騎士になること。
騎士団試験は合格率が低く並大抵の勉強や実技訓練だけじゃ入れない。
毎日必死に勉強するのは大変だったけど、夢のためなら苦にならなかった。
《……フゥー……。[ディフェンシス・エイド]》
《うおお!?マジかよリケア!もうCランクのクイーン式使えるようになったのかよ!?》
《私らより覚えるの早いじゃん!スゴいよリケア!》
《へへー!》
《……あらあら。本当にスゴいわね。この分だと、あなたの副団長の席もすぐに取られちゃいそうね?》
《フフッ。これはのんびりしていられんな。》
《あ!ナッキ姉!フェリ兄!今の見てた?》
《ええ。騎士団試験、楽しみにしてるわよ。》
《応援しているぞリケア。お前なら大丈夫だ。》
《うん!アハハハ!────》
今まで頑張った甲斐もあって、私の成長はフェリ兄より早いってお父さんが言っていた。
これなら合格は間違いないとお母さんも太鼓判を押してくれた。
みんな暖かく応援してくれている。
それが何より私の自信へと繋がった。
試験まであと数日。
みんなのために、絶対に合格してやるんだ。
《……おっと。そろそろ会場に入らないとな。》
《落ち着いてやれば大丈夫だからね。》
《そうだリケア。平常心だぞ。平常心。》
《うん!じゃあ行ってくるね!────》
試験当日。
今年の会場は聖王都だった。
聖女ガルト様生誕の場所で試験を受けられるなんて、これも聖女様のお導きなのだと私は一層張り切った。
付き添いにはお父さんとお母さん、それにフェリ兄がついてきてくれている。
私よりフェリ兄の方が緊張していたみたい。
筆記試験は何度確認しても完璧に解けている。
あとは実技試験を残すだけ。
何も問題はない。
私は誕生日にもらったペンダントを握りしめ、実技試験会場へと向かう。
もう少しで私の夢の第一歩が踏み出せる。
そう思っていたのに……。
《────え……?》
《……リケア!?》
《あなた!リケアが!!》
《いかん!試験を中断しろ!すぐに衛生魔道士を!!》
《リケア!リケアー!!》
《……フェリ兄────》
実技試験が始まろうとした矢先、私は突然意識を失って倒れた。
……どうして……?
私は大好きな家族のために夢を叶えたいのに。
聖女様はどうして私の夢を遠ざけてしまうの?
その日を境に、私と家族との歯車が狂いだした。
《……え?さっきからなに言ってるの……?》
《リケア、落ち着いてよく聞くんだ……》
私が意識を取り戻したのは五日後のことだった。
試験を受けていたのが昨日のことのように思えるけど、私はまるで死んだかのように眠っていたと言われた。
体に異常はないみたい。頭もスッキリしている。
だけど、この時の私は怒っていた。
フェリ兄が笑えない冗談を言ってきたからだ。
お父さんとお母さんが亡くなった……?
ふざけるのも大概にしてよ。
二人は病にかかり、私が目を覚ましたその日に亡くなったんだと、フェリ兄が何度も言ってくる。
だから、なんでそんなくだらない冗談言うの?
《……フェリ兄なんて、大嫌い。》
ドクン……!
《……リケア?具合はどう?》
《…………》
《夕食、ここに置いておくね?》
《…………》
私が目を覚ました翌日には、お父さんとお母さんの葬儀が行われたらしい。だけど、私はそんなものには出なかった。
私は自分の部屋にこもり、何をするわけでもなく窓の外を眺めている。
時間の感覚は分からないけど、もう一週間は経っただろうか。
《……ミオ姉。リケアはまだ出てこねェのか?》
《うん……。食事も全然食べてくれないよ。》
《ハァ……。本当にこれで良かったのかよ?親父、おふくろ……》
《やめてよトール。二人の……話するのは……うぅ……!》
《す、すまねェ……。》
私の部屋の前でミオ姉が大声で泣きはじめた。
普段からトール兄とミオ姉は口喧嘩ばかりしていたけど、最近はそれもしなくなり、ミオ姉は泣いてばかりいる。
《なあフェリ兄!本当にリケアを助ける方法は他になかったのかよ!?》
《……父上と母上がそう決めた事だと、何度も言っているだろう。》
泣いているミオ姉に気づいたフェリ兄とナッキ姉がやってきた。
二人も落ち込んでるみたいだけど、その頃の私にはどうでもよかった。
《それしか言えねェのかよ!ナッキ姉も黙ってねェでなんとか言えよ!》
《トール……。》
みんなの声が耳に障る。
お願いだから部屋の前でうるさくしないでよ。
《オレは納得いかねェ!リケアは大切な家族だし助けてェ気持ちは分かる!でもそのために親父とおふくろが身代わりになる必要が本当にあったのか!?》
え……?
今、何て言ったの?
ドクン!
胸の鼓動が大きく聞こえた。
私は胸を押さえながら部屋を飛び出した。
《リケア!!》
フェリ兄が私を呼んだけど、私は裸足のまま構わず走った。
今まで抑えてきた感情が一気に溢れてくる。
その衝動に押し潰されそうになりながらも、私は走り続けた。
《……ウソだ!こんなの信じない!》
私は無我夢中で走り神殿の外まで出た。
雨が降りしきる中、私はある場所までやってきた。
そこは私のご先祖様が眠る墓地。
《……!?あっ……!!》
その一番手前には、作られて間もない白く綺麗な墓石に、お父さんとお母さんの名前が刻まれていた。
《……ウ……ウソ……だよ。わ……わた……し……はぁ……!信じ……ない……からぁ!》
認めたくなかった。
私が認めてしまえば、お父さんとお母さんにはもう会えないと思っていたから。
《……ヒッ……ク……。私が……私のせいで……お父さん……お母さん……》
ドグン!!
胸が張り裂けるように苦しい。
言葉は詰まり、涙が止まらない。
感情を抑えきれず、私はその場にうずくまり、泣き叫んだ。
《リケアー!!》
フェリ兄が私に駆け寄ってくる。
やめて。
私に近寄らないで。
何があっても私を守るって言ったじゃない。
フェリ兄のウソつき。
フェリ兄なんか、大嫌いだ!
《……うぅっ!》
《な!?『エバンスチェーン』だと!?そんな馬鹿な……!!》
なにこれ……?
悲しいはずなのに、心と体が燃えるように熱い。
体中から凄い力が黒い光になって溢れてくる。
怖い。
「……あ……」
この感覚……思い出した。
あの時と一緒だ。
あの時の私は、今の私と、同じだ────
《「うあああぁぁぁぁ!!!」》
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「……シエル。シエル起きて。」
「……ムニャムニャ……。もうお腹いっぱいだよ~……」
「……起きて。」
「んぶっ!」
地面に突っ伏したまま、なにやら幸せそうな顔で夢を見ているシエル。その頬に固めのパンがぐにっと押し当てられた。
「な、なんだ!?スゴくいい匂い!」
シエルは反射的にガバっと身を起こす。その両隣にはパンを持ったユグリシアとリッツがいた。
「……起きた?」
「あれ!?ユグリシア!どうしたの?ていうかそのパンはなに?」
「……食べる?」
「い、いや。今はいいです……。あ、リッツおはよう。」
「なにしてんだお前ら。」
まだ寝ぼけ気味のシエルを見ながら、リッツは呆れ顔でため息をもらす。
「え?もしかしてそのパンで俺を起こそうとしてたの?」
「……うん。おいしそうな匂いがしたら、起きるかなって。」
「お前なんつー発想だよ。それで起きなかったらどうするつもりだったんだ?」
「……このパンで、たたく。」
「こわっ!」
「やめろやめろ!シエルが一生起きなくなる!」
三人は呑気にわちゃついていたが、ふとシエルが焼け焦げた匂いに気づいた。辺りを見回すと周辺の草木が全て焼き払われていた。だが火はすでに消えており、所々煙が燻っているだけだ。
「……何がどうなったんだ?俺気絶してたみたいだけど……。そういえばリケアは?」
「……あれ、見ろよ。」
シエルの質問にリッツは視線を前方に動かし答える。そこには黒い光を纏い、ふらつきながらも静かに佇むリケアの姿があった。
「何だあれ!?カッコいい……!」
「そうじゃねぇだろバカ王子。」
素でボケるシエルに対し鋭いツッコミが入る。
「リケア……。一体どうしたんだ?」
「分からねぇ。俺もさっき目ぇ覚めたばっかだからよ。」
「ユグリシアは何か見た?」
「……ううん。シエルとリッツを見つけた時には、こうなってた。」
ユグリシアが言うには、ファルイーヴァの攻撃魔法で大爆発が起き、辺り一面が炎に包まれた。ユグリシアはすぐに助けに行こうとしたが、その時リケアの叫び声とともに黒い光が強く輝き、炎をかき消したらしい。
「……じゃああの光はリケアが放ったものなんだ。」
「あの魔力量は尋常じゃねぇぜ。ただキレたってワケじゃなさそうだな。」
一転して心配する表情でリケアを見つめるシエルとリッツ。
と、彼らの後ろで人の声がかすかに聞こえた。
「……シエル。あそこに誰かたおれてるよ?」
「え!?……あっ!フェリネスさん!?」
その声に気づいたのはユグリシアだった。シエルが後ろを振り返ると、フェリネスがよろめきながら立ち上がろうとしていた。
「……くっ!なんということだ……!」
「フェリネスさん!大丈夫ですか!?」
「ひでぇケガだ。早く手当てしてやろうぜ。」
「お前たちか……。私は大丈夫だ。自分で回復できる。それより、リケアをなんとかしなければ……」
シエルに支えられるフェリネスは深刻な表情を浮かべていた。それは自身の傷ではなくリケアを案ずるものだと、シエルたちはすぐに気づく。
「アイツ一体どうしちまったんだよ?」
「……力の暴走だ。リケアの中に眠る力が封印を破って無理やり呼び起こされてしまった……!」
応急措置の回復魔法を当てたフェリネスは、おぼつかないが何とか自分で歩けるようになる。
彼はそのままゆっくりとリケアに近づくが、数メートル手前で手を伸ばすと見えない壁に弾かれるように体ごと押し戻されてしまった。
「うおぉっ!?……マジかよ!?アイツこんなすげぇ力持ってたのか!?」
「くっ!早く止めなければ……!暴走した力はやがてリケアを食い殺してしまうかもしれん!」
「え!?で、でも……どうやって……?」
万全ではないとはいえ、フェリネスをも寄せ付けないリケアを前に、シエルとリッツは困惑している。
「それは……」
「なーんだ。何かと思ったらそういうコトかー。」
すると突然シエルたちの頭上からファルイーヴァの声が聞こえた。彼女は空中に寝転がっており、つまらなそうな表情でため息をついている。
「あんにゃろ!まだいやがったのか!」
「聞いたことあるよその能力。たしか『エバンスチェーン』って言うんだっけ?」
あくびをしながらファルイーヴァは体を起こし、リケアから奪った小さな石粒を眺める。
「ヴェルーン晶石の欠片なんて大層なモノで封印しちゃうなんてよっぽどスゴい力なのかな?ボクと遊べるのか少しは期待しちゃうよお?」
リケアに視線を移し笑みを浮かべるファルイーヴァ。次の瞬間、彼女の姿はリケアの頭上にあった。蹴り込もうとするファルイーヴァの足は見えない壁によって阻まれる。しかしその壁は一撃でいとも簡単に割られてしまった。
「……消えて。」
見えない壁を割った勢いのままリケアの頭を狙うファルイーヴァだったが、その直前にリケアは頭を下げ蹴りをかわす。
そのまま反動をつけ、リケアは黒い光を纏った拳をファルイーヴァの腹に叩き込んだ。
「……ハッ!全然ダメだねー!」
直撃したと思われたリケアの拳はファルイーヴァが体に纏った魔法障壁によって防がれていた。ファルイーヴァは衝撃波で後ろへ飛ばされるが、すぐに体勢を立て直し音もなく地面にフワッとおりる。
「ニャハハ!力に支配されて意識ブッ飛んでんじゃん。ダッサ~。」
「……うるさい。消えて。」
続けてリケアの体から溢れる黒い光が稲妻へと変化しファルイーヴァに襲いかかるが、彼女はそれを片手で弾き飛ばした。
「……はぁ~。ガッカリだねー。こんくらいの力もコントロールできてないなんて、ホントに笑えるよ。やっぱゴミはゴミかー。」
リケアの力を試したファルイーヴァは、途端に興味を失くし遊ぶのをやめた。リケアは虚ろな表情のまま、ただ静かに佇む。
この状況に手出しできないシエルたちは歯がゆさを滲ませていた。
「…………。」
と、それまで黙っていたユグリシアがスッと立ち上がる。
「……みんな、少しさがってて。」
彼女は美しく長い白銀色の髪をなびかせ、ファルイーヴァに向かって悠然と歩いていく。それに気づいたファルイーヴァは待ってましたと言わんばかりの嬉しそうな表情を少女に向けた。
「ねえユグリシアー。こんなヤツほっといて早く遊……」
すると突然ファルイーヴァの視界からユグリシアが消えた。次の瞬間、彼女の姿はファルイーヴァの背後にあった。
ドゴッ!!
「……ぼべっ!?」
ファルイーヴァの体が大きくのけ反った。反射的に振り返った彼女は瞬時に魔法障壁を張るが、ユグリシアの足がそれを突き破りファルイーヴァの顔面に鋭いハイキックをぶち当てたのだ。
「うわぁ……。」
「スゲェ……。」
顔を押さえ「うーっ」と呻き声をあげるファルイーヴァ。その威力は計り知れず、シエルとリッツも思わず痛そうな声が出た。
「……っつ~……。なになにユグリシア?急にヤる気になっちゃってええぇ。」
「…………」
ファルイーヴァの口から血が滴り落ちる。しかし彼女はそんな事など気にしておらず、むしろ嬉しそうに歪な笑顔を見せている。
「ニャッハハ!いいねぇ!じゃあさ次は何して遊ぼっかぁ!?」
そしてファルイーヴァが勢いよく右手を突き上げると、彼女の頭上に巨大な魔法陣が現れた。それと同時に大地が激しく揺れる。
「……ダメだよ。」
ファルイーヴァが呪文を唱えようとしたその時、ユグリシアが彼女の右手にそっと手を添える。すると巨大な魔法陣が空に溶け込むようにスゥっと消え、大地の揺れもおさまってしまった。
「……へ?」
「リケアのこと悪く言ったら、わたしが許さない。」
低い声で放ったユグリシアの一言は、ファルイーヴァの全身に戦慄を走らせた。生まれて初めて経験する感覚に、彼女の動きが止まる。
考える間も与えず、下から弧を描くようにユグリシアの拳がファルイーヴァの腹に突き立てられた。
「ぶえっ!!」
[……アルティガル・ストライク]
ユグリシアが呪文を唱えると拳から強烈な白い光の閃光がズドン!と放出され、ファルイーヴァを押し飛ばした。
「どわあぁぁ!!…………」
叫び声とともにファルイーヴァはそのまま空の彼方へと飛んでいってしまった。
「ひょえぇ!見えなくなっちまったぜ!」
「な、なんというデタラメな……。あのファルイーヴァを吹き飛ばすとは……。」
圧倒的な力でファルイーヴァを退けたユグリシアは元の無表情に戻っていた。そんな彼女にリッツとフェリネスは驚嘆な声を出す。
「スゴいよユグリシア!でも、さすがにやり過ぎじゃないか……?」
この期に及んでファルイーヴァの心配をするシエル。「お人好しだよなお前は」というリッツの野次が耳に届くが、聞こえないふりをする。
「……大丈夫。ちゃんと手加減したから。」
「え、あれで……?」
「……お、おぉん。そ、そっスか……。」
抑揚のない声で返ってきたユグリシアの言葉に、シエルとリッツは目を丸くした。
「……油断はできんが、当面の危機は去ったか……。」
安堵の言葉を出すフェリネスだが、表情は依然険しいままだ。
「……あれ、そういえばリケアどうしたんだ?さっきから動かないけど……」
「なんか変な動きしてんな?力の暴走っつったら普通は暴れたりするんじゃねぇのか?」
二人はリケアの動きが少しおかしい事に気づく。先程からリケアは何かを振りほどこうとしていた。
「……う……うぅ……!」
よく見ると、リケアの体には白く光るロープのようなものが巻き付いており、彼女の動きを封じていたのだ。
「……わたしが止めたの。動くとあぶないから。」
あろうことかユグリシアがファルイーヴァを吹っ飛ばした時には拘束魔法を既にかけていたという。容姿に見合わない豪胆なやり方に、シエルとリッツは驚きを通り越して呆れていた。
「……ま、まぁ邪魔者はいなくなったし、早ぇとこリケアを助けねぇと……と言いてぇが。」
「フェリネスさん。何か方法があったりするの?」
「……現状では……ない。」
「はあ!?デュロエルフはみんなこの力自在に使えるんじゃねぇのかよ!?」
リッツの問いにフェリネスは重い表情を見せた。
「本来なら100歳の時に儀式を行い力を目覚めさせる。その後は代々伝わる力の扱い方を親やきょうだいが教えていく、というのが習わしなのだが……リケアは少し違っていた。」
「え?どういうこと?」
「実は過去に一度、同じように力が暴走したことがあった。今から100年前……リケアが70歳の時だ。その時に分かったのだが、リケアは家族の中で誰よりも強い力を持っていたんだ。」
「なるほどな。力が強すぎたから扱えきれずに暴走しちまったってワケか。」
「今になってもなお助けてやれないとは……。リケアの言った通り私は昔と何も変わっていなかったか……。」
「フェリネスさん。落ち込むのは後にしよう。何かいい方法があるハズだよ。」
「だな。くよくよしてもしょうがねぇ。早くしねぇとリケアが危ねぇんだろ?」
明るく返す二人の言葉には迷いがない。フェリネスは少し驚いた表情で顔を上げる。
「お、そういえば前ん時はどうやって助けたんだよ?」
「あ、あぁ……。亡き両親の古い友人が偶然近くに居合わせていてな。彼女は高名な魔道士で、その卓越した魔法でリケアの力を抑えヴェルーン晶石の欠片に封じ込めてくれたんだ。彼女にはリケアの命を二度も救われたな……。」
「え!じゃあその人を呼んでこなきゃいけないってこと!?」
「それ100年前の話だろ?そもそもまだ生きてんのかよ?」
「長く会っていないが、おそらく生きているはずだ。……だが残念ながら居所が分からない。彼女は忙しい身で、今も世界中を移動していると聞くが……。」
最善と思われる手段が使えないと分かり、さすがのシエルたちもショックを受けたようだ。
「……まいったな。ヴェルーン晶石の欠片ってのもあのイカれた女ごとフッ飛んじまったし、どうする……?」
「何かないかな……。早くしないとリケアが……」
空を仰ぐリッツと、腕を組み考え込むシエル。手詰まったかと思われたその時、唐突にユグリシアが静かに挙手をする。
「……わたしがやる。」
「あぁそうだな……って、なに!?」
「ユグリシア……!?」
「わたしが、リケアを助ける。」
そう言いながらユグリシアはおもむろにリケアへと近づく。見えない壁は消失し、彼女のすぐ前までは来れるようにはなったが、体から溢れる黒い光は相変わらず何者をも拒んでいるようにリケアを包み込んでいる。
「……リケアの心が泣いてる。助けてって、言ってるの。」
「…………。」
ユグリシアの力を目の当たりにしたフェリネスは、彼女ならリケアを救えるかもしれないと感じていた。しかしフェリネスにはどうしても分からない事があった。
「……なぜそこまでリケアを助けようとするんだ?」
「リケアは大切な友だちだから、助けてあげたい。」
「……!!」
その答えは実に簡単なものだった。しかしあの【ラグナロク】のように『強すぎる力は危険でしかない』と思い込んでいたフェリネスは衝撃を受ける。
「うん!そういうことだね!」
「へへっ!いっちょやるか!」
ユグリシアを先頭に、シエルとリッツが気合い十分といった顔で後に続く。
「……お前たち……」
「よっしゃ!チーム【カーバンクル】!ダチのリケアを助けるクエスト開始だぜ!!」
「あれ!?ちょっ、それ俺が言うやつ!」
フェリネスの口からシエルたちを止める言葉は出なかった。勇敢な妹の友だちを見守るフェリネス
の表情は、少し和らいでいた。
どうも。雫月です。
大変長らくお待たせしました。第17話目でございます。
第一章もいよいよ大詰めです。果たしてどうなるのか、ご期待ください。
年内に書ければいいなぁ……。
ここまで辛抱強く待ってくださっている方々。耐久値どうなってるんですか?
読んでいただき本当にありがとうございます。
次回もお楽しみに。




